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第8章 罠②
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日曜日、接待のゴルフがあるという孝之を見送ったのち、由希子は久しぶりに徹底多岐な部屋の掃除をした。今まで気づかなかったが、二人で過ごした6年分の埃がたまっていた場所もあり、念入りに掃除する。
何もしていないと孝之と尾崎のことが気になってしまっていた。それを振り払うように由希子は一心不乱に掃除と続けた。
「だいぶ…色々ものが増えたな」
何かこの雑多な部屋は由希子の精神状態を表しているようで、これを機に断捨離しようと思った。不要なものを一切捨てる。使えそうなものでもしばらく使ってないものを捨てた。そして…枯れかかった観葉植物を見た。これは結婚前に由希子が孝之の誕生祝に渡したものだった。これをきっかけに由希子と孝之は付き合い、そして結婚した。
「…誰も水を上げなかったから、こんな風に枯れてしまったんだね…。」
そう言って観葉植物に水をやる。乾いていた土が一気に水を吸いこんでいく。たっぷりと水をやった後は、日当たりの良い場所に置きなおした。そこはちょうどダイニングテーブルから見える位置だった。
「よし、これで良し。あとは…」
クローゼットの片づけをしようと思った。が、また次の機会にしようと思いなおした。着れる服もあったし、何より二人でデートしたときの思い出の服や、孝之に買ってもらった服などが合った。
(まぁ、またの機会に整理しよう)
ふと見るとあっという間に16時過ぎ。そろそろごみを出したら買い物に行った方がいいだろう。孝之も帰ってくるし、久しぶりに腕によりをかけて食事を作ろう。
そう思って、由希子はスーパーへと向かった。
タイムセールで生きがいいが格安の野菜と、少し値の張る牛肉を買う。今日はビーフストロガノフを作ろう。孝之が好きなメニューの一つだ。
(せっかくだから、副菜は何にしようかな。ジャーマンポテトとか合うかな)
とにかく久しぶりにゆっくり孝之とご飯を食べれることが嬉しくて、由希子は色々な想像をしながらルンルン気分で買い物をした。
スーパーで買った重たい荷物を抱えながら、家路についていると目の前を若い女が携帯片手に通話しながら歩いていた。
「今日は伊藤先輩来てくれますか?…はい…はい…待ってます」
“伊藤先輩”と呼ぶということは…もしかして…尾崎だろうか。
ドキドキと動悸がして、外に聞こえそうだった。視野は暗くなり自分がどこに立っているか分からなかった。そんな不安を持ってその顔を見ると、やはり尾崎だった。
そんな由希子の視線に気づいて、尾崎が振り返る。視線がばちりと会った。何を話していいか考えあぐねていると尾崎が満面の笑みで由希子に近づいてきた。
「あの…伊藤先輩の奥さんですよね」
「え…えぇ」
「私、伊藤先輩の後輩の尾崎と申します」
「はい…主人がいつのお世話になっています。」
「いいんです。伊藤先輩は仕事は厳しいですけど、いつも優しくしてもらって。」
だから…と尾崎は言葉を区切っていった。
「2回キスしたことはありますけど、それは私が勝手にしたこと何で。ごめんなさい。先輩を責めないでください。」
2回?一度だけって言っていたのに。
「それに…まだ体の関係はないので。まぁギリギリっていうのもありましたが、その点は安心してください。」
頭から冷や水を浴びせられた気持ちだった。それを現実に引き戻すように由希子の携帯にLINEが入る。
『今日は接待をすることになったから、遅く帰る』
あぁ…そういうことか。たかがキス。でも由希子との時間より尾崎の約束を優先したのだ。断ってほしかった。そしてウソをつかれていたことにショックを受けた。
「なので、まだこの関係は不倫じゃないんで。」
じゃあと言って尾崎は去っていった。
何もしていないと孝之と尾崎のことが気になってしまっていた。それを振り払うように由希子は一心不乱に掃除と続けた。
「だいぶ…色々ものが増えたな」
何かこの雑多な部屋は由希子の精神状態を表しているようで、これを機に断捨離しようと思った。不要なものを一切捨てる。使えそうなものでもしばらく使ってないものを捨てた。そして…枯れかかった観葉植物を見た。これは結婚前に由希子が孝之の誕生祝に渡したものだった。これをきっかけに由希子と孝之は付き合い、そして結婚した。
「…誰も水を上げなかったから、こんな風に枯れてしまったんだね…。」
そう言って観葉植物に水をやる。乾いていた土が一気に水を吸いこんでいく。たっぷりと水をやった後は、日当たりの良い場所に置きなおした。そこはちょうどダイニングテーブルから見える位置だった。
「よし、これで良し。あとは…」
クローゼットの片づけをしようと思った。が、また次の機会にしようと思いなおした。着れる服もあったし、何より二人でデートしたときの思い出の服や、孝之に買ってもらった服などが合った。
(まぁ、またの機会に整理しよう)
ふと見るとあっという間に16時過ぎ。そろそろごみを出したら買い物に行った方がいいだろう。孝之も帰ってくるし、久しぶりに腕によりをかけて食事を作ろう。
そう思って、由希子はスーパーへと向かった。
タイムセールで生きがいいが格安の野菜と、少し値の張る牛肉を買う。今日はビーフストロガノフを作ろう。孝之が好きなメニューの一つだ。
(せっかくだから、副菜は何にしようかな。ジャーマンポテトとか合うかな)
とにかく久しぶりにゆっくり孝之とご飯を食べれることが嬉しくて、由希子は色々な想像をしながらルンルン気分で買い物をした。
スーパーで買った重たい荷物を抱えながら、家路についていると目の前を若い女が携帯片手に通話しながら歩いていた。
「今日は伊藤先輩来てくれますか?…はい…はい…待ってます」
“伊藤先輩”と呼ぶということは…もしかして…尾崎だろうか。
ドキドキと動悸がして、外に聞こえそうだった。視野は暗くなり自分がどこに立っているか分からなかった。そんな不安を持ってその顔を見ると、やはり尾崎だった。
そんな由希子の視線に気づいて、尾崎が振り返る。視線がばちりと会った。何を話していいか考えあぐねていると尾崎が満面の笑みで由希子に近づいてきた。
「あの…伊藤先輩の奥さんですよね」
「え…えぇ」
「私、伊藤先輩の後輩の尾崎と申します」
「はい…主人がいつのお世話になっています。」
「いいんです。伊藤先輩は仕事は厳しいですけど、いつも優しくしてもらって。」
だから…と尾崎は言葉を区切っていった。
「2回キスしたことはありますけど、それは私が勝手にしたこと何で。ごめんなさい。先輩を責めないでください。」
2回?一度だけって言っていたのに。
「それに…まだ体の関係はないので。まぁギリギリっていうのもありましたが、その点は安心してください。」
頭から冷や水を浴びせられた気持ちだった。それを現実に引き戻すように由希子の携帯にLINEが入る。
『今日は接待をすることになったから、遅く帰る』
あぁ…そういうことか。たかがキス。でも由希子との時間より尾崎の約束を優先したのだ。断ってほしかった。そしてウソをつかれていたことにショックを受けた。
「なので、まだこの関係は不倫じゃないんで。」
じゃあと言って尾崎は去っていった。
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