この関係は不倫ですか?ー夫と後輩の関係は同僚以上?不倫以下?-

イトカワジンカイ

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第8章 罠③

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どこをどう帰ってきたかは分からない。ただ気づくと家に帰って呆然としながらもビーフストロガノフを作っていた。
尾崎曰く、孝之との肉体関係はないと言っていた。事実かはもうどうでもよい気がしていた。スマホで「不倫 どこから」と調べる。どうやら体の関係を持った時点で初めて不倫になるそうだ。
でも…本当にそうだろうか。何度もこそこそ2人で会い、自分にも最近しないキスもして。それをどうやって信じればいいのだろう。
誰かに聞いてほしかった。どうやって信じればいいのか、自分の心の折り合いをどうつければいいのか。でも、誰にも相談できない。誰にどう相談すればいいのか。
その時、由希子が思い浮かべたのは南だった。

「なんで…南くん?」

悩みを聞いてくれたからだろうか。気づくと南にいつも助けられていることに気づいた。動揺を隠すようにLINEを閉じる。が、どうしても耐え切れず何気ないメッセージを送る。
メッセージを送りあっていれば少しは自分も冷静になるだろう。

『南くん、明日よかったらみんなで飲まない?』

同時に孝之にも連絡をしてみた。

『今日は孝之の好きなものを作ったから、もし食べたいなら食べてね』

そうメッセージを送るとすぐにLINEの着信が来た。孝之か?南か?
恐る恐る見ると、LINEは南からのものだった。

「どうしたの?南くん。メッセージくれればよかったのに。」
「うん…何となく、由希子が話したいんじゃないかって思って。何かあった?」

どきんと胸が鳴った。どうして、南はそのことを分かってくれたのだろうか。夫である孝之は何も返信をよこさないのに。

「大丈夫だよ。なにもないよ。ただ、ちょっと明日はぱーっと飲みたいなって思って。」
「由希子って昔から大丈夫だっていうけど、そういう時ホントはつらい時だよね」

確かに南とは学生時代の同級生である。と言っても、南との接点などほとんどなく、図書館で他愛無い言葉を交わす程度だった。それなのに、交際から6年以上もともに過ごしている孝之にはそのような心配をされたことがない。
その事実に由希子は堰を切ったように涙があふれ、泣きながら南に語り掛けていた。

「私…どこか悪いのかな。頑張っているのに…」

何をとは言わない。だけど、それだけで南には通じるようだった。

「俺は宮下が頑張っていること、知ってる。気を使って本音を言えないことも。でも、俺は…頑張らなくていいと思う。」
「え?」
「たぶん、由希子は仕事をして、成果を出して。そうしているうちに誰にも頼れないようになっているんだよな。でも、無理に頑張らなくていいよ。」

それは由希子が欲しかった言葉だった。スマホを持つ手が震える。

「どうして…そんなこと分かるの?」
「あのさ、宮下言ってたじゃないか。大学の時、図書館で声をかけてくれて。“南くんは、繊細なんだよ。それは生きづらいかもしれない。でもね、そのやさしさが誰かの支えになることもあるよ”って」

そういえばそんなことを言ったと思い出した。何の気なしに言った言葉、だけどそれを南はずっと覚えていてくれたのだ。

「だからその言葉を聞いた時いつか誰かの支えになれればいいと思ったけど、今は宮下の支えになりたいと思う。だから…俺は…」

その先を聞きたい気もするし聞いてはいけない気がした。だけどどうしても南に聞いて、言葉が欲しくなった。

「好きだよ。ずっと前から」。
「でも…私は、家庭を持っている。孝之のことも信じたいし愛していると思う。」

由希子は自分に言い聞かせるようにそう答えていた。

「うん、知ってる。でも、何かあれば力になるから。もし一歩踏み出したいなら力になるから」

ありがとうと言いながら、由希子は泣き崩れていた。

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