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フラグ折りまくってます①
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アドリアーヌは今日も今日とて資料と格闘していた。
「輸入と輸出の金額のバランスが微妙ですね。ランバルド王国からの輸入量がちょっと多すぎです。関税の見直しした方がいいと思いますが……」
「そうは言っても、ランバルト王国とはもう少し友好関係を築いておきたいという外交的要因が大きいんですよ」
「じゃあ、こちらの綿織物加工品類を新規に輸出するというのは?」
「では新規輸出品の選定もお願いしますね」
サイナスとの議論の後、気づけばいつもながらに仕事を増やされている……。
提案しているのは自分だから仕方ないうえに、反論すればサイナスに暗に脅されているとなると、アドリアーヌには逃げ道はない。
せめてもの嫌がらせとしてわざと大げさなため息をつくと、心配したリオネルが提案してくれた。
「私が代わりにやろう」
「リオネル様ぁ……ありがとうございます……」
アドリアーヌは半泣きになった。
リオネルもやはり近衛兵の領分を逸脱する形で手伝いをしてくれる。
とは言うもののやはり武人で執務室で籠るよりは、部下たちの指導や訓練、軍事面での統制等やることは山ほどなのでアドリアーヌとしても心苦しいのであまり負荷を掛けたくない。
「でも……リオネル様もお忙しいので……お気持ちだけでも十分ですよ」
「いや、この間兵士たちにはちみつレモンのドリンクとレモンゼリーを差し入れてくれただろう。その礼だ。気にするな」
「うううう……ありがとうございます……。本当にリオネル様は頼もしいですね」
「騎士として返礼をするのは当然のことだ」
その心根と誠実さに思わずときめきを感じてしまう。
「リオネル様の恋人はきっと大切にされるでしょうね」
ため息とともに本音を言ってしまう。
普通ならそんなことは言わないところだが、いかんせんアドリアーヌも疲労が蓄積している。
ポロリと漏れた一言だったが、予想以上にリオネルは動揺したようだった。
ちょうど紅茶を口に含んだタイミングだったせいか、思い切りむせている。
「ぐほっ……!こ、恋人など……おりませんから」
「あら、でも以前にエスコートされた時にはリオネル様は淑女の皆さんから熱い視線を受けておりましたし、すぐに恋に落ちる人が見つかりますよ。あぁ……例えばピンクがかった金色の女性とか素敵ですよね」
それとなくアイリスの存在を匂わせておく。
だがリオネルはまっすぐにアドリアーヌの目を見て答えた。
「私はどちらかというと金の髪よりも落ち着いた色の髪の女性が好きだ。……水色のような方がいい。それに意志の強い女性がいい」
「そうなのですか?」
水色の髪など自分の様ではないかと思わなくもないが、そこまで自惚れてはいない。
そんなやり取りをしているとこほんとクローディスが咳払いをする。
「頼もしいのはリオネルだけではない。もっと近くにもいるだろう?」
「……ロベルト……とかですか?確かに情報をくれるという点で頼りになりますけど……」
「いや!もっと近くにだ!」
ふんぞり返るクローディスの様子からアドリアーヌは察した。
「あぁ!クローディス様も十分頼もしいですよ。それと、この書類にサインください」
「くっ……なんか馬鹿にされた気もするが仕方ない。特別にサインしてやる」
「はいはいありがとうございます」
