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異議あり!逆転裁判はじめます②
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――争点①:政務官の貴族への俸禄を不当に減額廃止した事実があるか についての答弁――
「まずその証拠を述べます」
そう言ってアドリアーヌは一枚の資料をプロジェクターに映した。
それは部署ごとの一人当たりの俸禄に関する資料で、人数と俸禄総額、一人当たりの金額、平均労働時間を表にしたものだった。
「こちらをご覧になって分かりますが……たとえば総務部に関しては平均労働時間があまりに多いわりに、一人当たりの俸禄の金額が低すぎます。一方人事院に関しては労働時間が少ないのに俸禄がかなり高いです。これでは働いた人が存する場合が多い。そこで労働時間に対しての俸禄としました」
「だが、その労働時間はどう割り出したんだ?数値の根拠を述べたまえ」
「それは監査部を設置し、各部の出勤退勤時間を確認させていただきました。結果、労働しないで俸禄を得ている方がいることが分かりましたので、是正させていただいた次第です」
ふむと言いながらトリテオウス王はアドリアーヌの言葉を確認するように言った。
「つまり不当な減額ではないと」
「はい」
「意義あり!そのような女が設置した監察部の人間が信頼できるのか?勤務時間についても誤魔化しているかもしれない!」
ダンピエール伯爵の言葉に「そうだ!そうだ!」と同調する貴族たちが野次を飛ばした。
それに対して、アドリアーヌは冷静に返答する。
「では逆に問いますが、不当に削減されたという証拠はありますか?」
「こちらの調査だけでも……二十人はそれを訴えている。この中でも同意してくださる方はいらっしゃいますよな!」
ダンピエール伯爵が聴衆に問うと、そのうちの一人が声を上げた。
「わ、私はそうだ。本来ならば五千ペクルもらえるはずだったのに300ペクルだ!仕事はちゃんとしていた!」
それを聞いたサイナスは静かに書類をめくり始めた。
「ランベルト卿は……確かに去年は五千ペクルの支払いですが、勤務時間は二時間だったはずです」
「そ、そんなはずは……」
「ちゃんとそちらの関係者……例えば執事や従者、御者に行動範囲も確認済みです。……あぁ、なんなら花街での馴染みの店の証言も出しましょうか?」
「う……それは……」
サイナスの追及にランベルト卿と呼ばれる人物は言葉に詰まった。
まさか花街の話まで持ち出されるとは思っていなかっただろう。
隣に同伴している夫人と思われる女性がものすごい形相でランベルト卿を睨んでおり、それも理由で顔色を悪くしているようにも見えた。
「不当に削減されたと感じる方は前に出てください。こちらはすべての証拠をそろえております。あと一つ付け加えるのであれば不当に削減されたと証言してらっしゃる方の税記録も確認済みです。全てをさらけ出してもよければこちらも全ての記録を出しますよ」
不当だと騒ぐ貴族はたいてい脱税をしている。
サイナスが公には追求しないと公言したことで貴族は黙らざるを得なかった。
「ちなみにアドリアーヌ嬢の労働改善によって仕事がスムーズになったという証言も多数得ており、アドリアーヌ嬢を擁護する署名も多数寄せられています。例えばアルバートン伯爵を始めとする名だたる方々の支持も得ていますよ」
有力な貴族の名を一部読まれたことにより、貴族のパワーバランスを重視する国王はアドリアーヌ達の証言を無下に扱うことができなくなった。
「このように、私は不当に人件費を削減したわけではなく、また削減した人件費の中で分配できるように臨時収入として分配しているため、私が着服できるものではないと主張します」
「だが、それの証明はどうする」
「それに関しては、支払った際に受領のサインを書いてもらっております。これが詳細な帳簿なので受領書と合わせて提出させていただきます」
国王はそれを見ると何ページかを確認して唸る様に言った。
「確かに……受領印のある金額と支払金額、総計は一致しているように見える。最後には削減金額と支払金額が一致している旨の経理部の確認印がある。これではたとえクローディスの愛妾としている人間だとしても着服は難しいだろう」
国王の一言でこの争点①に関してはアドリアーヌは無罪を勝ち取る事ができた。
ほっと一息つくと、サイナスがにこやかに言葉を続けた。
「私は逆に私はずさんな管理をしていた人事院に対して是正を要求します」
能力制度の導入に反対派が多い人事院をあえて提訴することで今後の改革をよりスムーズにする布石としたのだ。
これはアドリアーヌにとっても予想外だったが、さすがしたたかなサイナスのことだ。
抜け目がない。
――争点②:経費削減と称され軍部も不当に予算を削減された事実があるか についての答弁――
「続いて、経費削減と称され軍部も不当に予算を削減したという点ですね」
アドリアーヌはプロジェクターのページをめくって次の資料を壁に映した。
「伯爵はこの国の財政について、どれほどの知識をお持ちでしょうか?」
「財政……だと?」
「はい。これは収入と支出を比較した棒グラフです。右が収入、左が支出です。明らかに左の支出の方が多いですよね。つまり、この差分が赤字になってます」
これに対しては国王も驚いたようだ。
赤字が収入の二十%弱になっていたからだ。
「我が国はこのように赤字なのか?」
「はい、トリテオウス王。このような赤字の推移はこちらになります。見てお分かりの様に赤字が顕著になったのはここ八年です」
アドリアーヌはそう言ってその推移を示した図を指したのち、さらに次のページを見せた。
「一方でこちらが八年間の財政の内訳です。他の出費に比べて軍事費が毎年十五%ずつ増えております。そして、赤字の割合でも七十五%が軍事費になっております。つまり、軍事費が嵩み、赤字になっていると言っても過言ではないのです。そして、軍事費が赤字に転じた八年前といえば……ダンピエール伯爵が軍部副総統に就任してからのことかと思うのですが」
「……国を守るためには軍事費は必要だ!」
「確かに、国防の要となる軍部にはある程度国費を割くのは仕方ないだろう」
ダンピエール伯爵に同調するようにトリテオウス王も頷く。
「そうですね。ちょうどグランディアス国とも敵対関係でもあったのである程度は仕方ありません。かといってこのまま軍事費で赤字を作ってはこの国は破綻の一途を辿ります。現在平和条約締結に向け、和平への道を歩んでいる今、増額は控えるべきです。先ほど伯爵は予算の削減と仰いましたが、正確には削減ではなく、増減なしです」
アドリアーヌは軍事費の推移を示す棒グラフを差して主張した。
それに対し、トリテオウス王も納得するように頷いた。
「確かに不当とは言えない。特にここにグランディアスの王太子殿を招いている今、軍の増強を口に出すのは憚れる事態だ。アドリアーヌ・ミスカルドのいう意見は納得できる」
「ですが、国王陛下、実際には費用がかさんでいるのは事実なのです。武具の調達や騎士団の増強を行っている!例えば……騎士養成学校を設立しており、それにかかる諸経費それを証言できる人間も軍部には多いのです」
「異議あり!その事実はありません。騎士養成学校の設立実態はなく、騎士の養育は通例通り騎士団の団員以下の采配で行われています。リオネル様、そうですよね」
アドリアーヌの促しによって、リオネルが聴衆から一歩でて王に跪いて答えた。
「はい。アドリアーヌの言う通りです。こちらが騎士団での教育計画であります。各補充団員名簿であり、騎士団以外の人間は国家予算での教育はしておりません。資料を奏上いたします」
国王が資料に目を通している間にアドリアーヌは言葉を続けた。
「つまり、軍部増強で雇われている傭兵については完全に私兵扱いで国家を担う騎士としては認められていません。そのため、私費で賄うのが通例となっております。ですが増員となった人数と騎士団へ派遣されている人数が合わないということになります」
「なるほど、余はアドリアーヌ・ミスカルドの意見を支持する。彼女は不当な軍備費用の削減は行っていない」
――争点③:減額されたはずの金を着服した事実があるか についての答弁――
その言葉を受けて一瞬考えたダンピエール伯爵は次の争点について先手を打って攻撃を仕掛けてきた。
「確かに貴殿の言う通り、人事に関する削減も軍部に対する削減も不当ではないことは理解した。だがこれまで商人や銀行から借りる、あるいは貴族からの税収の前借、商人への支払い猶予を貰う……などを行っていたはずだ。それは返していないだろう」
