11 / 20
出張②
しおりを挟む
「はいよ、ゴーヤチャンプル」
お店はこじんまりとしていて、地元の人が通うような質素で昔ながらのお店の雰囲気があった。
出てきたゴーヤチャンプルを食べる。内地で食べるよりやはり本場は美味しい。
そうやってゴーヤチャンプルに舌鼓を打っていると聞き覚えのある声が聞こえた。
「すんません。1人空いてますか?」
「あ……」
「あ……」
お互い見つめあう。
「森本さんもここにいたんですね。」
ナチュラルに私の前の席に座ったのは水谷だった。
「なんでこのお店、知っているの?たまたま?」
「いや、金井に聞いて。」
金井とは私と水谷の共通の友達だった。
「あぁ……」
なんて失態だと思った。そこまで気が回らなかった。もくもくと食べるのを水谷はじっと見ていた。
「なに?」
「いや……よく食べるなぁと」
「人の食べる姿を見るのは悪趣味じゃないですか?」
「だって、ほかに見るものないだろう?」
「……。」
無視だ。無視。
「なぁ、そろそろ……その態度止めないか?」
「え?」
「明らかに俺のこと避けてるだろ?まぁ……元カレと仕事して普通でいろというのも変な話だって分かっているけどな。」
「別に……避けているわけじゃないけど。あまり積極的には関わりたくない。」
「まぁ……そうだよな。」
そう言って水谷は苦笑した。
「ということは、まだ俺を意識したりしてるのか?」
「はぁ?」
この男はなんだってそんなこと言うのだろうか?
ばかか?バカなのか?
開いた口がふさがらないということはこういうことを言うのだろう。
「じゃあさ、仕事仲間として、このあとバーにでも行くか。断らないよな。だって俺とお前は仕事の同僚で、恋愛感情なんてないんだかな」
悪戯っぽく笑う。ここで引き下がったら、私が少しでも水谷に未練があるように取られるのも癪で私は渋々と飲みに行くことになったのだ。
何気なく入ったバーは悪くなかった。
お酒もおいしい。ゆっくり話せる雰囲気だった。
私はソルティードックを、水谷は雪国を。
しばらくお互い無言のままカクテルに口をつける。
私はソルティードックの甘いが塩の味をゆっくり味わう。
何を話したらいいのか、少し居心地が悪い。とりあえず当たり障りのないお酒の話をすることにした。
「雪国……おいしいよね……」
雪国は日本酒をベースにしたカクテル。すっきりした味わいだけど、やっぱり日本酒だけあって飲むと結構酔う。
「……あぁ。お前、これ好きだったよな。」
「そうだね。」
私はそれなりにお酒が強く、雪国も好んで飲んでいたお酒の一つだった。
「でも……意外。そんなお酒頼むなんて。」
「そうか?」
「だって……」
そのあとは過去の話だ。私は一瞬言葉を詰まらせる。
「なんだよ」
「……あ……お酒、強くなったなぁって思って」
私の記憶の中の彼は、カシスオレンジでさえも顔が真っ赤になって飲めないような男性だった。
「あぁ。社会人になって揉まれたって感じかな。飲まなくちゃいけない酒を飲んで、酔っぱらう余裕もなく、上司のお酌して……先輩に合わせてテキーラなんかも揉まされてさ。」
「そうなんだね」
「お前は相変わらずだね」
「それでも前よりは弱くなったよ」
「ははは、でもその割にこの間の飲み会では結構日本酒飲んでたよな」
「まぁ、ね。」
「でもその調子だと酔っ払ってお持ち帰りーなんてことはならないな」
「ならないね。」
「もうちょっと酔うフリとかすれば、男なんてちょろいもんだろ?」
「そういうのは私らしくないでしょ?」
「たしかに。お前はそういう女じゃないな。」
そう言って水谷は苦笑した。
「でもさ、一度あったじゃん。酔っ払いすぎて帰れなかったこと。」
「そうだっけ。」
心当たりがあったが、私は忘れた振りをした。
「新入社員で張り切って男と対等に飲んで、潰れて、駅まで迎えに行った途端寝てしまって、おぶって帰った」
あの時の彼の体温と優しさを覚えてる。弱い部分も強がりな部分も全部見せられた。
