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あれ、告白ですよね①
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お茶会もお開きになって一人部屋に戻ったアドリアーヌはぼすりと音を立ててベッドに横になった。
そこで考えるのは断罪ルートのことだ。
アドリアーヌは前世で続編を最後までプレイしていない。
ツイッターのネタばれとウィキペディアに載っていた内容を少し見ただけだった。
だから具体的に悪役令嬢アドリアーヌがどのようにヒロインであるアイリスの恋路を邪魔して断罪に至るか具体的な内容は知らないのだ。
(こうなったらアイリスには誰かのルートに入ってもらって、それを応援すればいいのよね。現時点では誰のルートにも入ってないようだし)
それぞれのルートの流れはどうだったかを考えてみる。
・クローディスルートのラストは身分差を乗り越えて王妃として幸せに暮らす。
・リオネルルートでは瀕死になったリオネルを聖女の力で直し、互いの気持ちを通じ合わせてハッピーエンドを迎える。
・ロベルトは聖女降嫁した主人公と共に没落した家を守り立てながら末永く暮らす。
・サイナスとはクローディスと一時主人公を巡ってライバルとなるが、結果サイナスが聖女を支えたいと切望し結ばれる。
みたいなエンディングだったはずだ。
現時点で有力なのは没落した家であるヴァロア家を復興させたロベルトだろうか?
(ということはロベルトとくっつける方向に話を進めればいいかしら。でも次のイベントはよく分からないしなぁ)
とりあえずはロベルトとアイリスの動向に注視しておこう。
深く考えても仕方がないし、突然明日断罪が起こるわけでもない。
アドリアーヌはそう割り切ると再びベッドから起き上がり、いつもの日課でプランターの植物に水をやった。
プランターにはラディッシュの葉っぱが元気に生えている。
この後はアイリスと共に食堂で夕食を取る予定だ。
(そうだ夕食にこれをサラダにして出してもらおうかしら)
そう思うとアドリアーヌはラディッシュを三株ほど取って、意気揚々とキッチンに向かって歩き出した。
廊下をほどなく行く途中、アドリアーヌは中庭の方を通って行くことにした。
(風が気持ちいいわ。少し秋風になってきたから……メイナードに来て半年くらいになるのね……怒涛の半年だったわ)
そんなことを考えていると目の前でアイリスが中庭の方に歩いていくのが見えた。
それは少し人目を避けるようにして早足で、もしかしてアイリスは何かに追われているとか事件に巻き込まれたのではないかと不安になった。
いつも一緒にいる護衛もいない。
王宮で滅多なことは起こらないとは思うが心配になったアドリアーヌはアイリスの後を追った。
「……の話なんですけど」
「あぁ、なんだ急に呼び出して」
中庭でアイリスの行方を一瞬見失ってしまい、きょろきょろ中庭を歩いていると話声のようなものが聞こえて、アドリアーヌは反射的に身を隠した。
そこにはアイリスがいて、どうやら話しているのはクローディスのようだ。
こんな夜になんの話だろうか?
風向きからか、二人の会話はとぎれとぎれで、よく聞こえない。
だが立ち聞きもよくないと思ったアドリアーヌはその場を立ち去ろうとしたとき、衝撃的な一言を聞いて思わず立ち止まってしまった。
そして凝視する。
「……好きなんです」
アイリスがか細い声でクローディスにそう告げた。
「……俺もそうだ。好きだ」
「クローディス殿下……」
「隠しているつもりだったんだが……まぁ、まだ秘密だぞ」
「もちろん、私も秘密にしてもらった方が嬉しいです」
クローディスもまたアイリスに視線を向けたまま神妙な顔でそう告げている。
そういえば以前クローディスはアイリスの刺繍したハンカチをしきりに褒めていたし、その時にちょっといい雰囲気だったことに思い至った。
(そうか……二人はそういう仲になったのね!)
アイリスの告白にクローディスが答えたとなると、これはクローディスルート確定だ。
アドリアーヌは心の中で万歳三唱を唱えながら興奮した面持ちで部屋へと戻った。
だからそのあとに続く言葉を聞いていなかったのだ。
「私たちは恋のライバルですね!」
「あぁ、俺はアドリアーヌを諦めないからな!」
だがそんな会話がなされていることを知らないアドリアーヌは意気揚々と足早に部屋へと急いだ。
そして部屋に戻って今度は本当に万歳をした。
(やった!これで断罪は免れる!いや、ちょっと待って。この二人の仲を裂くような真似はしないようにしないと、まだ断罪ルートが残るかもしれないわ)
それでも断罪の可能性は一つ減ったのだ。
にやにやしてしまう顔を必死に隠しつつ、アドリアーヌはその後アイリスと食事をしたのだが、アイリスはそんな上機嫌なアドリアーヌを見てしきりに首を捻るのだった。
※ ※ ※
後日、再び日課のお茶をしていた。今日は温室でお茶をしており、クローディスと共に昼食を取ることになっている。
だがやや興奮した態でアイリスに言っていた。
「今日はクローディス殿下も来るのよね」
「……そうですね」
「ふふふ……私は早めに部屋に戻るわ。あぁ、サイナス様達にはお仕事の話をするからゆっくりするといいからね」
「お姉さまはもうお仕事をされないはずではないのですか?嫌がってましたし……」
「でも気が変わったの。ちょっと大変だけど私が政務に戻ればクローディス殿下の負担も減ると思うし……」
アドリアーヌは考えた末に再び政務へと戻ることにした。
そうすればクローディスの仕事の負担も軽くなり、アイリスと愛を温める時間が増えるというものだ。
だがそれを告げるとアイリスは途端に憮然とした顔になった。
「だからそんなに機嫌がいいんですか?昨日からやけに嬉しそうですけど……」
「え?だってその方がアイリスもいいでしょ?」
「私は……クローディス殿下とアドリアーヌ様が一緒にいる時間が増えてしまって……あまり嬉しくないです……」
(あぁ、逆にそうとも取れるのね!このままでは私がクローディスを好きと勘違いされちゃうかも……訂正しなくちゃ)
「いいのよアイリス。私はクローディス殿下といたいわけじゃないからね。安心して」
「本当ですか!良かったですお姉さま!」
「ううん、大丈夫よ!」
そんな話をしていると、今度は満面の笑みを浮かべたクローディス達がやってきた。
「待たせたな」
「あ、殿下。お待ちしてました」
「お、おう……なんかお前やけに機嫌が良くないか?」
「そ……そうですか?」
「まぁいい。それよりこれを渡したくて急いできたんだ」
クローディスはそういうと早足で来たせいで少し弾んだ息を整えるようにしながらアドリアーヌの隣の席に座った。
「これだ、急いで王宮御用達の職人に作らせた」
「ネックレス……ですか。アメジストが綺麗ですね。殿下の瞳みたい」
「まぁ……まぁ、たまたまだ!お前に俺を俺のことを思ってほしいなんて……一ミリも思ってないぞ。たまたまだからな」
「はぁ、ありがとうございます」
とりあえずそれを受け取ると大ぶりのアメジストを中心にダイヤがいくつも散りばめられていてかなり高価なものだと分かる。
分かるのだが、どうしてクローディスからこれを贈られているかは理解できない。
「あの殿下。嬉しいんですけどなんで突然ネックレスなんですか?こんな高価なものを貰う理由が分からないんですけど」
「お前……リオネルがそのバレッタを贈ったんだ!俺だって贈る権利はあるだろう⁉それに……そ、そうだ!執務をまた手伝ってもらう礼だ」
今日もリオネルから貰ったバレッタを身に着けてはいるものの、状況はイマイチ理解できないでいた。
だが貰えるものは貰っておこう。
「じやあいただきます。こちらこそまた政務でお世話になりますね」
「あぁ、普段も身に着けてもらえると嬉しい」
(いやいや、この豪華なアクセ普段使いできないって!)