「お察しの通りです」
「人事については金を着服していない事実は明白にはなっているが、軍部で削減した金はどうなったのか。過去の金を返していないという関係者の証言がある。なんなら証書を書いてもらってもいい」
そもそも赤字予算に組み込まれていた予算金額は実際に金としては借り入れており、現時点で返済できていないのは事実だ。
借入金を返しておらず、一方で軍部の費用を削減している現状ではアドリアーヌが着服したからではという疑惑は晴れていないのは事実だ。
「削減した金はどこに消えたのか……。これだけの国家予算に関する知識があり、金を動かす権限を持つ人間である貴殿が金を着服していないという証拠はない」
「異議あり!では逆に問います。私の収入記録を見てそれをおっしゃっていますか?私は郊外の質素な屋敷で質素な生活をしております。実際に屋敷に来て家宅捜索をしていただいても結構ですし、預金金額を見ていただければ巨額の富を得ている人間だとは思えないでしょう」
「異議あり!確かに一見すれば財力がないように見えてもそうではない事例も多いものだ。逆に王太子殿下のもとで政務をしてある程度の禄を貰っているのに質素な生活をしていること自体不自然だ」
(うーん禄を貰っててもムルム伯爵に仕送りしてるしなぁ。かといってそれを公にしたら伯爵に迷惑がかかるし……返答に困る……)
そんな考えがよぎり、アドリアーヌが言葉に詰まると、ダンピエール伯爵はたたみかけるように言ってきた。
「削減と称して着服した金は武器購入費用に充てていたのではないか?」
「そうでしたら武器密売の報酬がどこかにあるはずです」
「今回の件はまだ〝未遂〟の状態で貴殿は捕縛された。すなわち、まだ報酬は手に入れていないはずだ」
若干決め手にかけるお互いの議論になったところで、クローディスが場を改めた。
「ダンピエール伯爵はアドリアーヌ・ミスカルドが着服した金を武器輸出に使ったというのか?」
「はい」
「ということはアドリアーヌが武器の密売に関与してなければ着服もしてないということでいいな」
「そうなりますな」
「では次の審議に移るとしよう。次はアドリアーヌ・ミスカルドが武器の密売に関与していたかどうかだ」
「まずその証拠を述べます」
そう言ってアドリアーヌは一枚の資料をプロジェクターに映した。
それは部署ごとの一人当たりの俸禄に関する資料で、人数と俸禄総額、一人当たりの金額、平均労働時間を表にしたものだった。
「こちらをご覧になって分かりますが……たとえば総務部に関しては平均労働時間があまりに多いわりに、一人当たりの俸禄の金額が低すぎます。一方人事院に関しては労働時間が少ないのに俸禄がかなり高いです。これでは働いた人が存する場合が多い。そこで労働時間に対しての俸禄としました」
「だが、その労働時間はどう割り出したんだ?数値の根拠を述べたまえ」
「それは監査部を設置し、各部の出勤退勤時間を確認させていただきました。結果、労働しないで俸禄を得ている方がいることが分かりましたので、是正させていただいた次第です」
ふむと言いながらトリテオウス王はアドリアーヌの言葉を確認するように言った。
「つまり不当な減額ではないと」
「はい」
「意義あり!そのような女が設置した監察部の人間が信頼できるのか?勤務時間についても誤魔化しているかもしれない!」
ダンピエール伯爵の言葉に「そうだ!そうだ!」と同調する貴族たちが野次を飛ばした。
それに対して、アドリアーヌは冷静に返答する。
「では逆に問いますが、不当に削減されたという証拠はありますか?」
「こちらの調査だけでも……二十人はそれを訴えている。この中でも同意してくださる方はいらっしゃいますよな!」
ダンピエール伯爵が聴衆に問うと、そのうちの一人が声を上げた。
「わ、私はそうだ。本来ならば五千ペクルもらえるはずだったのに300ペクルだ!仕事はちゃんとしていた!」
それを聞いたサイナスは静かに書類をめくり始めた。
「ランベルト卿は……確かに去年は五千ペクルの支払いですが、勤務時間は二時間だったはずです」
「そ、そんなはずは……」
「ちゃんとそちらの関係者……例えば執事や従者、御者に行動範囲も確認済みです。……あぁ、なんなら花街での馴染みの店の証言も出しましょうか?」
「う……それは……」
サイナスの追及にランベルト卿と呼ばれる人物は言葉に詰まった。
まさか花街の話まで持ち出されるとは思っていなかっただろう。
隣に同伴している夫人と思われる女性がものすごい形相でランベルト卿を睨んでおり、それも理由で顔色を悪くしているようにも見えた。
「不当に削減されたと感じる方は前に出てください。こちらはすべての証拠をそろえております。あと一つ付け加えるのであれば不当に削減されたと証言してらっしゃる方の税記録も確認済みです。全てをさらけ出してもよければこちらも全ての記録を出しますよ」
不当だと騒ぐ貴族はたいてい脱税をしている。
サイナスが公には追求しないと公言したことで貴族は黙らざるを得なかった。
「ちなみにアドリアーヌ嬢の労働改善によって仕事がスムーズになったという証言も多数得ており、アドリアーヌ嬢を擁護する署名も多数寄せられています。例えばアルバートン伯爵を始めとする名だたる方々の支持も得ていますよ」
有力な貴族の名を一部読まれたことにより、貴族のパワーバランスを重視する国王はアドリアーヌ達の証言を無下に扱うことができなくなった。
「このように、私は不当に人件費を削減したわけではなく、また削減した人件費の中で分配できるように臨時収入として分配しているため、私が着服できるものではないと主張します」
「だが、それの証明はどうする」
「それに関しては、支払った際に受領のサインを書いてもらっております。これが詳細な帳簿なので受領書と合わせて提出させていただきます」
国王はそれを見ると何ページかを確認して唸る様に言った。
「確かに……受領印のある金額と支払金額、総計は一致しているように見える。最後には削減金額と支払金額が一致している旨の経理部の確認印がある。これではたとえクローディスの愛妾としている人間だとしても着服は難しいだろう」
国王の一言でこの争点①に関してはアドリアーヌは無罪を勝ち取る事ができた。
ほっと一息つくと、サイナスがにこやかに言葉を続けた。
「私は逆に私はずさんな管理をしていた人事院に対して是正を要求します」
能力制度の導入に反対派が多い人事院をあえて提訴することで今後の改革をよりスムーズにする布石としたのだ。
これはアドリアーヌにとっても予想外だったが、さすがしたたかなサイナスのことだ。
抜け目がない。
――争点②:経費削減と称され軍部も不当に予算を削減された事実があるか についての答弁――
「続いて、経費削減と称され軍部も不当に予算を削減したという点ですね」
アドリアーヌはプロジェクターのページをめくって次の資料を壁に映した。
「伯爵はこの国の財政について、どれほどの知識をお持ちでしょうか?」
「財政……だと?」
「はい。これは収入と支出を比較した棒グラフです。右が収入、左が支出です。明らかに左の支出の方が多いですよね。つまり、この差分が赤字になってます」
これに対しては国王も驚いたようだ。
赤字が収入の二十%弱になっていたからだ。
「我が国はこのように赤字なのか?」
「はい、トリテオウス王。このような赤字の推移はこちらになります。見てお分かりの様に赤字が顕著になったのはここ八年です」
アドリアーヌはそう言ってその推移を示した図を指したのち、さらに次のページを見せた。
「一方でこちらが八年間の財政の内訳です。他の出費に比べて軍事費が毎年十五%ずつ増えております。そして、赤字の割合でも七十五%が軍事費になっております。つまり、軍事費が嵩み、赤字になっていると言っても過言ではないのです。そして、軍事費が赤字に転じた八年前といえば……ダンピエール伯爵が軍部副総統に就任してからのことかと思うのですが」
「……国を守るためには軍事費は必要だ!」
「確かに、国防の要となる軍部にはある程度国費を割くのは仕方ないだろう」
ダンピエール伯爵に同調するようにトリテオウス王も頷く。
「そうですね。ちょうどグランディアス国とも敵対関係でもあったのである程度は仕方ありません。かといってこのまま軍事費で赤字を作ってはこの国は破綻の一途を辿ります。現在平和条約締結に向け、和平への道を歩んでいる今、増額は控えるべきです。先ほど伯爵は予算の削減と仰いましたが、正確には削減ではなく、増減なしです」
アドリアーヌは軍事費の推移を示す棒グラフを差して主張した。
それに対し、トリテオウス王も納得するように頷いた。
「確かに不当とは言えない。特にここにグランディアスの王太子殿を招いている今、軍の増強を口に出すのは憚れる事態だ。アドリアーヌ・ミスカルドのいう意見は納得できる」
「ですが、国王陛下、実際には費用がかさんでいるのは事実なのです。武具の調達や騎士団の増強を行っている!例えば……騎士養成学校を設立しており、それにかかる諸経費それを証言できる人間も軍部には多いのです」
「異議あり!その事実はありません。騎士養成学校の設立実態はなく、騎士の養育は通例通り騎士団の団員以下の采配で行われています。リオネル様、そうですよね」
アドリアーヌの促しによって、リオネルが聴衆から一歩でて王に跪いて答えた。
「はい。アドリアーヌの言う通りです。こちらが騎士団での教育計画であります。各補充団員名簿であり、騎士団以外の人間は国家予算での教育はしておりません。資料を奏上いたします」
国王が資料に目を通している間にアドリアーヌは言葉を続けた。
「つまり、軍部増強で雇われている傭兵については完全に私兵扱いで国家を担う騎士としては認められていません。そのため、私費で賄うのが通例となっております。ですが増員となった人数と騎士団へ派遣されている人数が合わないということになります」
「なるほど、余はアドリアーヌ・ミスカルドの意見を支持する。彼女は不当な軍備費用の削減は行っていない」
――争点③:減額されたはずの金を着服した事実があるか についての答弁――
その言葉を受けて一瞬考えたダンピエール伯爵は次の争点について先手を打って攻撃を仕掛けてきた。
「確かに貴殿の言う通り、人事に関する削減も軍部に対する削減も不当ではないことは理解した。だがこれまで商人や銀行から借りる、あるいは貴族からの税収の前借、商人への支払い猶予を貰う……などを行っていたはずだ。それは返していないだろう」
「お察しの通りです」
「人事については金を着服していない事実は明白にはなっているが、軍部で削減した金はどうなったのか。過去の金を返していないという関係者の証言がある。なんなら証書を書いてもらってもいい」
そもそも赤字予算に組み込まれていた予算金額は実際に金としては借り入れており、現時点で返済できていないのは事実だ。
借入金を返しておらず、一方で軍部の費用を削減している現状ではアドリアーヌが着服したからではという疑惑は晴れていないのは事実だ。
「削減した金はどこに消えたのか……。これだけの国家予算に関する知識があり、金を動かす権限を持つ人間である貴殿が金を着服していないという証拠はない」
「異議あり!では逆に問います。私の収入記録を見てそれをおっしゃっていますか?私は郊外の質素な屋敷で質素な生活をしております。実際に屋敷に来て家宅捜索をしていただいても結構ですし、預金金額を見ていただければ巨額の富を得ている人間だとは思えないでしょう」
「異議あり!確かに一見すれば財力がないように見えてもそうではない事例も多いものだ。逆に王太子殿下のもとで政務をしてある程度の禄を貰っているのに質素な生活をしていること自体不自然だ」
(うーん禄を貰っててもムルム伯爵に仕送りしてるしなぁ。かといってそれを公にしたら伯爵に迷惑がかかるし……返答に困る……)
そんな考えがよぎり、アドリアーヌが言葉に詰まると、ダンピエール伯爵はたたみかけるように言ってきた。
「削減と称して着服した金は武器購入費用に充てていたのではないか?」
「そうでしたら武器密売の報酬がどこかにあるはずです」
「今回の件はまだ〝未遂〟の状態で貴殿は捕縛された。すなわち、まだ報酬は手に入れていないはずだ」
若干決め手にかけるお互いの議論になったところで、クローディスが場を改めた。
「ダンピエール伯爵はアドリアーヌ・ミスカルドが着服した金を武器輸出に使ったというのか?」
「はい」
「ということはアドリアーヌが武器の密売に関与してなければ着服もしてないということでいいな」
「そうなりますな」
「では次の審議に移るとしよう。次はアドリアーヌ・ミスカルドが武器の密売に関与していたかどうかだ」
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