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ご両親との対面
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(えーっと、これは…どうゆう状況?)
豪華な食事が並ぶ長方形のテーブルがリディの前にある。
リディの向かい側にルシアンの両親であるレイモンとカテリーヌが座り、その横にルシアンの妹のエリスがいる。そしてリディの隣にルシアンが座っている。
朝からバタバタと予想外の事が起こったが、極めつけがバークレー侯爵家でディナーを食べることになるとは想像もつかなかった。
だが突然の訪問であるにも関わらずルシアンの両親はリディを快く迎えてくれた。
「リディさん、ようこそバークレー邸へ。今日はゆっくりしていってくれ」
「うふふ、リディさんにお会いできるのを楽しみにしてたのよ」
「と、トツゼンニウカガイマシテ、モウシワケアリマセン」
緊張から思わず片言になってしまう。
「まぁ、大したもてなしもできないが、ゆっくり食べて行ってくれたまえ」
そうルシアンの父であるレイモンが言うが目の前に広がる豪華な料理と品数にリディは心の中で叫んだ。
(全然大したことあるんですけど!?)
スープはかぼちゃのポタージュだ。ちゃんとクルトンが入っていることに感動を覚える。
ほかほかのステーキは分厚くて、前世で言うところのA5ランクであろうことが一目で察せられる。
パンもその辺のパンではなく、中にくるみや松の実が入っていて、ひと手間加えられていた。
(さすがすぎる…侯爵家凄い…)
普段、リディは家ではまともなものを食べさせてもらえない。
義母達が食べた料理の余りを与えられるので、いつも量が少なく冷たいものだった。
以前は見かねた使用人が食事をくれたがその使用人も解雇されてしまった。
まぁ、前世を思い出してからは家族が寝た後にキッチンに忍び込んで自炊しているので以前よりは食べれてはいる。
だが、リディが作れるのは日本の家庭料理+α程度であるので、目に並ぶ料理の数々は見ているだけでもお腹がいっぱいになる。
(香りだけでご飯三杯は行ける…)
「さ、召し上がって」
「では…ご馳走になります」
リディはそう言いながら魚のポワレを口にした。
程よくさっぱりとしたソースは酸味が丁度良く、魚にまぶされているハーブと絶妙にマッチしている。
「頬が蕩けそうです…」
思わずぽつりと呟いたのち、リディははっとした。
あまりに直接的表現で、貴族令嬢らしからぬ発言だったかもしれない。
「品のないことを言いまして申し訳ありません」
「いいのよ!そんなに美味しいと思っていただけて嬉しいわ」
そんな庶民じみた感想も、ルシアンの母であるカテリーヌは意に介した様子もなく、にこにことして聞いてくれた。
とりあえず談笑しながら食事は進んでいく。
最初は「こんな貧相な女がルシアンの恋人だなんて!」と思われているだろうとびくびくしていたリディであったが、意外にもルシアンのご両親はリディに好意的であった。
(レイモン様の守護妖精もカテリーヌ様の守護妖精も飛び回っているし…案外歓迎ムードかしら?)
