9 / 20
再会③
しおりを挟む ルビとスタールビーの魔力が増幅しているのは肌で感じられる。だから確かにそこにいるとわかるのだが、視認できないのだ。
これが鉱物人形の戦闘?
魔力が高まっているからだろう、ふたりから溢れ出す魔力が紅玉色の光として捉えられるようになった。
蛇型の魔物が翻弄されているのがわかる。
右へ、左へ。
首も尻尾も使える部分は使って動いているが、彼らを捉えきれていないようだ。魔物にとって、この屋内は狭すぎるのかもしれない。
衝撃波や咆哮で建物が軋み、揺れる。その都度、アメシストが結界を張り、シトリンが剣で飛翔体を弾いた。
「すごい……」
「一撃で仕留めるのかと思ったけど、慎重ね」
「そうなんですか?」
「彼らにとっても、あまり敵対したことのない相手なんでしょう。慎重なのはいいことよ」
セレナは答えながら、手を動かしている。術の準備のようだ。
「ところで、セレナさんはなにを?」
「倒したら毒素が充満、みたいなのもあるからね。精霊管理協会の制服ってその辺のことも考慮されていて術が編み込まれているんだけど、念には念を」
「現場に出ているだけありますね……」
ひょっとしたら、セレナの準備が整うのを待っているのかもしれない。彼女の手が止まったとき、赤い光が蛇型の魔物を分断した。
私の前方、地面に着地する音が二つ。すぐさまスタールビーが手をかざして結界を張る。
魔物が霧散した。蛇型の血煙が周囲の闇に溶けていく。
「――倒せたから引くぞ。ほかに魔物はいないはずだ」
結界は消さずに、スタールビーが告げる。
「呼吸はしないほうがいい。腐るぞ」
ルビが剣を虚空にしまうなり説明してくれた。彼の服の一部が溶けている。鉱物人形は衣装も含めて身体の一部だと説明されたのを思い出した。
私が手を伸ばそうとしたところで、アメシストが私を横抱きにする。
「治療は後だよ。脱出しよう」
建物が焼ける音がする。魔物がいたあたりの床が溶け始めていた。
私が頷いたのを確認して、撤退作業に入る。階段を降りて、来た道を辿って外に出た。
「よっ。お疲れ様だったな」
先に脱出していたオパールと合流した。彼の足元には腕と身体が別々にまとめられたステラが倒れている。大きな人形が落ちているみたいな感じで、どことなくシュールだ。
「サンプルが取れなかったけど、まあ仕方がないわよねえ」
オパールに向かって、セレナが肩をすくめた。オパールが苦笑する。
「データが取れりゃ充分だろ? 始末書と報告書、オレも手伝うからあんまり無茶してくれるな。きみは人間で、オレの伴侶なんだから。鉱物人形の未亡人とか、勘弁願いたいんだが」
「そっちもあんまり格好つけないでほしいわね」
「後輩に戦闘を見せるのが今回の仕事に含まれているんだろ? 任務を遂行しただけなのに、その言い方はないだろ」
ふたりのやり取りを見ていると、互いを信頼し心配していたのがよく伝わってくる。何かあったときにすぐに回復させたい都合で結婚しているのだとオパールは言っていたはずだが、彼らがパートナーとして選んだのは必然だったのだろうと思えた。
精霊管理協会の職員になるなら結婚必須みたいだけど、じゃあ精霊使いはどうなんだろう?
これが鉱物人形の戦闘?
魔力が高まっているからだろう、ふたりから溢れ出す魔力が紅玉色の光として捉えられるようになった。
蛇型の魔物が翻弄されているのがわかる。
右へ、左へ。
首も尻尾も使える部分は使って動いているが、彼らを捉えきれていないようだ。魔物にとって、この屋内は狭すぎるのかもしれない。
衝撃波や咆哮で建物が軋み、揺れる。その都度、アメシストが結界を張り、シトリンが剣で飛翔体を弾いた。
「すごい……」
「一撃で仕留めるのかと思ったけど、慎重ね」
「そうなんですか?」
「彼らにとっても、あまり敵対したことのない相手なんでしょう。慎重なのはいいことよ」
セレナは答えながら、手を動かしている。術の準備のようだ。
「ところで、セレナさんはなにを?」
「倒したら毒素が充満、みたいなのもあるからね。精霊管理協会の制服ってその辺のことも考慮されていて術が編み込まれているんだけど、念には念を」
「現場に出ているだけありますね……」
ひょっとしたら、セレナの準備が整うのを待っているのかもしれない。彼女の手が止まったとき、赤い光が蛇型の魔物を分断した。
私の前方、地面に着地する音が二つ。すぐさまスタールビーが手をかざして結界を張る。
魔物が霧散した。蛇型の血煙が周囲の闇に溶けていく。
「――倒せたから引くぞ。ほかに魔物はいないはずだ」
結界は消さずに、スタールビーが告げる。
「呼吸はしないほうがいい。腐るぞ」
ルビが剣を虚空にしまうなり説明してくれた。彼の服の一部が溶けている。鉱物人形は衣装も含めて身体の一部だと説明されたのを思い出した。
私が手を伸ばそうとしたところで、アメシストが私を横抱きにする。
「治療は後だよ。脱出しよう」
建物が焼ける音がする。魔物がいたあたりの床が溶け始めていた。
私が頷いたのを確認して、撤退作業に入る。階段を降りて、来た道を辿って外に出た。
「よっ。お疲れ様だったな」
先に脱出していたオパールと合流した。彼の足元には腕と身体が別々にまとめられたステラが倒れている。大きな人形が落ちているみたいな感じで、どことなくシュールだ。
「サンプルが取れなかったけど、まあ仕方がないわよねえ」
オパールに向かって、セレナが肩をすくめた。オパールが苦笑する。
「データが取れりゃ充分だろ? 始末書と報告書、オレも手伝うからあんまり無茶してくれるな。きみは人間で、オレの伴侶なんだから。鉱物人形の未亡人とか、勘弁願いたいんだが」
「そっちもあんまり格好つけないでほしいわね」
「後輩に戦闘を見せるのが今回の仕事に含まれているんだろ? 任務を遂行しただけなのに、その言い方はないだろ」
ふたりのやり取りを見ていると、互いを信頼し心配していたのがよく伝わってくる。何かあったときにすぐに回復させたい都合で結婚しているのだとオパールは言っていたはずだが、彼らがパートナーとして選んだのは必然だったのだろうと思えた。
精霊管理協会の職員になるなら結婚必須みたいだけど、じゃあ精霊使いはどうなんだろう?
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

目に映った光景すべてを愛しく思えたのなら
夏空サキ
ライト文芸
大阪の下町で暮らす映子は小学四年生。
心を病んだ母と、どこか逃げてばかりいる父と三人で暮らしている。
そんな鬱屈とした日常のなか、映子は、子供たちの間でみどりばあさんと呼ばれ、妖怪か何かのように恐れられている老人と出会う。
怖いながらも怖いもの見たさにみどりばあさんに近づいた映子は、いつしか彼女と親しく言葉を交わすようになっていった―――。
けれどみどりばあさんには、映子に隠していることがあった――。
田んぼのはずれの小さな小屋で暮らすみどりばあさんの正体とは。
(第六回ライト文芸大賞奨励賞をいただきました)


人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
サドガシマ作戦、2025年初冬、ロシア共和国は突如として佐渡ヶ島に侵攻した。
セキトネリ
ライト文芸
