Next Stert 30 -恋愛?仕事?結婚?アラサー女性の悩みは尽きません―

イトカワジンカイ

文字の大きさ
上 下
19 / 20

一歩① ~エピローグ~

しおりを挟む
 夜の十二時を回ってしまった。閉店後もカフェに残り、メニュー開発と今後の方針等々、有意義な話を行っていたらこんな時間だ。夜中まで付き合わせた雪乃に礼を言い、自宅の近くで車を降りる。蓮太郎はどうしているだろうか。寝ているか、もしかしたら出かけていたぶんを取り戻すために、まだ机に向かっているかもしれない。
 いつかの、揃いのマグカップをプレゼントしてくれた日の夜を思い出す。あのときを境に俺と蓮太郎は急激に接近したのだった。あのころの蓮太郎はアルバイトで連日帰りが遅く、帰宅時間でいえば今日の真逆だ。
 おかしな話だと思う。
 あとから本人に聞いた話。蓮太郎と距離を取っていたのに、それが裏目に出て、距離を縮める結果になった。
 鍵を開けて、音を立てないように玄関に入る。リビングの電気は消えており、しかし帰宅する俺のために玄関と廊下には電気がつけられていた。靴を脱ぎ、階段の下から二階を見上げると、静寂の中に感じる人の気配にホッと息をつく。
 食事は済ませてきたので、手早くシャワーをし、寝巻きに着替えた。明日の朝は何を作ってあげようかと考えながら自室にむかい、珍しく心地のよい気分で微睡んでいた。
 そのとき、隣室——蓮太郎の部屋のドアが開いた音がした。蓮太郎の足音は階段を下がっていき、トイレだろうかと思っていたが、いつまで経っても戻ってくる様子がない。
 俺が帰ってきた音で起こしてしまったのだろうか。謝りたくて下へ降りると、リビングに姿はなかった。トイレの電気もついておらず、その先の洗面所も真っ暗。念のために覗いてみると、蓮太郎はそこにいた。
 壁に寄って膝を抱え、先ほど脱いだ俺のワイシャツを抱きしめている。
 何をしているんだろう・・・・・・と不思議に思った。声をかけるべきか迷い、悩んでいる間に蓮太郎が鼻をすすった。俺は息を呑む。帰りが遅くなったことが、そんなに嫌だったんだろうか。状況からみて、泣いている原因は俺なのではないかと思えてならない。むしろ、そうとしか思えない。
 心地よかった気持ちに入り込もうとしてくる、ひんやりと冷たいすきま風。こういうとき、恋人ならば慰めに駆け寄らねばならないのだろう。
 知りたいのなら、自分から歩み寄らないと駄目だ。わかっているのに、足が動かない。物理的な距離にさえも俺は躊躇している。しかし自分の都合を優先せざるをえない。俺はその場から立ち去り、眠れない夜を過ごした。
 翌朝、何も知らないふりをして朝食をつくり、蓮太郎が起きてくるのを待った。八時半ごろ、そろそろ家を出ようかという時間、ようやく蓮太郎が目をこすりながらリビングに顔を出した。

「おはよう、蓮太郎。今日は寝坊してもいい日だったのかい?」

 昨晩の姿が思い起こされ、緊張気味に挨拶をする。だが蓮太郎は昨晩のあれが幻だったかのごとく「おはよう」と明るい口調で言い、そして、にっこりと笑う。

「大学は午後からの講義しか入ってないから今日はゆっくりで大丈夫。いつも朝ごはんありがとう鬼崎さん」
「あ、うん、じゃあ俺は先に家を出るよ」
「もしかして俺が起きるの待っててくれた? ごめんなさい気がつかなくて」

 蓮太郎は甘えて俺にすり寄り、上目使いに見つめてくる。

「今日の夜、覚えてる? 約束ね?」
「ああ、わかってる」

 昨日の朝に俺から告げたベッドの誘いのことだ。俺は積極的な蓮太郎に煽られ、顎を持ち上げて唇を合わせた。チュッとリップ音を残して口付けると、蓮太郎が嬉しそうに照れる。

「ン、いってらっしゃい」
「いってきます」

 甘い雰囲気に後ろ髪を引かれつつ、リビングを後にする。途中に洗面所の前を横切り立ち止まったが、なんてことはなかったのだろう。俺は気を取り直して、会社に向かった。今朝まで感じていた不安は、一日の業務の合間に消え去っていた。




「あ、ん、・・・・・・ああっ、鬼崎さん、俺、も、いきそっ」

 蓮太郎を膝に乗せ下から貫き、触ってやったペニスがぴゅるっと精液を放った。びくんと顎をそらせて苦しげな呼吸をするもなお腰を揺すり、俺を求める。序盤から飛ばしすぎな気がするが、淫らに腰を押し付けられたら応えないわけにはいかない。
 ズブズブとナカを掻き分け突き上げてやるたびに、痙攣を繰り返しながら肉壁がうねり、絞られる感覚に息を詰めた。

「・・・・・・ッ」
「ん、うぅ、・・・・・・あううん」

 深く感じ入ると、蓮太郎は子犬が鳴くような声を出す。犬の真似をしていたせいでついてしまった蓮太郎の癖だ。本人は無意識であげているので、「やめなさい」と言及ができない。
 この声は俺にとって触れてはいけないものだった。たった一声で俺の性器が張りと硬度を増す。
 俺は感じやすい方の胸に噛みつき、乳首をすすった。ぴくんと反応する腰を抑え、腹のナカの最奥にぴたりと先端をあて腰を回す。

「ひゃああっ、ん、んんう」

 ゆるく勃ち上がったペニスの鈴口に親指を添えて擦り上げると、蓮太郎は嫌々と激しく抵抗した。

「やめて、やめてぇっ」

 漏らしているのとは違うと言っても、感覚が似ているそうで、極端に恥ずかしがって嫌う。だからやりたくなってしまうのだが。

「アアッッ、やだって言ってるのにぃ」
「知ってるよ」

 そう囁き、回していた腰をピストン運動に切り替え、膀胱を狙って叩いてやる。

「ヒィィ・・・・・んあっ、あっ、でる、やあああ!」

 ぷしゃりと飛沫を上げたと同時にナカが引き攣って震え、俺は蓮太郎の最奥に押しあてたまま達した。

「あっあ・・・・・・鬼崎さ・・・・・・ひどい」
「うんうん、ごめんね。蓮太郎が可愛いから」

 不貞腐れた顔で顔を擦り寄せてくる蓮太郎をよしよしと撫でてやり、風呂に運ぶ。くってりと身体を預けてされるがままの蓮太郎を清め、湯を張り一緒に浸かった。
 ぼぉっとした横顔に不意に昨晩の啜り泣きが思い起こされて重なる。

「疲れた? 眠い?」
「ん、すこしだけ」

 俺は取り留めのない会話をして安堵した。毎回こうして、微妙に感じてしまった違和感を心の底に沈める。

「それなら早くあがって寝ようか」
「うん」

 立ち上がった拍子によろめいた肩を支えてやり、二人で身体を拭いた。洗いたてのバスタオルは乾燥機にかけたばかりで、フレッシュミントと、ほんのりとあったかい香ばしい匂いがする。
 寝る前なので、ラベンダーとかジャスミンとか花系の柔軟剤にすればよかったかと考えて、ああ違うと思う。自分が考えるべきはそんなことではなくて、でもやはり自分ではどうすることもできない。
 大切だから近づけない。そんな俺自身を嘲笑うように、俺は鏡越しに微笑んで、蓮太郎に首輪をつけた。
 もっと強く。コレもやめようと否定するべきだったかもしれない。
 けれど俺は蓮太郎にも自分にも甘い。
 
「おやすみなさい鬼崎さん」
「おやすみ、蓮太郎」

 嬉しそうで悲しそうな蓮太郎に、俺は今日も何も言えなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

目に映った光景すべてを愛しく思えたのなら

夏空サキ
ライト文芸
大阪の下町で暮らす映子は小学四年生。 心を病んだ母と、どこか逃げてばかりいる父と三人で暮らしている。 そんな鬱屈とした日常のなか、映子は、子供たちの間でみどりばあさんと呼ばれ、妖怪か何かのように恐れられている老人と出会う。 怖いながらも怖いもの見たさにみどりばあさんに近づいた映子は、いつしか彼女と親しく言葉を交わすようになっていった―――。 けれどみどりばあさんには、映子に隠していることがあった――。 田んぼのはずれの小さな小屋で暮らすみどりばあさんの正体とは。 (第六回ライト文芸大賞奨励賞をいただきました)

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

Rotkäppchen und Wolf

しんぐぅじ
ライト文芸
世界から消えようとした少女はお人好しなイケメン達出会った。 人は簡単には変われない… でもあなた達がいれば変われるかな… 根暗赤ずきんを変えるイケメン狼達とちょっと不思議な物語。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

サドガシマ作戦、2025年初冬、ロシア共和国は突如として佐渡ヶ島に侵攻した。

セキトネリ
ライト文芸
2025年初冬、ウクライナ戦役が膠着状態の中、ロシア連邦東部軍管区(旧極東軍管区)は突如北海道北部と佐渡ヶ島に侵攻。総責任者は東部軍管区ジトコ大将だった。北海道はダミーで狙いは佐渡ヶ島のガメラレーダーであった。これは中国の南西諸島侵攻と台湾侵攻を援助するための密約のためだった。同時に北朝鮮は38度線を越え、ソウルを占拠した。在韓米軍に対しては戦術核の電磁パルス攻撃で米軍を朝鮮半島から駆逐、日本に退避させた。 その中、欧州ロシアに対して、東部軍管区ジトコ大将はロシア連邦からの離脱を決断、中央軍管区と図ってオビ川以東の領土を東ロシア共和国として独立を宣言、日本との相互安保条約を結んだ。 佐渡ヶ島侵攻(通称サドガシマ作戦、Operation Sadogashima)の副指揮官はジトコ大将の娘エレーナ少佐だ。エレーナ少佐率いる東ロシア共和国軍女性部隊二千人は、北朝鮮のホバークラフトによる上陸作戦を陸自水陸機動団と阻止する。 ※このシリーズはカクヨム版「サドガシマ作戦(https://kakuyomu.jp/works/16818093092605918428)」と重複しています。ただし、カクヨムではできない説明用の軍事地図、武器詳細はこちらで掲載しております。 ※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。

処理中です...