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快晴②
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梅雨に関わらず晴天。
最近は曇りが多かったり、それこそ突然の雨なんかもあった。
まぁデート日和と言えばそうだろう。
(足立君も物好きだなぁ。いくら傷心の先輩を元気づけようとしたとは言えおばさんをデートに誘うとか)
とかいいつつ、久しぶりのプライベートにちょっとワクワクもしていた。
最近は友人とは距離があったから。
友人とご飯といっても相手は子供を連れてきたり、育児と家庭の話しかなかった。
私はそれを複雑な思いで聞くだけだった。
待ち合わせはお台場だった。改札には足立君が先についていた。
スーツではない足立君を見るのは初めてだ。なんというか……若いなぁという感じ。
カジュアルな服装を見てなんか急にプライベートであっているんだなぁと改めて思った。
「足立君、ごめん遅れた?」
「先輩よりも1本早い電車に乗ったんだと思います。着いたばっかりですよ。……それより。」
「ん?」
「普段着の先輩はなんか……いつもと違いますね。新鮮です。」
「ははは……私も同じこと思ったよ。それにしても足立君はスーツ着てないと学生っぽいね」
「何ですか、それ」
お互いちょっと照れた感じで笑いあう。
「で、どうする?ビーナスフォートあたりに行ってみる?」
「実はですね……先輩、プラネタリウムとか好きですか?」
「プラネタリウム?うん、好きだよ」
曲がりなりにも理系にいたし、天文も大学の一般教養で学んでいる。
でもそんなことは分かり切ったように足立君は言った。
「ですよね!学生時代天文のサークルに入ってたみたいだし。」
「よく覚えてるね」
「まぁ、俺の記憶力舐めないでくださいよ。で、その……元カレさんとかと行ったりしました?」
そーいえば、そう言ったところには出かけなかったなぁと思い出す。
「うーん、インドアな人だったからたまに旅行行ってもあとは家でゲームとかが多かったかな」
「なら、ちょうどよかった!ここ、行きましょう!」
「え?!ど、どこに!?」
「多分理系の先輩なら楽しめるところですよ」
悪戯っ子のように微笑む。そして自然と手を引かれるように私は足立君の後を歩くことになったのだった。
そうして連れて行かれたのは科学未来館だった。
「じゃん!」
取り出したのはプラネタリウムのチケットだった。メガスターという高性能のプラネタリウムはこの科学館の目玉でありチケットがなかなか取れないことで有名だ。
だから来たくてもこれなかったのだ
「チケット取るの大変じゃなかった?」
「それは……内緒です。ほら、チケットどうぞ。そろそろ開演ですし」
促されるようにプラネタリウムのドームに入る。そして上演が始まった。
広い宇宙。噂通り正確に再現された星に揺蕩うようで私はその星々に包まれているようだった。
私の悩みも、悲しみも、全てどうでも良くなるような。そんなふうに思えた。
見終えた後、自然と涙が頬を伝っていることに気づいた。
何の涙かは自分でも分からなかった。
だけど、足立君は何も言わず、ただ手を握っていてくれていた。
どんな言葉もいらない。ただそのぬくもりだけが救いだった。
しばらくして、一通り涙を流した後、私は涙をぬぐった。
「じゃあ、行こうか!」
その言葉を聞いて、足立君はにっこりとほほ笑んだ。
「そうですね。どうしますか?買い物でもいいですし、館内見てもいいですし。」
「せっかくだから館内を順番に見て行こうかな?」
「了解です。」
ロボットや新エネルギー、大地の鼓動を感じる体験型の展示などなど、理系の私にとってはとても楽しいものだった。
不意に子供の声と共にドンという衝撃が背後に感じた。
「!!」
「あ、おばさん、ごめんなさい!」
「おーい待てよ!」
子供たちは笑いながら科学の様々のコーナーへ向かっていった。みんなどの子供も好奇心いっぱいに目を輝かせていた。
そんな姿を見ていると足立君も同じことを考えていたらしい。
「楽しそうですね。」
「そうね。」
「いや、先輩が」
