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少女漫画的展開①
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「あーあ、臭いわ。性根の腐った卑しい性格の女の匂いかしら?そう思いませんこと?ナタリー様」
「そうですわね。はぁ…そんな方と同じ空気を吸うなんて耐えられませんね」
「まぁ、ジャクリーヌもナタリーも、そのように本当のことを言ってはいけないですわよ。私達は貴族令嬢ですもの」
三人の着飾った女性が見下すようにリディに言った。
そばかす出っ歯女がジャクリーヌ、小結力士がナタリーというようだ。
縦巻きロール女が二人を呼び捨てにしているところを見ると、ボスなのだろう。
(おおお…少女漫画でのお約束展開)
小説の主人公が親衛隊などの女に囲まれ虐められるシーンがあるが、まさかモブキャラの自分が経験するとは思わなかった。
「ということで、さっさとこの会場から出て行ってちょうだい」
縦巻きロール令嬢が羽のふさふさがたくさんついた扇をぱたぱたと仰ぎながらリディに命令口調で言った。
「…それはできません。主賓ですから」
「このパーティーはルシアン様の婚約者のお披露目なのよ。貴女のような陰険な女が婚約者を名乗るの?ずうずうしいわ。貴女の噂は聞いてますのよ」
「噂ですか?どのような?」
どうせ悪口だろうが一応聞いてみる。
そうすると三人はリディに向かって圧をかけながら捲し立てて来た。
「シャルロッテ様の話では陰気なくせに悪口ばかり言うと聞いてますわ。皆さんも聞いていますでしょ?」
「はい、ベアトリス様。私も聞いたことがあります。この間もシャルロッテ様への贈り物に嫉妬して、ドレスをビリビリに破いたとか…」
「本当、貴族令嬢とは思えない振る舞いですわ」
「そんな性根の腐った方が、社交界に出るなんて…私には耐えられませんわね」
予想通りの回答であったので、リディは努めて冷静に回答する。
「そんなのは根も歯もない噂。事実無根です」
リディの言葉は彼女達には響いておらず、今度は三人は睨むようにして強い声で言った。
たぶんリディが動じることなく話を聞いているからだろう。
「どうだか?嘘がお得意らしいですからね」
「そもそもソフィアナ様ならわかりますけど、貴女のような地味女が正直ルシアン様と釣り合うとは思えませんわ」
「たかだか伯爵令嬢の身分、身の程を弁えるべきですわ」
「本当はルシアン様を脅したのではなくて?」
「例えば体を使って誘惑したとか…」
「まぁ、なんて品の無い。でも案外そういう汚いやり方でルシアン様を騙したのかもしれませんわよ」
「貴族令嬢として恥ずかしくないのかしら。あーあ、穢らわしい方だわ」
(生憎、体で誘惑できるようなダイナマイトボディじゃないんだけどなぁ…)
心の中で思わず呆れてしまった。
正直あることないこと言われて悔しくないわけない。
直ぐにでも反論し、「はい論破」と言いたいところをリディはぐっと堪えた。
あまり波風立てるのも貴族社会で生きるためには禍根を残してしまう。
それに、現在リディはバークレー侯爵家に名を連ねるものとなる。となれば家名を落とすわけにはいかない。
だが悔しい。うーんとその二つの案を脳内で天秤にかけた…結果
(よし。言わせてもらおう。やられっぱなしは性に合わないわ)
ただ直ぐに反論はしない。とりあえず言わせるだけ言わせておこう。
リディはぎゃんぎゃんと言っている三人の言葉を聞き流していた。
同時に彼女たちの周りを飛んでいる妖精に語り掛け、その言葉を聞いていた。
すると縦巻きロールのベアトリスがあまりに素っ気ない反応のリディに怒りを露にしてこう言い放った。
「聞いてらっしゃるの!何か言いなさいよ!」
(さて、反撃の時間かしらね)
ここまで言われてリディも黙っているわけにはいかない。
リディはすぅと一つ小さく息を吸ったのち、にっこりと笑みを浮かべて言った。
「言いたいことはそれだけでしょうか?」
「えっ…?」
「私は誓ってやましいことはしていません。ルシアン様とご縁があったので婚約しただけです」
嘘は言っていない。
体を使って誘惑したり脅したりしたわけではない。…契約しただけだ。
なのでどんな形であれ「縁があった」から婚約することになっただけだ。
「では、私も言わせていただきますね。まず、ジャクリーヌ様」
リディが突然自分の名を呼んだためか、そばかす出っ歯の女が一瞬たじろぎながらも、なんとか虚勢を張るようにしてリディに答えた。
「な、何よ。なにか文句がありますの?」
「貴女、その歯は差し歯ですよね。この間、屋敷で滑って転んだ時に顔面からダイブ。その結果顔面を殴打し歯が折れた…そうでありませんか?あぁ、ちなみに転ばれる前にベアトリス様の持っていたハンカチの刺繍が下手だなんて言ってらしたわね」
「!!」
「どういうこと?」
ジャクリーヌの顔が羞恥で赤くなった後、悪口を言っていたことがベアトリスにばれて、顔を青くしている。
何か言い訳を言おうとしているところで、リディは話を続けた。
「次にナタリー様。お母様に止められているのにこっそりお菓子を買って部屋に隠してらっしゃいますよね?それを夜な夜な食べて、体重が五キロほど増えたご様子」
「な…なんでそれを…?!」
「〝最近太ったのではない?〟とお母さまに聞かれて、言われてベアトリス様にお茶菓子を食べないと絶交されてしまうから無理無理食べさせられて嫌になるんですと嘘までお付きになってらっしゃる…。ベアトリス様も濡れ衣ですね」
ぎくりと肩を震わすナタリーに、ベアトリスの視線が突き刺さる。
ナタリーが目を泳がせているのを見て、リディは最後にベアトリスに向かった。
「最後にベアトリス様。いくら見えない場所とは言え穴が開いたシュミーズを着ていて恥ずかしくはないのですか?確かに人目に付かない場所でこのようなことをする方ですから、見えなければ問題ないと思われていらっしゃるのでしょうけど。でも…それにしてもシュミーズに穴が開いているだなんて…ふふふ、貴族令嬢が聞いて呆れますね」
「な…なんで知ってるのよー!!!!」
ベアトリスは悲鳴に近い声を上げた。
これらはリディが先ほど妖精達から聞いたことだ。
「他にも色々お話がありますけど…聞きますか?」
目は笑っていないが口元に薄く微笑みを浮かべるリディに恐怖に近いものを覚えた三人は悲鳴を上げた。
「ひいいいー!」
「お、覚えてなさい!!」
「失礼するわ!」
負け犬の遠吠えのような言葉を口にしてベアトリス達は踵を返した。
だが、最後に悪戯好きの妖精パックが彼女達を後ろから押した。
バランスを崩したナタリーが前を歩くジャクリーンを押し、さらに先頭を歩くベアトリスを押し倒して、将棋倒しになった。
同時にドレスの裾を踏んでビリリという音と共に破けてしまったベアトリスのドレスから穴の空いたシミーズが見えた。
突然倒れた三人を見ていた驚いた夜会の参加者は、次の瞬間くすくすと笑いをこぼした。
「あら…あれ、穴が空いてなくて?」
「まぁ本当だわ」
「あんなものを身に付けるなんて恥ずかしいわね」
笑いを含んだざわめきが会場に響く。
群衆の視線を受け真っ赤な顔をしてベアトリスが走り去ると、残り二人も慌ててベアトリスを追いかけるように会場から出て行った。
『ざまぁ見やがれってもんだ』
「パック…ちょっと悪戯すぎじゃないかしら?」
『いいんだよ!オレ達のリディを虐めたんだ。あいつらにはあんくらいしてやんないと』
「ふふ、でも私のためにありがとう」
『いいってことよ!』
そんな会話をパックとしていると声を掛けられたのでそちらを見れば、一人の美女がハンカチを差し出していた。繊細なレースにバラの花の刺繍が施してある。
「大丈夫でした?」
「あ、はい。大丈夫です…」
その美女の姿を見たリディは小さく息を呑んだ。
(…悪役令嬢ソフィアナ・ロッテンハイム…!)
少し吊り上がった目に菫色の瞳。泣きぼくろがセクシーで目を引く。
水色のストレートの髪にパールの髪飾りが華やかさを添えており、髪飾りに合わせて胸元にパールをあしらった少し濃いめのブルーのドレスはソフィアナの凛とした雰囲気に似合っていた。
(さすがメインキャラ…美しい!!)
ソフィアナの背景がキラキラの効果がかかっているように見える。
しばし見惚れていたリディであったが、自分に声が掛けられていることを思い出し、はっと我に返った。
「ありがとうございます。ソフィアナ様。でも綺麗なハンカチが汚れてしまいます。私は大丈夫ですので」
「あら、私をご存知でしたの?」
「もちろんです。メインキャラですもの!って…いえ、貴族に籍を置くものですからソフィアナ様を存じ上げているのは当然です」
「そう。それより…貴女、今のは」
「今の?」
ソフィアナは何かに戸惑っているように見えた。
そしてリディをじっと見つめるので、居心地が悪い。
(もしかして、さっき言い返したのがまずかったかしら?やっぱり貴族令嬢としてはマナー違反よね…)
不安に思い、弁解の言葉を口にしようとしたリディを呼ぶ声がした。
「そうですわね。はぁ…そんな方と同じ空気を吸うなんて耐えられませんね」
「まぁ、ジャクリーヌもナタリーも、そのように本当のことを言ってはいけないですわよ。私達は貴族令嬢ですもの」
三人の着飾った女性が見下すようにリディに言った。
そばかす出っ歯女がジャクリーヌ、小結力士がナタリーというようだ。
縦巻きロール女が二人を呼び捨てにしているところを見ると、ボスなのだろう。
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「…それはできません。主賓ですから」
「このパーティーはルシアン様の婚約者のお披露目なのよ。貴女のような陰険な女が婚約者を名乗るの?ずうずうしいわ。貴女の噂は聞いてますのよ」
「噂ですか?どのような?」
どうせ悪口だろうが一応聞いてみる。
そうすると三人はリディに向かって圧をかけながら捲し立てて来た。
「シャルロッテ様の話では陰気なくせに悪口ばかり言うと聞いてますわ。皆さんも聞いていますでしょ?」
「はい、ベアトリス様。私も聞いたことがあります。この間もシャルロッテ様への贈り物に嫉妬して、ドレスをビリビリに破いたとか…」
「本当、貴族令嬢とは思えない振る舞いですわ」
「そんな性根の腐った方が、社交界に出るなんて…私には耐えられませんわね」
予想通りの回答であったので、リディは努めて冷静に回答する。
「そんなのは根も歯もない噂。事実無根です」
リディの言葉は彼女達には響いておらず、今度は三人は睨むようにして強い声で言った。
たぶんリディが動じることなく話を聞いているからだろう。
「どうだか?嘘がお得意らしいですからね」
「そもそもソフィアナ様ならわかりますけど、貴女のような地味女が正直ルシアン様と釣り合うとは思えませんわ」
「たかだか伯爵令嬢の身分、身の程を弁えるべきですわ」
「本当はルシアン様を脅したのではなくて?」
「例えば体を使って誘惑したとか…」
「まぁ、なんて品の無い。でも案外そういう汚いやり方でルシアン様を騙したのかもしれませんわよ」
「貴族令嬢として恥ずかしくないのかしら。あーあ、穢らわしい方だわ」
(生憎、体で誘惑できるようなダイナマイトボディじゃないんだけどなぁ…)
心の中で思わず呆れてしまった。
正直あることないこと言われて悔しくないわけない。
直ぐにでも反論し、「はい論破」と言いたいところをリディはぐっと堪えた。
あまり波風立てるのも貴族社会で生きるためには禍根を残してしまう。
それに、現在リディはバークレー侯爵家に名を連ねるものとなる。となれば家名を落とすわけにはいかない。
だが悔しい。うーんとその二つの案を脳内で天秤にかけた…結果
(よし。言わせてもらおう。やられっぱなしは性に合わないわ)
ただ直ぐに反論はしない。とりあえず言わせるだけ言わせておこう。
リディはぎゃんぎゃんと言っている三人の言葉を聞き流していた。
同時に彼女たちの周りを飛んでいる妖精に語り掛け、その言葉を聞いていた。
すると縦巻きロールのベアトリスがあまりに素っ気ない反応のリディに怒りを露にしてこう言い放った。
「聞いてらっしゃるの!何か言いなさいよ!」
(さて、反撃の時間かしらね)
ここまで言われてリディも黙っているわけにはいかない。
リディはすぅと一つ小さく息を吸ったのち、にっこりと笑みを浮かべて言った。
「言いたいことはそれだけでしょうか?」
「えっ…?」
「私は誓ってやましいことはしていません。ルシアン様とご縁があったので婚約しただけです」
嘘は言っていない。
体を使って誘惑したり脅したりしたわけではない。…契約しただけだ。
なのでどんな形であれ「縁があった」から婚約することになっただけだ。
「では、私も言わせていただきますね。まず、ジャクリーヌ様」
リディが突然自分の名を呼んだためか、そばかす出っ歯の女が一瞬たじろぎながらも、なんとか虚勢を張るようにしてリディに答えた。