その一方でエリスの守護妖精は、エリスの影に隠れて何やらじっとこちらを伺うようにしている。
(エリス様にはやっぱり受け入れてもらえないわよね…)
あんな美男子の兄がこんな地味女を連れて来たら、そりゃ受け入れられないというものだろう。
予想通りではある。
ただ美少女に嫌われるのは少し寂しい。
そんなリディの心境には気づかないようで、ルシアン両親はというと時折見つめ合いながら「あはは」「ほほほ」と食事を楽しんでいる。
二人の仲は良好なのだろう。
いや、良好というよりも、むしろ熱いくらいでラブラブな様子が見て取れる。
カテリーヌはクリームに近い金の髪を美しく結い上げている。
きっとエリスは母親似なのだろう。
レイモンはルシアンと同じ白に近い青の髪色だ。
少し柔らかめの髪を後ろに流していて、見た目30代といっても過言ではない。
さすが攻略対象の家族。美形一家だ。顔面国宝が氾濫していて言葉が出ない。
(そういえばルシアン様も将来こんな感じのダンディなカッコいい男性になるんだろうなぁ)
そう思ってチラリと隣に座るルシアンを見れば、ルシアンもこちらを見ていたようで、ばっちりと目が合ってしまった。
そして何故かほほ笑んでいるように見えた。
「ルシアン様、どうかなさいました?…も、もしや何か粗相してました?」
「いや、リディと一緒に食事ができて幸せだなって思ってね」
ルシアンはまた嬉しそうに笑うと、手元の人参のグラッセを優雅に食べた。
(確かに今では茶飲み友達だったし、一緒にご飯食べたことなかったわ)
いつも一人で食事をするリディとしては、大勢で食卓を囲んでいることが不思議だったが、同時にとても楽しくもあった。
「私も、ルシアン様とこうして食事を食べるの、不思議な感じがします。でもとても嬉しいです」
「俺も嬉しいよ」
そう言ってルシアンは再びほほ笑む。
だが今度は視線を料理に向けることなくリディをじっと見つめた。
そんなリディ達に突然カテリーヌが声を掛けてきた。
「ふふふ…ラブラブなのね」
「はぇ?ラ、ラブラブ!?」
動揺で思わず声が上ずってしまった。
そんなリディに更にカテリーヌが畳みかける。
「で?二人はいつからお付き合いしていたの?」
「えっと…」
細かな設定を決めていなかったことに気づき、リディは思わず言葉に詰まってしまった。
カテリーヌはそれに気づかないようだったが、次には困った表情をしてため息をつきながら言葉を続けた。
「まったくね…この子ってば仕事一筋で。恋人の一人もいないのを心配していたのよ。だからこの間リディさんの事を聞いて驚いてしまったのよ。全然恋人の影すらなかったから」
ルシアンに恋人がいたかは定かではないが、少なくとも「例の女性」を探していたことを考えると直近では恋人がいなかったのかもしれない。
だからルシアンに恋人がいる気配も無かったのにいきなり恋人を名乗るリディが現れのだから驚くのは当たり前だ。
(なんて返事をしたらいいのかしら。なるべく自然な回答をしないといけないわよね)
チラリとルシアンを見れば、表情一つ変えていない。
そしてカテリーヌの質問に対し、ルシアンは冷静に応えた。
いや、むしろ嬉々として言った。
「付き合ったのは最近ですよ。ずっと片思いをしていたのですがなかなかそういう機会がなくて」
(上手い!さりげなく本当のことを入れつつ、フィクションを交えるなんて!)
「あら、そうなの?ルシアンに片思いの相手がいたなんて全然気付かなかったわ。あなたも知っていたの?」
カテリーヌが驚いて、レイモンを見れば、彼もやはり驚いた顔をしていた。
だが、すぐに穏やかな表情になった。
「いや、僕も知らなかったな。でも意外だよ。言い寄って来る令嬢は数あれど、興味を示さなかったお前が片想いするなんてね」
「俺もまさか心惹かれる女性が現れるなんて思わなかったですよ」
「それで?出会いはどうだったんだ?やはり夜会か?」
「いえ、街外れの公園です。ライラックの木の下で出会ったのがきっかけです」
「おおお。ライラックの木の下だなんてなんて、ロマンチックじゃないか!僕とカテリーヌみたいに運命的なものを感じるな」
(ライラックの木の下なんて…結構具体的な設定ね)
なかなかの詳細設定である。リディは感心した。
レイモンはというと、彼自身もそういうロマンチックな話を好むのか、少し興奮気味にそう言った。
そしてカテリーヌも目を輝かせてルシアンに詰め寄るように質問を続ける。
「それでそれで?どんなきっかけだったの?一目見て恋に落ちたとかかしら!?」
「そうですね…。実はちょっと恥ずかしい出会いなのですが、愚痴をこぼしているのをリディに聞かれてしまったのです。そんな俺をリディが心配して声を掛けてくれたのがきっかけですね」
それを聞いたエリスが少し棘のある口調で口を挟んだ。
「あら、女性から声を掛けるなんてはしたなくありませんこと?」
「いや、あれはリディも思わず声を掛けてしまったんじゃかな?よっぽど酷い顔をしていたようだから」
「酷い顔?」
「あぁ、少しトラブル続きで気が休まらなかったせいか、リディ曰くは『死にそうな顔だった』らしいよ。それで思わず愚痴めいたことを言ってしまってね。今思うと恥ずかしいところを見せてしまった」
苦笑するルシアンであったが、何故か少しだけ嬉しそうでもあった。
(確かに、占いで悩み相談しに来たのが出会いだし。嘘ではないけど、凄いわ。突然こんなにフィクションを付けられるなんて!ルシアン様、作家の素質があるのかもしれないわ)
ルシアンの話を聞いて今度はレイモンが笑った。
「ははは、完全無欠なんて言われるお前が愚痴を言うなんて…驚きだな!」
「俺も驚きですよ。でも彼女には不思議と言えてしまったのですよ」
「こいつに弱音を言わせるなんてリディさんは凄いな!」
「えぇ、リディは不思議な女性なんですよ。思わず話をしたくなる魅力を持っているんです」
いくら何でもそんな大げさなことを言ってはバレてしまうのではないか。
内心冷や汗をかいているとエリスが不愉快そうな声を出した。
「魅力?私には感じられませんけど」
「そうですよ!いくら何でもそれは無理がありますよ!」
思わず本音が出てしまった。
(いくらなんでもモブキャラに魅力があるとかいうのは無理があるわよ!?)
「エリスもそのうちリディの魅力が分かるよ」
「そうかしら」
エリスは憮然とした顔ではあったが、反してレイモンとカテリーヌは優雅にほほ笑んだ。
「それでその後どうしたの?」
カテリーヌが乙女の恋バナを聞く様に、目を輝かせてルシアンに話の先を促した。
「リディは俺の話を聞いてくれた上に、励ましてくれました。その言葉を聞いて、とても勇気づけられたのです。その後も何度か偶然会うことが続いて。最初は恋だとは気づかなかったのですが、話していくうちに惹かれてしまい、気づいたら好きになっていたのです」
「まぁ!恋なんて気づいたら落ちているものよね」
「そうだな、僕達もそうだったな」
そう言ってレイモンとカテリーヌは見つめ合った。
恋人同士のような甘い雰囲気が漂う。
そのカテリーヌはまたガバリと顔の向きを変えると、テーブルに乗り出すようにして今度はリディに詰め寄った。
「それで!?リディさんは、ルシアンの気持ちに気づいていたの?」
「えっ!?あ…ええと。気づかなかったですね」
(だって作り話だものね。ここで気付いてたなんていうのはちょっと変に思われるだろうし)
「じゃあ、もちろん告白はルシアンなのね?」
「はい。最初は俺の想いも全然気づいてもらえなかったのでなかなか告白ができず」
「あら意気地なしね」
「そうですね。ですからYESの返事をもらった時は本当に嬉しかったです」
ルシアンはリディに顔を向ける。
その顔は心の底から嬉しそうに見える。
まるで本当にリディに恋をしているようにも見える熱を孕んだ目だった。
(いや、ルシアン様、作家の才能だけじゃなく役者の才能もあるのでは?)
