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イトカワジンカイ

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歯車③

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少し、泣いてすっきりしたかな。

そんなことを思いつつオフィスに戻る。以外にも電気がついていて足立君が一人パソコンに向かっていた。


「あ、先輩帰ってきたんですね。」
「足立君一人?」
「先に帰ろうかなぁって思っていたんですけど、ほら、先輩荷物そのままでしょ。帰りづらいなぁと思いまして。」
「ありがとう。」


泣いていたことを悟られないように、私は足立君と目を合わせないように、手早く帰る準備をした。


「先輩……泣いてました?」
「な、泣いて……ないよ。」
「俺でよければ話を聞きますから。先輩に……そんな顔をさせたくないというか、その……気になってしまうというか……。」


歯切れの悪い言葉で足立君は私を慰めようとしているのが分かった。


「大丈夫よ。明日また、ね。」
「一緒に帰りましょう!」
「え?」
「ほら、早く早く。」


強引に話を進められて私は連れ出されるように足立君と共にオフィスを後にした。

電車に揺られること20分余り。

無言ととりとめのない話を繰り返す。改札を降りたら右は私、左は足立君。方向が分かれることにある。


「あのですね……。」


意を決したように足立君が口を開いた。


「水谷さんって、香澄先輩のなんですか?」
「え?」


突然の問いに頭が付いていかない。


「その……このプロジェクトになってから、二人ともなんか知り合いみたいだし。同じ大学からかなぁとか思ったんですけど、それだけじゃないようで。」


鋭い。足立君はいつも軽い感じで誰にでも人懐っこい。イマドキの青年だろう。


「まぁ……昔、ちょっと。」
「元カレだったりして。」


図星を言い当てられて私は一瞬絶句した。


「あ、やっぱり。」
「そんなに分かりやすかったかな?極力普通にしていたんだけど。」
「いや、たぶん気づいているの俺くらいなもんですよ。だって、俺は……先輩の事、気になっていますから。」


それがどういう意味なのか。先輩としてなのか、一人の男性としてなのか。

その真意がつかめない。


「じゃ、気を付けて帰ってくださいね!……てか、送りましょうか?」


ドキドキと鼓動が高鳴る。

でもその鼓動に鍵をかける。

もう恋愛におぼれるような歳ではない。私はにっこりと営業スマイルを顔に張り付けた。


「お休み。」


手を振って私は足立君と別れた。複雑な表情をしている足立君を視界の隅に見ながら。


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