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悪夢③

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ピピピピというアラームの音。


「最悪」


そう呟きながら私はベッドから起き上がる。

もう何年も見ていなかった夢。正直悪夢の部類に入るだろう。

失恋当初は良くみてうなされていた。

最近ではめっきりその回数が減ったことで私も吹っ切れてたのだなと思っていたのに……。

胸がまだ……ちくちくする。


(ちゃんと別れの言葉を言っていなかったなぁ)


だからなのだろうか。別れてから12年も経っているのにたまに見る夢だった。

夢の中の私は元彼と楽しそうに笑っていたり、結婚をする夢なんかを見ることもあった。

そのたびに目が覚めで憂鬱な気分になる。

未練があるわけではないのに、こうやって付きまとう元カレの記憶。

そんな夢もしばらく見てなかったのに……。


「さて、仕事仕事!」


今日は異動初日。

―ウチの会社では畑違いの部署ですけど、でも新しいことに携われるって面白くないですか?-

足立君の言葉を思い出す。

そうだ、私には仕事しかない。余計なことを考えず、私は仕事モードに切り替えるために出社の準備を始めた。



「システム部から異動になりました森本香澄です。よろしくお願いします。」
「中央研究所から異動になりました足立斗真です。エネルギー開発に興味があるのでとても楽しみです。よろしくお願いします」


私と足立君は所属はじめということで部内挨拶をする。

パチパチという拍手に迎えられて、私は席に着いた。


「香澄先輩、よろしくです!」
「こちらこそ」


足立君とは隣の席になった。見知らぬ……しかも畑違いの部署だっただけに知り合いがいるだけでも心強い。

さてと……まずはメールチェック、それと現在のプロジェクトの進行状況から確認すればいいかな。

私は頭の中で今日の仕事のスケジュールを組み立てる。

TODOリストを作って付箋にそれを書くと、机の隅に貼ってパソコンに向かった。


「香澄先輩……しっかりしてますね」


突然足立君に声を掛けられる。何のことかわからずに戸惑っていると彼の指の先にTODOリストを書いた付箋があった。


「あー、つい癖でね。自分の中で時間割を決めてタスクをこなすのよ。」
「俺はそういうの面倒でやらないんですよね……」
「実験ノートとかつけるじゃない。それと同じよ。」
「そういうのは……ノリというか……浮かんだ発想で実験試すこと多くて」


まぁ確かに実験の時にTODOリストはあまり作らないだろう。


「まぁ、今回は文献調査とかプレゼン資料作成とかが多い仕事だから、TODOリストを使ってタスクを可視化するといいよ」
「なるほど……勉強になります、先輩」


そんなやり取りをしていると、課長から呼び出された。


「森本、足立、ミーティングルームに来い。」
「あ、はーい。」


打ち合わせの予定があっただろうか?

そんな思いを持ちつつも、ノートパソコンと手帳を持ってミーティングルームに入った。


「失礼します。」
「しまーす!」
「二人とも着任早々悪いな。先方が今日じゃないといけないってことで、今から打ち合わせになった。」
「先方?」
「三ツ輪自動車だよ。次世代エネルギーの可能性を検討するということで三ツ輪と共同でプロジェクトを推進することになったんだ。」


三ツ輪自動車……確か、水素や電気などの自動車の開発もしているし、自動運転なんかにも手を出している大手だ。

ウチの会社も大手と言っては大手だし、実際その分野では一部の優秀な人材は国のプロジェクトに参加もしている。

でも三ツ輪程の大手と組むということは足立君が言うように、実は次世代を期待されている部署なのかもしれない。

そんなことを考えていると打ち合わせルームがノックされる。

どんな人材が来るのだろうか。ドキドキしながら扉を見つめる。

役職者と思われる50代の男性が入ってくる。

そのあとに技術職と思われる若いメンバーが数人。そして最後に入ってきた人物の顔を見て、私は心臓が凍るかと思った。

ウソだ……そんなことあり得ない……だって彼は……携帯電話設計の会社にいたはずなのに……。

私の動揺に気づかず、自己紹介が淡々と続く。

自分の番になることにも気づかず、隣にいた足立君に小突かれて初めて現実に引き戻された。

「……次世代エネルギー部の森本香澄です。よろしくお願いいたします。」

のどがカラカラに乾く。動揺を隠しながら、先方のプレゼンテーションを聞く。

何が起こっているのか……正直分からないまま自己紹介は続く。

ドクンドクン

隣にいる足立君に私の心臓の音が聞こえるのではないかと思えるくらいだった。

冷や汗が背中を伝う。

不意に目が合う。


「三ツ輪自動車、開発部、水谷幸太郎です。よろしくお願いします。」


そう、忘れていた大学時代の元カレだった。

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