そんなことを一瞬思った時、アイリスも同じツッコミをした。
「クローディス殿下!……このアクセサリーちょっとごてごてしすぎじゃないですかぁ?お姉さまにはもっと清楚なのが似合います!」
「なんだと!このくらい豪華な方がいいだろう!?」
「ちょっと趣味を疑いますね」
「なんだと!」
「それよりお姉さま。新しい刺繍をしました!ピローケースになります!是非使ってください」
アイリスから渡されたそれには鮮やかな刺繍が施されている。
今度はオダマキだろうか?
紫の色が鮮やかできれいだった。
「ありがとう、アイリス」
「いいえ!そんな独占欲の塊みたいなネックレスよりずっといいですよね!」
そういって嘲笑うかのような笑みをアイリスはクローディスに向けた。
しばらく見つめあっている様子の2人にアドリアーヌは嬉しくなる。
(ふふふ……まだぎこちない様子だけど、付き合って間もないとあんな風にじゃれあうのが普通よね)
などとうんうんと心の中で頷いていると、サイナスが時計をチェックして言った。
「それより、そろそろ昼食にしましょうか?午後の執務もありますからあまり時間がありませんし」
「そうか、じゃあさっそく食べよう」
こうしてアイリスとクローディス、サイナスとアドリアーヌの四人で昼食を取ることとなった。
今日は王命でリオネルは遠方の方に行く用事があるということでこの場にはいない。
ロベルトも家が落ち着いていないので今日はお休みとのことだった。
「それにしてもアドリアーヌ嬢が政務に復帰してくれてよかったです。助かります」
「いえ、またよろしくお願いしますね、サイナス様」
「でも突然どういう風の吹き回わしですか?」
「クローディス殿下の仕事が少なければ自由時間もとれますから……」
ふふふと笑うアドリアーヌを見てクローディスの顔が輝いた。
が、すぐに咳ばらいをして平静を取り戻した。
「そ、それは俺と一緒にいたいということだな……ま、……お前が執務室にいるのは悪くない。あ、仕事が楽になるからであってお前と会うのが楽しみとかそういう意味じゃないからな!」
「お姉さまは別にクローディス殿下のために執務に戻られるんじゃないですよ。殿下があまりにも仕事が遅い……もとい大変だから心優しいお姉さまは見るに見かねて執務をされるんですから、勘違いされないでくださいね」
(アイリスは独占欲が強いのかしら。そんなに心配しなくてもクローディスとの仲を邪魔なんてしないのになぁ)
クローディスに強気なアイリスを見てちょっとそんなことを思う。
そうしているうちにデザートになると、クローディスが用意したというガトーショコラが出てきた。
好物のガトーショコラに目を輝かせてしまう。
自分でも作ることがあるが、やはり王宮料理人の物は一味違う。
「ガトーショコラ、美味しそうですね。私好きなんですよ」
「よかったよかった。よし、特別に俺が取り分けてやる」
そういって取り分けられたガトーショコラには真っ白いクリームも添えられている。
甘いものに目がないアドリアーヌはそれを一口食べると天にも昇る気持ちだった。
甘さもちょうどいいし、クリームもしつこくない。
「美味しい……!」
「だろ?」
それを見ていたアイリスもまたガトーショコラを口に運んだ。
だが次の瞬間その可愛い顔を顰めて言った。
「じゃあ私もいただきます。……って苦い!」
甘いはずなのにどうしてアイリスは苦いのだろうか?
「あぁ、それはすまなかったな。そういえばこの前に焼いたガトーショコラを焦がしたと言っていた。〝間違って〟それがお前のところに行ったのかもな」
「~~!!あ、そうだ、殿下はお茶のお代わりいかがですか?ガトーショコラにぴったりの紅茶ですから」
そうにこやかにアイリスが言うと、近くのポットでお茶の準備をしてクローディスに出した。
それを飲んだクローディスは思い切り顔をしかめた。
「渋い!」
「あぁ、申し訳ありません。私、殿下の前で緊張してしまい〝間違って〟茶葉を多く入れてしまったようです……」
これまでアイリスとクローディスが積極的に話すことがあまりなかったので、アドリアーヌはやはり二人は付き合っていると確信した。
こういう些細なやり取りも恋人となったからこそできるのかもしれない
「ふふふ……仲が良くて安心したわ」
これで断罪ルート回避にまた一歩近づけた。
だがそんなアドリアーヌの呟きを聞いたサイナスが苦笑して返事をする。
「は?アドリアーヌ嬢にはあの二人のやり取りをみて仲がいいと思えるんですか?」
「え?もちろん」
「……本当に、貴方は自分以外のものには聡いのに……鈍感というか……」
「どういう意味ですか?」
「いえいえなんでもないですよ。まぁ、女性は少しくらい抜けがあったほうがいいという意味です」
サイナスの(馬鹿かお前は)という副音声が聞こえた気がするが、アドリアーヌは何を言われているのかさっぱり分からなかった。
サイナスの言葉に首を傾げている間も、クローディスとアイリスがわちゃわちゃと楽しそうにおしゃべりをしている。
「私はルイーズ様の虐めにも耐えたんです!殿下には負けません!」
「ふん、望むところだ」
「はいはい、もう時間ですよ。クローディス殿下、そろそろ執務室に戻りますよ」
「あ、まだ話は終わってないぞ!アドリアーヌ、その女に気を付けろよ!」
そう叫びながらサイナスに首根っこをつかまれるようにクローディスは去って行った。
それを見送ったアイリスはアドリアーヌに向かってにっこり笑ってお茶を入れ直して差し出してくれた。
「お姉さま、私殿下の毒牙から絶対に守りますからね!」
アイリスが息巻いて言った言葉の意味はよく分からないが、とにかくクローディスとアイリスは仲が良いことは分かった。
多分今は付き合いたてで恥ずかしいのかもしれない。
これから二人の時間が増えればもっと甘い展開になるだろうし、自分はそれを見守ろうとアドリアーヌは思いながら、アイリスの入れた紅茶を口にするのだった。
そこで考えるのは断罪ルートのことだ。
アドリアーヌは前世で続編を最後までプレイしていない。
ツイッターのネタばれとウィキペディアに載っていた内容を少し見ただけだった。
だから具体的に悪役令嬢アドリアーヌがどのようにヒロインであるアイリスの恋路を邪魔して断罪に至るか具体的な内容は知らないのだ。
(こうなったらアイリスには誰かのルートに入ってもらって、それを応援すればいいのよね。現時点では誰のルートにも入ってないようだし)
それぞれのルートの流れはどうだったかを考えてみる。
・クローディスルートのラストは身分差を乗り越えて王妃として幸せに暮らす。
・リオネルルートでは瀕死になったリオネルを聖女の力で直し、互いの気持ちを通じ合わせてハッピーエンドを迎える。
・ロベルトは聖女降嫁した主人公と共に没落した家を守り立てながら末永く暮らす。
・サイナスとはクローディスと一時主人公を巡ってライバルとなるが、結果サイナスが聖女を支えたいと切望し結ばれる。
みたいなエンディングだったはずだ。
現時点で有力なのは没落した家であるヴァロア家を復興させたロベルトだろうか?