「え?私?」
「はい、展示物見ているとき、すっごく楽しそうだった。」
子供を遠めに見ながら思い出していた。私にもあんな時期があった。
私は研究職になりたかった。それは自分の研究が人の役に立てる可能性があったから。すぐには役立たなくても何十年か後にでもその科学の礎になれると信じて。
人のために役立つことをする。それが私の生きる目的だったと思う。
「じゃあ、そろそろ場所移しますか?」
「あ、うん。」
足立君に手を引かれて歩き出したとき、不意に学芸員募集のビラが目に入る。
そういえば確か夏期講習で学芸員の資格を取ったことを不意に思い出した。
「どうしたんです?」
「ううん。なんでもない。」
でも私の中ではそのチラシが頭の中に引っかかっていた。
結構長く科学未来館にいたせいもあって、そのまま夕食をとることになった。
お酒も入りほろ酔い気分で、お台場の海沿いの道を駅まで並んで歩く。
「今日は楽しかった」
それは久しぶりに心から思った言葉だった。
「良かったです。」
「誘ってくれて、ありがとう」
いつの間にか、手が触れて……自然と足立君と手をつないで歩いた。
年甲斐もなくドキドキしてしまう。
でも……足立君にとってはおばさんで先輩で。たぶんそんな意識はしてないと思われた。
「そういえば」
意を決したように足立君が少し真面目なトーンで話始めた。
「学生時代、先輩にハグしたの覚えてますか?」
心当たりがあった。足立君は良く私の研究室に遊びに来ていた。趣味やなんかがあって話が弾む後輩だった。
「あ……そうだね。確か足立君が酔っぱらっていただよね。」
「じつは……シラフだったんです。」
「え?」
「酔ったふりしてたんです。勇気がなくて。」
「なんで?」
「なんでって……その……あの時俺、先輩好きだったんですよ。でも、その時先輩には彼氏がいたし。……あれって水谷さん?ですよね。」
「……うん。」
「だから、今度はちゃんと告白します。先輩付き合ってください。」
その真剣なまなざしに、私は動けないでいた。
だが足立君の肩越しの先に、私は見てしまった。私の驚愕の表情を怪訝に思った足立君は振り返る。
「あれ、水谷さん?」
呆然と海を見る水谷の姿だった。
最近は曇りが多かったり、それこそ突然の雨なんかもあった。
まぁデート日和と言えばそうだろう。
(足立君も物好きだなぁ。いくら傷心の先輩を元気づけようとしたとは言えおばさんをデートに誘うとか)
とかいいつつ、久しぶりのプライベートにちょっとワクワクもしていた。
最近は友人とは距離があったから。
友人とご飯といっても相手は子供を連れてきたり、育児と家庭の話しかなかった。
私はそれを複雑な思いで聞くだけだった。
待ち合わせはお台場だった。改札には足立君が先についていた。
スーツではない足立君を見るのは初めてだ。なんというか……若いなぁという感じ。
カジュアルな服装を見てなんか急にプライベートであっているんだなぁと改めて思った。
「足立君、ごめん遅れた?」
「先輩よりも1本早い電車に乗ったんだと思います。着いたばっかりですよ。……それより。」
「ん?」
「普段着の先輩はなんか……いつもと違いますね。新鮮です。」
「ははは……私も同じこと思ったよ。それにしても足立君はスーツ着てないと学生っぽいね」
「何ですか、それ」
お互いちょっと照れた感じで笑いあう。
「で、どうする?ビーナスフォートあたりに行ってみる?」
「実はですね……先輩、プラネタリウムとか好きですか?」
「プラネタリウム?うん、好きだよ」
曲がりなりにも理系にいたし、天文も大学の一般教養で学んでいる。
でもそんなことは分かり切ったように足立君は言った。
「ですよね!学生時代天文のサークルに入ってたみたいだし。」
「よく覚えてるね」
「まぁ、俺の記憶力舐めないでくださいよ。で、その……元カレさんとかと行ったりしました?」
そーいえば、そう言ったところには出かけなかったなぁと思い出す。
「うーん、インドアな人だったからたまに旅行行ってもあとは家でゲームとかが多かったかな」
「なら、ちょうどよかった!ここ、行きましょう!」
「え?!ど、どこに!?」
「多分理系の先輩なら楽しめるところですよ」
悪戯っ子のように微笑む。そして自然と手を引かれるように私は足立君の後を歩くことになったのだった。
そうして連れて行かれたのは科学未来館だった。
「じゃん!」
取り出したのはプラネタリウムのチケットだった。メガスターという高性能のプラネタリウムはこの科学館の目玉でありチケットがなかなか取れないことで有名だ。
だから来たくてもこれなかったのだ
「チケット取るの大変じゃなかった?」
「それは……内緒です。ほら、チケットどうぞ。そろそろ開演ですし」
促されるようにプラネタリウムのドームに入る。そして上演が始まった。
広い宇宙。噂通り正確に再現された星に揺蕩うようで私はその星々に包まれているようだった。
私の悩みも、悲しみも、全てどうでも良くなるような。そんなふうに思えた。
見終えた後、自然と涙が頬を伝っていることに気づいた。
何の涙かは自分でも分からなかった。
だけど、足立君は何も言わず、ただ手を握っていてくれていた。
どんな言葉もいらない。ただそのぬくもりだけが救いだった。
しばらくして、一通り涙を流した後、私は涙をぬぐった。
「じゃあ、行こうか!」
その言葉を聞いて、足立君はにっこりとほほ笑んだ。
「そうですね。どうしますか?買い物でもいいですし、館内見てもいいですし。」
「せっかくだから館内を順番に見て行こうかな?」
「了解です。」
ロボットや新エネルギー、大地の鼓動を感じる体験型の展示などなど、理系の私にとってはとても楽しいものだった。
不意に子供の声と共にドンという衝撃が背後に感じた。
「!!」
「あ、おばさん、ごめんなさい!」
「おーい待てよ!」
子供たちは笑いながら科学の様々のコーナーへ向かっていった。みんなどの子供も好奇心いっぱいに目を輝かせていた。
そんな姿を見ていると足立君も同じことを考えていたらしい。
「楽しそうですね。」
「そうね。」
「いや、先輩が」
「え?私?」
「はい、展示物見ているとき、すっごく楽しそうだった。」
子供を遠めに見ながら思い出していた。私にもあんな時期があった。
私は研究職になりたかった。それは自分の研究が人の役に立てる可能性があったから。すぐには役立たなくても何十年か後にでもその科学の礎になれると信じて。
人のために役立つことをする。それが私の生きる目的だったと思う。
「じゃあ、そろそろ場所移しますか?」
「あ、うん。」
足立君に手を引かれて歩き出したとき、不意に学芸員募集のビラが目に入る。
そういえば確か夏期講習で学芸員の資格を取ったことを不意に思い出した。
「どうしたんです?」
「ううん。なんでもない。」
でも私の中ではそのチラシが頭の中に引っかかっていた。
結構長く科学未来館にいたせいもあって、そのまま夕食をとることになった。
お酒も入りほろ酔い気分で、お台場の海沿いの道を駅まで並んで歩く。
「今日は楽しかった」
それは久しぶりに心から思った言葉だった。
「良かったです。」
「誘ってくれて、ありがとう」
いつの間にか、手が触れて……自然と足立君と手をつないで歩いた。
年甲斐もなくドキドキしてしまう。
でも……足立君にとってはおばさんで先輩で。たぶんそんな意識はしてないと思われた。
「そういえば」
意を決したように足立君が少し真面目なトーンで話始めた。
「学生時代、先輩にハグしたの覚えてますか?」
心当たりがあった。足立君は良く私の研究室に遊びに来ていた。趣味やなんかがあって話が弾む後輩だった。
「あ……そうだね。確か足立君が酔っぱらっていただよね。」
「じつは……シラフだったんです。」
「え?」
「酔ったふりしてたんです。勇気がなくて。」
「なんで?」
「なんでって……その……あの時俺、先輩好きだったんですよ。でも、その時先輩には彼氏がいたし。……あれって水谷さん?ですよね。」
「……うん。」
「だから、今度はちゃんと告白します。先輩付き合ってください。」
その真剣なまなざしに、私は動けないでいた。
だが足立君の肩越しの先に、私は見てしまった。私の驚愕の表情を怪訝に思った足立君は振り返る。
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