「な、何よ。なにか文句がありますの?」
「貴女、その歯は差し歯ですよね。この間、屋敷で滑って転んだ時に顔面からダイブ。その結果顔面を殴打し歯が折れた…そうでありませんか?あぁ、ちなみに転ばれる前にベアトリス様の持っていたハンカチの刺繍が下手だなんて言ってらしたわね」
「!!」
「どういうこと?」
ジャクリーヌの顔が羞恥で赤くなった後、悪口を言っていたことがベアトリスにばれて、顔を青くしている。
何か言い訳を言おうとしているところで、リディは話を続けた。
「次にナタリー様。お母様に止められているのにこっそりお菓子を買って部屋に隠してらっしゃいますよね?それを夜な夜な食べて、体重が五キロほど増えたご様子」
「な…なんでそれを…?!」
「〝最近太ったのではない?〟とお母さまに聞かれて、言われてベアトリス様にお茶菓子を食べないと絶交されてしまうから無理無理食べさせられて嫌になるんですと嘘までお付きになってらっしゃる…。ベアトリス様も濡れ衣ですね」
ぎくりと肩を震わすナタリーに、ベアトリスの視線が突き刺さる。
ナタリーが目を泳がせているのを見て、リディは最後にベアトリスに向かった。
「最後にベアトリス様。いくら見えない場所とは言え穴が開いたシュミーズを着ていて恥ずかしくはないのですか?確かに人目に付かない場所でこのようなことをする方ですから、見えなければ問題ないと思われていらっしゃるのでしょうけど。でも…それにしてもシュミーズに穴が開いているだなんて…ふふふ、貴族令嬢が聞いて呆れますね」
「な…なんで知ってるのよー!!!!」
ベアトリスは悲鳴に近い声を上げた。
これらはリディが先ほど妖精達から聞いたことだ。
「他にも色々お話がありますけど…聞きますか?」
目は笑っていないが口元に薄く微笑みを浮かべるリディに恐怖に近いものを覚えた三人は悲鳴を上げた。
「ひいいいー!」
「お、覚えてなさい!!」
「失礼するわ!」
負け犬の遠吠えのような言葉を口にしてベアトリス達は踵を返した。
だが、最後に悪戯好きの妖精パックが彼女達を後ろから押した。
バランスを崩したナタリーが前を歩くジャクリーンを押し、さらに先頭を歩くベアトリスを押し倒して、将棋倒しになった。
同時にドレスの裾を踏んでビリリという音と共に破けてしまったベアトリスのドレスから穴の空いたシミーズが見えた。
突然倒れた三人を見ていた驚いた夜会の参加者は、次の瞬間くすくすと笑いをこぼした。
「あら…あれ、穴が空いてなくて?」
「まぁ本当だわ」
「あんなものを身に付けるなんて恥ずかしいわね」
笑いを含んだざわめきが会場に響く。
群衆の視線を受け真っ赤な顔をしてベアトリスが走り去ると、残り二人も慌ててベアトリスを追いかけるように会場から出て行った。
『ざまぁ見やがれってもんだ』
「パック…ちょっと悪戯すぎじゃないかしら?」
『いいんだよ!オレ達のリディを虐めたんだ。あいつらにはあんくらいしてやんないと』
「ふふ、でも私のためにありがとう」
『いいってことよ!』
そんな会話をパックとしていると声を掛けられたのでそちらを見れば、一人の美女がハンカチを差し出していた。繊細なレースにバラの花の刺繍が施してある。
「大丈夫でした?」
「あ、はい。大丈夫です…」
その美女の姿を見たリディは小さく息を呑んだ。
(…悪役令嬢ソフィアナ・ロッテンハイム…!)
少し吊り上がった目に菫色の瞳。泣きぼくろがセクシーで目を引く。
水色のストレートの髪にパールの髪飾りが華やかさを添えており、髪飾りに合わせて胸元にパールをあしらった少し濃いめのブルーのドレスはソフィアナの凛とした雰囲気に似合っていた。
(さすがメインキャラ…美しい!!)
ソフィアナの背景がキラキラの効果がかかっているように見える。
しばし見惚れていたリディであったが、自分に声が掛けられていることを思い出し、はっと我に返った。
「ありがとうございます。ソフィアナ様。でも綺麗なハンカチが汚れてしまいます。私は大丈夫ですので」
「あら、私をご存知でしたの?」
「もちろんです。メインキャラですもの!って…いえ、貴族に籍を置くものですからソフィアナ様を存じ上げているのは当然です」
「そう。それより…貴女、今のは」
「今の?」
ソフィアナは何かに戸惑っているように見えた。
そしてリディをじっと見つめるので、居心地が悪い。
(もしかして、さっき言い返したのがまずかったかしら?やっぱり貴族令嬢としてはマナー違反よね…)
不安に思い、弁解の言葉を口にしようとしたリディを呼ぶ声がした。
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