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旅館のお客様

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旅館にはお客様いる。
まぁ、当然だ。宿泊客というくらいでだから客が居なくては旅館やホテルは成り立たない。
その他に「あの世のお客様」もとい幽霊なんかもひっそりと宿泊所にはいる。
色々な人が宿泊するせいか、旅館やホテルで霊現象を体験することも多い。

まず宿泊施設の部屋に入って「何となく気持ち悪いなぁ」というのは感じることもある。
でも気のせいだと思って夜寝ると…ラップ音がするとか、なんかの視線が感じるとか、なかなか寝付けないとか。
そういう幽霊に遭遇することはなくてもこういった小さな霊現象や居心地の悪さとかは割とある。
なので、旅館に入るとまずお風呂場とベッドサイドのテーブルとテレビの脇に盛塩をする。
そうするだけでもラップ音が聞こえないくらいには霊現象が減る。

こういう知識も数々の霊現象をホテルや旅館で体験したからなのだが…。
傾向的に新しいホテルはあまり霊が出るケースは少ない。逆に年季の入ったホテルなんかは出る。
あと価格の安いホテルなんかも出やすい。
一度一泊四千円くらいのホテルに泊まったが、入っただけで嫌な雰囲気で結局一睡もできず朝の5時くらいにチェックアウトしたことがある。
なので少々お金がかかってもちょっと高めのビジネスホテルをお勧めする。

さて、ならお金が高ければ霊が出ないか?というとそういうわけでもない。
一泊二万円近く出した高級旅館でも出るときは出る。
それは湯布院温泉に旅行に行ったときのことである。父親が退職する慰安旅行を兼ねた旅行だったため、宿は奮発した。
山里にある宿泊が離れの戸建てになっている高級旅館である。各戸建ての客室には露天風呂までついている贅沢ぶり。
日が出ている間は特に異変はなかった。離れの戸建て客室は綺麗で、広く、悠遊快適に過ごしていた。
温泉も良かった。食事も良かった。
もう高級慰安旅行満喫だった。
が…問題は深夜0時を過ぎた頃だった。
父と母と私との三人で部屋で寝ていると、何か私の布団の横の空気が重くて目が覚めた。

(もしや…いる?いやいやまさか…)

そう思ってとりあえず起きて、普段は夜中に行くことのないトイレに立った。
すると母も起きだして、トイレに来て一言言った。

「いるよね…」

何がとは敢えて聞かなかったし、母も言わなかった。
だけどアレがいるとしか考えられなかった。アレとは黒色の物体のGから始まるアレではない。
確かに寝ている時ぱちぱちとラップ音らしきものがテレビやらエアコンやらからなっていたのを思い出した。

(やっぱりいるんだ…)

それを自覚してから寝れなくなった。布団に戻る。でも体の右横から変な視線を感じるし、空気は重いしでとても眠れる雰囲気ではない。
が…日中湯布院観光をして疲れていたのかうつらうつらしてしまった。
こういう時人間の三大欲求ってすごいなぁと思う。恐怖よりも睡眠が優先された。

ふと夢を見たような気がする。
自分が寝ている横にあったテーブルの上のミカンを持って、幼女が老婆に問いかけていた。
「ねぇ婆ちゃん。あたしこのミカン食べたい。」
「これはね、ダメなんだよ。人間の食べ物を取ってはいけないんだよ。」
「えー。あたしお腹すいたー」
「我慢しなさい。この食べ物は生きている人間の食べ物だから」
「はーい。」
ここで目が覚めた。
そして隣に寝ていた母と目が合った。

「今…変な夢?見た。老婆と幼女が出てくる。」
私が神妙な面持ちで言うと母がやはり真剣に答えた。
「そこに老婆がいるよ。」
そう、母には見えているのだ。あの老婆が。

それからもう怖くて怖くてたまらなくて、結局母と二人で朝四時頃まで語り明かした。恐怖で寝ていられなかったのだ。
早朝、鳥のさえずる声が聞こえた頃、ようやくあの嫌な雰囲気が無くなり、ほっと胸をなでおろすような感じになった。
お陰で徹夜状態で残りの観光をすることになったのだ。

あの夢は一体何だったのか。ただの夢だったのか、私の霊感が見せた現実だったのかは分からない。それでも母も同じ霊を見ているのだから不思議なこともあるものである。
すっごい山奥の旅館だったので、大昔にこの土地で死んだ村人の霊だったのかもしれない。そして飢えで死んでしまって苦しんでいるのかもしれない。
そう考えるとかわいそうな気もする。

他には宿泊時の部屋に居なくても公共施設にいる場合もある。
これまで書いたように、私は霊の存在を感じるだけだが、母はもろに見る。それこそ生きている人間のように鮮明に霊を見ることができる。
そんな母が旅先で出会ったのはカラオケルームの霊である。
父の勤め先の保養所には共用で使えるカラオケルームが一室設けられていた。
もちろん無料で利用できるのだが、一組しか使えないので私は早く部屋を確保してく急いでカラオケルームに行った。
勢いよく扉を開けると!!なんと!!先客がいた!!…がっかりである。
中には楽しそうに歌を歌っている1組の家族。父、母、男の子が一人。
「すみません。失礼しました。」
そう言って扉を閉めて、がっくりと肩を落としてその日は部屋に帰った。
翌朝、その家族と朝食の時間が一緒になった。
窓際に座ってご飯を食べる三人家族。
だが、母が奇妙なことを聞いてきた。
「ねぇ、あの家族、昨日カラオケにいた人達だよね。」
「うん、そうだね。」
「なんで一人足りないのかな?」
「は…???もともと三人家族だったよ。」
「え?だってもう一人赤いボーダーの服着てた女の人いたよ!」
その頃はまだ幽霊を見ることも霊現象に会うことも少なかったので、母の勘違いだと私は主張したが、今ならわかりる。
あのカラオケルームにいた四人目の人間は、生きている人間ではなかったのだと…
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