12 / 29
第4章 見えない心③
しおりを挟む由希子は結局プロジェクトの打ち合わせが長引き、3時間の残業となった。
「あぁ…今日はあまりもので食事作らなくちゃ。」
そう思いながら由希子は帰路に着いた。
『ごめん。今から家に帰るね。』
だけどなかなかLINEは既読にはならない。不思議に思いつつ結局家に着いた21時となっていた。
「ただいまー」
家に帰ると、孝之はスマホで通話しているようだった。
由希子を認めると目で「お帰り」という視線を投げかけてベランダに行ってしまった。
会社の人だろうか?こんな時間に通話は珍しい。
食事の準備をしながら孝之の通話が終わるのを待っていると、孝之は慌てたように玄関に向かっていった。
「孝之、どこいくの?」
「ちょっと…仕事がトラブってて。ちょっと行ってくる」
「この時間から、この格好で?」
「…。」
視線を逸らす孝之を見て、女の勘が働く。自分でも嫌になるくらいだ。
「あの人のところ?」
ショックを受けつつも冷静を装って俯く。無言なのは肯定なのだろう。
「どうして?どうしてあの女性のことばかり構うの?仕事なのは知っているよ。でもこの時間に呼び出すってどういうこと?そんなに急な仕事なの?」
妻である自分とはまともに話すこともなく、しばらく2人で出かけることもない。
そしてキスさえもしばらくしていないのだ。
不安になるなという方がおかしいのではないか。
もしくはもうお互いいなくてもいいような夫婦になってしまったのだろうか。
「ごめん…私、醜いこと言った。仕事、行っていいよ。」
自分で自分が嫌になる。こんな我儘で自分勝手な女もいないだろう。
セックスレスだから愛されてないと思って、一人で焦って、一人で傷ついて、一人で泣いて。
馬鹿みたいだ。自分が滑稽で笑えてくる。
上手く笑えているか、平静な顔ができているか。不安はあったが顔を上げて精一杯の笑顔を取り繕った。
「食事、作っておくから。遅くなるようだったら、連絡頂戴ね」
自分では完璧な笑顔だった。でも由希子の顔を見て、孝之は驚いた表情を浮かべた。
そして、由希子の方に一歩踏み出して、孝之は由希子を抱きしめた。
「…行かない。そんな顔のお前、置いてける訳ないだろ?」
暖かくてそっと目を閉じて貴之の鼓動を感じる。
「ごめんな。不安にさせてる、よな。」
ぽんぽんと由希子の背中を叩く貴之の手は優しかった。
「確かに尾崎…あぁ、この間の後輩社員だけど…初めての営業でナーバスになってて。何とかしてあげたいと思ってる。俺の案件を引き継ぐからな。でも、由希子にそんな顔をさせてまで仕事に行こうとは思わない」
そっと孝之の唇が由希子の額に触れる。そしてゆっくりとその口が重なりあった。
あぁ…例え何があっても乗り越えられるような気がして、由希子はその目を閉じ、孝之の唇を確かめた。
0
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説



あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。


拝啓、大切なあなたへ
茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。
差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。
そこには、衝撃的な事実が書かれていて───
手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。
これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。
※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる