11 / 12
【外伝】薔薇の誓いを
第3章 漆黒の化け物⑤
しおりを挟む
ラルフの言葉に弾かれるように、マーレイは用意していた護符を構え、詠唱する。
女神ラーダの御名により
哀れな闇の者へ光を与え給え
再び、赤い文字が浮かび上がり今度はイシューの体に巻き付いた。それは雁字搦めになりイシューが地べたに縛り付けられる。
「さぁ、行こう!」
二人で庇い会いながら森を抜ける。イシューはいつ襲ってくるか分かない。でも、さっきのラルフのナイフによる攻撃と、マーレイの護符の力であれば、きっと大丈夫。
そうして二人は村に帰れることを信じ、やがて森を抜けた。
「あとは、俺たちの出番だな。」
バサリと羽音が聞こえ、頭上から声がした。
「これだけ弱っていれば、すぐに封じられるな。」
そこにはグランテの姿があった。竜に騎乗し、二人を見下ろしている。
「グランテ…叔父…。」
いつもの大太刀を肩に担ぎ、竜から飛び降りると、追ってきたイシューに向かっていった。
サーシャは竜に乗ったまま弓矢を構え、そして放つとそれはイシューの眉間に突き刺さる。
イシューはギャアアアアアという咆哮を上げる。そして、その言葉を聞かずに間合いを詰めたグランテは大太刀を一薙ぎして、その肉を切り裂いた。
それでもイシューは血を流しながらも動いていた。
何という生命力だろう。
マーレイは驚きとも恐怖とも分からない感情のままそれを見つめていた。
妹神に創られし、哀れな化け物よ。
女神の腕に抱かれ、暫しの眠りを。
「縛!」
肉片が飛び散っていたイシューに向かってグランテがそう叫ぶと、左手に填められたグローブの赤い宝珠が光輝く。
イシューはは傷口から溶けるように赤い光となって、石へと吸い込まれていった。
「封じられた…のか?」
その幻想的な赤い光が完全になくなるのを見て、マーレイは掠れた声で呟いた。
グランテは全を見届けると、クルりと二人の元へと歩いてきた。
「遅くなってすまなかったな。…宿屋に行ったらお前たちが医者を呼びに行ったって聞いて、急いできたんだが…。」
グランテはぐしゃぐしゃとマーレイの頭を撫でる。安堵からか少しマーレイは泣きたくなった。
「二人とも良く頑張ったな。」
きっとマーレイ一人では成しえなかった。ラルフと二人だったからこうして今生きている。
それを実感するように、マーレイは自分の手を見つめ、握っては開きを繰り返していた。
そうしてグランテの竜に乗り、二人は村へと帰ることになった。もちろん医者はサーシャが呼びに行くことなったし、竜に乗れば村まですぐにつくだろう。
グランテも二人を安心させるようにそれを告げると、二人の頭を拳でグリグリとした。
どうやら心配をかけた罰だということだ。
竜の背にのって村に帰還するときに、マーレイはラルフに言った。
「ラルフ…ありがとな。…俺は…お前の薔薇になる。」
「聖騎士の…?」
「あぁ、共に戦い、お前のために命を使う。どんなときにもお前を助けるよ。」
「ならば僕もマーレイの薔薇になる。」
手を出す。
それをぎゅっと握る。
黄金に輝く朝日が、山稜を浮かび上がらせ、そして二人を包むようだった。
こうして、長い長い夜が明けた。
女神ラーダの御名により
哀れな闇の者へ光を与え給え
再び、赤い文字が浮かび上がり今度はイシューの体に巻き付いた。それは雁字搦めになりイシューが地べたに縛り付けられる。
「さぁ、行こう!」
二人で庇い会いながら森を抜ける。イシューはいつ襲ってくるか分かない。でも、さっきのラルフのナイフによる攻撃と、マーレイの護符の力であれば、きっと大丈夫。
そうして二人は村に帰れることを信じ、やがて森を抜けた。
「あとは、俺たちの出番だな。」
バサリと羽音が聞こえ、頭上から声がした。
「これだけ弱っていれば、すぐに封じられるな。」
そこにはグランテの姿があった。竜に騎乗し、二人を見下ろしている。
「グランテ…叔父…。」
いつもの大太刀を肩に担ぎ、竜から飛び降りると、追ってきたイシューに向かっていった。
サーシャは竜に乗ったまま弓矢を構え、そして放つとそれはイシューの眉間に突き刺さる。
イシューはギャアアアアアという咆哮を上げる。そして、その言葉を聞かずに間合いを詰めたグランテは大太刀を一薙ぎして、その肉を切り裂いた。
それでもイシューは血を流しながらも動いていた。
何という生命力だろう。
マーレイは驚きとも恐怖とも分からない感情のままそれを見つめていた。
妹神に創られし、哀れな化け物よ。
女神の腕に抱かれ、暫しの眠りを。
「縛!」
肉片が飛び散っていたイシューに向かってグランテがそう叫ぶと、左手に填められたグローブの赤い宝珠が光輝く。
イシューはは傷口から溶けるように赤い光となって、石へと吸い込まれていった。
「封じられた…のか?」
その幻想的な赤い光が完全になくなるのを見て、マーレイは掠れた声で呟いた。
グランテは全を見届けると、クルりと二人の元へと歩いてきた。
「遅くなってすまなかったな。…宿屋に行ったらお前たちが医者を呼びに行ったって聞いて、急いできたんだが…。」
グランテはぐしゃぐしゃとマーレイの頭を撫でる。安堵からか少しマーレイは泣きたくなった。
「二人とも良く頑張ったな。」
きっとマーレイ一人では成しえなかった。ラルフと二人だったからこうして今生きている。
それを実感するように、マーレイは自分の手を見つめ、握っては開きを繰り返していた。
そうしてグランテの竜に乗り、二人は村へと帰ることになった。もちろん医者はサーシャが呼びに行くことなったし、竜に乗れば村まですぐにつくだろう。
グランテも二人を安心させるようにそれを告げると、二人の頭を拳でグリグリとした。
どうやら心配をかけた罰だということだ。
竜の背にのって村に帰還するときに、マーレイはラルフに言った。
「ラルフ…ありがとな。…俺は…お前の薔薇になる。」
「聖騎士の…?」
「あぁ、共に戦い、お前のために命を使う。どんなときにもお前を助けるよ。」
「ならば僕もマーレイの薔薇になる。」
手を出す。
それをぎゅっと握る。
黄金に輝く朝日が、山稜を浮かび上がらせ、そして二人を包むようだった。
こうして、長い長い夜が明けた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
この世界で唯一『スキル合成』の能力を持っていた件
なかの
ファンタジー
異世界に転生した僕。
そこで与えられたのは、この世界ただ一人だけが持つ、ユニークスキル『スキル合成 - シンセサイズ』だった。
このユニークスキルを武器にこの世界を無双していく。
【web累計100万PV突破!】
著/イラスト なかの

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる