この関係は不倫ですか?ー夫と後輩の関係は同僚以上?不倫以下?-

イトカワジンカイ

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第4章 見えない心②

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今朝のことが思い出される。

由希子は信じなくてはと思いつつももやもやは解消したわけではなかった。

思わず仕事でも上の空になっていた。オフィスでシステムの設計書である仕様書を見ても集中できず由希子はリフレッシュルームでコーヒーを飲むことにした。

リフレッシュルームに行くと南がいた。


「あ、南くん。おはよ」


由希子の姿を認めると南は心配そうな顔をする。


「由希子…その…大丈夫かい?」


昨日の失態を思い出し、由希子は羞恥心で顔が赤くなった。


「ごめん、昨日はありがとう。なんか…頭がパンクして、どうしていいか分からなくて。…あの事は忘れてくれていいから」
「どう?元気になった?」
「まぁ…うん。誤解は解けたかな?」
「それなら良かった。」


優しく微笑む南はそのまま視線をオフィスの外にやる。晴天のなかで遠くの方に海が煌いているのが見えた。

南の隣に立って由希子もつられるように窓の外を見た。

南は視線をそのままに由希子に語り掛けた。


「由希子は大人になったな。」
「え?それってどういうこと?」


突然の南の発言に驚くとともに笑いが出る。

「おばさんになったってこと?」
「いや、まぁ、お互い歳は取ったけど。そうじゃなくて、俺はあまり学生時代から変わらないから。人付き合いも苦手だし、興味のないことはやりたくない。」
「確かに南くんはそういう学生だったよね」
「まぁね。だけど由希子は自立して、妻としても社会人としても両方の立場でいる。どっちも辛いことあると思うけど頑張ってて…。そういう我慢ができるのって大人だと思うよ。」
「そう…かな?」


由希子自身は学生時代と変わったとは思わない。ただ、社会にでて“責任”ということは学んだ。

その責任が由希子自身を作ってくれるものでもあり、そして束縛する枷になっているのも事実だ。


「ただ、さ…」


南は言葉を区切って言った。


「由希子は頑張り屋だから、何でも抱え込むかもしれない。だけど吐き出すことも必要だと思うよ。」


由希子はどきりとして南を見た。今まで自分が頑張るのは当たり前だった。

人に迷惑をかけないように必死にやってきた。勉学も仕事も家庭のことも。だからだろうか。由希子は人に弱みを見せることがいつしかできなくなっていた。

抱え込んでいる自覚はないが、他人に迷惑をかけてはいけないという思いが強すぎて一人で解決しようと努力していた。

それを南に見透かされたようで驚いたのだ。


「そう…見える?」
「どうだろう?」
「質問に質問で返すの禁止!」
「ははは」


南は笑った後、由希子に向き合って言った。


「なんかあれば、頼っていいから」


その真剣な顔に由希子はドキリとした。そんなこと、今まで誰にも言われたことがなかったから。


「じゃあ、俺行くから。」
「うん…。」


コーヒーの入った紙コップをゴミ箱に捨てながら南はリフレッシュルームを出て行った。

南はああ言ってくれたが、本心を見せるのは怖い。抱え込むのではなく、人に頼るという方法が分からないのだ。
確かに今までも辛いことは沢山あった。

仕事でもプライベートでも。

現にセックスレスのことも誰にも相談できず、南に言ったのもショックを受けてポロリと言ってしまった程度だ。

頼ってくれていいって言ってくれたが、やっぱり自分のことは自分で頑張らなくては。

そう思い、由希子は紙コップのコーヒーを飲みこんで気合を入れた。


「よし!仕事仕事!!」


リフレッシュルームで飲んだコーヒーは少し甘い感じがした。

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