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【外伝】薔薇の誓いを
第1章 それは最悪な出会いから①
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業火の炎はすべてを焼き尽くす。
町は火の海と化し、ぱちぱちと建物が燃え爆ぜる音があちこちでなっていた。
両親は目の前で化け物に殺された。
少年をかばって。
両親を抱き上げた拍子に着いた血は両手にぬめりとした感触をもたらすが、赤の視界は血の赤なのか、炎の赤なのか、分からなかった。
ただ立ち込める焼け焦げた肉と、血とのすさんだ匂いが立ち込め、意識が朦朧とする。
この状況を誰か説明してほしい。
嘘だと言ってほしい。
夢であってほしい。
だけど意識は確実に現実であることを告げていた。
その日、一斉に化け物―イシューによって王都は責められ、壊滅寸前に追い込まれた。
それを人は…緋の惨劇と呼ぶ。
※ ※ ※
エンティア国。
唯一国家として繁栄を誇る国だ。女神ラーダに守られし国。
この世にはイシューと呼ばれる黒い翼と赤い目の化け物がいる。
魔物より強く、人の血肉を糧とするその化け物により人類は壊滅状態になってしまった。
多くの国々はイシューによって滅ぼされたが、女神ラーダの加護を受けたエンティア国だけが唯一残っている国家である。
だがそのエンティアでさえもイシューの毒牙が及ぶことになる。
膠着状態を続けていたがイシューによる大規模攻撃が起こったのだ。
聖騎士の存在によってイシューの攻撃をかろうじて防ぎ、撃退したが、それでも王都の住人はかなりの被害を受け、そして死亡者も多数出た。
後に緋の惨劇と呼ばれる事件である。
だがまだ齢八つのマーレイ・ハミルトンはそんな王都の事はどこか他人事に感じていた。
聖騎士も、イシューも、緋の惨劇も、長閑なこの村には無縁なことだ。
風は踊りながらマーレイの髪を揺らす。空は青く澄みきり、小鳥のさえずりが耳をくすぐった。
つかの間の休息。陽だまりの中でマーレイは大の字になって草むらに寝転がっていた。
マーレイの家はローデンハイムの村で唯一の宿屋兼食堂を経営している。両親はなく、年を取った祖父母に育てられている。
そのため、マーレイは学校が終わるとすぐに宿屋の手伝いをするのだが、今日は休みをもらってのんびりとしていた。
「よし、帰ろう。」
祖父母は優しく、マーレイを普通の少年のように育てようと店の手伝いはいいとは言われていたが、やはり祖父母の力になりたくてできる手伝いはしていた。
マーレイはそう言って伸びをすると、よっと掛け声をかけて立ち上がった。
風を切る羽音がしてマーレイの顔に影が落ちる。太陽を見上げると点がある。
「あれは…竜の影?」
竜が来るということは聖騎士だろうか。
王都を守るための上級使い手である聖騎士が乗れる竜。
それがこの村に飛来するということはあの人物が帰ってくるのだろう。
マーレイは傍らに置いていた白い鞄を急いで掴むと竜の飛来した方向に走り出した。
足をもつらせながらも坂道を上がり、走る。向こう側から来た村人が急ぐマーレイを見て驚いた表情をする。
「お、マーレイ。そんなに急いでどこに行くんだい?」
「おじさん!!ごめんおじさん。また今度!」
足早にすれ違い、走り抜ける。すると遠くの方で誰かが手を振っていた。
「グランテ叔父!!」
「おー!マーレイ」
飛来した竜を背に、グランテと呼ばれた大柄の男がマーレイを待っていた。
思い切りグランテに飛びつく。小さな腕ではグランテの鍛え上げられた体に手を回すことはできないのでしがみつく。
勢いに任せてグランテは一周くるりと周り、マーレイを下した。
町は火の海と化し、ぱちぱちと建物が燃え爆ぜる音があちこちでなっていた。
両親は目の前で化け物に殺された。
少年をかばって。
両親を抱き上げた拍子に着いた血は両手にぬめりとした感触をもたらすが、赤の視界は血の赤なのか、炎の赤なのか、分からなかった。
ただ立ち込める焼け焦げた肉と、血とのすさんだ匂いが立ち込め、意識が朦朧とする。
この状況を誰か説明してほしい。
嘘だと言ってほしい。
夢であってほしい。
だけど意識は確実に現実であることを告げていた。
その日、一斉に化け物―イシューによって王都は責められ、壊滅寸前に追い込まれた。
それを人は…緋の惨劇と呼ぶ。
※ ※ ※
エンティア国。
唯一国家として繁栄を誇る国だ。女神ラーダに守られし国。
この世にはイシューと呼ばれる黒い翼と赤い目の化け物がいる。
魔物より強く、人の血肉を糧とするその化け物により人類は壊滅状態になってしまった。
多くの国々はイシューによって滅ぼされたが、女神ラーダの加護を受けたエンティア国だけが唯一残っている国家である。
だがそのエンティアでさえもイシューの毒牙が及ぶことになる。
膠着状態を続けていたがイシューによる大規模攻撃が起こったのだ。
聖騎士の存在によってイシューの攻撃をかろうじて防ぎ、撃退したが、それでも王都の住人はかなりの被害を受け、そして死亡者も多数出た。
後に緋の惨劇と呼ばれる事件である。
だがまだ齢八つのマーレイ・ハミルトンはそんな王都の事はどこか他人事に感じていた。
聖騎士も、イシューも、緋の惨劇も、長閑なこの村には無縁なことだ。
風は踊りながらマーレイの髪を揺らす。空は青く澄みきり、小鳥のさえずりが耳をくすぐった。
つかの間の休息。陽だまりの中でマーレイは大の字になって草むらに寝転がっていた。
マーレイの家はローデンハイムの村で唯一の宿屋兼食堂を経営している。両親はなく、年を取った祖父母に育てられている。
そのため、マーレイは学校が終わるとすぐに宿屋の手伝いをするのだが、今日は休みをもらってのんびりとしていた。
「よし、帰ろう。」
祖父母は優しく、マーレイを普通の少年のように育てようと店の手伝いはいいとは言われていたが、やはり祖父母の力になりたくてできる手伝いはしていた。
マーレイはそう言って伸びをすると、よっと掛け声をかけて立ち上がった。
風を切る羽音がしてマーレイの顔に影が落ちる。太陽を見上げると点がある。
「あれは…竜の影?」
竜が来るということは聖騎士だろうか。
王都を守るための上級使い手である聖騎士が乗れる竜。
それがこの村に飛来するということはあの人物が帰ってくるのだろう。
マーレイは傍らに置いていた白い鞄を急いで掴むと竜の飛来した方向に走り出した。
足をもつらせながらも坂道を上がり、走る。向こう側から来た村人が急ぐマーレイを見て驚いた表情をする。
「お、マーレイ。そんなに急いでどこに行くんだい?」
「おじさん!!ごめんおじさん。また今度!」
足早にすれ違い、走り抜ける。すると遠くの方で誰かが手を振っていた。
「グランテ叔父!!」
「おー!マーレイ」
飛来した竜を背に、グランテと呼ばれた大柄の男がマーレイを待っていた。
思い切りグランテに飛びつく。小さな腕ではグランテの鍛え上げられた体に手を回すことはできないのでしがみつく。
勢いに任せてグランテは一周くるりと周り、マーレイを下した。
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