2025年初冬、ウクライナ戦役が膠着状態の中、ロシア連邦東部軍管区(旧極東軍管区)は突如北海道北部と佐渡ヶ島に侵攻。総責任者は東部軍管区ジトコ大将だった。北海道はダミーで狙いは佐渡ヶ島のガメラレーダーであった。これは中国の南西諸島侵攻と台湾侵攻を援助するための密約のためだった。同時に北朝鮮は38度線を越え、ソウルを占拠した。在韓米軍に対しては戦術核の電磁パルス攻撃で米軍を朝鮮半島から駆逐、日本に退避させた。
その中、欧州ロシアに対して、東部軍管区ジトコ大将はロシア連邦からの離脱を決断、中央軍管区と図ってオビ川以東の領土を東ロシア共和国として独立を宣言、日本との相互安保条約を結んだ。
佐渡ヶ島侵攻(通称サドガシマ作戦、Operation Sadogashima)の副指揮官はジトコ大将の娘エレーナ少佐だ。エレーナ少佐率いる東ロシア共和国軍女性部隊二千人は、北朝鮮のホバークラフトによる上陸作戦を陸自水陸機動団と阻止する。
※このシリーズはカクヨム版「サドガシマ作戦(https://kakuyomu.jp/works/16818093092605918428)」と重複しています。ただし、カクヨムではできない説明用の軍事地図、武器詳細はこちらで掲載しております。
※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
【本編完結】繚乱ロンド
由宇ノ木
ライト文芸
番外編は時系列順ではありません。
更新日 2/12 『受け継ぐ者』
更新日 2/4 『秘密を持って生まれた子 3』(全3話)
02/01『秘密を持って生まれた子 2』
01/23『秘密を持って生まれた子 1』
01/18『美之の黒歴史 5』(全5話)
12/30『とわずがたり~思い出を辿れば~2,3』
12/25『とわずがたり~思い出を辿れば~1 』
本編は完結。番外編を不定期で更新。
11/11~11/19『夫の疑問、妻の確信1~3』
10/12 『いつもあなたの幸せを。』
9/14 『伝統行事』
8/24 『ひとりがたり~人生を振り返る~』
お盆期間限定番外編 8月11日~8月16日まで
『日常のひとこま』は公開終了しました。
7/31 『恋心』・・・本編の171、180、188話にチラッと出てきた京司朗の自室に礼夏が現れたときの話です。
6/18 『ある時代の出来事』
-本編大まかなあらすじ-
*青木みふゆは23歳。両親も妹も失ってしまったみふゆは一人暮らしで、花屋の堀内花壇の支店と本店に勤めている。花の仕事は好きで楽しいが、本店勤務時は事務を任されている二つ年上の林香苗に妬まれ嫌がらせを受けている。嫌がらせは徐々に増え、辟易しているみふゆは転職も思案中。
林香苗は堀内花壇社長の愛人でありながら、店のお得意様の、裏社会組織も持つといわれる惣領家の当主・惣領貴之がみふゆを気に入ってかわいがっているのを妬んでいるのだ。
そして、惣領貴之の懐刀とされる若頭・仙道京司朗も海外から帰国。みふゆが貴之に取り入ろうとしているのではないかと、京司朗から疑いをかけられる。
みふゆは自分の微妙な立場に悩みつつも、惣領貴之との親交を深め養女となるが、ある日予知をきっかけに高熱を出し年齢を退行させてゆくことになる。みふゆの心は子供に戻っていってしまう。
令和5年11/11更新内容(最終回)
*199. (2)
*200. ロンド~踊る命~ -17- (1)~(6)
*エピローグ ロンド~廻る命~
本編最終回です。200話の一部を199.(2)にしたため、199.(2)から最終話シリーズになりました。
※この物語はフィクションです。実在する団体・企業・人物とはなんら関係ありません。架空の町が舞台です。
現在の関連作品
『邪眼の娘』更新 令和7年1/25
『月光に咲く花』(ショートショート)
以上2作品はみふゆの母親・水無瀬礼夏(青木礼夏)の物語。
『恋人はメリーさん』(主人公は京司朗の後輩・東雲結)
『繚乱ロンド』の元になった2作品
『花物語』に入っている『カサブランカ・ダディ(全五話)』『花冠はタンポポで(ショートショート)』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる