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・依頼者の正体①
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間違いない。
少し切れ長の涼やかな目元に形の良い唇。
背はすらりと高く、どこをどう見ても乙女ゲーム「セレントキス」の攻略対象であるルシアン・バークレーだ。
(だから聞いたことのある名前だったんだ!)
自分がハマったゲームのキャラなのだから知っていて当然だ。
だが、まさか攻略対象とこんな形で会うとは思わなかった。
「……何か言いましたか?」
「あ、いいえ! なんでもございませんわ」
リディの呟きは届いていなかったようだが、ルシアンは少し怪訝な顔をして尋ねてきた。
内心の動揺を抑えつつ、リディは何事もなかったように改めてルシアンに席を勧めた。
「ようこそいらっしゃいました。さて……本日はどのようなご相談でしょうか?」
リディがそう尋ねるがルシアンは少しだけ思案顔だ。
男性客でかつ初見の客は土壇場で相談を躊躇することがままある。
占いが半信半疑というのもあるし、リディが若いというのもあるかもしれない。
「大丈夫です、ご相談内容は誰にも漏らしません。またこちらからも一点、犯罪に関わるようなご相談はお断りしておりますのでご了承ください」
「ああ、それは大丈夫なのだが……」
それを見たリディはルシアンの守護妖精に小さく語りかけた。
(守護妖精様、よろしければ少しだけ彼のことを教えてくださいませんか?)
守護妖精はパタパタとルシアンの周りを飛ぶが、彼にはもちろん見えていない。
そしてリディは妖精からメッセージを受け取った。
「ルシアン様は……今日はお忙しくて朝は紅茶とサンドイッチしか召し上がらなかったのですね。砂糖はなし……珍しくミルクをお入れになった」
「なぜそれを?!」
「ふふふ、少しばかり占わせていただきました」
これは嘘である。
人には守護妖精がいる。リディはその妖精に語りかけ、少しだけ情報を得る。
そしてあたかも占ったかのようにそれを伝えれば、大抵の人間は驚きと共にリディのことを信用してくれる。
ルシアンも例に漏れず、目を一瞬見開いたのち、少しだけ躊躇しつつも話を始めた。
「実は……人を探してほしいのだ」
「人ですか……お知り合いですか?」
「いや、昔少しだけ話した程度の人間だ。だがどうしても会いたいのだ」
そんな些細な会話だけした人間と再会したいとは……よっぽど何か事情があるのだろうか。
リディはその話を聞いて、ぱっとカードを一枚引いた。女性を暗示する「女教皇」だ。
「あぁ、再会したい方は女性なんですね」
「あ……あぁ。実はある女性に付き纏われていて、周囲にも恋人なのだと誤解されてしまっているんだ。もし探している女性と恋人になれば、付き纏っている女性も諦めてくれると思ったのだ」
イケメンもなかなか大変そうである。
「それならばもう別のお知り合いの女性と付き合うというのではいけないのですか?」
「ダメだ。心がないのに女性に思わせぶりなことはしたくない。……それに他人を巻き込みたくはない」
「……なるほど。分かりました。では占ってみますね」
そう言ってリディは愛用のタロットカードをテーブルに広げた。
それを見たルシアンが感心したように呟いた。
「へぇー、タロットカードで占うのか」
「えっ?!」
「えっ?!」
今、ルシアンの口からタロットカードという言葉が出た。
タロットカードはこの世界には存在しない。このカードはリディの特注で作ったものだ。
だからその言葉に驚き、手を止めてしまった。
逆にルシアンもそのリディの反応に驚き、首を傾げている。
「何か変なことを言ったか?」
「……あ、いえ」
少し引っかかったものの、今は占いの最中だ。
リディは頭を切り替えてタロットカードをシャッフルした。
いくつかのカードをめくって読み解いていく。
「えっと……そうですね」
出たカードは剣(ソード)8の逆位置「再燃する恋」、
剣(ソード)の6の正位置「理解者が現れる・ピュアな恋」、
聖杯(カップ)の6の逆位置「新しい情報が入って来る」、
棍棒(ワンド)の騎士(ナイト)の正位置「結婚のチャンス」、
隠者「友人の助言で上手くいく恋」、
愚者の逆位置「しつこい異性に付き纏われる」、
女帝「結婚」……などだ。
これらのカードを読み解いてリディはルシアンに占い結果を伝えた。
「そうですね……その女性とは出会って何かしらのアドバイスのようなものをもらったのですね。それで好きになったと」
「そんなことも分かるのか?」
「はい。当たってました?」
「あぁ……」
「続けますね。そのお探しの方は……あら、案外近くにいるみたいですよ。新しい情報が入ってきて、それをきっかけに出会うようです。今までこの話を他の方に相談したことはありますか?」
「ないな」
「では友人や身近な人が教えてくれるようなので、もう少し周囲の人に話を聞いてみるのがいいかもしれません」
「なるほど、周囲の友人か……」
「あとは、ちょっと勇気を出していつもと違うことをしてみるとか、挑戦してみるとかで再会のチャンスが来ると思います」
「ふむ。はは、俺がここに来ていることこそいつもと違う行動ではあるな」
「じゃあ、この占いをきっかけにきっと出会うことができます。この辺をもう少し後で占うとして、続き読んでみますね」
「頼む」
そう言ってリディは再びカードを見て、その意味を解いて行った。
「あ……ルシアン様はその方と結婚されたいのですね」
「!! そんなことも分かるのか!?」
「はい。それが占いなので」
「なんだか全てを晒されているようで恥ずかしいものだな」
少しだけ顔を赤らめてルシアンは言った。
「結果ですけど、結婚のチャンスはあるようですよ。女性が現れたら躊躇わずに前進あるのみです」
「分かった。再会した暁には、努力してみる」
「で、障害ですけど……あ、確かにしつこい女性の影がありますね。でも秘密を共有する女性の方の協力で解決しそうです。付き合っているという周囲からの誤解も解けますから大丈夫ですよ。ポイントは誰かに相談して協力を仰ぐこと。それは秘密を共有する女性である可能性が高いです。ちなみにその女性は……」
そう言ってリディはもう一枚カードを引いた。
出たのは剣(ソード)の騎士(ナイト)。
「まさに今その時ですね! 今日出会う女性です」
「なるほど。わかった。少し周囲に話を聞いてみることにする。あぁ、代金は、これでよいか?」
「はい、大丈夫です。貴方に妖精の加護がありますように」
そう言ってリディはルシアンを見送った。
突然の攻略対象の登場に驚いたがもう関わることもないだろう。
ルシアンが誰を探しているのかは分からないが、攻略対象であるルシアンはシャルロッテと出会い運命が大きく変わる可能性がある。
今は再会したい女性と結婚を望んでいるかもしれないが、シャルロッテと出会い、恋に落ちるなんていう可能性もあるのだ。
むしろゲームの筋書きだとそうなるだろう。
(それにしてもあの方とシャルロッテが結婚とかしたら大変だろうけど、まぁ惚れた弱み的な感じだろうし、幸せになれるといいわね。ま、関係ないけど)
リディはタロットカードを片付け、テーブルクロスを仕舞った。
少し切れ長の涼やかな目元に形の良い唇。
背はすらりと高く、どこをどう見ても乙女ゲーム「セレントキス」の攻略対象であるルシアン・バークレーだ。
(だから聞いたことのある名前だったんだ!)
自分がハマったゲームのキャラなのだから知っていて当然だ。
だが、まさか攻略対象とこんな形で会うとは思わなかった。
「……何か言いましたか?」
「あ、いいえ! なんでもございませんわ」
リディの呟きは届いていなかったようだが、ルシアンは少し怪訝な顔をして尋ねてきた。
内心の動揺を抑えつつ、リディは何事もなかったように改めてルシアンに席を勧めた。
「ようこそいらっしゃいました。さて……本日はどのようなご相談でしょうか?」
リディがそう尋ねるがルシアンは少しだけ思案顔だ。
男性客でかつ初見の客は土壇場で相談を躊躇することがままある。
占いが半信半疑というのもあるし、リディが若いというのもあるかもしれない。
「大丈夫です、ご相談内容は誰にも漏らしません。またこちらからも一点、犯罪に関わるようなご相談はお断りしておりますのでご了承ください」
「ああ、それは大丈夫なのだが……」
それを見たリディはルシアンの守護妖精に小さく語りかけた。
(守護妖精様、よろしければ少しだけ彼のことを教えてくださいませんか?)
守護妖精はパタパタとルシアンの周りを飛ぶが、彼にはもちろん見えていない。
そしてリディは妖精からメッセージを受け取った。
「ルシアン様は……今日はお忙しくて朝は紅茶とサンドイッチしか召し上がらなかったのですね。砂糖はなし……珍しくミルクをお入れになった」
「なぜそれを?!」
「ふふふ、少しばかり占わせていただきました」
これは嘘である。
人には守護妖精がいる。リディはその妖精に語りかけ、少しだけ情報を得る。
そしてあたかも占ったかのようにそれを伝えれば、大抵の人間は驚きと共にリディのことを信用してくれる。
ルシアンも例に漏れず、目を一瞬見開いたのち、少しだけ躊躇しつつも話を始めた。
「実は……人を探してほしいのだ」
「人ですか……お知り合いですか?」
「いや、昔少しだけ話した程度の人間だ。だがどうしても会いたいのだ」
そんな些細な会話だけした人間と再会したいとは……よっぽど何か事情があるのだろうか。
リディはその話を聞いて、ぱっとカードを一枚引いた。女性を暗示する「女教皇」だ。
「あぁ、再会したい方は女性なんですね」
「あ……あぁ。実はある女性に付き纏われていて、周囲にも恋人なのだと誤解されてしまっているんだ。もし探している女性と恋人になれば、付き纏っている女性も諦めてくれると思ったのだ」
イケメンもなかなか大変そうである。
「それならばもう別のお知り合いの女性と付き合うというのではいけないのですか?」
「ダメだ。心がないのに女性に思わせぶりなことはしたくない。……それに他人を巻き込みたくはない」
「……なるほど。分かりました。では占ってみますね」
そう言ってリディは愛用のタロットカードをテーブルに広げた。
それを見たルシアンが感心したように呟いた。
「へぇー、タロットカードで占うのか」
「えっ?!」
「えっ?!」
今、ルシアンの口からタロットカードという言葉が出た。
タロットカードはこの世界には存在しない。このカードはリディの特注で作ったものだ。
だからその言葉に驚き、手を止めてしまった。
逆にルシアンもそのリディの反応に驚き、首を傾げている。
「何か変なことを言ったか?」
「……あ、いえ」
少し引っかかったものの、今は占いの最中だ。
リディは頭を切り替えてタロットカードをシャッフルした。
いくつかのカードをめくって読み解いていく。
「えっと……そうですね」
出たカードは剣(ソード)8の逆位置「再燃する恋」、
剣(ソード)の6の正位置「理解者が現れる・ピュアな恋」、
聖杯(カップ)の6の逆位置「新しい情報が入って来る」、
棍棒(ワンド)の騎士(ナイト)の正位置「結婚のチャンス」、
隠者「友人の助言で上手くいく恋」、
愚者の逆位置「しつこい異性に付き纏われる」、
女帝「結婚」……などだ。
これらのカードを読み解いてリディはルシアンに占い結果を伝えた。
「そうですね……その女性とは出会って何かしらのアドバイスのようなものをもらったのですね。それで好きになったと」
「そんなことも分かるのか?」
「はい。当たってました?」
「あぁ……」
「続けますね。そのお探しの方は……あら、案外近くにいるみたいですよ。新しい情報が入ってきて、それをきっかけに出会うようです。今までこの話を他の方に相談したことはありますか?」
「ないな」
「では友人や身近な人が教えてくれるようなので、もう少し周囲の人に話を聞いてみるのがいいかもしれません」
「なるほど、周囲の友人か……」
「あとは、ちょっと勇気を出していつもと違うことをしてみるとか、挑戦してみるとかで再会のチャンスが来ると思います」
「ふむ。はは、俺がここに来ていることこそいつもと違う行動ではあるな」
「じゃあ、この占いをきっかけにきっと出会うことができます。この辺をもう少し後で占うとして、続き読んでみますね」
「頼む」
そう言ってリディは再びカードを見て、その意味を解いて行った。
「あ……ルシアン様はその方と結婚されたいのですね」
「!! そんなことも分かるのか!?」
「はい。それが占いなので」
「なんだか全てを晒されているようで恥ずかしいものだな」
少しだけ顔を赤らめてルシアンは言った。
「結果ですけど、結婚のチャンスはあるようですよ。女性が現れたら躊躇わずに前進あるのみです」
「分かった。再会した暁には、努力してみる」
「で、障害ですけど……あ、確かにしつこい女性の影がありますね。でも秘密を共有する女性の方の協力で解決しそうです。付き合っているという周囲からの誤解も解けますから大丈夫ですよ。ポイントは誰かに相談して協力を仰ぐこと。それは秘密を共有する女性である可能性が高いです。ちなみにその女性は……」
そう言ってリディはもう一枚カードを引いた。
出たのは剣(ソード)の騎士(ナイト)。
「まさに今その時ですね! 今日出会う女性です」
「なるほど。わかった。少し周囲に話を聞いてみることにする。あぁ、代金は、これでよいか?」
「はい、大丈夫です。貴方に妖精の加護がありますように」
そう言ってリディはルシアンを見送った。
突然の攻略対象の登場に驚いたがもう関わることもないだろう。
ルシアンが誰を探しているのかは分からないが、攻略対象であるルシアンはシャルロッテと出会い運命が大きく変わる可能性がある。
今は再会したい女性と結婚を望んでいるかもしれないが、シャルロッテと出会い、恋に落ちるなんていう可能性もあるのだ。
むしろゲームの筋書きだとそうなるだろう。
(それにしてもあの方とシャルロッテが結婚とかしたら大変だろうけど、まぁ惚れた弱み的な感じだろうし、幸せになれるといいわね。ま、関係ないけど)
リディはタロットカードを片付け、テーブルクロスを仕舞った。
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