7 / 20
再会①
しおりを挟む
ガタン
缶コーヒーが自販機から音を立てて落ちてくる。
そっとそれを取ってタブを開けるとプシュという小さな音を立てて開くと同時にコーヒーのいい香りがした。
最近はもっぱらコンビニのドリップコーヒーが多かったけど、今日はそこまで行く気にならずに休憩コーナーの100円の缶コーヒーで我慢した。
とにかく平常心。同じプロジェクトにいるとは言え、私は内勤で研究職ではない。
打ち合わせで顔を合わせることも少ないはずだ。
ざわつく胸を押さえて私は必死に動揺を納めようとした。
そう……今日の打ち合わせ、最後に入ってきたのは13年前に別れた元カレ……水谷光太郎だった。
名刺交換の時、水谷は私の名前を見て、そして顔を見て何か気づいたようだった。
私は、名刺交換を義務的に行い、そして一番に席を立って、こうして休憩コーナーに引きこもっていた。
上機嫌の上司はお昼でも行くかという声をかけてくれたが、前職場の引継ぎがあるのでという最もらしい理由をつけて断った。
「まさか……なぁ……」
偶然にもできすぎだろう?正直結婚もしてない、彼氏もいないという無様な姿を水谷にだけは見せたくなかった。
せめて仕事ができるという女になったなと思われたいと心を更に強く持った。
「コーヒー、好きだったよな。」
後ろから声をかけられてびくっとなった。心臓がどきどきと脈打つ。冷や汗が背中を伝う。
「……何か御用でしょうか?」
「そんな他人行儀な……っていっても無理だよな。久しぶり。まさかこんなところで香澄に会うなんてな。」
「私も驚きました。てっきり大学で研究職を続けていると思っていたのに。」
自分でも驚くほど冷静な声が出た。
「まぁ……俺も色々あったんだ。でも香澄とは……その……なんだ……。まぁ縁ってやつだな。よろしくな。」
「ここでは森本と呼んでください。他人に詮索されると面倒なので。」
暗に線を引く。
「そう……だな。」
この男はもともとグイグイ人を引っ張るタイプではない。
線を引けばそれ以上の詮索はしてこないことは悔しいかな分かっていることだった。
「でも、缶コーヒー1杯くらい付き合うくらいいいだろ。プロジェクトメンバーなんだし。」
前言撤回。
グイグイ人を引っ張るタイプじゃないが時折TPOが分からないくらい鈍感になる。
花見に行こうとデートに誘ったら全身スエットにサンダルをひっかけてくるようなデリカシーのない男であったことを思い出した。
ため息をついて私は窓を見た。
明らかな拒絶。
苦笑するような気配を感じた。
窓越しに移る水谷の姿を見つめる。
12年という月日はあっという間で、やはりお互い老けたなぁという印象。まぁよく言えば年を重ねたという感じだ。
若い頃に比べると、服装も落ち着いているし、仕草一つにも余裕のある男性になっていると思った。
そして……コーヒーの缶を持った左手には指輪。
当たり前ながら既婚者だったと内心ショックを受けている自分がいた。
8年間私はこの元カレである水谷の悪夢にうなされていたのに、やはりこの人は結婚していたのだなぁと当たり前のように感じられた。
もう悔しいという感情もわかなかった。
だって、諦めていたから。
「大学のメンバーはどうだ?連絡とってるのか?」
「たまに……。今はあまり連絡してないけど、年賀状のやり取りとバースデープレゼントとかもらっている。」
「そっか、お前誕生日は7月だったな。まだスイカのプレゼントが届いたりしているのか?」
「まぁね。」
親友の一人に誕生日プレゼントに添えてスイカを送ってくる友達がいた。
昔は一人でそれを食べきることができず、水谷とお腹を壊すのではと思いつつひたすら食べた記憶もある。
「では。私は失礼します。」
「おい、もう行くのかよ。」
「くだらない昔話に付き合う気はないので。」
「プロジェクトはよろしくな。」
水谷の言葉を後ろに聞きながら、私は休憩コーナーを後にした。
缶コーヒーが自販機から音を立てて落ちてくる。
そっとそれを取ってタブを開けるとプシュという小さな音を立てて開くと同時にコーヒーのいい香りがした。
最近はもっぱらコンビニのドリップコーヒーが多かったけど、今日はそこまで行く気にならずに休憩コーナーの100円の缶コーヒーで我慢した。
とにかく平常心。同じプロジェクトにいるとは言え、私は内勤で研究職ではない。
打ち合わせで顔を合わせることも少ないはずだ。
ざわつく胸を押さえて私は必死に動揺を納めようとした。
そう……今日の打ち合わせ、最後に入ってきたのは13年前に別れた元カレ……水谷光太郎だった。
名刺交換の時、水谷は私の名前を見て、そして顔を見て何か気づいたようだった。
私は、名刺交換を義務的に行い、そして一番に席を立って、こうして休憩コーナーに引きこもっていた。
上機嫌の上司はお昼でも行くかという声をかけてくれたが、前職場の引継ぎがあるのでという最もらしい理由をつけて断った。
「まさか……なぁ……」
偶然にもできすぎだろう?正直結婚もしてない、彼氏もいないという無様な姿を水谷にだけは見せたくなかった。
せめて仕事ができるという女になったなと思われたいと心を更に強く持った。
「コーヒー、好きだったよな。」
後ろから声をかけられてびくっとなった。心臓がどきどきと脈打つ。冷や汗が背中を伝う。
「……何か御用でしょうか?」
「そんな他人行儀な……っていっても無理だよな。久しぶり。まさかこんなところで香澄に会うなんてな。」
「私も驚きました。てっきり大学で研究職を続けていると思っていたのに。」
自分でも驚くほど冷静な声が出た。
「まぁ……俺も色々あったんだ。でも香澄とは……その……なんだ……。まぁ縁ってやつだな。よろしくな。」
「ここでは森本と呼んでください。他人に詮索されると面倒なので。」
暗に線を引く。
「そう……だな。」
この男はもともとグイグイ人を引っ張るタイプではない。
線を引けばそれ以上の詮索はしてこないことは悔しいかな分かっていることだった。
「でも、缶コーヒー1杯くらい付き合うくらいいいだろ。プロジェクトメンバーなんだし。」
前言撤回。
グイグイ人を引っ張るタイプじゃないが時折TPOが分からないくらい鈍感になる。
花見に行こうとデートに誘ったら全身スエットにサンダルをひっかけてくるようなデリカシーのない男であったことを思い出した。
ため息をついて私は窓を見た。
明らかな拒絶。
苦笑するような気配を感じた。
窓越しに移る水谷の姿を見つめる。
12年という月日はあっという間で、やはりお互い老けたなぁという印象。まぁよく言えば年を重ねたという感じだ。
若い頃に比べると、服装も落ち着いているし、仕草一つにも余裕のある男性になっていると思った。
そして……コーヒーの缶を持った左手には指輪。
当たり前ながら既婚者だったと内心ショックを受けている自分がいた。
8年間私はこの元カレである水谷の悪夢にうなされていたのに、やはりこの人は結婚していたのだなぁと当たり前のように感じられた。
もう悔しいという感情もわかなかった。
だって、諦めていたから。
「大学のメンバーはどうだ?連絡とってるのか?」
「たまに……。今はあまり連絡してないけど、年賀状のやり取りとバースデープレゼントとかもらっている。」
「そっか、お前誕生日は7月だったな。まだスイカのプレゼントが届いたりしているのか?」
「まぁね。」
親友の一人に誕生日プレゼントに添えてスイカを送ってくる友達がいた。
昔は一人でそれを食べきることができず、水谷とお腹を壊すのではと思いつつひたすら食べた記憶もある。
「では。私は失礼します。」
「おい、もう行くのかよ。」
「くだらない昔話に付き合う気はないので。」
「プロジェクトはよろしくな。」
水谷の言葉を後ろに聞きながら、私は休憩コーナーを後にした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
4
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる