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第7章 羨望①
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南が学生時代で思い出す場所は図書館であった。
人と話しているより、本を読んでいたい人間であった南は、高校時代からクラスメイトの賑やかな教室が息苦しくて、逃げるように図書館に居場所を求めていた。
友達は欲しくないわけではなかったが、数人の気の合う友人と文学や学術的な話をしているのが関の山で、あとは一人でいた方が気が楽だったからだ。
大学に入学してからも南のその習慣は変わらなかった。ただ、最近気になる女性がいた。
図書館で南が定位置としている席から視界に入る場所にいつも彼女は座っていた。
一年のうちは一般教養を受けるのは必須で、単位を取るために課題レポートを山のように出されていた。
たぶん彼女も課題レポートを書いているのだろう。ただ、世の中の大学生の大半が適当にレポートを作っている中で、彼女はこれでもかというほどの資料を確認してレポートにまとめていた。
(ずいぶん熱心だな。一般教養なんて適当にやればいいのに…。)
そういう人間は嫌いじゃない。むしろ好ましい。だが、その程度の存在にしか過ぎなかった。
転機が訪れたのは一般教養の授業が終わった時だった。
(あ、あの子、同じ授業だったんだ)
前方に座った彼女を見て初めて彼女が同じ授業を受けていることに気づいた。
そして課題レポートが返されて学生が一気に教室から出たときだった。ふいに視界に白いものが目に留まった。手に取ってみると誰かのレポートだった。
(宮下由希子…あ、同じ学科だな…)
好奇心に負けず、ペラペラとレポートを見ると、専門的な内容を踏まえながら、多角的な切り口でまとめられてレポートだった。
(すごいな…)
思わず南は感心してしまった。レポートの点はA++の最高点数が付けられていた。
「あ…すみません。それ、私のレポートですよね?」
不意に声をかけられ振り返る。
そこには彼女―宮下由希子がいた。
「あ…あぁ。」
レポートを握ったまま南が戸惑っていると、由希子は不思議そうに首を傾げた。
「あの…レポート…返してもらっていいですか?」
「あ!ごめん。」
「ちなみに、いつも図書館にいる方ですよね」
自分のことを知っていることに南は驚いた。自分が由希子を知っているように、由希子も南を知っていることに思わずドキドキしてしまう。
それから図書館では顔を合わせると他愛無い会話をすることが常になっていた。
「え?南くん学科同じなんだ!」
「そうだね。俺も驚いた。あんなに文学のレポートとか良くかけていたから文系だと思ったら理系なんだ。」
「まぁ、文学も好きだけど、やっぱり研究とか実験の方が好きかな。将来はNASAで研究できたら…とか野望があるんだよね」
「それはすごい野望だね」
夢を語る由希子の姿を南はずっと見つめていた。
人と話しているより、本を読んでいたい人間であった南は、高校時代からクラスメイトの賑やかな教室が息苦しくて、逃げるように図書館に居場所を求めていた。
友達は欲しくないわけではなかったが、数人の気の合う友人と文学や学術的な話をしているのが関の山で、あとは一人でいた方が気が楽だったからだ。
大学に入学してからも南のその習慣は変わらなかった。ただ、最近気になる女性がいた。
図書館で南が定位置としている席から視界に入る場所にいつも彼女は座っていた。
一年のうちは一般教養を受けるのは必須で、単位を取るために課題レポートを山のように出されていた。
たぶん彼女も課題レポートを書いているのだろう。ただ、世の中の大学生の大半が適当にレポートを作っている中で、彼女はこれでもかというほどの資料を確認してレポートにまとめていた。
(ずいぶん熱心だな。一般教養なんて適当にやればいいのに…。)
そういう人間は嫌いじゃない。むしろ好ましい。だが、その程度の存在にしか過ぎなかった。
転機が訪れたのは一般教養の授業が終わった時だった。
(あ、あの子、同じ授業だったんだ)
前方に座った彼女を見て初めて彼女が同じ授業を受けていることに気づいた。
そして課題レポートが返されて学生が一気に教室から出たときだった。ふいに視界に白いものが目に留まった。手に取ってみると誰かのレポートだった。
(宮下由希子…あ、同じ学科だな…)
好奇心に負けず、ペラペラとレポートを見ると、専門的な内容を踏まえながら、多角的な切り口でまとめられてレポートだった。
(すごいな…)
思わず南は感心してしまった。レポートの点はA++の最高点数が付けられていた。
「あ…すみません。それ、私のレポートですよね?」
不意に声をかけられ振り返る。
そこには彼女―宮下由希子がいた。
「あ…あぁ。」
レポートを握ったまま南が戸惑っていると、由希子は不思議そうに首を傾げた。
「あの…レポート…返してもらっていいですか?」
「あ!ごめん。」
「ちなみに、いつも図書館にいる方ですよね」
自分のことを知っていることに南は驚いた。自分が由希子を知っているように、由希子も南を知っていることに思わずドキドキしてしまう。
それから図書館では顔を合わせると他愛無い会話をすることが常になっていた。
「え?南くん学科同じなんだ!」
「そうだね。俺も驚いた。あんなに文学のレポートとか良くかけていたから文系だと思ったら理系なんだ。」
「まぁ、文学も好きだけど、やっぱり研究とか実験の方が好きかな。将来はNASAで研究できたら…とか野望があるんだよね」
「それはすごい野望だね」
夢を語る由希子の姿を南はずっと見つめていた。
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