14歳年上の幼馴染のお兄様がひとつ年下になっちゃいました 〜天才令嬢は愛しい人を救うためタイムリープを繰り返す〜

イトカワジンカイ

文字の大きさ
上 下
1 / 7

妹みたいな存在

しおりを挟む
目の前には私の好きなフレッドお兄様がガラスの棺の中で横たわっていた。その目は固く閉じられていて、触れると冷たくなっている。

その光景を信じられない思いで見ていた。

また助けられなかった。
口惜しさから俯いていると、遠くから自分を呼ぶ声が聞こえてくる。

「…エ、…ロエ…クロエ!」
「えっ…あ、お兄様…」

自分の名前を呼ばれて私は我に返った。

気づけばいつも紅茶を飲むフレッドお兄様の屋敷――アルドリッジ伯爵家の離れにあるコンサバトリーの光景が目に入って来た。

壁面の大きな窓ガラスから差し込む太陽の光が、テーブルの上にある乳白色のティーポッドを照らしている。
ふと見ればカップの中の琥珀色には私のぼうっとした幼い顔が映っていた。

「どうしたんだい?ぼっとしてたようだけど」
「お兄様、生きてらっしゃるわよね?」
「ははは、もちろん生きてるよ」

さっき夢で見たフレッドお兄様は私の目の前で冷たくなっていて…いま思い出しても恐怖で背中がぞくりとしてしまう。

兄様が死んでしまう。そんなことは現実ではなくうたた寝してしまった夢に過ぎないわ。

「ちょっと、試験前で緊張しているのかもしれません。飛び級で魔術大学校を受験することになったのですから…不安なんです」
「そう?」

フレッドお兄様は私の顔を覗き込むようにして、そしてぎゅっと手を握ってくださった。

お兄様の掌は私よりもずっと大きくて、包み込まれた手からお兄様の温もりを感じて思わず心臓がとくんと鳴った。

フレッドお兄様は私の兄ではなく、幼馴染に男性。フレッドお兄様にとって私は妹みたいな存在だって分かっているけど、私はお兄様にずっと片想いをしてる。

そんな私の想いも知らず、お兄様は私の頭を撫でながら柔和な笑みを浮かべて言った。

「大丈夫。僕のクロエは天才だからね」

天才。
皆が私の事をそう言う。

私ことクロエ・ランデットは伯爵家の一人娘になる。歳は10歳だけど、それよりも小さい頃に初等教育はクリアしてしまってる。

だから自分では自覚は無かったけれど、私は「天才」と称されるほどの頭脳を持っているみたい。
ただ、その知識は凄く偏っていて、主に医療魔術分野にのみ特化してるのだけど…。

なんでそうなのかは分からないけどね。

そんな特殊な頭脳を持っているせいで、私は実年齢よりもずっと大人な性格になってる。
だから気味悪がられることもあるし、陰口を言われているのも知っている。

人とは違うことを不安に思ったことは何度もあったけど、その度にお兄様は「大丈夫。僕は何があっても傍にいるよ」と頭を撫でて何度も言ってくれた。

温かい大きな手に触れられると凄く心強くて、
金色の髪が太陽の輝きのように私の心を明るく照らしてくれて、
私を見つめる空色の瞳は真っすぐに“私”を見てくれて、
春の柔らかな日差しのような笑みで私の心を温めてくれて…

気づけばお兄様の事を男性として好きになっていた。

でも、その想いが叶わないことも知っている。
だって、お兄様には既に婚約者がいらっしゃるのだから。

「フレッド様。ロザリー様がいらっしゃいました」

執事がそう言いながらお茶をしていた離れのコンサバトリーに入って来た。

ロザリー様。彼女がフレッドお兄様の婚約者。

美しい鮮やかな緋色の髪に透き通るような肌。スラリとした肢体に似合わず豊満な胸。女性の私から見ても魅力的な方だ。

「はぁ…今日はクロエとお茶をすると言っていたのに」
「どうされますか?」

お兄様がため息交じりに言っているけど、半分仕方がないという表情だった。

ロザリー様はお兄様の親友の妹さんで、よく屋敷で会っていたこともあって気心も知れてるみたい。「仕方ないなぁ」と口では言っているけど決して嫌がっているわけじゃない。

「お兄様。私、そろそろ失礼しますね」
「気にすることないんだよ。いつものロザリーの我儘なんだから」
「いえ。大学入試も迫っているので勉強しなくては。では、お兄様。失礼しますね」

私はそう言ってコンサバトリーを出ると、入口にロザリー様が立っていらっしゃって、中から出た私と鉢合わせしてしまった。

「ごきげんよう、ロザリー様」

私が挨拶するけどロザリー様はこちらを睨むように見て、そのままコンサバトリーに入ってしまった。
すると直ぐにロザリー様の声が聞えて来た。

「またあの子来ていたの?2人きりで会わないでって言ったわよね」

あの子…というのはもちろん私の事。だから思わず足を止めてしまった。

「ごめん。彼女は試験前だからリラックスして欲しくてね」
「婚約者の私のお願いよりもあの子を優先するわけ?フレッドにとってあの子ってなんなの?私より大切なの?」
「彼女は…妹みたいなものだよ。君のことは大切に思ってるよ」

その言葉に胸がずきっとした。
そう、いつまでたってもお兄様の中で私は妹。

当たり前よね。私は10歳の子供、それに対してお兄様は24歳だ。

14歳も歳が離れていて、自分が恋愛対象ではないことは理解している。

だけどお兄様の口からそれを言われるとやっぱり辛い。

ちらりと後ろを振り向いたらお二人が抱き合っているのが見えて、私は逃げるように屋敷に帰った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完全無欠な学園の貴公子は、夢追い令嬢を絡め取る

小桜
恋愛
伯爵令嬢フランシーナ・アントンは、真面目だけが取り柄の才女。 将来の夢である、城勤めの事務官を目指して勉強漬けの日々を送っていた。 その甲斐あって試験の順位は毎回一位を死守しているのだが、二位にも毎回、同じ男の名前が並ぶ。 侯爵令息エドゥアルド・ロブレスーー学園の代表、文武両道、容姿端麗。 学園の貴公子と呼ばれ、なにごとにも完璧な男だ。 地味なフランシーナと、完全無欠なエドゥアルド。 接点といえば試験の後の会話だけ。 まさか自分が、そんな彼と取引をしてしまうなんて。 夢に向かって突き進む鈍感令嬢フランシーナと、不器用なツンデレ優等生エドゥアルドのお話。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

転生先は推しの婚約者のご令嬢でした

真咲
恋愛
馬に蹴られた私エイミー・シュタットフェルトは前世の記憶を取り戻し、大好きな乙女ゲームの最推し第二王子のリチャード様の婚約者に転生したことに気が付いた。 ライバルキャラではあるけれど悪役令嬢ではない。 ざまぁもないし、行きつく先は円満な婚約解消。 推しが尊い。だからこそ幸せになってほしい。 ヒロインと恋をして幸せになるならその時は身を引く覚悟はできている。 けれども婚約解消のその時までは、推しの隣にいる事をどうか許してほしいのです。 ※「小説家になろう」にも掲載中です

乙女ゲームは見守るだけで良かったのに

冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した私。 ゲームにはほとんど出ないモブ。 でもモブだから、純粋に楽しめる。 リアルに推しを拝める喜びを噛みしめながら、目の前で繰り広げられている悪役令嬢の断罪劇を観客として見守っていたのに。 ———どうして『彼』はこちらへ向かってくるの?! 全三話。 「小説家になろう」にも投稿しています。

女嫌いな騎士団長が味わう、苦くて甘い恋の上書き

待鳥園子
恋愛
「では、言い出したお前が犠牲になれ」 「嫌ですぅ!」 惚れ薬の効果上書きで、女嫌いな騎士団長が一時的に好きになる対象になる事になったローラ。 薬の効果が切れるまで一ヶ月だし、すぐだろうと思っていたけれど、久しぶりに会ったルドルフ団長の様子がどうやらおかしいようで!? ※来栖もよりーぬ先生に「30ぐらいの女性苦手なヒーロー」と誕生日プレゼントリクエストされたので書きました。

愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。 それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。 一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。 いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。 変わってしまったのは、いつだろう。 分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。 ****************************************** こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏) 7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。

処理中です...