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一歩① ~エピローグ~

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足立君のデートが終わって家に帰る。
告白されたことも、水谷が悲しそうに海を見ていたことも今の私の脳ではキャパオーバーだった。

(もう……どうしていいのか分からないよ……)

熱い紅茶を注いで一息つく。
とりあえず足立君の告白は待ってもらうように言った。
正直あの泣きそうな水谷の表情を見たら、やっぱりそれを無視できないのも事実で。
テレビを何気なくかけると音楽番組がやっているのをぼうっと眺めていた。
懐かしい音楽ということで耳に入ってきたのは2000年代の音楽だった。
その一つ一つに思い入れがある。
受験勉強に打ち込んでいた時。
模試に一喜一憂していた頃。
進路に悩んでいたこと。
そして合格して夢に一歩近づけたこと。
何より、研究が楽しかったこと。
だけど……自分よりも頭のいい人はたくさんいて、私は自分が平凡であることを痛感した。
だから逃げたのだ。自分の夢から。無理だと諦めて。
科学未来館で見た少年のキラキラ光る眼を思い出した。

「私も……もう一度夢を見ようかな」

そんな風にふいに思った。
もう逃げるのも諦めるのも止めよう。会社の歯車になって、キャリアにしがみつくようなちんけなプライドも捨てよう。
そう思った。

(恋愛から逃げている?)

一瞬立ち止まって考えてみることにした。




昔、職場の先輩に恋愛相談をした。というより、結婚しない私が泣きついたのだ。話を聞いていた先輩はこういった。

『悲劇のヒロインぶってんじゃねーよ!!』

怒鳴られた。一瞬何が起こったか分からなかった。
これ以上何を努力すればいいのだろうか?
婚活して
エステに行って
合コンして
お見合いして
デートして
願かけもお祓いもした

これ以上何を努力すればいいのだろうか。
打ちひしがれたのは事実だ。
でも先輩はこうも言った。

『幸せになるには行動力が必要だ』

これ以上どうやったら恋愛ができるか分からなかった。
だけど今は分かる。
きっと恋愛だけが人生ではない。前向きに、自分の生きたいように生きる。それも幸せの形だ。
すとんと自分の中で折り合いがついた。
意を決したようにパソコンの電源を付ける。今は一瞬も惜しい。私にはそんなに時間はない。ただでさえ年齢というブランクがあるのだ。
そう思ってYahoo!で検索ワードを打ち付ける。

「うーん、この大学院なら入れそうかな。」

久しぶりに大学の教科書やらネットで論文を印刷して読み込む。ブランクは否めないが、それなりの知識はまだ健在だった。
それに幸か不幸か、エレルギー関連の部署にいたこともあって、最近の知識も無駄にはなってなかった。

「よし、なんとか年末には受けれるかな。」

私はその夜、久しぶりに夜遅くまでプライベートでパソコンにかじりついていた。

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