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【外伝】薔薇の誓いを
第3章 漆黒の化け物②
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※ ※ ※
それからラルフは少しずつマーレイにも心を開くようになった。
村の近くの川で魚とりをしたり、一緒に宿屋の掃除の手伝いをしたり、食事の仕込みをしたり。
クレイブもそんな弟の様子を見てほっとしたようだった。
いつかグランテが言っていたことをクレイブは思い出ていた。マーレイも同じ心の傷を負っていたからきっと分かり合えると。
マーレイもクレイブもラルフはまだぎこちない部分もあるけど、この村に居ればきっと大丈夫だろう。そんな風に思っていた矢先の事だった。
それはいつもの夕食を終えたところだった。
後片付けをしていた時突然食堂に食器が割れる音が響いた。
がしゃーん
その音はテーブルを拭き、明日の準備をしようとていたマーレイの元にも聞こえた。音が聞こえたのは厨房だろうか。
「おばぁ、どうした?おばぁが食器割るなんて珍しいな」
そんな風にのんきな声をして、厨房を覗き込むと、そこに祖母が倒れているのを発見した。
その顔色は真っ青で、マーレイは思わず両親の最期を思い出し、動揺した。
「おばぁ!!おばぁしっかりしてくれ!!」
だが、祖母は意識を失ってマーレイの呼びかけにも反応しなかった。
「マーレイ、どうしたの?」
「クレイブさん!!おばぁが!!」
「大変だ!!何だろう。熱は…ない。おばあさん、大丈夫ですか?…ダメだ、意識が無い。そうだ、医者は?」
「医者は…この村にはいないんだ。隣町まで呼んでこないと…!!」
祖母の様子を見るに、一刻を争うのは目に見えていた。マーレイは壁にかけていた対イシュー用の非常袋を持って駆け出していた。
マーレイの突然の行動に驚くクレイブにマーレイはもどかしそうに入口で返事をした。
「マーレイ?どうしたの?」」
「クレイブさん、おばぁの事、よろしくお願いします。俺、医者呼んできます。」
「呼んでくるって、隣町まで行くには森を通るんだろ?危険すぎるよ!」
森…しかも夜に行くというのはイシューに狙われてる可能性が高い。自殺行為でもある。
「だけど…おばぁを見捨てるわけにはいかない!」
「マーレイ!!」
クレイブの声を後ろに聞いて、マーレイは夜の闇に紛れた。
走る。闇のなか、月明かりを頼りに走る。だが心だけが前に進む。だけど小さな足では思うように走れない。
一刻を争うのに。
両親を亡くしたあの時みたいに、何もできずに大切な人の命を失ってしまうのか。
イシューと出会うより、そのことの方が怖かった。
やがて村の道を抜け、森に入るとすべての生き物が息をひそめているようだった。森の入り口で一瞬足が止まる。
ごくり。
生唾を飲み込む音が自分の耳についた。そして意を決して森への一歩を踏み出す。
月明かりが森の茂った木の間からマーレイを照らした。山路は足場が悪く、走ることはできなかった。木の根に足を取られないように慎重に進む。
不意に後方で茂みが揺れた。がさりという音にマーレイの神経が集中する。
非常袋を構え中から紙を取り出す。一般に護符と呼ばれるものだ。
イシューに対して一般の人間は対抗手段を持たない。唯一はこの護符によってイシューを足止めする効果があるのだ。
マーレイを茂みをじっと見つめ、そして護符を構え詠唱をしようと口を開こうとした時だった。
「マーレイ君!」
「ラルフ君!?どうしてこんなところにいるんだよ!?」
「だって…馬があった方が早いでしょ?それに…」
そう言って馬を連れて現れたラルフはマーレイの言葉にバツが悪そうな言葉をして低く答えた。
「それに…?」
「…から…」
「は?」
「だから!!一人じゃ危険だから!」
怒鳴るラルフを見て、思わずマーレイの目は点になってしまう。
「危険だからって…お前も危ないだろ?」
「…恩人の…助けになりたかったんだ。」
ふいっと目を背けるラルフ。マーレイはラルフの気持ちが少しわかった。
それからラルフは少しずつマーレイにも心を開くようになった。
村の近くの川で魚とりをしたり、一緒に宿屋の掃除の手伝いをしたり、食事の仕込みをしたり。
クレイブもそんな弟の様子を見てほっとしたようだった。
いつかグランテが言っていたことをクレイブは思い出ていた。マーレイも同じ心の傷を負っていたからきっと分かり合えると。
マーレイもクレイブもラルフはまだぎこちない部分もあるけど、この村に居ればきっと大丈夫だろう。そんな風に思っていた矢先の事だった。
それはいつもの夕食を終えたところだった。
後片付けをしていた時突然食堂に食器が割れる音が響いた。
がしゃーん
その音はテーブルを拭き、明日の準備をしようとていたマーレイの元にも聞こえた。音が聞こえたのは厨房だろうか。
「おばぁ、どうした?おばぁが食器割るなんて珍しいな」
そんな風にのんきな声をして、厨房を覗き込むと、そこに祖母が倒れているのを発見した。
その顔色は真っ青で、マーレイは思わず両親の最期を思い出し、動揺した。
「おばぁ!!おばぁしっかりしてくれ!!」
だが、祖母は意識を失ってマーレイの呼びかけにも反応しなかった。
「マーレイ、どうしたの?」
「クレイブさん!!おばぁが!!」
「大変だ!!何だろう。熱は…ない。おばあさん、大丈夫ですか?…ダメだ、意識が無い。そうだ、医者は?」
「医者は…この村にはいないんだ。隣町まで呼んでこないと…!!」
祖母の様子を見るに、一刻を争うのは目に見えていた。マーレイは壁にかけていた対イシュー用の非常袋を持って駆け出していた。
マーレイの突然の行動に驚くクレイブにマーレイはもどかしそうに入口で返事をした。
「マーレイ?どうしたの?」」
「クレイブさん、おばぁの事、よろしくお願いします。俺、医者呼んできます。」
「呼んでくるって、隣町まで行くには森を通るんだろ?危険すぎるよ!」
森…しかも夜に行くというのはイシューに狙われてる可能性が高い。自殺行為でもある。
「だけど…おばぁを見捨てるわけにはいかない!」
「マーレイ!!」
クレイブの声を後ろに聞いて、マーレイは夜の闇に紛れた。
走る。闇のなか、月明かりを頼りに走る。だが心だけが前に進む。だけど小さな足では思うように走れない。
一刻を争うのに。
両親を亡くしたあの時みたいに、何もできずに大切な人の命を失ってしまうのか。
イシューと出会うより、そのことの方が怖かった。
やがて村の道を抜け、森に入るとすべての生き物が息をひそめているようだった。森の入り口で一瞬足が止まる。
ごくり。
生唾を飲み込む音が自分の耳についた。そして意を決して森への一歩を踏み出す。
月明かりが森の茂った木の間からマーレイを照らした。山路は足場が悪く、走ることはできなかった。木の根に足を取られないように慎重に進む。
不意に後方で茂みが揺れた。がさりという音にマーレイの神経が集中する。
非常袋を構え中から紙を取り出す。一般に護符と呼ばれるものだ。
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マーレイを茂みをじっと見つめ、そして護符を構え詠唱をしようと口を開こうとした時だった。
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「ラルフ君!?どうしてこんなところにいるんだよ!?」
「だって…馬があった方が早いでしょ?それに…」
そう言って馬を連れて現れたラルフはマーレイの言葉にバツが悪そうな言葉をして低く答えた。
「それに…?」
「…から…」
「は?」
「だから!!一人じゃ危険だから!」
怒鳴るラルフを見て、思わずマーレイの目は点になってしまう。
「危険だからって…お前も危ないだろ?」
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