この関係は不倫ですか?ー夫と後輩の関係は同僚以上?不倫以下?-

イトカワジンカイ

文字の大きさ
上 下
19 / 29

第7章 羨望①

しおりを挟む
南が学生時代で思い出す場所は図書館であった。
人と話しているより、本を読んでいたい人間であった南は、高校時代からクラスメイトの賑やかな教室が息苦しくて、逃げるように図書館に居場所を求めていた。
友達は欲しくないわけではなかったが、数人の気の合う友人と文学や学術的な話をしているのが関の山で、あとは一人でいた方が気が楽だったからだ。
大学に入学してからも南のその習慣は変わらなかった。ただ、最近気になる女性がいた。
図書館で南が定位置としている席から視界に入る場所にいつも彼女は座っていた。
一年のうちは一般教養を受けるのは必須で、単位を取るために課題レポートを山のように出されていた。
たぶん彼女も課題レポートを書いているのだろう。ただ、世の中の大学生の大半が適当にレポートを作っている中で、彼女はこれでもかというほどの資料を確認してレポートにまとめていた。

(ずいぶん熱心だな。一般教養なんて適当にやればいいのに…。)

そういう人間は嫌いじゃない。むしろ好ましい。だが、その程度の存在にしか過ぎなかった。
転機が訪れたのは一般教養の授業が終わった時だった。

(あ、あの子、同じ授業だったんだ)

前方に座った彼女を見て初めて彼女が同じ授業を受けていることに気づいた。
そして課題レポートが返されて学生が一気に教室から出たときだった。ふいに視界に白いものが目に留まった。手に取ってみると誰かのレポートだった。

(宮下由希子…あ、同じ学科だな…)

好奇心に負けず、ペラペラとレポートを見ると、専門的な内容を踏まえながら、多角的な切り口でまとめられてレポートだった。

(すごいな…)

思わず南は感心してしまった。レポートの点はA++の最高点数が付けられていた。

「あ…すみません。それ、私のレポートですよね?」

不意に声をかけられ振り返る。
そこには彼女―宮下由希子がいた。

「あ…あぁ。」

レポートを握ったまま南が戸惑っていると、由希子は不思議そうに首を傾げた。

「あの…レポート…返してもらっていいですか?」
「あ!ごめん。」
「ちなみに、いつも図書館にいる方ですよね」

自分のことを知っていることに南は驚いた。自分が由希子を知っているように、由希子も南を知っていることに思わずドキドキしてしまう。
それから図書館では顔を合わせると他愛無い会話をすることが常になっていた。

「え?南くん学科同じなんだ!」
「そうだね。俺も驚いた。あんなに文学のレポートとか良くかけていたから文系だと思ったら理系なんだ。」
「まぁ、文学も好きだけど、やっぱり研究とか実験の方が好きかな。将来はNASAで研究できたら…とか野望があるんだよね」
「それはすごい野望だね」

夢を語る由希子の姿を南はずっと見つめていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

社長から逃げろっ

鳴宮鶉子
恋愛
社長から逃げろっ

拝啓、大切なあなたへ

茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。 差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。 そこには、衝撃的な事実が書かれていて─── 手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。 これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。 ※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。

処理中です...