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お兄様を助けるために②
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そして別れ際に言った言葉の意味。
――元気で。
きっともう会えないと思ったから言ったのだと思う。
教授に頼まれなくともお兄様を救いたい。救わなくちゃいけない。
「もちろんです。私の全てを賭けてフレッド様をお助けします」
15年以内にお兄様の病気の治療方法を確立して目覚めさせる。
私はダニエル様との婚約を解消して、その日から自分の人生の全てを賭けて研究を始めた。
お兄様以外を好きになることもなかったし、結婚もしなかった。
家族は私の行く末を心配したけど、私は構わなかった。
お兄様を助けるため。もう一度目覚めてもらうため。生きてもらうために私は持てる知識を総動員して研究を続けた。
そして気づけばあっという間にコールドスリープの限界である15年が経とうとしていた。
(駄目だわ。この細胞情報でもない…)
私は解析結果を見て顔を覆った。
お兄様の病気の原因となる細胞情報はそれを構成する2万個の組織の一つが突然変異したところまでは確定したけど、2万個の内のどの組織かが分からない。
それでもこの15年の研究と、あとは自分の中で「これは違う」という強い記憶のような感覚から導き出して1万個まで絞ることができた。
残り1万個の組織解析が必要。だけどタイムリミットの15年まであと1か月。
間に合うか分からない。
間に合わなかったらお兄様を失ってしまう恐怖で心が冷たくなって、そして焦りが心を支配する。
(落ち着いて。次はこの組織から解析しましょう)
私はそう自分に言い聞かせてもう一度解析魔法を展開した。
結果が出るまで少し時間があるので、私は気分転換にカフェに行って軽食を買うことにして研究室を出た。
集中していたせいで昼食をすっかり食べそこなってしまった。集中していたからお腹は空いてなかったけど、意識したら急にお腹が空いた。
たぶん、馴染みのカフェならサンドウィッチくらいは優遇してくれるはず。
そう思って街を歩くけど、その間もどうしても研究の事を考えてしまう。
だから反応が遅れてしまった。
馬の嘶きと車輪が激しく鳴る音、そして御者の叫ぶ声。
気づくと地面に倒れこんでいた。
全身が痛くて痛くて、動かそうとしても動かない。
頭がくらくらしてぼーっとして…誰かが遠くから何かを言っているけど全然聞こえなかった。
早く研究室に帰って解析結果を確認しなくちゃならいのに、意識が薄れているのが分かる。
(あぁ…私は死ぬのね)
全身打撲の上、内臓がものすごく痛い。たぶん内臓機能がダメージを受けているのだろう。
もう助からないのが自分でも分かるのが不思議だ。
悔しい。
お兄様を助けてあげれなかった。
大好きなフレッドお兄様の笑顔がもう一度見たかった。
そんな後悔を抱いたまま、私の視界は暗闇に覆われていった。
――元気で。
きっともう会えないと思ったから言ったのだと思う。
教授に頼まれなくともお兄様を救いたい。救わなくちゃいけない。
「もちろんです。私の全てを賭けてフレッド様をお助けします」
15年以内にお兄様の病気の治療方法を確立して目覚めさせる。
私はダニエル様との婚約を解消して、その日から自分の人生の全てを賭けて研究を始めた。
お兄様以外を好きになることもなかったし、結婚もしなかった。
家族は私の行く末を心配したけど、私は構わなかった。
お兄様を助けるため。もう一度目覚めてもらうため。生きてもらうために私は持てる知識を総動員して研究を続けた。
そして気づけばあっという間にコールドスリープの限界である15年が経とうとしていた。
(駄目だわ。この細胞情報でもない…)
私は解析結果を見て顔を覆った。
お兄様の病気の原因となる細胞情報はそれを構成する2万個の組織の一つが突然変異したところまでは確定したけど、2万個の内のどの組織かが分からない。
それでもこの15年の研究と、あとは自分の中で「これは違う」という強い記憶のような感覚から導き出して1万個まで絞ることができた。
残り1万個の組織解析が必要。だけどタイムリミットの15年まであと1か月。
間に合うか分からない。
間に合わなかったらお兄様を失ってしまう恐怖で心が冷たくなって、そして焦りが心を支配する。
(落ち着いて。次はこの組織から解析しましょう)
私はそう自分に言い聞かせてもう一度解析魔法を展開した。
結果が出るまで少し時間があるので、私は気分転換にカフェに行って軽食を買うことにして研究室を出た。
集中していたせいで昼食をすっかり食べそこなってしまった。集中していたからお腹は空いてなかったけど、意識したら急にお腹が空いた。
たぶん、馴染みのカフェならサンドウィッチくらいは優遇してくれるはず。
そう思って街を歩くけど、その間もどうしても研究の事を考えてしまう。
だから反応が遅れてしまった。
馬の嘶きと車輪が激しく鳴る音、そして御者の叫ぶ声。
気づくと地面に倒れこんでいた。
全身が痛くて痛くて、動かそうとしても動かない。
頭がくらくらしてぼーっとして…誰かが遠くから何かを言っているけど全然聞こえなかった。
早く研究室に帰って解析結果を確認しなくちゃならいのに、意識が薄れているのが分かる。
(あぁ…私は死ぬのね)
全身打撲の上、内臓がものすごく痛い。たぶん内臓機能がダメージを受けているのだろう。
もう助からないのが自分でも分かるのが不思議だ。
悔しい。
お兄様を助けてあげれなかった。
大好きなフレッドお兄様の笑顔がもう一度見たかった。
そんな後悔を抱いたまま、私の視界は暗闇に覆われていった。
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