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五月雨の空だに澄める月影に
新たな被害者②
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「それで?もう3日経っているがお前の方ではまだ“因果”というものは掴めていないのか?」
「…すみません。まだ」
「今のところ妖が直接的に襲ってきていない。俺は陰陽寮からの依頼で今のところ妖を祓う事はしないが、それも限度がある。近江様を守ることが優先だ。場合によっては祓わせてもらうからな」
言外に早くしろと言われている。
だが葛葉からの中間報告では国司候補者の特定はできたのだが、その者たちが近江をどう思っているのか――すなわち恨んでいるのかというところまでの情報は掴めていない。
暁も国司候補者だった人物の屋敷周辺をうろついて妖の気配があるかを調べているのだが、今のところ収穫はない状態だ。
暁の中にも徐々に焦りの色が浮かんでいた。
「急ぎます」
「俺の手を煩わせないなんて大口を叩いているんだ。さっさとしてくれ」
因果を掴めない暁を責めるような蒼樹の冷たい視線から逃れるように、暁は目を伏せてしまった。
確かに蒼樹の方法が一番早い。妖を無理にでも引き出して、無に帰すというのは至極効率的だ。
だが妖を無に帰すというやり方はやはり是とは言えなかった。
(でも結果を出せていないのは事実だ)
もし暁にもっと力があれば、妖の残した残穢から因果を読むことができたかもしれないし、妖の影と戦った時点で因果と真名を読み取って調伏できたのかもしれない。その実力が暁にはまだ無い。
口惜しさと焦りから暁は知らず拳をぎゅっと握っていた。
その時、門の外で馬の嘶く声がして、直ぐに何やら人の足音がバタバタと聞こえたかと思うと、外から聞き覚えのある声がした。影平の声だ。
「あ、あれ?入れない?何が起こってるんだ?おーい、暁!いないのか?」
「影平?」
この屋敷には結界が張られているので玉兎が許した者しか立ち入ることができない。そのため屋敷に入れずに門の外で戸惑っているのだろう。
声の主が影平だと分かった玉兎が結界を解いた。
「おっと。入れた!」
「影平、どうしたの?」
暁が急いで玄関先まで向かうと、息を切らした影平の姿があった。
その様子は何やら焦ったもので、雨上がりのぬかるみを馬で駆けて来たせいか、袴の裾が泥で汚れている。
朝霧が出ているような早朝に屋敷を訪ねて来る程重大な何かが起きたことが察せられた。
そのただならぬ雰囲気に、暁の声も硬いものになった。
「何かあった?」
「暁、早く来てくれ。また溺死した奴がいるんだ」
「まさか…」
「あぁ。突然水を吐いて死んだ。啓治の時と全く同じ状況だ」
影平のもたらした一報に暁は息を呑んだが、その後ろにいる蒼樹もまた息を呑んで体を硬くしているのが伝わって来た。
「暁、とにかく来てくれ」
「俺は後で行く。お前はこいつと先に行ってろ」
「分かりました」
蒼樹の言葉に暁は頷いて答えた。
そして影平の馬に暁も同乗して、検非違使庁へと向かうこととなった。
「じゃあ、行くぜ。振り下ろされないようにしろよ」
「うん」
暁はぎゅっと影平の背中を抱きしめると、それを確認した影平は馬の腹を蹴って一気に駆けだした。
「…すみません。まだ」
「今のところ妖が直接的に襲ってきていない。俺は陰陽寮からの依頼で今のところ妖を祓う事はしないが、それも限度がある。近江様を守ることが優先だ。場合によっては祓わせてもらうからな」
言外に早くしろと言われている。
だが葛葉からの中間報告では国司候補者の特定はできたのだが、その者たちが近江をどう思っているのか――すなわち恨んでいるのかというところまでの情報は掴めていない。
暁も国司候補者だった人物の屋敷周辺をうろついて妖の気配があるかを調べているのだが、今のところ収穫はない状態だ。
暁の中にも徐々に焦りの色が浮かんでいた。
「急ぎます」
「俺の手を煩わせないなんて大口を叩いているんだ。さっさとしてくれ」
因果を掴めない暁を責めるような蒼樹の冷たい視線から逃れるように、暁は目を伏せてしまった。
確かに蒼樹の方法が一番早い。妖を無理にでも引き出して、無に帰すというのは至極効率的だ。
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(でも結果を出せていないのは事実だ)
もし暁にもっと力があれば、妖の残した残穢から因果を読むことができたかもしれないし、妖の影と戦った時点で因果と真名を読み取って調伏できたのかもしれない。その実力が暁にはまだ無い。
口惜しさと焦りから暁は知らず拳をぎゅっと握っていた。
その時、門の外で馬の嘶く声がして、直ぐに何やら人の足音がバタバタと聞こえたかと思うと、外から聞き覚えのある声がした。影平の声だ。
「あ、あれ?入れない?何が起こってるんだ?おーい、暁!いないのか?」
「影平?」
この屋敷には結界が張られているので玉兎が許した者しか立ち入ることができない。そのため屋敷に入れずに門の外で戸惑っているのだろう。
声の主が影平だと分かった玉兎が結界を解いた。
「おっと。入れた!」
「影平、どうしたの?」
暁が急いで玄関先まで向かうと、息を切らした影平の姿があった。
その様子は何やら焦ったもので、雨上がりのぬかるみを馬で駆けて来たせいか、袴の裾が泥で汚れている。
朝霧が出ているような早朝に屋敷を訪ねて来る程重大な何かが起きたことが察せられた。
そのただならぬ雰囲気に、暁の声も硬いものになった。
「何かあった?」
「暁、早く来てくれ。また溺死した奴がいるんだ」
「まさか…」
「あぁ。突然水を吐いて死んだ。啓治の時と全く同じ状況だ」
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「暁、とにかく来てくれ」
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「分かりました」
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そして影平の馬に暁も同乗して、検非違使庁へと向かうこととなった。
「じゃあ、行くぜ。振り下ろされないようにしろよ」
「うん」
暁はぎゅっと影平の背中を抱きしめると、それを確認した影平は馬の腹を蹴って一気に駆けだした。
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