(ということはロベルトとくっつける方向に話を進めればいいかしら。でも次のイベントはよく分からないしなぁ)
とりあえずはロベルトとアイリスの動向に注視しておこう。
深く考えても仕方がないし、突然明日断罪が起こるわけでもない。
アドリアーヌはそう割り切ると再びベッドから起き上がり、いつもの日課でプランターの植物に水をやった。
プランターにはラディッシュの葉っぱが元気に生えている。
この後はアイリスと共に食堂で夕食を取る予定だ。
(そうだ夕食にこれをサラダにして出してもらおうかしら)
そう思うとアドリアーヌはラディッシュを三株ほど取って、意気揚々とキッチンに向かって歩き出した。
廊下をほどなく行く途中、アドリアーヌは中庭の方を通って行くことにした。
(風が気持ちいいわ。少し秋風になってきたから……メイナードに来て半年くらいになるのね……怒涛の半年だったわ)
そんなことを考えていると目の前でアイリスが中庭の方に歩いていくのが見えた。
それは少し人目を避けるようにして早足で、もしかしてアイリスは何かに追われているとか事件に巻き込まれたのではないかと不安になった。
いつも一緒にいる護衛もいない。
王宮で滅多なことは起こらないとは思うが心配になったアドリアーヌはアイリスの後を追った。
「……の話なんですけど」
「あぁ、なんだ急に呼び出して」
中庭でアイリスの行方を一瞬見失ってしまい、きょろきょろ中庭を歩いていると話声のようなものが聞こえて、アドリアーヌは反射的に身を隠した。
そこにはアイリスがいて、どうやら話しているのはクローディスのようだ。
こんな夜になんの話だろうか?
風向きからか、二人の会話はとぎれとぎれで、よく聞こえない。
だが立ち聞きもよくないと思ったアドリアーヌはその場を立ち去ろうとしたとき、衝撃的な一言を聞いて思わず立ち止まってしまった。
そして凝視する。
「……好きなんです」
アイリスがか細い声でクローディスにそう告げた。
「……俺もそうだ。好きだ」
「クローディス殿下……」
「隠しているつもりだったんだが……まぁ、まだ秘密だぞ」
「もちろん、私も秘密にしてもらった方が嬉しいです」
クローディスもまたアイリスに視線を向けたまま神妙な顔でそう告げている。
そういえば以前クローディスはアイリスの刺繍したハンカチをしきりに褒めていたし、その時にちょっといい雰囲気だったことに思い至った。
(そうか……二人はそういう仲になったのね!)
アイリスの告白にクローディスが答えたとなると、これはクローディスルート確定だ。
アドリアーヌは心の中で万歳三唱を唱えながら興奮した面持ちで部屋へと戻った。
だからそのあとに続く言葉を聞いていなかったのだ。
「私たちは恋のライバルですね!」
「あぁ、俺はアドリアーヌを諦めないからな!」
だがそんな会話がなされていることを知らないアドリアーヌは意気揚々と足早に部屋へと急いだ。
そして部屋に戻って今度は本当に万歳をした。
(やった!これで断罪は免れる!いや、ちょっと待って。この二人の仲を裂くような真似はしないようにしないと、まだ断罪ルートが残るかもしれないわ)
それでも断罪の可能性は一つ減ったのだ。
にやにやしてしまう顔を必死に隠しつつ、アドリアーヌはその後アイリスと食事をしたのだが、アイリスはそんな上機嫌なアドリアーヌを見てしきりに首を捻るのだった。
※ ※ ※
後日、再び日課のお茶をしていた。今日は温室でお茶をしており、クローディスと共に昼食を取ることになっている。
だがやや興奮した態でアイリスに言っていた。
「今日はクローディス殿下も来るのよね」
「……そうですね」
「ふふふ……私は早めに部屋に戻るわ。あぁ、サイナス様達にはお仕事の話をするからゆっくりするといいからね」
「お姉さまはもうお仕事をされないはずではないのですか?嫌がってましたし……」
「でも気が変わったの。ちょっと大変だけど私が政務に戻ればクローディス殿下の負担も減ると思うし……」
アドリアーヌは考えた末に再び政務へと戻ることにした。
そうすればクローディスの仕事の負担も軽くなり、アイリスと愛を温める時間が増えるというものだ。
