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第9章 決別③
しおりを挟む孝之からの何度目かのLINEが来ている…かもしれない。別れようと言われるかもしれない。それが怖くて由希子はLINEをブロックして見ないふりをした。その代わりその気持ちを振り切るように仕事に打ち込んでいた。
「大丈夫?無理してない?」
傍に来ていた南に声を掛けられる。
「南くん…うん…大丈夫。何か用?」
「ちょっと話できる?リフレッシュルームに行く?」
「うん…」
南に促されるように由希子は席を立った。
「今どうしてるの?家に帰ってないでしょ?」
「うん…」
由希子は家を出てからはいわゆる家具付きのウィークリーマンションに住んでいた。何とか食費を切り詰めれば住めないこともない。
南は神妙な面持ちで言葉を選ぶように何かを言おうとしているのが分かった。
「どうしたの?」
様子が違うので思わず由希子は南の顔を覗き込んだ。
「今日…旦那さんが会社に来てた。」
「!!」
息が詰まる。どうやって呼吸をすればいいのだろうか?
急に現実を突きつけられて…。
もう孝之の心は尾崎のもとに行っていることは明白だった。それでも逃げていたのはもう傷つきたくなかったからだ。
孝之のことを考えると胸がズキズキ痛くて、泣きそうになって、どうしようもなくなっていた。
そんな由希子の手を取り、南が優しく微笑む。
「俺は…そばにいるから。」
南はいつも自分を見てくれている。子供が欲しい理由も、生きる理由も与えてくれて、そして心の支えになってくれる。
「なんか…南くんに変なところばっかり見せちゃって。ダメだよね。一人で生きなくちゃ。」
「いいんだ。俺にメッセージくれたのが嬉しかった。…だから、ちゃんと旦那さんと向き合って。俺、待っているから。」
その言葉は由希子の心を安堵させ、そして孝之と話をする決意ができた。
一度、大きく深呼吸する。
「うん。もう…決着付けなきゃね」
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