「リディと婚約できて、幸せだよ」
「あ…ありがとうございます」
顔面偏差値測定不能のルシアンが真っすぐにそんな言葉を口にするので、リディの心臓は一気に爆音を奏でた。
そして視線を逸らすこともできず、リディは真っ赤になりながらなんとか返事をした。
「まぁ、ラブラブなのね」
「はは。僕達の若い頃を思い出すね」
「本当。でもわたくしの気持ちは変わらないわよ」
「僕だってそうだよ。君と結婚できて幸せだよ」
レイモンとカテリーヌは再び見つめ合った。
その二人の雰囲気を割るようにルシアンが言った。
「それで婚約の件なのですが、すでに陛下からは月末にでもという話になっておりまして」
「あぁそうだわね」
「まったく、王にせっつかれないと婚約もしないなんて、本当にリディさんのことになると意気地無しだな」
「返す言葉もありません。それでこの間ご相談した通り、すぐにでもこの屋敷に入ってもらおうと思っているのですが、この通りリディは足を痛めまして。このまま我が家に逗留してもらおうかと」
「もちろんOKよ!実はもうリディさんのお部屋も用意しているのよ!」
「あぁ、婚約発表のパーティーの準備も手配している」
ルシアンの提案も驚きだったが、すでに両親がリディの受け入れ準備を整え終わっていることにリディは驚愕した。
自分の意見を言うまでもなく、とんとん拍子に物事が進んでいくのをリディは心の中で絶叫するしかなかった。
(はああああああ!????ちょ、ちょっと!展開早すぎでは?!)
「じゃあリディさんはこのまま泊まるということで…ふふふ、色々お話できるのね!わたくし、ずっとお話できるのを楽しみにしていたのよ」
「え?いや、そこまでは!いくら何でもずうずうし過ぎますので!」
辞退しようとするリディにルシアンが手を握ったのでリディは思わずそちらを向いた。
「リディの傍についていながら俺が怪我をさせてしまったんだ。明日、一緒に屋敷に行ってご両親に謝るよ」
「ルシアン様のせいじゃないですよ?私が勝手に走ったわけですし」
だがルシアンの言葉にレイモンもカテリーヌもうんうんと深く頷いた。
「そうだぞ。お前がついていながらラングレン伯爵の大切なご令嬢に怪我をさせたんだ。ちゃんと説明すべきだ」
「そうよ。このまま返したら伯爵がお怒りになりかもしれないしね。ちゃんと謝りなさい」
謎の展開にリディもついて行けない。
戸惑いつつ混乱するリディを他所に、今日は宴会をしようだの、もっと恋バナしましょう等とルシアンの両親が盛り上がり、ルシアンも「いいですね」などと笑っている。
こうしてリディの制止も空しく、リディはバークレー家に滞在することになった。
夜も遅くなったあたりで、長かったディナーが終わり、足を痛めているリディはルシアンに支えられながら部屋まで案内された。
「リディ、すまなかったね。両親はよっぽど君との婚約が嬉しかったみたいだ」
「いいえ。とても楽しいディナーでしたよ。ルシアン様のご両親の恋バナも聞けましたし」
最初はルシアンとリディの話を興味津々に聞いていたルシアンの両親は、やがて自分たちの出会いや結婚までの秘話などと語り始め、最後は再び見つめ合ったところでルシアンに止められ解散となったのだ。
エリスはというと呆れたように話の途中で部屋へと戻ってしまった。
「それにしてもルシアン様って、咄嗟にあのような話ができるなんて凄いですね!お話を作るのがお上手でびっくりしました」
「あながち作り話でもないだけどな…」
「え?」
「あ、なんでもない。今日はゆっくり休んで」
そう言うとルシアンは突然リディの手をそっと取ると、口元に運び指先にキスをした。
「!?」
「じゃあ、お休み。俺の婚約者殿」
突然のルシアンの行動に驚くリディを残してルシアンは去って行った。
(え?なに?婚約者っぽい振る舞いが必要だったとか?)
確かに偽装婚約であることがバレるわけにもいかない。
多分屋敷でも気が抜けないのだ。
ルシアンの演技は完璧だった。
ならば自分もちゃんと演じなくてはならない。
(よし、明日から気合入れて演技するぞ!)
リディはそう決意して用意されていた自室へと入るのだった。
豪華な食事が並ぶ長方形のテーブルがリディの前にある。
リディの向かい側にルシアンの両親であるレイモンとカテリーヌが座り、その横にルシアンの妹のエリスがいる。そしてリディの隣にルシアンが座っている。
朝からバタバタと予想外の事が起こったが、極めつけがバークレー侯爵家でディナーを食べることになるとは想像もつかなかった。
だが突然の訪問であるにも関わらずルシアンの両親はリディを快く迎えてくれた。
「リディさん、ようこそバークレー邸へ。今日はゆっくりしていってくれ」
「うふふ、リディさんにお会いできるのを楽しみにしてたのよ」
「と、トツゼンニウカガイマシテ、モウシワケアリマセン」
緊張から思わず片言になってしまう。
「まぁ、大したもてなしもできないが、ゆっくり食べて行ってくれたまえ」
そうルシアンの父であるレイモンが言うが目の前に広がる豪華な料理と品数にリディは心の中で叫んだ。
(全然大したことあるんですけど!?)
スープはかぼちゃのポタージュだ。ちゃんとクルトンが入っていることに感動を覚える。
ほかほかのステーキは分厚くて、前世で言うところのA5ランクであろうことが一目で察せられる。
パンもその辺のパンではなく、中にくるみや松の実が入っていて、ひと手間加えられていた。
(さすがすぎる…侯爵家凄い…)
普段、リディは家ではまともなものを食べさせてもらえない。
義母達が食べた料理の余りを与えられるので、いつも量が少なく冷たいものだった。
以前は見かねた使用人が食事をくれたがその使用人も解雇されてしまった。
まぁ、前世を思い出してからは家族が寝た後にキッチンに忍び込んで自炊しているので以前よりは食べれてはいる。
だが、リディが作れるのは日本の家庭料理+α程度であるので、目に並ぶ料理の数々は見ているだけでもお腹がいっぱいになる。
(香りだけでご飯三杯は行ける…)
「さ、召し上がって」
「では…ご馳走になります」
リディはそう言いながら魚のポワレを口にした。
程よくさっぱりとしたソースは酸味が丁度良く、魚にまぶされているハーブと絶妙にマッチしている。
「頬が蕩けそうです…」
思わずぽつりと呟いたのち、リディははっとした。
あまりに直接的表現で、貴族令嬢らしからぬ発言だったかもしれない。
「品のないことを言いまして申し訳ありません」
「いいのよ!そんなに美味しいと思っていただけて嬉しいわ」
そんな庶民じみた感想も、ルシアンの母であるカテリーヌは意に介した様子もなく、にこにことして聞いてくれた。
とりあえず談笑しながら食事は進んでいく。
最初は「こんな貧相な女がルシアンの恋人だなんて!」と思われているだろうとびくびくしていたリディであったが、意外にもルシアンのご両親はリディに好意的であった。
(レイモン様の守護妖精もカテリーヌ様の守護妖精も飛び回っているし…案外歓迎ムードかしら?)
その一方でエリスの守護妖精は、エリスの影に隠れて何やらじっとこちらを伺うようにしている。
(エリス様にはやっぱり受け入れてもらえないわよね…)
あんな美男子の兄がこんな地味女を連れて来たら、そりゃ受け入れられないというものだろう。
予想通りではある。
ただ美少女に嫌われるのは少し寂しい。
そんなリディの心境には気づかないようで、ルシアン両親はというと時折見つめ合いながら「あはは」「ほほほ」と食事を楽しんでいる。
二人の仲は良好なのだろう。
いや、良好というよりも、むしろ熱いくらいでラブラブな様子が見て取れる。
カテリーヌはクリームに近い金の髪を美しく結い上げている。
きっとエリスは母親似なのだろう。
レイモンはルシアンと同じ白に近い青の髪色だ。
少し柔らかめの髪を後ろに流していて、見た目30代といっても過言ではない。
さすが攻略対象の家族。美形一家だ。顔面国宝が氾濫していて言葉が出ない。
(そういえばルシアン様も将来こんな感じのダンディなカッコいい男性になるんだろうなぁ)
そう思ってチラリと隣に座るルシアンを見れば、ルシアンもこちらを見ていたようで、ばっちりと目が合ってしまった。