だがそれを告げるとアイリスは途端に憮然とした顔になった。
「だからそんなに機嫌がいいんですか?昨日からやけに嬉しそうですけど……」
「え?だってその方がアイリスもいいでしょ?」
「私は……クローディス殿下とアドリアーヌ様が一緒にいる時間が増えてしまって……あまり嬉しくないです……」
(あぁ、逆にそうとも取れるのね!このままでは私がクローディスを好きと勘違いされちゃうかも……訂正しなくちゃ)
「いいのよアイリス。私はクローディス殿下といたいわけじゃないからね。安心して」
「本当ですか!良かったですお姉さま!」
「ううん、大丈夫よ!」
そんな話をしていると、今度は満面の笑みを浮かべたクローディス達がやってきた。
「待たせたな」
「あ、殿下。お待ちしてました」
「お、おう……なんかお前やけに機嫌が良くないか?」
「そ……そうですか?」
「まぁいい。それよりこれを渡したくて急いできたんだ」
クローディスはそういうと早足で来たせいで少し弾んだ息を整えるようにしながらアドリアーヌの隣の席に座った。
「これだ、急いで王宮御用達の職人に作らせた」
「ネックレス……ですか。アメジストが綺麗ですね。殿下の瞳みたい」
「まぁ……まぁ、たまたまだ!お前に俺を俺のことを思ってほしいなんて……一ミリも思ってないぞ。たまたまだからな」
「はぁ、ありがとうございます」
とりあえずそれを受け取ると大ぶりのアメジストを中心にダイヤがいくつも散りばめられていてかなり高価なものだと分かる。
分かるのだが、どうしてクローディスからこれを贈られているかは理解できない。
「あの殿下。嬉しいんですけどなんで突然ネックレスなんですか?こんな高価なものを貰う理由が分からないんですけど」
「お前……リオネルがそのバレッタを贈ったんだ!俺だって贈る権利はあるだろう⁉それに……そ、そうだ!執務をまた手伝ってもらう礼だ」
今日もリオネルから貰ったバレッタを身に着けてはいるものの、状況はイマイチ理解できないでいた。
だが貰えるものは貰っておこう。
「じやあいただきます。こちらこそまた政務でお世話になりますね」
「あぁ、普段も身に着けてもらえると嬉しい」
(いやいや、この豪華なアクセ普段使いできないって!)
そんなことを一瞬思った時、アイリスも同じツッコミをした。
「クローディス殿下!……このアクセサリーちょっとごてごてしすぎじゃないですかぁ?お姉さまにはもっと清楚なのが似合います!」
「なんだと!このくらい豪華な方がいいだろう!?」
「ちょっと趣味を疑いますね」
「なんだと!」
「それよりお姉さま。新しい刺繍をしました!ピローケースになります!是非使ってください」
アイリスから渡されたそれには鮮やかな刺繍が施されている。
今度はオダマキだろうか?
紫の色が鮮やかできれいだった。
「ありがとう、アイリス」
「いいえ!そんな独占欲の塊みたいなネックレスよりずっといいですよね!」
そういって嘲笑うかのような笑みをアイリスはクローディスに向けた。
しばらく見つめあっている様子の2人にアドリアーヌは嬉しくなる。
(ふふふ……まだぎこちない様子だけど、付き合って間もないとあんな風にじゃれあうのが普通よね)
などとうんうんと心の中で頷いていると、サイナスが時計をチェックして言った。
「それより、そろそろ昼食にしましょうか?午後の執務もありますからあまり時間がありませんし」
「そうか、じゃあさっそく食べよう」
こうしてアイリスとクローディス、サイナスとアドリアーヌの四人で昼食を取ることとなった。
今日は王命でリオネルは遠方の方に行く用事があるということでこの場にはいない。
ロベルトも家が落ち着いていないので今日はお休みとのことだった。
「それにしてもアドリアーヌ嬢が政務に復帰してくれてよかったです。助かります」
「いえ、またよろしくお願いしますね、サイナス様」
「でも突然どういう風の吹き回わしですか?」
「クローディス殿下の仕事が少なければ自由時間もとれますから……」
ふふふと笑うアドリアーヌを見てクローディスの顔が輝いた。
が、すぐに咳ばらいをして平静を取り戻した。
「そ、それは俺と一緒にいたいということだな……ま、……お前が執務室にいるのは悪くない。あ、仕事が楽になるからであってお前と会うのが楽しみとかそういう意味じゃないからな!」
「お姉さまは別にクローディス殿下のために執務に戻られるんじゃないですよ。殿下があまりにも仕事が遅い……もとい大変だから心優しいお姉さまは見るに見かねて執務をされるんですから、勘違いされないでくださいね」
(アイリスは独占欲が強いのかしら。そんなに心配しなくてもクローディスとの仲を邪魔なんてしないのになぁ)
クローディスに強気なアイリスを見てちょっとそんなことを思う。
そうしているうちにデザートになると、クローディスが用意したというガトーショコラが出てきた。
好物のガトーショコラに目を輝かせてしまう。
自分でも作ることがあるが、やはり王宮料理人の物は一味違う。
「ガトーショコラ、美味しそうですね。私好きなんですよ」
「よかったよかった。よし、特別に俺が取り分けてやる」
そういって取り分けられたガトーショコラには真っ白いクリームも添えられている。
甘いものに目がないアドリアーヌはそれを一口食べると天にも昇る気持ちだった。
甘さもちょうどいいし、クリームもしつこくない。
「美味しい……!」
「だろ?」
それを見ていたアイリスもまたガトーショコラを口に運んだ。
だが次の瞬間その可愛い顔を顰めて言った。
「じゃあ私もいただきます。……って苦い!」
甘いはずなのにどうしてアイリスは苦いのだろうか?
「あぁ、それはすまなかったな。そういえばこの前に焼いたガトーショコラを焦がしたと言っていた。〝間違って〟それがお前のところに行ったのかもな」
「~~!!あ、そうだ、殿下はお茶のお代わりいかがですか?ガトーショコラにぴったりの紅茶ですから」
そうにこやかにアイリスが言うと、近くのポットでお茶の準備をしてクローディスに出した。
それを飲んだクローディスは思い切り顔をしかめた。
「渋い!」
「あぁ、申し訳ありません。私、殿下の前で緊張してしまい〝間違って〟茶葉を多く入れてしまったようです……」
これまでアイリスとクローディスが積極的に話すことがあまりなかったので、アドリアーヌはやはり二人は付き合っていると確信した。
こういう些細なやり取りも恋人となったからこそできるのかもしれない
「ふふふ……仲が良くて安心したわ」
これで断罪ルート回避にまた一歩近づけた。
だがそんなアドリアーヌの呟きを聞いたサイナスが苦笑して返事をする。
「は?アドリアーヌ嬢にはあの二人のやり取りをみて仲がいいと思えるんですか?」
「え?もちろん」
「……本当に、貴方は自分以外のものには聡いのに……鈍感というか……」
「どういう意味ですか?」
「いえいえなんでもないですよ。まぁ、女性は少しくらい抜けがあったほうがいいという意味です」
サイナスの(馬鹿かお前は)という副音声が聞こえた気がするが、アドリアーヌは何を言われているのかさっぱり分からなかった。
サイナスの言葉に首を傾げている間も、クローディスとアイリスがわちゃわちゃと楽しそうにおしゃべりをしている。
「私はルイーズ様の虐めにも耐えたんです!殿下には負けません!」
「ふん、望むところだ」
「はいはい、もう時間ですよ。クローディス殿下、そろそろ執務室に戻りますよ」
「あ、まだ話は終わってないぞ!アドリアーヌ、その女に気を付けろよ!」
そう叫びながらサイナスに首根っこをつかまれるようにクローディスは去って行った。
それを見送ったアイリスはアドリアーヌに向かってにっこり笑ってお茶を入れ直して差し出してくれた。
「お姉さま、私殿下の毒牙から絶対に守りますからね!」
アイリスが息巻いて言った言葉の意味はよく分からないが、とにかくクローディスとアイリスは仲が良いことは分かった。
多分今は付き合いたてで恥ずかしいのかもしれない。
これから二人の時間が増えればもっと甘い展開になるだろうし、自分はそれを見守ろうとアドリアーヌは思いながら、アイリスの入れた紅茶を口にするのだった。
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