悪役令嬢は二度も断罪されたくない!~あのー、私に平穏な暮らしをさせてくれませんか?~

イトカワジンカイ

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やっぱり続編の世界?②

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アドリアーヌはあの後夜遅くまで仕事をしたため、悪役令嬢ポジのことはすっかり忘れて寝入ってしまった。

とは言うものの、さすがに体はしんどくて、思わず二度寝するのを何とか気力を奮い立たせて起きることにした。

(夜型人間だけど、朝はだめなのよね……でも仕事はしなくちゃ……)

使用人の朝は早い。
目を覚ますために窓を開け放つと少し肌寒くて身震いした。
ちゅんちゅんと雀のさえずりが聞こえる。

(まぁ、プロジェクトの時には始発で仕事に行って始発で帰ることもあったし……もう少し頑張ろう)

そう思って支度を整えて、いつもの朝礼に参加する。
一通り終わった時にシシルにクリストファーのことを聞いてみることにした。

「あの……クリストファー様のことなんですけど……」
「どこでそれを?」
「昨日会ってしまって」
「会ったのですか?」
「はい。どうして隠していたんですか?何か問題でも?」

ここにきてクリストファーのことを誰も言わなかった。
何か知ってはまずいことでもあるのだろうか?
だが、シシルは顔色一つ変えず淡々と答えてきた。

「クリストファー様は半年前のご両親を亡くされて、それ以来部屋から出ずに泣いてばかりなのです。人見知りも激しいので怖がってしまい……。そのために新人やお客人には接触させないように配慮していたということです」

どうやら隠しているようではなかった。
だが使用人の態度から腫物を扱うようで、扱いに困っているように感じられた。

「食事もとられていないようですが」

「そうですね。食べられるようにいろいろと工夫はしているのですが、やはり食べてらっしゃらず食事の度に交換するようにしています」

それで夜にもかかわらず食事が下げられることなくテーブルに置かれていたわけだ。
このままではクリストファーは立ち直ることは無理だろう。
やはり気分転換と食事と睡眠は必要だ。

「でも……いつもお一人で過ごしていらっしゃるんですよね?それは誰か傍にいてあげたほうが……」
「本人も嫌がっておられますし、人員的にもなかなか手が回らないというのもありますからね。仕方ありません」
「嫌がっているんですか?昨日はそんな様子はなかったですよ」

確かにクリストファーは人見知りのようだったが、アドリアーヌが傍にいても嫌がる様子はなかった。
逆に傍にいてほしいと言ってきたのだから、寂しいのかもしれない。

だから放っておくというのは、アドリアーヌとしては見過ごせない。
少しでも力になれるならクリストファーの力になりたかった。

(あんなに可愛らしいクリストファー様が、やつれて暗い顔をしているなんて……)

思い出すのは続編のゲームのスチルで満面の笑みを浮かべて主人公に花束を渡すスチルだ。
絶対にあの笑顔を取り戻してやる! 

そう思っているとさっきのアドリアーヌの言葉に疑問を持ったシシルが尋ねてきた。

「昨日とは……どうゆうことですか?」

シシルの疑問に、アドリアーヌは昨日ホットミルクを出したことや、寝るまで傍にいたことを説明した。

「じゃあ、クリストファー様のお世話は私がします!」
「しかし、あなたは十分忙しいのでは?」

「大丈夫です。仕事はだいぶ慣れてきましたし、休憩時間を削れば。あとは念のために予備時間も組み込んでいるのでそこをうまく使えば何とかなります」

「さすがにアドリアーヌ様にそこまではさせられません。そうですね……アドリアーヌ様のおかげで皆だいぶ労働時間が減りましたから、少しシフトを調整します」

「そんな……無理言っているのはこちらなのに」

「いいのです。実は皆クリストファー様には元気になってもらいたいのですが、どう接すればいいのか悩んでいたのが本音です。ですが、昨夜がその調子なのであればお世話をお願いします」

「わかりました!頑張りますね!」

こうしてアドリアーヌはクリストファーの世話係も兼任することになったのだった。
朝の朝食の準備を手伝うと、昨日のこともあってかファゴはぶっきらぼうながら声をかけてくれた。

「ファゴさん、おはようございます」
「おう、昨日の仕事は終わったのか?」

「はい、おかげさまで。あ……それでですね、クリストファー様の朝食は私がお持ちするんですが、ちょっとあるものも追加したいんです。」

「お嬢さんが行くのか?坊ちゃまは人見知りだって話だし、俺も見たことないんだぜ。大丈夫か?」

「大丈夫ですよ!あ、手は抜きませんが朝食の後片付けは遅くなるので食器は置いておいてください」
「どういうことだ?」

状況がわからないファゴにクリストファーの世話係になったことを告げると、ファゴは大いに賛同してくれた。
同時にこれ以上仕事を詰め込みすぎるのではないかと心配もされた。

この間までけんもほろろな対応だったファゴを見ていた周囲の使用人たちは、ファゴの態度の軟化に驚いていたようだった。

その後、事情を理解してくれたファゴは「それならキッチンの方は無理しなくていい」と言ってくれたのだった。
最初はまた邪険されたようにも思ったがその態度から、そういうわけではないことが伝わってきた。

「坊ちゃんについては、話は聞いてるしよ。俺も事故で両親亡くしてんだわ。力になってやってくれ」

そう言ってファゴはアドリアーヌの頭をクシャっと撫でるとクリストファーの朝食の準備をして、アドリアーヌを見送ってくれた。

薄暗い廊下を進んでいく。
最初は誰もいないから掃除をしていないかと思われていたここも、実はクリストファーをそっとしておくためだったと知った。
それならば逆に綺麗にしなくては。
そしてクリストファーには明るい廊下を笑顔で歩いて欲しい。

「クリストファー様、朝食をお持ちしましたよ。」

ノックしたが返事はない。
しばらく待ったが返事がないので、問答無用で入ることにした。

「入りますね。朝食ですよ、クリストファー様」

クリストファーは枕に顔を押し付けて寝ている……と思ったら泣いていた。
暗い室内にすすり泣きが広がる。

「ほらほら、起きてください!泣きすぎると目が溶けちゃいますよ」

ゆっくりと顔を上げたクリストファーを見て、アドリアーヌは苦笑する。
毎日これでは使用人もお手上げだろう。

かと言ってアドリアーヌの性格上、放置できないので、無理にクリストファーを叩き起こす。

「いい天気ですよ。ほら、外の空気を吸いましょう」

ザァーっと音を立てながらカーテンを開けると眩い太陽の光が室内を照らし出す。
窓を開け放てば朝のさわやかな空気が部屋に充満した。

「気持ちがいい朝ですから。顔を洗いましょう」
「一人にしてほしい……」
「だめです。今日から私もここでご飯を食べますから。早く用意してくださいね」
「え……?……えぇ?」
「ほらほら」

戸惑うクリストファーを無視してアドリアーヌは起床準備を手伝う。
寝巻きを着替えさせ、髪をとかし、顔を拭いてあげる。

クリストファーは「や……やめて……」とか細く抵抗したが、アドリアーヌはそのまま作業をして、そして最後にはベランダまで押しやった。

「えっと……アドレ……アドリ……」
「アドリアーヌですよ。クリストファー様、はい深呼吸して」
「でも」
「いいですから、ほら、すーはーすーはー」

アドリアーヌがそうするとおずおずとクリストファーも深呼吸をした。

「朝の空気はおいしいですよね。気分はどうです?少し気持ちよくないですか?」
「うん……不思議。なんか……呼吸が楽だ」
「ふふ、泣いてばっかりだからですよ。少し体も楽になったのでは?」
「そうかも……しれない……」

硬かった表情が少しだけ晴れやかになってのを見て、アドリアーヌはテーブルとベランダへと運ぶ。

よいしょよいしょと引っ張るようにテーブルを持っていくのを、クリストファーは不思議そうに見ている。

そんな視線をよそに、アドリアーヌは朝食を広げるとクリストファーを座らせ、そして自分も座った。

「いただきます!」
「食べたくない……」
「いただきます‼」

有無を言わさない顔でアドリアーヌは言うと、クリストファーは観念したとばかりにカテラリーに手を伸ばしたのち、動作を止めた。
何とも言えない顔をしている。

「これ……なに?」
「アップルトーストですよ。食べてみてください。あったかいうちに食べるのがおすすめです」

アドリアーヌが用意したのはアップルトースト。

パンにスライスしたリンゴを乗せてシナモンを振りかけ、一緒にグラニュー糖も振りかけてさっとオーブンで焼いたものだ。

前世では一般的な料理だとは思うが、この世界では珍しいらしい。
食欲のない時にも甘くて食べやすいし、これ一枚でパンを食べられるのもいい。
リンゴは消化も良いので胃の負担も少ない。

どんな反応をするかわくわくした目で見ていると、クリストファーは意を決したようにアップルトーストを口に含んだ。

「……美味しい……」
「ですよね!よかった!ほらこっちはスクランブルエッグでけど……かわいいでしょ?」

スクランブルエッグにニコちゃんマークをケチャップで描いたものを、クリストファーはまた興味深そうに食べた。
その顔からは少し憂いが少なくなったようで、年相応の笑顔で朝食を食べてくれた。

すがすがしい朝。
小鳥の鳴き声をBGMに新緑を見ながら日を浴びながら食べる朝食は、少しピクニック気分も味わえた。

「はぁ……美味しかった。僕久しぶりにこんなに食べたよ」

「よかったです。一人で食べるのは味気ないですものね。私もここに来た時には一人で食べていたので、申し訳ないですけど豪華な食事も味気なく感じたものですよ」

「アドリアーヌは一人で食べてたの?メイド達に虐められてたの?」

新人使用人だと思っているクリストファーに本当のことを言うか悩んだが、隠していても仕方ないのでアドリアーヌは自分の身の上をきちんと説明した。

「あ……実は私はグランディアス王国を追い出されてしまいましてこちらにお世話になっているんです。だから最初は客人扱いで、一人で食事をさせていただいてたんですけど……」

「そっか……アドリアーヌも独りぼっちなんだ」
「そうですね。もう両親とも会うことはないでしょうからね」

前世の記憶を取り戻してから怒涛の勢いで日々が過ぎていたが、ふと考えると郷愁の思いがないこともない。

だが、年齢のせいか前世の記憶のせいか、あまりグランディアス王国に執着もなく、帰りたいとも思わないのが不思議だった。

「まぁそんなわけで私はここの使用人になっているので、クリストファー様もなんなりと頼ってください!でも、僭越ながら食事は一緒に摂らせていただきたいのですけど……」

いくら貴族出身とはいえここでは使用人として働いているわけだし、場合によっては不敬かもしれない。
今更ながらだが確認してみた。
するとクリストファーは小さく頷いてくれた。

「良かったー。じゃあ、次は散策に行きましょう!」
「ううん……僕は……やっぱり一人でここにいるよ。外に出たくない」
「だめです。ご飯食べたら動かないと牛になっちゃいますよ!」
「初めて聞いたよ?」

「私の故郷(前世)言葉です。〝食べてすぐ寝ると牛になるよ〝って言われるんです。まぁ太るよとかの意味にとるんで、クリストファー様はもう少しお太りになったほうがいいかもしれませんが」

青白い顔をして今にも倒れそうなのはいただけない状況だ。
アドリアーヌはまた勝手に話を決めると連行するようにクリストファーを連れ出したのだった。
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