15 / 20
雨①
しおりを挟む
『今日の天気は曇りのち晴れ。雨の予報はありません!皆さん、気を付けていってらっしゃい!』
朝の情報番組。
お天気お姉さんが天気に太鼓判を押す。
今日は傘は必要ないな。いつも入れていた折りたたみ傘だったけど、今日は三ツ輪自動車のオフィスでプレゼンがあって、荷物も多いことから傘を置いて部屋を出た。
なのに三ツ輪自動車のプレゼンが終わって、帰るころにはぽつりぽつりと雨が降っていた。
スマホで課長にプレゼン終了のメールを送る。
『森本です。お疲れ様です。先ほどプレゼン終わりました。特に問題はありませんでした』
簡単に状況説明をするとすぐに課長から返信が来た。
『今日はお疲れさま。せっかくだから今日は直帰していいですよ。』
珍しく直帰。しばらくこのプレゼンの資料を作るのに残業をしていたから、今日くらいは家でゆっくりするものいいだろう。
(うーん、肩凝った。お気に入りにバスソルト入れてリラックスタイムなんて贅沢しようかな)
軽い足取りで駅に向かう途中でぽつりぽつりと雨粒が私の肩を濡らした。
そして茗荷谷駅に着くころには大降りになっていた。
(困った……傘ないし……家に着くにはずぶぬれか。)
今日は他社の役職にプレゼンをすることだったので、新調したスーツにちょっと高いヒールをはいていた。走れないわけではないがそんなにも早くは走れない。
戸惑って空を見上げていると自分を呼ぶ声がして反射的に振り返った。
「森本?」
「水谷……」
「お前もこの雨で足止め組か?」
「まぁね。この辺じゃ傘も売ってないし。走って帰ろうと思っていたところ。」
そういうと水谷はまじまじと私を見た。
「なに?」
「いや……そのヒールで走るのか?」
痛いところを突かれた。
「ウチ、そこだから、傘ぐらい貸してやるよ。」
「いいよ。」
「なんだよ遠慮しているのか?大丈夫だって。傘貸すだけだし。」
瞬間電車のクーラーで濡れた体を冷やされたせいか悪寒が走る。寒い……
「それにさ……その濡れ具合、セクシーだよ。」
言われて気づいた。濡れた肩から肩紐が透けていることに。
私は観念して水谷の家に向かうことにした。
「はい、タオル。」
傘だけ借りるつもりだったが、なぜか部屋でコーヒーを飲むことになっていた。
「あったまったか?」
「うん。」
「じゃあ、俺はワインでも飲むか。ホットワインにするからこれ飲んで帰れよ。」
「ありがとう」
ここは素直にその言葉に従うことにした。
あったかくて心が癒されそうだった。
お互い無言。でも困ったことに……体が熱っぽい。頭も痛いし……もしかして風邪を引いたかも。
「お前……具合悪そうだけど。大丈夫か?」
「うん……雨に濡れたせいかな。少し寒気が。でも大丈夫。これ飲んだら帰る。」
水谷は無言だった。その無言に耐えかねて私は立ち上がるとめまいがして態勢を崩していた。
水谷の吐息が耳にかかる。熱い熱い吐息。
(ダメだ!)
本能的に私は思った。だがその前に抱きしめられ、そして気づけば水谷の口が私の口をふさいでいた。
何年かぶりに感じる柔らかい感触。
そのキスはやがて激しくなり、徐々に深くなり。互いに貪るように求めた。全ての音を飲み込むように、何度もキスをする。互いの舌が絡みつき何も考えられなくなる。
ベッドに押し倒され、首筋に食いつくようなキスが落ちてくる。鎖骨を舐められる。甘い吐息が自然と溢れた。
服の下から手が入りブラのホックを外され自由になった胸を触られると快楽からぞわりとした感覚に襲われる。しかしそれは決して嫌なものではなかった。
彼の胸は膨らみを揉みしだく。もどかしくブラウスのボタンを外し、吸い付くと双丘に花びらを散らして行った。
優しくて激しくて、思わず私は彼の背中に手を伸ばす。
だけど……
このまま感情に身を任せていいのか。最後の理性が働く。
でもこのまま身を任せたい。すべてを壊してしまいたい。
身震いすると、水谷は耳元で囁く
「怖い?」
怖くないと言ったらうそになる。すると水谷は私を解放してシャワーへといざなった。
「寒いだろ。入って来いよ。」
促されるまま服を脱ぎ、シャワーを浴びる。
暖かいそれは私の心をも温めるようだった。
そして浴室の鏡に映った自分を見て幻滅する
もう20代の頃の肌の張りもない。
ほうれい線が目立つようになり、頬にはシミがいくつもできていた
運動しても代謝が落ちているせいか、20代に比べて太ったっていた若い頃は美人と言えなくてもかわいいと呼ばれる部類には入っていたが、今はもう見る影もない
それでも、彼が求めてくれるのであれば、私はその感情に身を任せたかった。
お風呂場から出ると額にキスを落として水谷もシャワーを浴びに行く。
「待ってて。」
耳元で囁かれて私しは促されるようにベッドに腰を下ろす。
ため息と共に心臓がドキドキする。
これって……不倫になるのだろうか……
そんな勇気私にあるだろうか……
不意に彼のスマホにメールが入った。
ごめん。話そう。
そして待受は奥さんの写真だった。我に返る。
たぶん、水谷は奥さんを想っている。たぶん裏切られていようとそれに目をつぶるくらい愛している。だから待ち受けを変えられない。
ダメだ。これ以上はダメだ。
私は濡れたシャツを着て、逃げるように部屋を出た。
朝の情報番組。
お天気お姉さんが天気に太鼓判を押す。
今日は傘は必要ないな。いつも入れていた折りたたみ傘だったけど、今日は三ツ輪自動車のオフィスでプレゼンがあって、荷物も多いことから傘を置いて部屋を出た。
なのに三ツ輪自動車のプレゼンが終わって、帰るころにはぽつりぽつりと雨が降っていた。
スマホで課長にプレゼン終了のメールを送る。
『森本です。お疲れ様です。先ほどプレゼン終わりました。特に問題はありませんでした』
簡単に状況説明をするとすぐに課長から返信が来た。
『今日はお疲れさま。せっかくだから今日は直帰していいですよ。』
珍しく直帰。しばらくこのプレゼンの資料を作るのに残業をしていたから、今日くらいは家でゆっくりするものいいだろう。
(うーん、肩凝った。お気に入りにバスソルト入れてリラックスタイムなんて贅沢しようかな)
軽い足取りで駅に向かう途中でぽつりぽつりと雨粒が私の肩を濡らした。
そして茗荷谷駅に着くころには大降りになっていた。
(困った……傘ないし……家に着くにはずぶぬれか。)
今日は他社の役職にプレゼンをすることだったので、新調したスーツにちょっと高いヒールをはいていた。走れないわけではないがそんなにも早くは走れない。
戸惑って空を見上げていると自分を呼ぶ声がして反射的に振り返った。
「森本?」
「水谷……」
「お前もこの雨で足止め組か?」
「まぁね。この辺じゃ傘も売ってないし。走って帰ろうと思っていたところ。」
そういうと水谷はまじまじと私を見た。
「なに?」
「いや……そのヒールで走るのか?」
痛いところを突かれた。
「ウチ、そこだから、傘ぐらい貸してやるよ。」
「いいよ。」
「なんだよ遠慮しているのか?大丈夫だって。傘貸すだけだし。」
瞬間電車のクーラーで濡れた体を冷やされたせいか悪寒が走る。寒い……
「それにさ……その濡れ具合、セクシーだよ。」
言われて気づいた。濡れた肩から肩紐が透けていることに。
私は観念して水谷の家に向かうことにした。
「はい、タオル。」
傘だけ借りるつもりだったが、なぜか部屋でコーヒーを飲むことになっていた。
「あったまったか?」
「うん。」
「じゃあ、俺はワインでも飲むか。ホットワインにするからこれ飲んで帰れよ。」
「ありがとう」
ここは素直にその言葉に従うことにした。
あったかくて心が癒されそうだった。
お互い無言。でも困ったことに……体が熱っぽい。頭も痛いし……もしかして風邪を引いたかも。
「お前……具合悪そうだけど。大丈夫か?」
「うん……雨に濡れたせいかな。少し寒気が。でも大丈夫。これ飲んだら帰る。」
水谷は無言だった。その無言に耐えかねて私は立ち上がるとめまいがして態勢を崩していた。
水谷の吐息が耳にかかる。熱い熱い吐息。
(ダメだ!)
本能的に私は思った。だがその前に抱きしめられ、そして気づけば水谷の口が私の口をふさいでいた。
何年かぶりに感じる柔らかい感触。
そのキスはやがて激しくなり、徐々に深くなり。互いに貪るように求めた。全ての音を飲み込むように、何度もキスをする。互いの舌が絡みつき何も考えられなくなる。
ベッドに押し倒され、首筋に食いつくようなキスが落ちてくる。鎖骨を舐められる。甘い吐息が自然と溢れた。
服の下から手が入りブラのホックを外され自由になった胸を触られると快楽からぞわりとした感覚に襲われる。しかしそれは決して嫌なものではなかった。
彼の胸は膨らみを揉みしだく。もどかしくブラウスのボタンを外し、吸い付くと双丘に花びらを散らして行った。
優しくて激しくて、思わず私は彼の背中に手を伸ばす。
だけど……
このまま感情に身を任せていいのか。最後の理性が働く。
でもこのまま身を任せたい。すべてを壊してしまいたい。
身震いすると、水谷は耳元で囁く
「怖い?」
怖くないと言ったらうそになる。すると水谷は私を解放してシャワーへといざなった。
「寒いだろ。入って来いよ。」
促されるまま服を脱ぎ、シャワーを浴びる。
暖かいそれは私の心をも温めるようだった。
そして浴室の鏡に映った自分を見て幻滅する
もう20代の頃の肌の張りもない。
ほうれい線が目立つようになり、頬にはシミがいくつもできていた
運動しても代謝が落ちているせいか、20代に比べて太ったっていた若い頃は美人と言えなくてもかわいいと呼ばれる部類には入っていたが、今はもう見る影もない
それでも、彼が求めてくれるのであれば、私はその感情に身を任せたかった。
お風呂場から出ると額にキスを落として水谷もシャワーを浴びに行く。
「待ってて。」
耳元で囁かれて私しは促されるようにベッドに腰を下ろす。
ため息と共に心臓がドキドキする。
これって……不倫になるのだろうか……
そんな勇気私にあるだろうか……
不意に彼のスマホにメールが入った。
ごめん。話そう。
そして待受は奥さんの写真だった。我に返る。
たぶん、水谷は奥さんを想っている。たぶん裏切られていようとそれに目をつぶるくらい愛している。だから待ち受けを変えられない。
ダメだ。これ以上はダメだ。
私は濡れたシャツを着て、逃げるように部屋を出た。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる