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この家って貧乏なんですか?①
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ムルム伯爵の元に身を寄せて気づいたことがある。
一つ目、会う使用人の数が少ない。
最初は大きな屋敷だからなかなか会わないのかとか、敵国から来た自分に接する使用人を少なくしているのかと思っていた。
しかし本当にそれだけなのかという違和感が拭えない。
屋敷をうろつかないようにと注意をされており、勝手に屋敷を物色するのも気が引けてあまり外にもいかないようにしているのも原因かもしれない。
そして二つ目はムルム伯爵とはここに来たときの晩餐以来食事を共にすることがなかった。
一度シシルに聞いたことがあるが、相変わらず無表情のまま「旦那様は自室で食事をとるのが習慣ですから」と言われたが何となく誤魔化されているような気もする。
確かに食事はムルム伯爵の元に運ばれていたのを見たこともある。
ただ不思議なことにアドリアーヌが食べているそれとは別メニューだったのが気になった。
なんと言うか……質素な食事だったのだ。
ムルム伯爵は食が細いのだろうかとも思っていたが、別メニューを作るシェフに負担をかけているように思い、今度折を見て同じ食事でいいことを告げようと思っている。
と言うのも、食事の用意を終えるとシシルはアッと今に部屋から出て行ってしまい、食事が終わる頃にまた戻ってくるのだ。
最初は自分がゆっくり食べられるように配慮しているのではないかと思ったのだが……何となく別な理由があるような気がする。
最後三つ目は……こちらがかなり重要なのだが、たまにすすり泣きのようなものが聞こえる。
気のせいかとも思ったが、初日に薄暗い廊下の先で聞こえてきたし、あの時にはシシルにもその先に行くことを止められた。
確認したいと思うものの、アドリアーヌは幽霊が怖い。
大抵のことは全く以て動じないが、幽霊だけは得体が知れなくて、物理的攻撃も効かないためダメなのだ。
そんな話は置いておいて、アドリアーヌは自室にて唸っていた。
「うーん、何かおかしい……」
アドリアーヌの疑問は日に日に募っていった。
ただ使用人に言ってもたぶん誤魔化されるだろうと感じ、とうとう行動に移すことにした。
アドリアーヌの食事の準備が終わるとシシルは、部屋を出て行く。
それを見計らって調査することにしたのだ。
(よーし!この謎を暴いてやるぞ!)
ムルム伯爵の屋敷に来てから暇を持て余していたし、面白いことはないかなぁとも思っていたのでアドリアーヌは気合を入れた。
シシルの後をそっとつける。
するとマーガレットという使用人がちょうどシシルと話しているところにでくわした。
マーガレットはアドリアーヌと同世代だと思う。
まだ若く見習いという雰囲気があり、背が一般女性よりは低く、小柄でどことなくリスに近い印象があった。
そう思うのは動きがちょろちょろしているせいだと思う。
そんな二人の話を身を潜めて聞いてみる。
「旦那様の元に食事を届けるのですか?では私はクリストファー様のところに届けます。旦那様のことは任せましたよ」
「分かりました!」
(クリストファー様?)
聞き慣れない人物の名前に首を傾げる。
そしてその人物の元にも食事を運ぶようにと言っているということはクリストファーという人物はこの屋敷にいるということである。
「それと、それが終わったら洗濯をしておいて頂戴。掃除は私がやりますが昼食の下準備をファゴに依頼されているので手伝うように」
「わ、分かりました!」
「では、お願いね」
シシルはそう言うと今度は速足で廊下を駆けて行く。
シシルとマーガレットのどちらを追うか悩んだが、シシルはアッという間に立ち去ってしまい、後に残されたマーガレットは半分溜め息をついて泣きそうになりながら愚痴った。
「あーもう忙しすぎる!これ終わったら洗濯だなんて……この屋敷を八人で回すのは無理よ!」
半分自棄になったようにマーガレットはそう言いながら、半分泣きそうな顔でムルム伯爵の私室に向かって行く。
(八人……?この屋敷を八人で見てるって言った?)
にわかには信じがたい。
ムルム伯爵の屋敷は、標準よりは少しこじんまりとしているのかもしれないが、それでも十分な広さの屋敷である。
各部屋の掃除、庭の管理、経営管理、料理洗濯、その他雑務……
膨大な量をこなすにはとても八人では足りない。というか二十人でも少ないくらいだ。
それなのに……八人とは、聞き違いなのでは……と思ってしまう。
そんな風に考えているうちに、マーガレットはムルム伯爵の私室へと向かって行った。
これ以上ここにいても仕方ない。
とりあえず嘘か本当かは分からないが、一つ目の疑問であった会う使用人の数が少ないというのはそういう理由なのだと理解した。
でも何故そんなに使用人の数が少ないのか?
新たな疑問首を捻りつつ、アドリアーヌは食堂へと戻ることにした。
そうして踵を返そうとした時に、エントランスが少し騒がしいことに気づく。
堂々と出て行くわけにはいかないが、こんな朝に客人というのも珍しい。
誰が来たのかと好奇心が疼き、アドリアーヌはこっそりと客人を見ることにした。
客人は若い男だった。
銀髪の髪はサラサラで、背はかなり高い。180cmはあるだろうか?
顔立ち遠くてははっきりと見えないが、がっちりとした筋肉質な体躯をしていることは分かった。
控えめな金の刺繍をした黒い詰め襟の服に赤いマントが印象的だ。
腰に剣をさしていることから騎士なのではないかと想像された。
「リオネル様、いらっしゃいませ」
「あぁ、アレクセイか。伯爵はいらっしゃるか?」
「はい、いらっしゃいます。現在食事中ですので、旦那様がお会いになるか確認してきます」
男はリオネルというらしい。
アレクセイが慌てて出てきたのはリオネルが突然やって来たからだろうか?
人の家に何の連絡もなしに来るとは、少し非常識な気もするが。
アレクセイが伯爵の予定を聞きに行っている間、リオネルはエントランスに立っている。
微動だにせず直立不動。なんか……少し異様な雰囲気も感じる。
(あの人、何をしに来たのかしら?なんか貴族にしては雰囲気が貴族っぽくないし……やっぱり騎士様なのかしら?)
そう思って覗いていると背後から声を掛けられて、アドリアーヌは飛び上がった。
「お嬢様?こんなところで何なさっているんですか!」
声の主はマーガレットだった。
少し息を弾ませており、やはりちょこちょこした動きでアドリアーヌの元までやって来た。
「マ、マーガレット……」
「食堂にいらっしゃらないので探しましたよ。お食事も手を付けてらっしゃらないようでしたけど、お口に合わなかったでしょうか?」
「いえ、そういうわけじゃないのよ!ちょっと……ちょっと部屋に忘れ物をして……」
まさかシシルの後を付けて、この屋敷を探ってましたとは言えずアドリアーヌは半分汗をかきながら誤魔化した。
その声が聞こえたのだろう。
リオネルがアドリアーヌの姿を認めるとつかつかと近寄ってきた。
アドリアーヌの前に立つリオネルは想像よりもグッと高く、そして言い知れぬ威圧感がある。
近づいてみて分かったが若草色で切れ長の目は綺麗だったが、触れれば切れそうな鋭さもあった。
そして何よりも……その瞳には侮蔑の色が入っていた。
「貴様が敵国の売女か。この屋敷からさっさと消えろ」
突然そう言われてアドリアーヌの脳は一瞬思考が止まってしまった。
何を言われたのかが理解できない。
ただ酷い侮辱を受けたのだと分かった。
その間はほんの一瞬だったと思うのだが、理解した瞬間思いっきり顔がひくついた。
なんでこんな初対面の男にこんなことを言われなければならないのか。
言い返そうかとも思った瞬間、アレクセイが戻ってきてリオネルに声をかけた。
「リオネル様、旦那様がお会いされるとのことです。……お二人共どうなされたんですか?」
アレクセイがアドリアーヌとリオネルの間に流れる殺伐とした雰囲気に首を傾げていた。
アドリアーヌはどう答えようかと逡巡したときにリオネルはアドリアーヌを視界の中に入れたくもないように踵を返した。
と思ったら、再び鋭い目線を寄こして言った。
「疫病神が。お前などこの屋敷で悠々自適とは大層な身分だ。反吐が出る」
そう言い放ってリオネルはバサリとマントを翻し、アレクセイの後ろについて行った。
慌ててどういう意味かをリオネルに問おうとした瞬間だった。
隣に立っていたマーガレットがリオネルのあまりの殺気に失神して倒れてきた。
「わー!マーガレット!大丈夫!?」
一つ目、会う使用人の数が少ない。
最初は大きな屋敷だからなかなか会わないのかとか、敵国から来た自分に接する使用人を少なくしているのかと思っていた。
しかし本当にそれだけなのかという違和感が拭えない。
屋敷をうろつかないようにと注意をされており、勝手に屋敷を物色するのも気が引けてあまり外にもいかないようにしているのも原因かもしれない。
そして二つ目はムルム伯爵とはここに来たときの晩餐以来食事を共にすることがなかった。
一度シシルに聞いたことがあるが、相変わらず無表情のまま「旦那様は自室で食事をとるのが習慣ですから」と言われたが何となく誤魔化されているような気もする。
確かに食事はムルム伯爵の元に運ばれていたのを見たこともある。
ただ不思議なことにアドリアーヌが食べているそれとは別メニューだったのが気になった。
なんと言うか……質素な食事だったのだ。
ムルム伯爵は食が細いのだろうかとも思っていたが、別メニューを作るシェフに負担をかけているように思い、今度折を見て同じ食事でいいことを告げようと思っている。
と言うのも、食事の用意を終えるとシシルはアッと今に部屋から出て行ってしまい、食事が終わる頃にまた戻ってくるのだ。
最初は自分がゆっくり食べられるように配慮しているのではないかと思ったのだが……何となく別な理由があるような気がする。
最後三つ目は……こちらがかなり重要なのだが、たまにすすり泣きのようなものが聞こえる。
気のせいかとも思ったが、初日に薄暗い廊下の先で聞こえてきたし、あの時にはシシルにもその先に行くことを止められた。
確認したいと思うものの、アドリアーヌは幽霊が怖い。
大抵のことは全く以て動じないが、幽霊だけは得体が知れなくて、物理的攻撃も効かないためダメなのだ。
そんな話は置いておいて、アドリアーヌは自室にて唸っていた。
「うーん、何かおかしい……」
アドリアーヌの疑問は日に日に募っていった。
ただ使用人に言ってもたぶん誤魔化されるだろうと感じ、とうとう行動に移すことにした。
アドリアーヌの食事の準備が終わるとシシルは、部屋を出て行く。
それを見計らって調査することにしたのだ。
(よーし!この謎を暴いてやるぞ!)
ムルム伯爵の屋敷に来てから暇を持て余していたし、面白いことはないかなぁとも思っていたのでアドリアーヌは気合を入れた。
シシルの後をそっとつける。
するとマーガレットという使用人がちょうどシシルと話しているところにでくわした。
マーガレットはアドリアーヌと同世代だと思う。
まだ若く見習いという雰囲気があり、背が一般女性よりは低く、小柄でどことなくリスに近い印象があった。
そう思うのは動きがちょろちょろしているせいだと思う。
そんな二人の話を身を潜めて聞いてみる。
「旦那様の元に食事を届けるのですか?では私はクリストファー様のところに届けます。旦那様のことは任せましたよ」
「分かりました!」
(クリストファー様?)
聞き慣れない人物の名前に首を傾げる。
そしてその人物の元にも食事を運ぶようにと言っているということはクリストファーという人物はこの屋敷にいるということである。
「それと、それが終わったら洗濯をしておいて頂戴。掃除は私がやりますが昼食の下準備をファゴに依頼されているので手伝うように」
「わ、分かりました!」
「では、お願いね」
シシルはそう言うと今度は速足で廊下を駆けて行く。
シシルとマーガレットのどちらを追うか悩んだが、シシルはアッという間に立ち去ってしまい、後に残されたマーガレットは半分溜め息をついて泣きそうになりながら愚痴った。
「あーもう忙しすぎる!これ終わったら洗濯だなんて……この屋敷を八人で回すのは無理よ!」
半分自棄になったようにマーガレットはそう言いながら、半分泣きそうな顔でムルム伯爵の私室に向かって行く。
(八人……?この屋敷を八人で見てるって言った?)
にわかには信じがたい。
ムルム伯爵の屋敷は、標準よりは少しこじんまりとしているのかもしれないが、それでも十分な広さの屋敷である。
各部屋の掃除、庭の管理、経営管理、料理洗濯、その他雑務……
膨大な量をこなすにはとても八人では足りない。というか二十人でも少ないくらいだ。
それなのに……八人とは、聞き違いなのでは……と思ってしまう。
そんな風に考えているうちに、マーガレットはムルム伯爵の私室へと向かって行った。
これ以上ここにいても仕方ない。
とりあえず嘘か本当かは分からないが、一つ目の疑問であった会う使用人の数が少ないというのはそういう理由なのだと理解した。
でも何故そんなに使用人の数が少ないのか?
新たな疑問首を捻りつつ、アドリアーヌは食堂へと戻ることにした。
そうして踵を返そうとした時に、エントランスが少し騒がしいことに気づく。
堂々と出て行くわけにはいかないが、こんな朝に客人というのも珍しい。
誰が来たのかと好奇心が疼き、アドリアーヌはこっそりと客人を見ることにした。
客人は若い男だった。
銀髪の髪はサラサラで、背はかなり高い。180cmはあるだろうか?
顔立ち遠くてははっきりと見えないが、がっちりとした筋肉質な体躯をしていることは分かった。
控えめな金の刺繍をした黒い詰め襟の服に赤いマントが印象的だ。
腰に剣をさしていることから騎士なのではないかと想像された。
「リオネル様、いらっしゃいませ」
「あぁ、アレクセイか。伯爵はいらっしゃるか?」
「はい、いらっしゃいます。現在食事中ですので、旦那様がお会いになるか確認してきます」
男はリオネルというらしい。
アレクセイが慌てて出てきたのはリオネルが突然やって来たからだろうか?
人の家に何の連絡もなしに来るとは、少し非常識な気もするが。
アレクセイが伯爵の予定を聞きに行っている間、リオネルはエントランスに立っている。
微動だにせず直立不動。なんか……少し異様な雰囲気も感じる。
(あの人、何をしに来たのかしら?なんか貴族にしては雰囲気が貴族っぽくないし……やっぱり騎士様なのかしら?)
そう思って覗いていると背後から声を掛けられて、アドリアーヌは飛び上がった。
「お嬢様?こんなところで何なさっているんですか!」
声の主はマーガレットだった。
少し息を弾ませており、やはりちょこちょこした動きでアドリアーヌの元までやって来た。
「マ、マーガレット……」
「食堂にいらっしゃらないので探しましたよ。お食事も手を付けてらっしゃらないようでしたけど、お口に合わなかったでしょうか?」
「いえ、そういうわけじゃないのよ!ちょっと……ちょっと部屋に忘れ物をして……」
まさかシシルの後を付けて、この屋敷を探ってましたとは言えずアドリアーヌは半分汗をかきながら誤魔化した。
その声が聞こえたのだろう。
リオネルがアドリアーヌの姿を認めるとつかつかと近寄ってきた。
アドリアーヌの前に立つリオネルは想像よりもグッと高く、そして言い知れぬ威圧感がある。
近づいてみて分かったが若草色で切れ長の目は綺麗だったが、触れれば切れそうな鋭さもあった。
そして何よりも……その瞳には侮蔑の色が入っていた。
「貴様が敵国の売女か。この屋敷からさっさと消えろ」
突然そう言われてアドリアーヌの脳は一瞬思考が止まってしまった。
何を言われたのかが理解できない。
ただ酷い侮辱を受けたのだと分かった。
その間はほんの一瞬だったと思うのだが、理解した瞬間思いっきり顔がひくついた。
なんでこんな初対面の男にこんなことを言われなければならないのか。
言い返そうかとも思った瞬間、アレクセイが戻ってきてリオネルに声をかけた。
「リオネル様、旦那様がお会いされるとのことです。……お二人共どうなされたんですか?」
アレクセイがアドリアーヌとリオネルの間に流れる殺伐とした雰囲気に首を傾げていた。
アドリアーヌはどう答えようかと逡巡したときにリオネルはアドリアーヌを視界の中に入れたくもないように踵を返した。
と思ったら、再び鋭い目線を寄こして言った。
「疫病神が。お前などこの屋敷で悠々自適とは大層な身分だ。反吐が出る」
そう言い放ってリオネルはバサリとマントを翻し、アレクセイの後ろについて行った。
慌ててどういう意味かをリオネルに問おうとした瞬間だった。
隣に立っていたマーガレットがリオネルのあまりの殺気に失神して倒れてきた。
「わー!マーガレット!大丈夫!?」
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