「なかなか重かったぞ、お前。」
「覚えてるのそこ?!」
それでも文句も言わず家まで送ってくれたのは彼の優しさだった。そんなことをぼんやりと思い出していた。
「なぁ……この8年、お前は何をしていた?」
ぐさりと来る。
「まぁ、普通に大学院を卒業して、今の会社に入って、企画部で事業の企画して、この間次世代エネルギー部に入ったってところかな。ずっと仕事が中心だったな。」
「お前の会社男性主体の会社だからな。女のお前には大変だっただろうな。それに……頑張り屋なのは知ってるよ」
そう……男性社会の中での女性の立場はまだまだ肩身が狭く、どうしても出世争いからは外されていた。だけど負けてられない、その一心で仕事に打ち込んだ気がする。
「企画部の仕事、大変だったろう……頑張ったな。」
私の顔を覗き込む水谷の目は優しくて、その言葉だけで私の苦労を全部わかってくれたような気がした。
酔っているせいか、胸の奥がいっぱいになって私は言葉を詰まらせた。
誰にも評価されない仕事。誰にも認められない仕事。
誰かに言ってもらいたかった言葉をどうしてこの男は言ってくれるのだろう。
話題を変えようと私も尋ねてみる。
「結婚……したんだよね。」
「あぁ……そうだな。」
「結婚はいつ?」
「5年前。」
「そう……。」
「職場での恋愛結婚だな。……まぁ結婚には興味はなかったけど、上司の勧めもあったし。でも……ずっと……お前のことは忘れなかったよ」
何度目だろうか。胸が痛んだ。
「そんな話しても……今はもう意味がないことでしょ。そんな話するなら帰るよ」
「あ……悪かったな。」
変な空気が流れる。この空気は知っている。何度も経験した雰囲気。そう……喧嘩したあと、よりを戻そうとするときの雰囲気に似ていた。
私は気持ちを切り替えるために立ち上がってキャッシャーに向かった。
「結婚祝い。おごってあげる。」
外は沖縄なだけあって夜だけど生ぬるい空気だった。宿泊先であるホテルに向かって歩き出す。お互いに無言。
部屋は同じ階で、私と水谷ははす向かいの部屋だった。
「じゃあ、お休み。」
そういって私が部屋に入ろうとしたその手を彼は握った。
「なに?」
「俺……やっぱりお前の事……」
その言葉を聞かず、私は手を振り払って私は部屋に入った。
胸が……ざわざわする。
相手は既婚者。期待なんてしていない。だけど、どうしてだろう。こんなに胸が……痛い。
扉にもたれて私はその場にずるずるとしゃがみ込んでいた。
お店はこじんまりとしていて、地元の人が通うような質素で昔ながらのお店の雰囲気があった。
出てきたゴーヤチャンプルを食べる。内地で食べるよりやはり本場は美味しい。
そうやってゴーヤチャンプルに舌鼓を打っていると聞き覚えのある声が聞こえた。
「すんません。1人空いてますか?」
「あ……」
「あ……」
お互い見つめあう。
「森本さんもここにいたんですね。」
ナチュラルに私の前の席に座ったのは水谷だった。
「なんでこのお店、知っているの?たまたま?」
「いや、金井に聞いて。」
金井とは私と水谷の共通の友達だった。
「あぁ……」
なんて失態だと思った。そこまで気が回らなかった。もくもくと食べるのを水谷はじっと見ていた。
「なに?」
「いや……よく食べるなぁと」
「人の食べる姿を見るのは悪趣味じゃないですか?」
「だって、ほかに見るものないだろう?」
「……。」
無視だ。無視。
「なぁ、そろそろ……その態度止めないか?」
「え?」
「明らかに俺のこと避けてるだろ?まぁ……元カレと仕事して普通でいろというのも変な話だって分かっているけどな。」
「別に……避けているわけじゃないけど。あまり積極的には関わりたくない。」
「まぁ……そうだよな。」
そう言って水谷は苦笑した。
「ということは、まだ俺を意識したりしてるのか?」
「はぁ?」
この男はなんだってそんなこと言うのだろうか?
ばかか?バカなのか?
開いた口がふさがらないということはこういうことを言うのだろう。
「じゃあさ、仕事仲間として、このあとバーにでも行くか。断らないよな。だって俺とお前は仕事の同僚で、恋愛感情なんてないんだかな」
悪戯っぽく笑う。ここで引き下がったら、私が少しでも水谷に未練があるように取られるのも癪で私は渋々と飲みに行くことになったのだ。
何気なく入ったバーは悪くなかった。
お酒もおいしい。ゆっくり話せる雰囲気だった。
私はソルティードックを、水谷は雪国を。
しばらくお互い無言のままカクテルに口をつける。
私はソルティードックの甘いが塩の味をゆっくり味わう。
何を話したらいいのか、少し居心地が悪い。とりあえず当たり障りのないお酒の話をすることにした。
「雪国……おいしいよね……」
雪国は日本酒をベースにしたカクテル。すっきりした味わいだけど、やっぱり日本酒だけあって飲むと結構酔う。
「……あぁ。お前、これ好きだったよな。」
「そうだね。」
私はそれなりにお酒が強く、雪国も好んで飲んでいたお酒の一つだった。
「でも……意外。そんなお酒頼むなんて。」
「そうか?」
「だって……」
そのあとは過去の話だ。私は一瞬言葉を詰まらせる。
「なんだよ」
「……あ……お酒、強くなったなぁって思って」
私の記憶の中の彼は、カシスオレンジでさえも顔が真っ赤になって飲めないような男性だった。
「あぁ。社会人になって揉まれたって感じかな。飲まなくちゃいけない酒を飲んで、酔っぱらう余裕もなく、上司のお酌して……先輩に合わせてテキーラなんかも揉まされてさ。」
「そうなんだね」
「お前は相変わらずだね」
「それでも前よりは弱くなったよ」
「ははは、でもその割にこの間の飲み会では結構日本酒飲んでたよな」
「まぁ、ね。」
「でもその調子だと酔っ払ってお持ち帰りーなんてことはならないな」
「ならないね。」
「もうちょっと酔うフリとかすれば、男なんてちょろいもんだろ?」
「そういうのは私らしくないでしょ?」
「たしかに。お前はそういう女じゃないな。」
そう言って水谷は苦笑した。
「でもさ、一度あったじゃん。酔っ払いすぎて帰れなかったこと。」
「そうだっけ。」
心当たりがあったが、私は忘れた振りをした。
「新入社員で張り切って男と対等に飲んで、潰れて、駅まで迎えに行った途端寝てしまって、おぶって帰った」
あの時の彼の体温と優しさを覚えてる。弱い部分も強がりな部分も全部見せられた。
「なかなか重かったぞ、お前。」
「覚えてるのそこ?!」
それでも文句も言わず家まで送ってくれたのは彼の優しさだった。そんなことをぼんやりと思い出していた。
「なぁ……この8年、お前は何をしていた?」
ぐさりと来る。
「まぁ、普通に大学院を卒業して、今の会社に入って、企画部で事業の企画して、この間次世代エネルギー部に入ったってところかな。ずっと仕事が中心だったな。」
「お前の会社男性主体の会社だからな。女のお前には大変だっただろうな。それに……頑張り屋なのは知ってるよ」
そう……男性社会の中での女性の立場はまだまだ肩身が狭く、どうしても出世争いからは外されていた。だけど負けてられない、その一心で仕事に打ち込んだ気がする。
「企画部の仕事、大変だったろう……頑張ったな。」
私の顔を覗き込む水谷の目は優しくて、その言葉だけで私の苦労を全部わかってくれたような気がした。
酔っているせいか、胸の奥がいっぱいになって私は言葉を詰まらせた。
誰にも評価されない仕事。誰にも認められない仕事。
誰かに言ってもらいたかった言葉をどうしてこの男は言ってくれるのだろう。
話題を変えようと私も尋ねてみる。
「結婚……したんだよね。」
「あぁ……そうだな。」
「結婚はいつ?」
「5年前。」
「そう……。」
「職場での恋愛結婚だな。……まぁ結婚には興味はなかったけど、上司の勧めもあったし。でも……ずっと……お前のことは忘れなかったよ」
何度目だろうか。胸が痛んだ。
「そんな話しても……今はもう意味がないことでしょ。そんな話するなら帰るよ」
「あ……悪かったな。」
変な空気が流れる。この空気は知っている。何度も経験した雰囲気。そう……喧嘩したあと、よりを戻そうとするときの雰囲気に似ていた。
私は気持ちを切り替えるために立ち上がってキャッシャーに向かった。
「結婚祝い。おごってあげる。」
外は沖縄なだけあって夜だけど生ぬるい空気だった。宿泊先であるホテルに向かって歩き出す。お互いに無言。
部屋は同じ階で、私と水谷ははす向かいの部屋だった。
「じゃあ、お休み。」
そういって私が部屋に入ろうとしたその手を彼は握った。
「なに?」
「俺……やっぱりお前の事……」
その言葉を聞かず、私は手を振り払って私は部屋に入った。
胸が……ざわざわする。
相手は既婚者。期待なんてしていない。だけど、どうしてだろう。こんなに胸が……痛い。
扉にもたれて私はその場にずるずるとしゃがみ込んでいた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

目に映った光景すべてを愛しく思えたのなら
夏空サキ
ライト文芸
大阪の下町で暮らす映子は小学四年生。
心を病んだ母と、どこか逃げてばかりいる父と三人で暮らしている。
そんな鬱屈とした日常のなか、映子は、子供たちの間でみどりばあさんと呼ばれ、妖怪か何かのように恐れられている老人と出会う。
怖いながらも怖いもの見たさにみどりばあさんに近づいた映子は、いつしか彼女と親しく言葉を交わすようになっていった―――。
けれどみどりばあさんには、映子に隠していることがあった――。
田んぼのはずれの小さな小屋で暮らすみどりばあさんの正体とは。
(第六回ライト文芸大賞奨励賞をいただきました)

Rotkäppchen und Wolf
しんぐぅじ
ライト文芸
世界から消えようとした少女はお人好しなイケメン達出会った。
人は簡単には変われない…
でもあなた達がいれば変われるかな…
根暗赤ずきんを変えるイケメン狼達とちょっと不思議な物語。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
サドガシマ作戦、2025年初冬、ロシア共和国は突如として佐渡ヶ島に侵攻した。
セキトネリ
ライト文芸
2025年初冬、ウクライナ戦役が膠着状態の中、ロシア連邦東部軍管区(旧極東軍管区)は突如北海道北部と佐渡ヶ島に侵攻。総責任者は東部軍管区ジトコ大将だった。北海道はダミーで狙いは佐渡ヶ島のガメラレーダーであった。これは中国の南西諸島侵攻と台湾侵攻を援助するための密約のためだった。同時に北朝鮮は38度線を越え、ソウルを占拠した。在韓米軍に対しては戦術核の電磁パルス攻撃で米軍を朝鮮半島から駆逐、日本に退避させた。
その中、欧州ロシアに対して、東部軍管区ジトコ大将はロシア連邦からの離脱を決断、中央軍管区と図ってオビ川以東の領土を東ロシア共和国として独立を宣言、日本との相互安保条約を結んだ。
佐渡ヶ島侵攻(通称サドガシマ作戦、Operation Sadogashima)の副指揮官はジトコ大将の娘エレーナ少佐だ。エレーナ少佐率いる東ロシア共和国軍女性部隊二千人は、北朝鮮のホバークラフトによる上陸作戦を陸自水陸機動団と阻止する。
※このシリーズはカクヨム版「サドガシマ作戦(https://kakuyomu.jp/works/16818093092605918428)」と重複しています。ただし、カクヨムではできない説明用の軍事地図、武器詳細はこちらで掲載しております。
※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる