14歳年上の幼馴染のお兄様がひとつ年下になっちゃいました 〜天才令嬢は愛しい人を救うためタイムリープを繰り返す〜

イトカワジンカイ

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繰り返すタイムリープ

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「!」

再び目を覚ました時、世界が光り輝いて見えた。

光に目が慣れて周囲を見回すと、そこには見慣れたコンサバトリーとテーブルに置かれたティーセット。
大きな窓ガラスから差し込む光がティーポットを照らして、その金色の装飾に反射してキラキラと光っている。

なんで?どうして?ここは?

そんな疑問が私の頭の中で渦巻いていると、聞き覚えのある優しい声が私の名前を呼んだ。

「クロエ、どうしたんだい?ぼっとしてたようだけど」

目の前ではフレッドお兄様が不思議そうに私を見ていた。

「お兄様、生きてらっしゃるわよね?」
「ははは、もちろん生きてるよ」

このやり取りに既視感があって、ふと自分の手を見るとそこにあるのは小さな子供の手。
ティーカップの中を覗き込むと、そこには10歳の私が映っていた。

(もしかして…私、子供の頃に戻っている?)

その時全て理解できた。そう、私がこの景色を見るのは初めてではない。
私はこの光景を繰り返している。

しかも1回や2回じゃない。もう10回以上はこの人生を繰り返しているのだ。

それを人はタイムリープと呼ぶんだと思う。

この日から始まって、お兄様が病に倒れてコールドスリープして、15年かけて研究して馬車に轢かれて死ぬ。それを繰り返している。

だから、前世での知識が積み重なって10歳としては天才的な医療魔術の知識を持っていたんだと気づいた。

久しぶりに見た空色の瞳には、泣きそうな自分の姿が映っていた。
この笑顔に会いたかった。
だけどこの先、お兄様は病に倒れてしまう。
だから絶対にお兄様を治す。そのために私はタイムリープを繰り返して知識を引き継いで研究を重ねていたのだから。

「お兄様の事は私が助けますからね」
「なんだい藪から棒に」
「いいえ、なんでもないです」

私はフレッドお兄様に笑顔を向けつつ、心の中で強く決意した。



もう何度目のタイムリープなのか、数えきれないほど繰り返して私はようやくお兄様の病気の原因となる細胞情報を特定できた。

「やったわ…ようやく、ようやく見つけた!」

タイムリープを繰り返すと、その分だけ知識が溜まっていくので前世での研究結果の続きから再び研究をすることができた。

そして2万個全ての細胞情報を解析して、ようやくお兄様の病気の原因となる細胞情報が特定できたときには、深い安堵のため息が漏れ出るとともに泣きそうになってしまった。

それから間もなくして私はその遺伝情報から病気の特効薬を開発した。
そこまでもかなりの時間を要した。

何度も何度も実験を繰り返して、タイムオーバーで再び人生をやり直す。
原因特定からさらに数十回はタイムリープしたと思う。

そしてようやく、本当にようやく、この日を迎えることができた。

今回は不思議なことに私は馬車で死ぬこともなく、またタイムリープをすることはなかった。

もしかして2万個の細胞情報の解析を終えることができたからかもしれないし、薬を開発出来たからかもしれない。

だからこの薬を投与すればお兄様の病は完治して、このコールドスリープから目覚めることができるはず。

(でも本当にそうなのかしら?)

一抹の不安が頭をよぎった。

一つ目の不安は本当に薬が効くのかということ。
もし薬が効かなかった場合、もう一回タイムリープして10歳のあの日に戻れるかは分からない。だって馬車で死ぬことなく、私は生きているのだから。

だから今回がお兄様を目覚めさせる唯一で最後のチャンスになるかもしれない。

もし失敗したら…もう二度とお兄様の笑顔を見ることも言葉を交わすこともできない。
今度こそ本当にお兄様を失ってしまう。それが怖い。

そして2つ目の不安は現在の私を、お兄様は受け入れてくれるかということだった。
既に私は28歳になっている。

対してお兄様は27歳のまま時間が止まっていて、気づけばお兄様よりも年上になってしまった。
そんな私をお兄様は好きだと言ってくれるのか分からない。

年上だからとか、若くないから受け入れられないと嫌われてしまったら、やっぱり生きていけないかもしれない。

(ううん。駄目よ、しっかりしなきゃ!)

私は深呼吸して不安を頭から押しやった。
自分とお兄様を信じる。
私は意を決してお兄様を覆うガラスの棺を開けた。

白い水蒸気の煙とひやりとした空気が音もなく床へと落ちて行った。

そっとお兄様の頬に触れると、冷たくて、もう死んでいるのではと一瞬思ってしまう。

震えそうな手を押さえつつ、私はフレッドお兄様の腕に注射の針を刺して、中の液体を注入した。
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