「それと、俺も意志の強そうな女は嫌いじゃない。髪も落ち着いた色の方がいいし、少し口うるさくても気が強い女でも受け入れてやる度量があるからな!……別にお前のことじゃないが」
「別に私のことだとは思っていないですよ?殿下にもふさわしい女性がいるでしょうし」
「いやいないぞ!まぁ、お前が行き遅れたら貰ってやってもいいがな」
「そう言うの結構です。結婚だけが幸せじゃないですから」
結婚に憧れがないわけではない。
むしろ前世ではできなかったのでしたいという思いは強い。
それでもグランディアス王国でルベール王太子から婚約破棄されたことはやはり心の傷になっているし、当面はそれが癒えることもないだろう。
それよりも仕事に打ち込んだ方がいい。
そんなことを思っていたが、気づけばなんとなくクローディスの雰囲気が暗いものになり、サインするペンのスピードが下がった気がするが……気のせいか。
「そうそう、アドリアーヌ嬢。来週金曜日の夜、時間はありますか?」
不意に思い出したようにサイナスがアドリアーヌの予定を確認してきた。
その何とも言えない微笑みに、なんとなく嫌な予感がするがアドリアーヌは脳内で予定を思い出していた。
金曜日は特別休暇を貰っているのでムルム邸に顔を出そうかとも考えていた。
「ムルム伯爵のお屋敷にお伺いしようかと思っていたのですが」
「それならちょうどよかった。彼らも来ると思いますし、いいタイミングですね」
「何かあるんですか?」
「国王主催の舞踏会があるのです。気分転換にでもいかがですか?美味しい料理もお菓子もありますよ」
サイナスの口ぶりからその舞踏会にはムルム伯爵も参加するだろうし、その準備を考えるとお邪魔するのは難しいだろう。
堅苦しい舞踏会は面倒だが、幸いにもアドリアーヌは貴族階級で顔も知れていないし、せいぜい見られても下っ端貴族と思われる。
確かに美味しいものを食べるのはストレス発散気分転換になる。
ムルム伯爵達にも会えて一石二鳥だ。
「分かりました。是非参加させていただきますね」
そんな会話をしてからあっという間に舞踏会の日になった。
会場は煌びやかで、ちょうど白の間という金と白銀が基調としたホールだったため、いつもより豪華な舞踏会になっている気がする。
国王主催ではあるが、その招待客の層は厚く男爵から侯爵まで幅広い貴族たちが揃っていた。
「うわぁ……美味しそうな料理!」
アドリアーヌはホールに入ると最初に料理のスペースに駆け出していた。
暫くそこで舌鼓を打っている。
見回せば中央でくるくるとダンスが始まっていたが、アドリアーヌは気にせず色々と料理を物色していた。
その時不意に知った声がアドリアーヌを呼んだ。
「お姫様。今日は一段と綺麗だね」
「ロベルト!どうして!?」
「ちょっと情報収集にね。たまにこうしてサイナス様に呼ばれるんだよ」
なるほど。以前ロベルトと食事をした時に燕尾服が異様に様になっていたのはこのせいもあるのだろう。
「確かに幅広い階級の貴族が呼ばれているみたいね」
「今日のはクローディス殿下のお妃候補を見つけるためのものだからね」
「なるほど……だから顔のいい女性が多いのね」
「そう。もちろん政治的パワーバランスもあるけどなかなかクローディス殿下が特定の人物を作らないから顔重視で今回は選んだんじゃないかな?」
「そう……ならアイリスを売り込むチャンスかも……」
「ん?何?アイリス?」
「あ……こっちの話」
「まぁ、最近は殿下にも気になる人がいるからとか何とか言って頑なに婚約を回避しているようだしね。様子見もあるかも」
(この機会にアイリスとクローディスを引き合わせれば、違ったフラグが立つかもしれないわ!そうしたら断罪回避にワンチャンあるかも!)
