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【外伝】薔薇の誓いを
第1章 それは最悪な出会いから②
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「元気にしてたか?」
そう言ってグランテは剣を握るために出来たごつごつした豆だらけの大きなてでマーレイの茶褐色の短い髪をぐしゃぐしゃとしながら撫でる。
「うん。グランテ叔父も無事でよかったね。王都は…ひのさんげき…だっけ?大変だったって聞いた。」
「そうか。あぁ何とかな。」
「おじぃもおばぁも喜ぶよ。心配しているみたいだったから。」
「連絡せずに悪かったな。」
「いつものことじゃないか!」
「がははは違いない。」
「さぁ、行こうぜ!」
マーレイはグランテの手を引き、宿屋に向かおうとする。
が、グランテはそれを制してマーレイを呼び止めた。
「あ、マーレイ。実は今日はお客を連れてきたんだ。」
「お客?」
「さ、降りてこいや。」
そうグランテに促されて竜から降りてきたのは少年だった。
「だれ?」
自分より年長であろう少年は柔和な笑みを浮かべていた。
自分より頭一個分くらい背が高い。
少し赤みがかった長めの髪を後ろりキリリと結び、一目でしっかりして頭がいい優等生な人物であることがうかがい知れた。
「初めまして、俺はクレイブ・エストラーダ。えっと…君がマーレイ君?」
「そうだけど…」
「グランテさんから話は聞いてるよ。よろしくな。」
何故この少年が自分にこんな事を言うか状況が理解できずマーレイは戸惑いながらグランテを仰ぎ見た。
「こいつらを暫くの間、実家に泊めてやってくれ。宿屋の部屋には空きがあるだろう?」
「うん…空きはあるけど。」
「王都から逃げてきたんだ。行き場もなくて、この村で生活してもらおうと思ってな。生活が整うまで実家で面倒見てやってくれ。」
王都は緋の惨劇で壊滅状態だと聞いた。
他の村には王都から疎開している人も多いなんて言う噂も食堂の客がしているのを聞いている。
優しいグランテの事だから見捨てられなかったのだろう。
グランテは一見熊のように体格がよく、いかつい顔が恐ろしくもあるが、実は情にもろい面もあることをマーレイは知っていた。
「分かったよ。グランテ叔父の客なら俺の客でもあるんだぜ。」
「そっか。良かったよ。」
「あぁ、じゃあ早速おじぃ達に部屋の用意を頼まなくちゃな。」
「よろしく、マーレイ君。ラルフ。お前も降りて挨拶しなきゃダメだよ。」
クレイブが竜を見上げて声をかけた。クレイブの他にも誰かいるのだろうか。
だが返事がない。クレイブはため息を一つついて再び竜の背に手をかけ、奥から誰かを引っ張ってきた。その人物は仕方がないようにクレイブに連れられて竜から降りてきた。
「マーレイ君。弟のラルフだよ。えっと…マーレイ君はいくつだい?」
「俺は八歳です。」
「そっか。じゃあラルフと一緒だね。」
同い年ということでマーレイはラルフに親近感を持った。
この村で同い年の少年はいなかったからだ。友達になれるだろうか。
そんな期待をもってラルフをじっと見つめた。
だがラルフは伏し目がちにぼーっと地面を見たまま、微動だにしなかった。
まるで人形のように表情はなく、心をなくしてしまったのではないかと思わせるような暗く深い深い闇で彩られた瞳だった。
きっと緋の惨劇でショックを受けているのだろう。
そう思ったらラルフの力になりたくて、マーレイはそして手を出す。握手を求めるつもりだった。
「えっとラルフ君?俺はマーレイ・ハミルトンだよ!友達になろうぜ!」
「…。」
だがラルフは無言でその手を見つめた。マーレイはラルフの様子に戸惑いながらも、満面の笑みを浮かべてこう提案した。
「ほら、握手。友達の証だぜ!そうだ、村を案内してやるよ!ここはいいところだぜ。きっと『ひのさんげき』ってのも忘れられるぜ!」
「…お前に何が分かるんだよ!」
ラルフはようやく顔を上げてマーレイを見た。そして伸ばされた手が叩かれる。
ピリリとした感覚がマーレイの右手に走る。風がどうっと吹いて二人の間をすり抜けていった。
そしてラルフはそのままマーレイに背を向けてどこかに行ってしまった。
その様子を見てマーレイは唖然とし、グランテとクレイブは困った表情を浮かべてラルフの背を見た。
そう、これがマーレイとラルフの初めての出会いだった。
出会いは最悪。
正直マーレイはラルフの態度に傷ついたが、それよりも一瞬向けられた悲しみとも怒りともとれるその瞳が気になってしかたなかった。
何が彼をそこまでさせているのだろうか。緋の惨劇とは一体どういったものだろうか。
叩かれた右手を胸に、そうマーレイは思った。
「マーレイ君。ごめんね。ラルフも悪い子じゃないんだ。ただ…ちょっと…気持ちの整理がつかないのかもしれない。」
クレイブはそうマーレイに告げるとラルフを追っていった。そんな兄弟の事を思いながらグランテはマーレイに尋ねた。
「びっくりしたか?」
「うん。」
「それで、お前はどうする?」
促される言葉に、マーレイは笑いが込み上げてきた。
「グランテ叔父。俺は…友達になってやるよ!絶対な!」
「がはははは!だろうな。お前そう言うと思ったぞ。」
グランテは再びマーレイの頭をぐちゃぐちゃと撫でまわした。
一度の拒絶でへこたれる甥っ子ではないことをグランテは見越していた。
だからこそラルフをこの村に、マーレイの元に連れてきたのだ。
マーレイは静かな闘志を燃やし、にやりと笑うのだった。
さぁ、始まりだ。ラルフが勝つか、自分が勝つか。勝負の火ぶたは切って落とされた瞬間だった。
そう言ってグランテは剣を握るために出来たごつごつした豆だらけの大きなてでマーレイの茶褐色の短い髪をぐしゃぐしゃとしながら撫でる。
「うん。グランテ叔父も無事でよかったね。王都は…ひのさんげき…だっけ?大変だったって聞いた。」
「そうか。あぁ何とかな。」
「おじぃもおばぁも喜ぶよ。心配しているみたいだったから。」
「連絡せずに悪かったな。」
「いつものことじゃないか!」
「がははは違いない。」
「さぁ、行こうぜ!」
マーレイはグランテの手を引き、宿屋に向かおうとする。
が、グランテはそれを制してマーレイを呼び止めた。
「あ、マーレイ。実は今日はお客を連れてきたんだ。」
「お客?」
「さ、降りてこいや。」
そうグランテに促されて竜から降りてきたのは少年だった。
「だれ?」
自分より年長であろう少年は柔和な笑みを浮かべていた。
自分より頭一個分くらい背が高い。
少し赤みがかった長めの髪を後ろりキリリと結び、一目でしっかりして頭がいい優等生な人物であることがうかがい知れた。
「初めまして、俺はクレイブ・エストラーダ。えっと…君がマーレイ君?」
「そうだけど…」
「グランテさんから話は聞いてるよ。よろしくな。」
何故この少年が自分にこんな事を言うか状況が理解できずマーレイは戸惑いながらグランテを仰ぎ見た。
「こいつらを暫くの間、実家に泊めてやってくれ。宿屋の部屋には空きがあるだろう?」
「うん…空きはあるけど。」
「王都から逃げてきたんだ。行き場もなくて、この村で生活してもらおうと思ってな。生活が整うまで実家で面倒見てやってくれ。」
王都は緋の惨劇で壊滅状態だと聞いた。
他の村には王都から疎開している人も多いなんて言う噂も食堂の客がしているのを聞いている。
優しいグランテの事だから見捨てられなかったのだろう。
グランテは一見熊のように体格がよく、いかつい顔が恐ろしくもあるが、実は情にもろい面もあることをマーレイは知っていた。
「分かったよ。グランテ叔父の客なら俺の客でもあるんだぜ。」
「そっか。良かったよ。」
「あぁ、じゃあ早速おじぃ達に部屋の用意を頼まなくちゃな。」
「よろしく、マーレイ君。ラルフ。お前も降りて挨拶しなきゃダメだよ。」
クレイブが竜を見上げて声をかけた。クレイブの他にも誰かいるのだろうか。
だが返事がない。クレイブはため息を一つついて再び竜の背に手をかけ、奥から誰かを引っ張ってきた。その人物は仕方がないようにクレイブに連れられて竜から降りてきた。
「マーレイ君。弟のラルフだよ。えっと…マーレイ君はいくつだい?」
「俺は八歳です。」
「そっか。じゃあラルフと一緒だね。」
同い年ということでマーレイはラルフに親近感を持った。
この村で同い年の少年はいなかったからだ。友達になれるだろうか。
そんな期待をもってラルフをじっと見つめた。
だがラルフは伏し目がちにぼーっと地面を見たまま、微動だにしなかった。
まるで人形のように表情はなく、心をなくしてしまったのではないかと思わせるような暗く深い深い闇で彩られた瞳だった。
きっと緋の惨劇でショックを受けているのだろう。
そう思ったらラルフの力になりたくて、マーレイはそして手を出す。握手を求めるつもりだった。
「えっとラルフ君?俺はマーレイ・ハミルトンだよ!友達になろうぜ!」
「…。」
だがラルフは無言でその手を見つめた。マーレイはラルフの様子に戸惑いながらも、満面の笑みを浮かべてこう提案した。
「ほら、握手。友達の証だぜ!そうだ、村を案内してやるよ!ここはいいところだぜ。きっと『ひのさんげき』ってのも忘れられるぜ!」
「…お前に何が分かるんだよ!」
ラルフはようやく顔を上げてマーレイを見た。そして伸ばされた手が叩かれる。
ピリリとした感覚がマーレイの右手に走る。風がどうっと吹いて二人の間をすり抜けていった。
そしてラルフはそのままマーレイに背を向けてどこかに行ってしまった。
その様子を見てマーレイは唖然とし、グランテとクレイブは困った表情を浮かべてラルフの背を見た。
そう、これがマーレイとラルフの初めての出会いだった。
出会いは最悪。
正直マーレイはラルフの態度に傷ついたが、それよりも一瞬向けられた悲しみとも怒りともとれるその瞳が気になってしかたなかった。
何が彼をそこまでさせているのだろうか。緋の惨劇とは一体どういったものだろうか。
叩かれた右手を胸に、そうマーレイは思った。
「マーレイ君。ごめんね。ラルフも悪い子じゃないんだ。ただ…ちょっと…気持ちの整理がつかないのかもしれない。」
クレイブはそうマーレイに告げるとラルフを追っていった。そんな兄弟の事を思いながらグランテはマーレイに尋ねた。
「びっくりしたか?」
「うん。」
「それで、お前はどうする?」
促される言葉に、マーレイは笑いが込み上げてきた。
「グランテ叔父。俺は…友達になってやるよ!絶対な!」
「がはははは!だろうな。お前そう言うと思ったぞ。」
グランテは再びマーレイの頭をぐちゃぐちゃと撫でまわした。
一度の拒絶でへこたれる甥っ子ではないことをグランテは見越していた。
だからこそラルフをこの村に、マーレイの元に連れてきたのだ。
マーレイは静かな闘志を燃やし、にやりと笑うのだった。
さぁ、始まりだ。ラルフが勝つか、自分が勝つか。勝負の火ぶたは切って落とされた瞬間だった。
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