そして何故かほほ笑んでいるように見えた。
「ルシアン様、どうかなさいました?…も、もしや何か粗相してました?」
「いや、リディと一緒に食事ができて幸せだなって思ってね」
ルシアンはまた嬉しそうに笑うと、手元の人参のグラッセを優雅に食べた。
(確かに今では茶飲み友達だったし、一緒にご飯食べたことなかったわ)
いつも一人で食事をするリディとしては、大勢で食卓を囲んでいることが不思議だったが、同時にとても楽しくもあった。
「私も、ルシアン様とこうして食事を食べるの、不思議な感じがします。でもとても嬉しいです」
「俺も嬉しいよ」
そう言ってルシアンは再びほほ笑む。
だが今度は視線を料理に向けることなくリディをじっと見つめた。
そんなリディ達に突然カテリーヌが声を掛けてきた。
「ふふふ…ラブラブなのね」
「はぇ?ラ、ラブラブ!?」
動揺で思わず声が上ずってしまった。
そんなリディに更にカテリーヌが畳みかける。
「で?二人はいつからお付き合いしていたの?」
「えっと…」
細かな設定を決めていなかったことに気づき、リディは思わず言葉に詰まってしまった。
カテリーヌはそれに気づかないようだったが、次には困った表情をしてため息をつきながら言葉を続けた。
「まったくね…この子ってば仕事一筋で。恋人の一人もいないのを心配していたのよ。だからこの間リディさんの事を聞いて驚いてしまったのよ。全然恋人の影すらなかったから」
ルシアンに恋人がいたかは定かではないが、少なくとも「例の女性」を探していたことを考えると直近では恋人がいなかったのかもしれない。
だからルシアンに恋人がいる気配も無かったのにいきなり恋人を名乗るリディが現れのだから驚くのは当たり前だ。
(なんて返事をしたらいいのかしら。なるべく自然な回答をしないといけないわよね)
チラリとルシアンを見れば、表情一つ変えていない。
そしてカテリーヌの質問に対し、ルシアンは冷静に応えた。
いや、むしろ嬉々として言った。
「付き合ったのは最近ですよ。ずっと片思いをしていたのですがなかなかそういう機会がなくて」
(上手い!さりげなく本当のことを入れつつ、フィクションを交えるなんて!)
「あら、そうなの?ルシアンに片思いの相手がいたなんて全然気付かなかったわ。あなたも知っていたの?」
カテリーヌが驚いて、レイモンを見れば、彼もやはり驚いた顔をしていた。
だが、すぐに穏やかな表情になった。
「いや、僕も知らなかったな。でも意外だよ。言い寄って来る令嬢は数あれど、興味を示さなかったお前が片想いするなんてね」
「俺もまさか心惹かれる女性が現れるなんて思わなかったですよ」
「それで?出会いはどうだったんだ?やはり夜会か?」
「いえ、街外れの公園です。ライラックの木の下で出会ったのがきっかけです」
「おおお。ライラックの木の下だなんてなんて、ロマンチックじゃないか!僕とカテリーヌみたいに運命的なものを感じるな」
(ライラックの木の下なんて…結構具体的な設定ね)
なかなかの詳細設定である。リディは感心した。
レイモンはというと、彼自身もそういうロマンチックな話を好むのか、少し興奮気味にそう言った。
そしてカテリーヌも目を輝かせてルシアンに詰め寄るように質問を続ける。
「それでそれで?どんなきっかけだったの?一目見て恋に落ちたとかかしら!?」
「そうですね…。実はちょっと恥ずかしい出会いなのですが、愚痴をこぼしているのをリディに聞かれてしまったのです。そんな俺をリディが心配して声を掛けてくれたのがきっかけですね」
それを聞いたエリスが少し棘のある口調で口を挟んだ。
「あら、女性から声を掛けるなんてはしたなくありませんこと?」
「いや、あれはリディも思わず声を掛けてしまったんじゃかな?よっぽど酷い顔をしていたようだから」
「酷い顔?」
「あぁ、少しトラブル続きで気が休まらなかったせいか、リディ曰くは『死にそうな顔だった』らしいよ。それで思わず愚痴めいたことを言ってしまってね。今思うと恥ずかしいところを見せてしまった」
苦笑するルシアンであったが、何故か少しだけ嬉しそうでもあった。
(確かに、占いで悩み相談しに来たのが出会いだし。嘘ではないけど、凄いわ。突然こんなにフィクションを付けられるなんて!ルシアン様、作家の素質があるのかもしれないわ)
ルシアンの話を聞いて今度はレイモンが笑った。
「ははは、完全無欠なんて言われるお前が愚痴を言うなんて…驚きだな!」
「俺も驚きですよ。でも彼女には不思議と言えてしまったのですよ」
「こいつに弱音を言わせるなんてリディさんは凄いな!」
「えぇ、リディは不思議な女性なんですよ。思わず話をしたくなる魅力を持っているんです」
いくら何でもそんな大げさなことを言ってはバレてしまうのではないか。
内心冷や汗をかいているとエリスが不愉快そうな声を出した。
「魅力?私には感じられませんけど」
「そうですよ!いくら何でもそれは無理がありますよ!」
思わず本音が出てしまった。
(いくらなんでもモブキャラに魅力があるとかいうのは無理があるわよ!?)
「エリスもそのうちリディの魅力が分かるよ」
「そうかしら」
エリスは憮然とした顔ではあったが、反してレイモンとカテリーヌは優雅にほほ笑んだ。
「それでその後どうしたの?」
カテリーヌが乙女の恋バナを聞く様に、目を輝かせてルシアンに話の先を促した。
「リディは俺の話を聞いてくれた上に、励ましてくれました。その言葉を聞いて、とても勇気づけられたのです。その後も何度か偶然会うことが続いて。最初は恋だとは気づかなかったのですが、話していくうちに惹かれてしまい、気づいたら好きになっていたのです」
「まぁ!恋なんて気づいたら落ちているものよね」
「そうだな、僕達もそうだったな」
そう言ってレイモンとカテリーヌは見つめ合った。
恋人同士のような甘い雰囲気が漂う。
そのカテリーヌはまたガバリと顔の向きを変えると、テーブルに乗り出すようにして今度はリディに詰め寄った。
「それで!?リディさんは、ルシアンの気持ちに気づいていたの?」
「えっ!?あ…ええと。気づかなかったですね」
(だって作り話だものね。ここで気付いてたなんていうのはちょっと変に思われるだろうし)
「じゃあ、もちろん告白はルシアンなのね?」
「はい。最初は俺の想いも全然気づいてもらえなかったのでなかなか告白ができず」
「あら意気地なしね」
「そうですね。ですからYESの返事をもらった時は本当に嬉しかったです」
ルシアンはリディに顔を向ける。
その顔は心の底から嬉しそうに見える。
まるで本当にリディに恋をしているようにも見える熱を孕んだ目だった。
(いや、ルシアン様、作家の才能だけじゃなく役者の才能もあるのでは?)
「リディと婚約できて、幸せだよ」
「あ…ありがとうございます」
顔面偏差値測定不能のルシアンが真っすぐにそんな言葉を口にするので、リディの心臓は一気に爆音を奏でた。
そして視線を逸らすこともできず、リディは真っ赤になりながらなんとか返事をした。
「まぁ、ラブラブなのね」
「はは。僕達の若い頃を思い出すね」
「本当。でもわたくしの気持ちは変わらないわよ」
「僕だってそうだよ。君と結婚できて幸せだよ」
レイモンとカテリーヌは再び見つめ合った。
その二人の雰囲気を割るようにルシアンが言った。
「それで婚約の件なのですが、すでに陛下からは月末にでもという話になっておりまして」
「あぁそうだわね」
「まったく、王にせっつかれないと婚約もしないなんて、本当にリディさんのことになると意気地無しだな」
「返す言葉もありません。それでこの間ご相談した通り、すぐにでもこの屋敷に入ってもらおうと思っているのですが、この通りリディは足を痛めまして。このまま我が家に逗留してもらおうかと」
「もちろんOKよ!実はもうリディさんのお部屋も用意しているのよ!」
「あぁ、婚約発表のパーティーの準備も手配している」
ルシアンの提案も驚きだったが、すでに両親がリディの受け入れ準備を整え終わっていることにリディは驚愕した。
自分の意見を言うまでもなく、とんとん拍子に物事が進んでいくのをリディは心の中で絶叫するしかなかった。
(はああああああ!????ちょ、ちょっと!展開早すぎでは?!)
「じゃあリディさんはこのまま泊まるということで…ふふふ、色々お話できるのね!わたくし、ずっとお話できるのを楽しみにしていたのよ」
「え?いや、そこまでは!いくら何でもずうずうし過ぎますので!」
辞退しようとするリディにルシアンが手を握ったのでリディは思わずそちらを向いた。
「リディの傍についていながら俺が怪我をさせてしまったんだ。明日、一緒に屋敷に行ってご両親に謝るよ」
「ルシアン様のせいじゃないですよ?私が勝手に走ったわけですし」
だがルシアンの言葉にレイモンもカテリーヌもうんうんと深く頷いた。
「そうだぞ。お前がついていながらラングレン伯爵の大切なご令嬢に怪我をさせたんだ。ちゃんと説明すべきだ」
「そうよ。このまま返したら伯爵がお怒りになりかもしれないしね。ちゃんと謝りなさい」
謎の展開にリディもついて行けない。
戸惑いつつ混乱するリディを他所に、今日は宴会をしようだの、もっと恋バナしましょう等とルシアンの両親が盛り上がり、ルシアンも「いいですね」などと笑っている。
こうしてリディの制止も空しく、リディはバークレー家に滞在することになった。
夜も遅くなったあたりで、長かったディナーが終わり、足を痛めているリディはルシアンに支えられながら部屋まで案内された。
「リディ、すまなかったね。両親はよっぽど君との婚約が嬉しかったみたいだ」
「いいえ。とても楽しいディナーでしたよ。ルシアン様のご両親の恋バナも聞けましたし」
最初はルシアンとリディの話を興味津々に聞いていたルシアンの両親は、やがて自分たちの出会いや結婚までの秘話などと語り始め、最後は再び見つめ合ったところでルシアンに止められ解散となったのだ。
エリスはというと呆れたように話の途中で部屋へと戻ってしまった。
「それにしてもルシアン様って、咄嗟にあのような話ができるなんて凄いですね!お話を作るのがお上手でびっくりしました」
「あながち作り話でもないだけどな…」
「え?」
「あ、なんでもない。今日はゆっくり休んで」
そう言うとルシアンは突然リディの手をそっと取ると、口元に運び指先にキスをした。
「!?」
「じゃあ、お休み。俺の婚約者殿」
突然のルシアンの行動に驚くリディを残してルシアンは去って行った。
(え?なに?婚約者っぽい振る舞いが必要だったとか?)
確かに偽装婚約であることがバレるわけにもいかない。
多分屋敷でも気が抜けないのだ。
ルシアンの演技は完璧だった。
ならば自分もちゃんと演じなくてはならない。
(よし、明日から気合入れて演技するぞ!)
リディはそう決意して用意されていた自室へと入るのだった。
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そんな虐待を、実の父親であるマクリンナット公爵ルイスは、酒を飲みながらニタニタと笑いながら見ていた。
だがそんあ生き地獄も終わるときがやってきた。
マクリンナット公爵家どころか、リングストン王国全体を圧迫する獣人の強国ウィントン大公国が、リングストン王国一の美女マクリンナット公爵令嬢アメリアを嫁によこせと言ってきたのだ。
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カチュアとは真逆に、舐めるように可愛がり、好き勝手我儘放題に育てた、ネーラそっくりの極悪非道に育った実の娘、アメリアを手放すはずがなかったのだ。
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