そんな算段をしているとロベルトが手を差し伸べてきた。
「お姫様、一曲どうですか?」
「えっ?」
突然のダンスの誘いにアドリアーヌは戸惑った。
というのも、淑女の皆様の視線がちらちらとこちらに刺さっていたからだ。
どうやらロベルトの美貌に当てられているようだ。
「女性たちに殺されそうな視線を感じるからやめておこうかなぁ」
「そんなつれないこと言わないでさ。楽しもうよ」
「そもそも私は踊りに来たわけじゃないの。料理を食べに来たんだから」
そんな問答をしているとロベルトの射し伸ばした手をぐいと掴み、怒った顔のクローディスが隣に立っていた。
「悪いがこいつと踊るのは俺だ」
「く、クローディス殿下?」
「壁の花になっているのだろう?踊ってやってもいい」
「いやいや……だから私は料理を食べに来たんです。踊らなくていいですってか、女性の視線が痛いんですよ」
美男子で目立つロベルトだけでもこっそり注目されていたのに、今度は王太子までやって来たのだ。
こっそりどころではなく大注目だ。
「いいから来い」
クローディスは半ば強引にアドリアーヌを掴んでダンスホールの中央に進み出た。
そのタイミングを見計らったように音楽が始まる。
ここまできたらもうアドリアーヌも腹を括って踊ることにした。
「なぜすぐに挨拶に来ない?」
「私は爵位のない人間ですよ。本来はここに来る身分ではないですし。なのにクローディス殿下と親し気に話してたら目立っちゃうじゃないですか」
「でもロベルトにはあんなに親し気に話していただろう?ロベルトといる時点で大注目だ」
「まぁ……そうですけどね」
ゆっくりとダンスが進む。
くるくるとターンすれば、今日来ていた金の刺繍が入った青のドレスがふわりと舞った。
「今日は……淑女に見えるな。そのドレス、似合っている。」
「あ、ありがとうございます。このドレスも殿下が準備してくださったんですよね。そちらもお礼を言わせてください」
「いや、俺が選んだドレスを着て欲しかったんだ……なかなか悪くないぞ」
密着してクローディスは耳元で囁きながらそう言った。
あまりにもストレートな物言いに心臓が跳ねる。
(ううう……耳元で囁かないで。声の破壊力……やばい)
クローディスも涼しげな目元に通った鼻筋、唇は薄く体も引き締まっている。男性を意識するには十分だし、そんな男性に耳元で囁かれたらドキドキするのは仕方ないだろう。
心臓がバクバクと言いながら、音楽はゆっくりと終わり、クローディスはその体を離した。
「いいか、これで変な奴は近寄ってこないとは思うが、くれぐれも変な男には引っかかるなよ」
「うううう……分かりました」
「俺は公務があるから行く。……気を付けろよ。これ以上ライバルが増えるのは困る」
「ライバル?」
「じゃあな!」
離れていくクローディスを見送った時には、先ほどまで気にならなかった女性たちの視線が刺さりまくっていることに気づく。
なんとなくいたたまれなくなってベランダに逃げようとした時だった。
(あ!アイリスがいるわ!声をかけてみよう)
アイリスの後ろ姿を見かけアドリアーヌはそう思った。
そしてアドリアーヌがアイリスの元に駆け寄ろうとした時に、事件は起きた。
「輸入と輸出の金額のバランスが微妙ですね。ランバルド王国からの輸入量がちょっと多すぎです。関税の見直しした方がいいと思いますが……」
「そうは言っても、ランバルト王国とはもう少し友好関係を築いておきたいという外交的要因が大きいんですよ」
「じゃあ、こちらの綿織物加工品類を新規に輸出するというのは?」
「では新規輸出品の選定もお願いしますね」
サイナスとの議論の後、気づけばいつもながらに仕事を増やされている……。
提案しているのは自分だから仕方ないうえに、反論すればサイナスに暗に脅されているとなると、アドリアーヌには逃げ道はない。
せめてもの嫌がらせとしてわざと大げさなため息をつくと、心配したリオネルが提案してくれた。
「私が代わりにやろう」
「リオネル様ぁ……ありがとうございます……」
アドリアーヌは半泣きになった。
リオネルもやはり近衛兵の領分を逸脱する形で手伝いをしてくれる。
とは言うもののやはり武人で執務室で籠るよりは、部下たちの指導や訓練、軍事面での統制等やることは山ほどなのでアドリアーヌとしても心苦しいのであまり負荷を掛けたくない。
「でも……リオネル様もお忙しいので……お気持ちだけでも十分ですよ」
「いや、この間兵士たちにはちみつレモンのドリンクとレモンゼリーを差し入れてくれただろう。その礼だ。気にするな」
「うううう……ありがとうございます……。本当にリオネル様は頼もしいですね」
「騎士として返礼をするのは当然のことだ」
その心根と誠実さに思わずときめきを感じてしまう。
「リオネル様の恋人はきっと大切にされるでしょうね」
ため息とともに本音を言ってしまう。
普通ならそんなことは言わないところだが、いかんせんアドリアーヌも疲労が蓄積している。
ポロリと漏れた一言だったが、予想以上にリオネルは動揺したようだった。
ちょうど紅茶を口に含んだタイミングだったせいか、思い切りむせている。
「ぐほっ……!こ、恋人など……おりませんから」
「あら、でも以前にエスコートされた時にはリオネル様は淑女の皆さんから熱い視線を受けておりましたし、すぐに恋に落ちる人が見つかりますよ。あぁ……例えばピンクがかった金色の女性とか素敵ですよね」
それとなくアイリスの存在を匂わせておく。
だがリオネルはまっすぐにアドリアーヌの目を見て答えた。
「私はどちらかというと金の髪よりも落ち着いた色の髪の女性が好きだ。……水色のような方がいい。それに意志の強い女性がいい」
「そうなのですか?」
水色の髪など自分の様ではないかと思わなくもないが、そこまで自惚れてはいない。
そんなやり取りをしているとこほんとクローディスが咳払いをする。
「頼もしいのはリオネルだけではない。もっと近くにもいるだろう?」
「……ロベルト……とかですか?確かに情報をくれるという点で頼りになりますけど……」
「いや!もっと近くにだ!」
ふんぞり返るクローディスの様子からアドリアーヌは察した。
「あぁ!クローディス様も十分頼もしいですよ。それと、この書類にサインください」
「くっ……なんか馬鹿にされた気もするが仕方ない。特別にサインしてやる」
「はいはいありがとうございます」
「それと、俺も意志の強そうな女は嫌いじゃない。髪も落ち着いた色の方がいいし、少し口うるさくても気が強い女でも受け入れてやる度量があるからな!……別にお前のことじゃないが」
「別に私のことだとは思っていないですよ?殿下にもふさわしい女性がいるでしょうし」
「いやいないぞ!まぁ、お前が行き遅れたら貰ってやってもいいがな」
「そう言うの結構です。結婚だけが幸せじゃないですから」
結婚に憧れがないわけではない。
むしろ前世ではできなかったのでしたいという思いは強い。
それでもグランディアス王国でルベール王太子から婚約破棄されたことはやはり心の傷になっているし、当面はそれが癒えることもないだろう。
それよりも仕事に打ち込んだ方がいい。
そんなことを思っていたが、気づけばなんとなくクローディスの雰囲気が暗いものになり、サインするペンのスピードが下がった気がするが……気のせいか。
「そうそう、アドリアーヌ嬢。来週金曜日の夜、時間はありますか?」
不意に思い出したようにサイナスがアドリアーヌの予定を確認してきた。
その何とも言えない微笑みに、なんとなく嫌な予感がするがアドリアーヌは脳内で予定を思い出していた。
金曜日は特別休暇を貰っているのでムルム邸に顔を出そうかとも考えていた。
「ムルム伯爵のお屋敷にお伺いしようかと思っていたのですが」
「それならちょうどよかった。彼らも来ると思いますし、いいタイミングですね」
「何かあるんですか?」
「国王主催の舞踏会があるのです。気分転換にでもいかがですか?美味しい料理もお菓子もありますよ」
サイナスの口ぶりからその舞踏会にはムルム伯爵も参加するだろうし、その準備を考えるとお邪魔するのは難しいだろう。
堅苦しい舞踏会は面倒だが、幸いにもアドリアーヌは貴族階級で顔も知れていないし、せいぜい見られても下っ端貴族と思われる。
確かに美味しいものを食べるのはストレス発散気分転換になる。
ムルム伯爵達にも会えて一石二鳥だ。
「分かりました。是非参加させていただきますね」
そんな会話をしてからあっという間に舞踏会の日になった。
会場は煌びやかで、ちょうど白の間という金と白銀が基調としたホールだったため、いつもより豪華な舞踏会になっている気がする。
国王主催ではあるが、その招待客の層は厚く男爵から侯爵まで幅広い貴族たちが揃っていた。
「うわぁ……美味しそうな料理!」
アドリアーヌはホールに入ると最初に料理のスペースに駆け出していた。
暫くそこで舌鼓を打っている。
見回せば中央でくるくるとダンスが始まっていたが、アドリアーヌは気にせず色々と料理を物色していた。
その時不意に知った声がアドリアーヌを呼んだ。
「お姫様。今日は一段と綺麗だね」
「ロベルト!どうして!?」
「ちょっと情報収集にね。たまにこうしてサイナス様に呼ばれるんだよ」
なるほど。以前ロベルトと食事をした時に燕尾服が異様に様になっていたのはこのせいもあるのだろう。
「確かに幅広い階級の貴族が呼ばれているみたいね」
「今日のはクローディス殿下のお妃候補を見つけるためのものだからね」
「なるほど……だから顔のいい女性が多いのね」
「そう。もちろん政治的パワーバランスもあるけどなかなかクローディス殿下が特定の人物を作らないから顔重視で今回は選んだんじゃないかな?」
「そう……ならアイリスを売り込むチャンスかも……」
「ん?何?アイリス?」
「あ……こっちの話」
「まぁ、最近は殿下にも気になる人がいるからとか何とか言って頑なに婚約を回避しているようだしね。様子見もあるかも」
(この機会にアイリスとクローディスを引き合わせれば、違ったフラグが立つかもしれないわ!そうしたら断罪回避にワンチャンあるかも!)
そんな算段をしているとロベルトが手を差し伸べてきた。
「お姫様、一曲どうですか?」
「えっ?」
突然のダンスの誘いにアドリアーヌは戸惑った。
というのも、淑女の皆様の視線がちらちらとこちらに刺さっていたからだ。
どうやらロベルトの美貌に当てられているようだ。
「女性たちに殺されそうな視線を感じるからやめておこうかなぁ」
「そんなつれないこと言わないでさ。楽しもうよ」
「そもそも私は踊りに来たわけじゃないの。料理を食べに来たんだから」
そんな問答をしているとロベルトの射し伸ばした手をぐいと掴み、怒った顔のクローディスが隣に立っていた。
「悪いがこいつと踊るのは俺だ」
「く、クローディス殿下?」
「壁の花になっているのだろう?踊ってやってもいい」
「いやいや……だから私は料理を食べに来たんです。踊らなくていいですってか、女性の視線が痛いんですよ」
美男子で目立つロベルトだけでもこっそり注目されていたのに、今度は王太子までやって来たのだ。
こっそりどころではなく大注目だ。
「いいから来い」
クローディスは半ば強引にアドリアーヌを掴んでダンスホールの中央に進み出た。
そのタイミングを見計らったように音楽が始まる。
ここまできたらもうアドリアーヌも腹を括って踊ることにした。
「なぜすぐに挨拶に来ない?」
「私は爵位のない人間ですよ。本来はここに来る身分ではないですし。なのにクローディス殿下と親し気に話してたら目立っちゃうじゃないですか」
「でもロベルトにはあんなに親し気に話していただろう?ロベルトといる時点で大注目だ」
「まぁ……そうですけどね」
ゆっくりとダンスが進む。
くるくるとターンすれば、今日来ていた金の刺繍が入った青のドレスがふわりと舞った。
「今日は……淑女に見えるな。そのドレス、似合っている。」
「あ、ありがとうございます。このドレスも殿下が準備してくださったんですよね。そちらもお礼を言わせてください」
「いや、俺が選んだドレスを着て欲しかったんだ……なかなか悪くないぞ」
密着してクローディスは耳元で囁きながらそう言った。
あまりにもストレートな物言いに心臓が跳ねる。
(ううう……耳元で囁かないで。声の破壊力……やばい)
クローディスも涼しげな目元に通った鼻筋、唇は薄く体も引き締まっている。男性を意識するには十分だし、そんな男性に耳元で囁かれたらドキドキするのは仕方ないだろう。
心臓がバクバクと言いながら、音楽はゆっくりと終わり、クローディスはその体を離した。
「いいか、これで変な奴は近寄ってこないとは思うが、くれぐれも変な男には引っかかるなよ」
「うううう……分かりました」
「俺は公務があるから行く。……気を付けろよ。これ以上ライバルが増えるのは困る」
「ライバル?」
「じゃあな!」
離れていくクローディスを見送った時には、先ほどまで気にならなかった女性たちの視線が刺さりまくっていることに気づく。
なんとなくいたたまれなくなってベランダに逃げようとした時だった。
(あ!アイリスがいるわ!声をかけてみよう)
アイリスの後ろ姿を見かけアドリアーヌはそう思った。
そしてアドリアーヌがアイリスの元に駆け寄ろうとした時に、事件は起きた。
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