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五月雨の空だに澄める月影に

2つの可能性③

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(もしこの推理が正しければ妖の調伏が可能になる)

それは高遠のもたらした情報によるところが大きい。
体調不良の中、力を貸してくれたことは素直にありがたいと思う。

「僕、高遠様にお礼を兼ねて今日お伺いする予定なんだ。このお話をお伝えするね」
「そっか」

(一応、お礼は言っておいたほうがいいよね)

情報だけ貰って、礼の一つも言わないなど、人としてどうだろうか?
そう思った暁は、高遠に御礼状を送ることにした。

「じゃあ、ちょっと待って。私もお礼の文だけ書くから渡してもらえるかな?」
「いいよ」

そして、暁はその場で手早く高遠に向けて礼をしたためた。
文を書いている暁に、吉平が思い出したように話しかけて来た。

「そういえば歌はもうできたの?」

その一言に、暁はハッと現実に戻された。
そうだ。歌を送る期限は夕刻までだ。
先程から更に傾いた日を見て、暁は真っ青になった。
すぐにでも文を送らなければ間に合わない。

「やばい!…もうこれでいいや!」

期限に遅れたら、あの葛葉のことだから静かに、だが烈火のごとく怒り、更には課題を3倍にしかねない。

暁は慌てて先ほど考えていた短歌を紙に書き、折りたたんだ。

正直出来は良くないとは思うものの、初心者としてはこれ以上は無理だし、なにより期限を破るよりずっとマシだ。

「これでよし!後は金烏に頼んで送るだけだ」
「恋文なら何か花とか添えた方がいいんじゃないかな?」
「確かに!」

もしそう言ったことを怠ると、葛葉の教育的指導が入りそうだ。
それはそれで面倒である。

「ちょっと、何か庭で探してくる!」

暁は急いで外に出て庭を見回した。
だが添え物など選んだこともなく、どうしようかと立ち尽くしてしまう。
刻々と期限が迫っているのを感じ、暁の中で焦りが生まれた。

「花…なんか、花!」

その時庭の隅に紫の菖蒲の花がひっそりと咲いているのが見えた。
夏の花の代表的なものだし、これならば大きな間違いはないだろう。

素早くそう判断した暁は、菖蒲の花を手折って駆け足で屋敷へと戻った。

「あ、お帰り。菖蒲にしたんだ。僕も詳しくはないけどいいかもね」
「吉平がそう言うならちょっと安心した」

そして、暁は恋歌を書いた手紙を菖蒲の花に括りつけると、金烏の名を呼んだ。

「金烏、ごめん。いる?」
「おう、どうした?」
「申し訳ないんだけど手紙を届けてくれる?」
「おう、大丈夫だぜ」
「えっと、この花が付いているのが葛葉に、こっちを影平に。お願いできる?」
「了解!じゃあ、ちょっくら行ってくるな」
「よろしくね」

金烏はいつものように黒い翼を出すとそのまま空を飛んで行った。
それを見送った暁はひと段落できてほっと息をついた。

「じゃあ僕はこれを高遠様にお渡しすればいい?」
「ごめん。お願い」

暁は高遠宛ての文を吉平に託した。

「影平の返事、どうなるかな?」
「そうだね。その返信次第で妖の正体が分かるかもしれないからね」

ようやくここまで来たという思いが湧き出る。
この推理が正しければ妖の因果が掴め、調伏することができる。

ただ、暁の中で少しだけ引っ掛かりがあった。

有はこう言っていた。
『私腹を肥やすどころか不正をただす正義感を持っている方だよ。前任の国司が農民に不当に税を取り立てたり私腹を肥やしたりしてるのを知って、酷く怒っていた』

(じゃあ、有様の主である国司ってどなたなんだろう?)

清保と同様に清廉潔白な国司。
その護衛をしている有。

この事件に合わせるようにやって来た国司は、一体何のために京にやって来たのか。

(まぁ不正をしている国司なんて他にもいるみたいだし)

暁はそう自分の中で折り合いをつけることにしたが、やはり胸にあるつかえのようなものは拭えなかった。
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