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生産性向上を目指します①
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その後、アドリアーヌはアレクセイに頼んで屋敷のバックヤードを見ることにした。
使用人としては料理人が一人、調理見習いが一人、庭師が一人、メイドがシシルとマーガレットのほか二人いて全部で四人、そして執事のアレクセイとで全八名だった。
ちょいちょい胡散臭そうに見る使用人たち毎に、にこやかに挨拶を心掛けて回った。
「こんにちは。アドリアーヌと申します。明日からこちらで働くのでよろしくお願いしますね」
そう言うと、「はぁ?」と明らかに怪訝そうな顔をする人が多かった。
アドリアーヌは挨拶がてらに使用人たちのヒヤリングも行っていった。
現状分析のためには関係者のヒヤリングが重要なのはコンサルの仕事の基本だ。
社畜時代の仕事はシステムの開発だったが、そのシステム改善のためのヒヤリングや営業企画なども行ってきたので、それに倣ったのだ。
ほとんどの使用人はアレクセイの顔を見て「どういうことだ?」と視線を送ると、アレクセイはため息をついて事情を説明した。
そして、どうせ仕事にはついてこれないだろうという明らかに冷ややかな態度で仕事に戻っていく。
だが、それに真っ向に挑んできたのは料理人のファゴだった。
「はぁ?俺にこの貴族のお嬢さんのわがままに付き合えっていうのか?」
「そう思うのも無理はないと思います。でも少しの時間だけでいいので、キッチンの使い方を教えてください。決して仕事の邪魔はしません」
「その教える段階で邪魔なんだよ!」
「では、私はそこの端で見ているだけでいいんです」
食い下がるアドリアーヌだったが、けんもほろろにキッチンを追い出されてしまった。
アレクセイが見かねてフォローをしてくれる。
「二週間だけです。アドリアーヌ様に見学だけでもさせてあげてください」
さすがにこの家の采配を振る執事の言うことには表立って逆らえないのか、舌打ちをしてファゴは調理場に戻ってしまった。
それを見て思わずため息が出る。
(まぁ、ぽっと出の貴族様に領域を荒らされたくない気持ちも分かるけどね……)
自分だってわけのわからない新人が来て「システム開発を任せてください!」とか言われても怖くて任せられない。
気持ちは重々分かる。
だが、そこを動かすのがコンサルの仕事でもある。
(やっぱり、目に見える形で説得が必要よねぇ……)
渋い顔で考え込んでいるアドリアーヌを心配するように、アレクセイが声をかけてくれた。
「アドリアーヌ様……いかがなさいますか?とりあえずは見学だけはできそうですが……その……やはり使用人として働くのは難しいかと……」
正直アレクセイも半信半疑なのだろう。
言葉の端々に使用人の真似事はやめろと言うのが出ている。
「うーん。認めてもらうのは難しいかもしれないけど……やってみないと始まらないわ!それでね、アレクセイさんに頼みがあるんだけど?」
「頼み……ですか?帳簿関連の資料ならあれが全部ですが……」
「あぁ、そうじゃないの。申し訳ないけど、明日の朝礼の時二〇分だけみんなの時間をとって欲しいのよ。」
「……かしこまりました」
「じゃ、私はもう部屋に戻るわ。あ、食事はあんまりいらないから、パンとスープだけ用意してもらえるかしら?もちろん後で取りに行くから」
「さすがにそれは……。私がお部屋にお持ちします」
「そう?よろしくね。じゃあ私は部屋に籠るから」
アドリアーヌはアレクセイにそう告げた後、部屋に戻る。
そして今までの使用人たちの現状分析結果を書き上げると、資料を作成することにした。
資料とは……すなわちプレゼン資料だ。
明日、何としてでも彼らを説得しなくては。
(これから資料作成だと徹夜になりそうかなぁ……エナジードリンクが欲しいけど……まぁ、やるだけやるしかないか)
アドリアーヌは腕まくりをして、ペンを墨につけ書き始めるのだった。
※ ※ ※
翌日の朝礼にて。
アドリアーヌはドキドキしながらも書類を配っていった。
ここでのプレゼンを失敗したら使用人として働くことは難しいだろう。
正念場でもある。
(いつもながらにプレゼンは緊張しちゃうわよね……)
行動は大胆なアドリアーヌだったが、多少ヘタレなところというかビビりというか……そういう性格も持っているため、プレゼンの始めはいつも緊張する。
もっとも他から見たら堂々としているように見えるらしく、社畜時代にもプレゼンターとして引っ張られていたが。
「何か用かよ。これから仕込みなんだ。さっさと戻らせろ」
そう開口一番開いたのは料理人のファゴだった。
相変わらず敵意むき出しな様子に、想定内とはいえ苦笑を禁じ得ない。
「さて、皆さんに今お配りした資料は、この家の財政に関するものです」
「財政……ですか?」
マーガレットが一番率直に口を開いた。
急に何を言い出したのか理解不能といった様子だった。
アドリアーヌはそれに小さくうなずいて言葉を続けた。
「皆さんもご存じの通り、昔は大勢いた使用人も八人となりました。お聞き及びかと思いますが、この家の財政がひっ迫しているためです。そのために一人一人の負担が大きくなっているのは心当たりのあるものだと思います」
「で?それとこの紙切れがどうしたって?」
ファゴは資料をペラペラと手で振りながら面倒くさそうに答えた。
「ではその説明から。まずお手元の資料の一ページ目をご覧ください。ここにこの屋敷の収支が書いてあります。あ……収支というのは収入と支出。つまりどれだけのお金が入ってきて、どれだけのお金がこの屋敷から出て行っているかというものです」
彼らは文字を読むことも数字を読むこともできない。
だから分かりやすく図にした。
「左側が入ってきたお金、右側が出ていくお金。大幅に右側が多いですよね」
「そう……だな」
「その図の差の部分だけお金が足りていないことを示しています。このままだとこの屋敷は破綻します。つまり、あなたたちが全員解雇されてもおかしくないのです」
「はぁ?それは困るぜ!ここを追われたら俺は行き場がなくなっちまう」
「そう……困りますよね。それもアレクセイさんから聞きました」
アレクセイから聞いた不満は二点。
一点目は仕事量が多すぎるという点。
それは当然だ。
今まで数十人でやっていた仕事量を八人で回しているのだ。
夜までかかってやっており、休憩もままならないというものだった。
それから二点目はその割に待遇が悪いという点。
他の屋敷の使用人よりも多くの仕事をしているのに給与も少ないというものだった。
だが、彼らは辞めたくても行き場がなかったり、他の家の使用人として働くための紹介状なども持ち合わせていないため、仕方なくここにいるという状況のものも多かったのだ。
「そこで、皆さんには生産性の向上に協力してもらいます」
「生産性の向上?」
「はい。なるべく少ない労力で大きな成果……仕事をこなしてもらいます。それによって休憩時間の確保を保証します」
「はぁ?それはお前が仕事をするからってことか?お嬢さんの戯言に付き合ってられないぜ」
ファゴが再び食って掛かってきた。
それに対しアドリアーヌは冷静に対処する。
「そうですね。今は実績がないので理解していただくのは難しいかと思います。ただ、生産性向上をして支出を最低限に抑え、余剰分ができた際には皆さんの給与にも反映されるのです。悪い話ではないかと思います」
「そりゃ……金がもらえるのならありがたいが……でもよぉ」
「それと、同時に福利厚生も改善します。すぐにお給料を上げることは難しいですが、まずは皆さんの住居環境を見直します。皆さんには客室での生活を行ってもらいます。幸いにしてこの屋敷には空いている部屋は多いですから」
これも重要な課題だった。
ここに来た時にアレクセイが「貴女が寝る場所はないのが正直なところです」と言っていたのが気になっていたのだ。
最初は使用人が多く、空き部屋がないのかと思ったが八人しかいないのに、なぜ空き部屋がないと言ったのか……。
それを聞いたところ帰ってきたのが「雨漏りがひどくて、ほかの部屋が使えないんです」とのこと。
雨漏りがあるということは、ほかの部屋にも少なからず影響があるだろうし、そんな劣悪な環境に使用人を置くなど労働条件としては最悪だ。
福利厚生も労働者が保証されてもいい話だとアドリアーヌは考えた。
「ただし、一つお願いがあります。まず部屋の周辺は担当範囲を設けるので掃除をしてください。廊下と窓が主なところですが、それについても簡便に行う方法をお伝えしますのでご協力ください」
「それくらいなら……今の部屋よりマシならいいけどよ。」
「では、福利厚生と残業に関しては改善するということで、まずはご協力よろしくお願いします」
そしてここからが問題だ。
リオネルとの約束はこの家の財政立て直しがメインではなく〝使用人として使えるかどうか〟である。
そのために使用人の協力を得るために福利厚生を向上させたのだ。
ここで協力をもらえなくては意味がない。
渋々ながら同意し始めたファゴが尚も異論を唱える。
「でもよぉ、俺は仕事の邪魔をされるのは我慢できねぇぜ。生産性なんちゃらとか福利なんちゃらなんてよくわからないことで煙に巻こうってのは気に食わない」
「そうですね。まぁ私もここからが本題です。資料の二ページ目を開いてください」
アドリアーヌの言葉に皆がおもむろにページを開く。
パサリという紙が捲られる音が響いた。
「なんだこれ?」
「タイムスケジュールです。昨日バックヤードを拝見しまして、主だった仕事のスケジュールを確認させていただきました。このタイムスケジュールで私は動きます。多分皆さんのお邪魔にならない範囲での行動です」
もちろんファゴの仕事内容と邪魔にならないスケジューリングをした。
「ですから、この時間だけは私にお時間をください。そして三ページ目。これが将来的に私がする仕事の内容になります」
「……は?これ全部こなすのか?無茶だ」
そこにはめいっぱいのスケジュールを詰め込んだタイムテーブルが並んでいる。
確かに若干詰め込みもあるが、社畜時代を考えると食事時間が確保できるだけ御の字だと思っている。
「でも、やらなくては皆さんに認めてもらえないですよね?あと一週間だけ、私に付き合ってください。よろしくお願いします」
そう言ってアドリアーヌが最敬礼で頭を下げる。
その様子にさすがのファゴも感じるところがあったのかもしれない。
「は!どうせ長続きしねーよ。邪魔しないなら好きにしな」
「ありがとうございます!では今日から早速よろしくお願いします!」
「では、解散ですね。皆さん仕事についてください」
アレクセイの言葉に皆が一斉に解散する。
最初の仕事はメイドの仕事だ。
アドリアーヌはマーガレットについて回ることにして、いよいよ生産性向上に乗り出したのだった。
使用人としては料理人が一人、調理見習いが一人、庭師が一人、メイドがシシルとマーガレットのほか二人いて全部で四人、そして執事のアレクセイとで全八名だった。
ちょいちょい胡散臭そうに見る使用人たち毎に、にこやかに挨拶を心掛けて回った。
「こんにちは。アドリアーヌと申します。明日からこちらで働くのでよろしくお願いしますね」
そう言うと、「はぁ?」と明らかに怪訝そうな顔をする人が多かった。
アドリアーヌは挨拶がてらに使用人たちのヒヤリングも行っていった。
現状分析のためには関係者のヒヤリングが重要なのはコンサルの仕事の基本だ。
社畜時代の仕事はシステムの開発だったが、そのシステム改善のためのヒヤリングや営業企画なども行ってきたので、それに倣ったのだ。
ほとんどの使用人はアレクセイの顔を見て「どういうことだ?」と視線を送ると、アレクセイはため息をついて事情を説明した。
そして、どうせ仕事にはついてこれないだろうという明らかに冷ややかな態度で仕事に戻っていく。
だが、それに真っ向に挑んできたのは料理人のファゴだった。
「はぁ?俺にこの貴族のお嬢さんのわがままに付き合えっていうのか?」
「そう思うのも無理はないと思います。でも少しの時間だけでいいので、キッチンの使い方を教えてください。決して仕事の邪魔はしません」
「その教える段階で邪魔なんだよ!」
「では、私はそこの端で見ているだけでいいんです」
食い下がるアドリアーヌだったが、けんもほろろにキッチンを追い出されてしまった。
アレクセイが見かねてフォローをしてくれる。
「二週間だけです。アドリアーヌ様に見学だけでもさせてあげてください」
さすがにこの家の采配を振る執事の言うことには表立って逆らえないのか、舌打ちをしてファゴは調理場に戻ってしまった。
それを見て思わずため息が出る。
(まぁ、ぽっと出の貴族様に領域を荒らされたくない気持ちも分かるけどね……)
自分だってわけのわからない新人が来て「システム開発を任せてください!」とか言われても怖くて任せられない。
気持ちは重々分かる。
だが、そこを動かすのがコンサルの仕事でもある。
(やっぱり、目に見える形で説得が必要よねぇ……)
渋い顔で考え込んでいるアドリアーヌを心配するように、アレクセイが声をかけてくれた。
「アドリアーヌ様……いかがなさいますか?とりあえずは見学だけはできそうですが……その……やはり使用人として働くのは難しいかと……」
正直アレクセイも半信半疑なのだろう。
言葉の端々に使用人の真似事はやめろと言うのが出ている。
「うーん。認めてもらうのは難しいかもしれないけど……やってみないと始まらないわ!それでね、アレクセイさんに頼みがあるんだけど?」
「頼み……ですか?帳簿関連の資料ならあれが全部ですが……」
「あぁ、そうじゃないの。申し訳ないけど、明日の朝礼の時二〇分だけみんなの時間をとって欲しいのよ。」
「……かしこまりました」
「じゃ、私はもう部屋に戻るわ。あ、食事はあんまりいらないから、パンとスープだけ用意してもらえるかしら?もちろん後で取りに行くから」
「さすがにそれは……。私がお部屋にお持ちします」
「そう?よろしくね。じゃあ私は部屋に籠るから」
アドリアーヌはアレクセイにそう告げた後、部屋に戻る。
そして今までの使用人たちの現状分析結果を書き上げると、資料を作成することにした。
資料とは……すなわちプレゼン資料だ。
明日、何としてでも彼らを説得しなくては。
(これから資料作成だと徹夜になりそうかなぁ……エナジードリンクが欲しいけど……まぁ、やるだけやるしかないか)
アドリアーヌは腕まくりをして、ペンを墨につけ書き始めるのだった。
※ ※ ※
翌日の朝礼にて。
アドリアーヌはドキドキしながらも書類を配っていった。
ここでのプレゼンを失敗したら使用人として働くことは難しいだろう。
正念場でもある。
(いつもながらにプレゼンは緊張しちゃうわよね……)
行動は大胆なアドリアーヌだったが、多少ヘタレなところというかビビりというか……そういう性格も持っているため、プレゼンの始めはいつも緊張する。
もっとも他から見たら堂々としているように見えるらしく、社畜時代にもプレゼンターとして引っ張られていたが。
「何か用かよ。これから仕込みなんだ。さっさと戻らせろ」
そう開口一番開いたのは料理人のファゴだった。
相変わらず敵意むき出しな様子に、想定内とはいえ苦笑を禁じ得ない。
「さて、皆さんに今お配りした資料は、この家の財政に関するものです」
「財政……ですか?」
マーガレットが一番率直に口を開いた。
急に何を言い出したのか理解不能といった様子だった。
アドリアーヌはそれに小さくうなずいて言葉を続けた。
「皆さんもご存じの通り、昔は大勢いた使用人も八人となりました。お聞き及びかと思いますが、この家の財政がひっ迫しているためです。そのために一人一人の負担が大きくなっているのは心当たりのあるものだと思います」
「で?それとこの紙切れがどうしたって?」
ファゴは資料をペラペラと手で振りながら面倒くさそうに答えた。
「ではその説明から。まずお手元の資料の一ページ目をご覧ください。ここにこの屋敷の収支が書いてあります。あ……収支というのは収入と支出。つまりどれだけのお金が入ってきて、どれだけのお金がこの屋敷から出て行っているかというものです」
彼らは文字を読むことも数字を読むこともできない。
だから分かりやすく図にした。
「左側が入ってきたお金、右側が出ていくお金。大幅に右側が多いですよね」
「そう……だな」
「その図の差の部分だけお金が足りていないことを示しています。このままだとこの屋敷は破綻します。つまり、あなたたちが全員解雇されてもおかしくないのです」
「はぁ?それは困るぜ!ここを追われたら俺は行き場がなくなっちまう」
「そう……困りますよね。それもアレクセイさんから聞きました」
アレクセイから聞いた不満は二点。
一点目は仕事量が多すぎるという点。
それは当然だ。
今まで数十人でやっていた仕事量を八人で回しているのだ。
夜までかかってやっており、休憩もままならないというものだった。
それから二点目はその割に待遇が悪いという点。
他の屋敷の使用人よりも多くの仕事をしているのに給与も少ないというものだった。
だが、彼らは辞めたくても行き場がなかったり、他の家の使用人として働くための紹介状なども持ち合わせていないため、仕方なくここにいるという状況のものも多かったのだ。
「そこで、皆さんには生産性の向上に協力してもらいます」
「生産性の向上?」
「はい。なるべく少ない労力で大きな成果……仕事をこなしてもらいます。それによって休憩時間の確保を保証します」
「はぁ?それはお前が仕事をするからってことか?お嬢さんの戯言に付き合ってられないぜ」
ファゴが再び食って掛かってきた。
それに対しアドリアーヌは冷静に対処する。
「そうですね。今は実績がないので理解していただくのは難しいかと思います。ただ、生産性向上をして支出を最低限に抑え、余剰分ができた際には皆さんの給与にも反映されるのです。悪い話ではないかと思います」
「そりゃ……金がもらえるのならありがたいが……でもよぉ」
「それと、同時に福利厚生も改善します。すぐにお給料を上げることは難しいですが、まずは皆さんの住居環境を見直します。皆さんには客室での生活を行ってもらいます。幸いにしてこの屋敷には空いている部屋は多いですから」
これも重要な課題だった。
ここに来た時にアレクセイが「貴女が寝る場所はないのが正直なところです」と言っていたのが気になっていたのだ。
最初は使用人が多く、空き部屋がないのかと思ったが八人しかいないのに、なぜ空き部屋がないと言ったのか……。
それを聞いたところ帰ってきたのが「雨漏りがひどくて、ほかの部屋が使えないんです」とのこと。
雨漏りがあるということは、ほかの部屋にも少なからず影響があるだろうし、そんな劣悪な環境に使用人を置くなど労働条件としては最悪だ。
福利厚生も労働者が保証されてもいい話だとアドリアーヌは考えた。
「ただし、一つお願いがあります。まず部屋の周辺は担当範囲を設けるので掃除をしてください。廊下と窓が主なところですが、それについても簡便に行う方法をお伝えしますのでご協力ください」
「それくらいなら……今の部屋よりマシならいいけどよ。」
「では、福利厚生と残業に関しては改善するということで、まずはご協力よろしくお願いします」
そしてここからが問題だ。
リオネルとの約束はこの家の財政立て直しがメインではなく〝使用人として使えるかどうか〟である。
そのために使用人の協力を得るために福利厚生を向上させたのだ。
ここで協力をもらえなくては意味がない。
渋々ながら同意し始めたファゴが尚も異論を唱える。
「でもよぉ、俺は仕事の邪魔をされるのは我慢できねぇぜ。生産性なんちゃらとか福利なんちゃらなんてよくわからないことで煙に巻こうってのは気に食わない」
「そうですね。まぁ私もここからが本題です。資料の二ページ目を開いてください」
アドリアーヌの言葉に皆がおもむろにページを開く。
パサリという紙が捲られる音が響いた。
「なんだこれ?」
「タイムスケジュールです。昨日バックヤードを拝見しまして、主だった仕事のスケジュールを確認させていただきました。このタイムスケジュールで私は動きます。多分皆さんのお邪魔にならない範囲での行動です」
もちろんファゴの仕事内容と邪魔にならないスケジューリングをした。
「ですから、この時間だけは私にお時間をください。そして三ページ目。これが将来的に私がする仕事の内容になります」
「……は?これ全部こなすのか?無茶だ」
そこにはめいっぱいのスケジュールを詰め込んだタイムテーブルが並んでいる。
確かに若干詰め込みもあるが、社畜時代を考えると食事時間が確保できるだけ御の字だと思っている。
「でも、やらなくては皆さんに認めてもらえないですよね?あと一週間だけ、私に付き合ってください。よろしくお願いします」
そう言ってアドリアーヌが最敬礼で頭を下げる。
その様子にさすがのファゴも感じるところがあったのかもしれない。
「は!どうせ長続きしねーよ。邪魔しないなら好きにしな」
「ありがとうございます!では今日から早速よろしくお願いします!」
「では、解散ですね。皆さん仕事についてください」
アレクセイの言葉に皆が一斉に解散する。
最初の仕事はメイドの仕事だ。
アドリアーヌはマーガレットについて回ることにして、いよいよ生産性向上に乗り出したのだった。
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