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第6章 秘密③
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その答えを即答できないまま、席を立って孝之は外に出た。
ドキドキが収まらない。どういう状況に陥っているかも分からなかった。
でも…
“私には先輩が必要なんです”
そうすがるような眼を見て、どうしようもなく心がざわついた。
孝之はそんなことを思いながら逃げるように歩いた。
後方から尾崎が呼び止める。そして…キスをされた。
まるで時間が止まったような感覚。
「先輩…お願いです。私を捨てないでください。」
半分泣きそうな尾崎の顔を見て、孝之は自然とそのキスを受け入れていた。
この関係は不倫になってしまうのか。
そんなことを思いながら。
尾崎とキスしてから数日が経っていた。
1回目のキスは触れるようなキス。突然のキスに頭が真っ白になって動けなくなっていた。2回目のキスは濃厚で。空気さえも飲み込むようなキス。
どうしてそうしてしまったか、孝之自身も分からなかった。
ただ、尾崎を見捨てることもできず、そして自分を頼ってくれる存在を無視できなかったのだと、孝之は思っていた。
「孝之?」
今日は天気で、気が滅入っている孝之にとってはその晴天が恨めしいくらいだった。
ぼうっとしていると由希子が声をかけたのも気づかなかったようで、何度目かに呼ばれて気づいた。
「孝之…どうしたの?」
「ん…なんでもない…」
「仕事、疲れているの?」
何と解していいのか分からず、孝之は曖昧な回答をした。
折角の休日。由希子と孝之が共に過ごせるつかの間の休息だった。だが、それが逆に居心地を悪くしていた。
そんな時尾崎からLINEが入る。
「だれ?」
ドキリとした。差出人は尾崎からだった。由希子への後ろめたさもあって、孝之は内心冷や汗をかいた。
「後輩。」
その答えに、みるみる内に由希子の顔が曇る。
「あの女の人?休日まで連絡が来るの、おかしくない?」
「仕事だから。それに後輩にやさしくするのは先輩の役目だろ」
由希子は悲しそうな顔をする。
「どうして…その優しさを私に向けてくれないの?」
「引継ぎが明日で終わるから、もう尾崎と縁もなくなる。だから…そんな目で見ないでくれ」
じゃあ行ってくると逃げるように孝之は外へ向かっていった。
ばたん
無慈悲に閉められる玄関の音を聞いて、由希子は取り残されたことを実感した。
夫婦って何だろう…。孝之を見送って、由希子は呆然とそう思った。
だけど考えても答えは見つからなかった。
ドキドキが収まらない。どういう状況に陥っているかも分からなかった。
でも…
“私には先輩が必要なんです”
そうすがるような眼を見て、どうしようもなく心がざわついた。
孝之はそんなことを思いながら逃げるように歩いた。
後方から尾崎が呼び止める。そして…キスをされた。
まるで時間が止まったような感覚。
「先輩…お願いです。私を捨てないでください。」
半分泣きそうな尾崎の顔を見て、孝之は自然とそのキスを受け入れていた。
この関係は不倫になってしまうのか。
そんなことを思いながら。
尾崎とキスしてから数日が経っていた。
1回目のキスは触れるようなキス。突然のキスに頭が真っ白になって動けなくなっていた。2回目のキスは濃厚で。空気さえも飲み込むようなキス。
どうしてそうしてしまったか、孝之自身も分からなかった。
ただ、尾崎を見捨てることもできず、そして自分を頼ってくれる存在を無視できなかったのだと、孝之は思っていた。
「孝之?」
今日は天気で、気が滅入っている孝之にとってはその晴天が恨めしいくらいだった。
ぼうっとしていると由希子が声をかけたのも気づかなかったようで、何度目かに呼ばれて気づいた。
「孝之…どうしたの?」
「ん…なんでもない…」
「仕事、疲れているの?」
何と解していいのか分からず、孝之は曖昧な回答をした。
折角の休日。由希子と孝之が共に過ごせるつかの間の休息だった。だが、それが逆に居心地を悪くしていた。
そんな時尾崎からLINEが入る。
「だれ?」
ドキリとした。差出人は尾崎からだった。由希子への後ろめたさもあって、孝之は内心冷や汗をかいた。
「後輩。」
その答えに、みるみる内に由希子の顔が曇る。
「あの女の人?休日まで連絡が来るの、おかしくない?」
「仕事だから。それに後輩にやさしくするのは先輩の役目だろ」
由希子は悲しそうな顔をする。
「どうして…その優しさを私に向けてくれないの?」
「引継ぎが明日で終わるから、もう尾崎と縁もなくなる。だから…そんな目で見ないでくれ」
じゃあ行ってくると逃げるように孝之は外へ向かっていった。
ばたん
無慈悲に閉められる玄関の音を聞いて、由希子は取り残されたことを実感した。
夫婦って何だろう…。孝之を見送って、由希子は呆然とそう思った。
だけど考えても答えは見つからなかった。
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