6 / 20
悪夢③
しおりを挟む
ピピピピというアラームの音。
「最悪」
そう呟きながら私はベッドから起き上がる。
もう何年も見ていなかった夢。正直悪夢の部類に入るだろう。
失恋当初は良くみてうなされていた。
最近ではめっきりその回数が減ったことで私も吹っ切れてたのだなと思っていたのに……。
胸がまだ……ちくちくする。
(ちゃんと別れの言葉を言っていなかったなぁ)
だからなのだろうか。別れてから12年も経っているのにたまに見る夢だった。
夢の中の私は元彼と楽しそうに笑っていたり、結婚をする夢なんかを見ることもあった。
そのたびに目が覚めで憂鬱な気分になる。
未練があるわけではないのに、こうやって付きまとう元カレの記憶。
そんな夢もしばらく見てなかったのに……。
「さて、仕事仕事!」
今日は異動初日。
―ウチの会社では畑違いの部署ですけど、でも新しいことに携われるって面白くないですか?-
足立君の言葉を思い出す。
そうだ、私には仕事しかない。余計なことを考えず、私は仕事モードに切り替えるために出社の準備を始めた。
「システム部から異動になりました森本香澄です。よろしくお願いします。」
「中央研究所から異動になりました足立斗真です。エネルギー開発に興味があるのでとても楽しみです。よろしくお願いします」
私と足立君は所属はじめということで部内挨拶をする。
パチパチという拍手に迎えられて、私は席に着いた。
「香澄先輩、よろしくです!」
「こちらこそ」
足立君とは隣の席になった。見知らぬ……しかも畑違いの部署だっただけに知り合いがいるだけでも心強い。
さてと……まずはメールチェック、それと現在のプロジェクトの進行状況から確認すればいいかな。
私は頭の中で今日の仕事のスケジュールを組み立てる。
TODOリストを作って付箋にそれを書くと、机の隅に貼ってパソコンに向かった。
「香澄先輩……しっかりしてますね」
突然足立君に声を掛けられる。何のことかわからずに戸惑っていると彼の指の先にTODOリストを書いた付箋があった。
「あー、つい癖でね。自分の中で時間割を決めてタスクをこなすのよ。」
「俺はそういうの面倒でやらないんですよね……」
「実験ノートとかつけるじゃない。それと同じよ。」
「そういうのは……ノリというか……浮かんだ発想で実験試すこと多くて」
まぁ確かに実験の時にTODOリストはあまり作らないだろう。
「まぁ、今回は文献調査とかプレゼン資料作成とかが多い仕事だから、TODOリストを使ってタスクを可視化するといいよ」
「なるほど……勉強になります、先輩」
そんなやり取りをしていると、課長から呼び出された。
「森本、足立、ミーティングルームに来い。」
「あ、はーい。」
打ち合わせの予定があっただろうか?
そんな思いを持ちつつも、ノートパソコンと手帳を持ってミーティングルームに入った。
「失礼します。」
「しまーす!」
「二人とも着任早々悪いな。先方が今日じゃないといけないってことで、今から打ち合わせになった。」
「先方?」
「三ツ輪自動車だよ。次世代エネルギーの可能性を検討するということで三ツ輪と共同でプロジェクトを推進することになったんだ。」
三ツ輪自動車……確か、水素や電気などの自動車の開発もしているし、自動運転なんかにも手を出している大手だ。
ウチの会社も大手と言っては大手だし、実際その分野では一部の優秀な人材は国のプロジェクトに参加もしている。
でも三ツ輪程の大手と組むということは足立君が言うように、実は次世代を期待されている部署なのかもしれない。
そんなことを考えていると打ち合わせルームがノックされる。
どんな人材が来るのだろうか。ドキドキしながら扉を見つめる。
役職者と思われる50代の男性が入ってくる。
そのあとに技術職と思われる若いメンバーが数人。そして最後に入ってきた人物の顔を見て、私は心臓が凍るかと思った。
ウソだ……そんなことあり得ない……だって彼は……携帯電話設計の会社にいたはずなのに……。
私の動揺に気づかず、自己紹介が淡々と続く。
自分の番になることにも気づかず、隣にいた足立君に小突かれて初めて現実に引き戻された。
「……次世代エネルギー部の森本香澄です。よろしくお願いいたします。」
のどがカラカラに乾く。動揺を隠しながら、先方のプレゼンテーションを聞く。
何が起こっているのか……正直分からないまま自己紹介は続く。
ドクンドクン
隣にいる足立君に私の心臓の音が聞こえるのではないかと思えるくらいだった。
冷や汗が背中を伝う。
不意に目が合う。
「三ツ輪自動車、開発部、水谷幸太郎です。よろしくお願いします。」
そう、忘れていた大学時代の元カレだった。
「最悪」
そう呟きながら私はベッドから起き上がる。
もう何年も見ていなかった夢。正直悪夢の部類に入るだろう。
失恋当初は良くみてうなされていた。
最近ではめっきりその回数が減ったことで私も吹っ切れてたのだなと思っていたのに……。
胸がまだ……ちくちくする。
(ちゃんと別れの言葉を言っていなかったなぁ)
だからなのだろうか。別れてから12年も経っているのにたまに見る夢だった。
夢の中の私は元彼と楽しそうに笑っていたり、結婚をする夢なんかを見ることもあった。
そのたびに目が覚めで憂鬱な気分になる。
未練があるわけではないのに、こうやって付きまとう元カレの記憶。
そんな夢もしばらく見てなかったのに……。
「さて、仕事仕事!」
今日は異動初日。
―ウチの会社では畑違いの部署ですけど、でも新しいことに携われるって面白くないですか?-
足立君の言葉を思い出す。
そうだ、私には仕事しかない。余計なことを考えず、私は仕事モードに切り替えるために出社の準備を始めた。
「システム部から異動になりました森本香澄です。よろしくお願いします。」
「中央研究所から異動になりました足立斗真です。エネルギー開発に興味があるのでとても楽しみです。よろしくお願いします」
私と足立君は所属はじめということで部内挨拶をする。
パチパチという拍手に迎えられて、私は席に着いた。
「香澄先輩、よろしくです!」
「こちらこそ」
足立君とは隣の席になった。見知らぬ……しかも畑違いの部署だっただけに知り合いがいるだけでも心強い。
さてと……まずはメールチェック、それと現在のプロジェクトの進行状況から確認すればいいかな。
私は頭の中で今日の仕事のスケジュールを組み立てる。
TODOリストを作って付箋にそれを書くと、机の隅に貼ってパソコンに向かった。
「香澄先輩……しっかりしてますね」
突然足立君に声を掛けられる。何のことかわからずに戸惑っていると彼の指の先にTODOリストを書いた付箋があった。
「あー、つい癖でね。自分の中で時間割を決めてタスクをこなすのよ。」
「俺はそういうの面倒でやらないんですよね……」
「実験ノートとかつけるじゃない。それと同じよ。」
「そういうのは……ノリというか……浮かんだ発想で実験試すこと多くて」
まぁ確かに実験の時にTODOリストはあまり作らないだろう。
「まぁ、今回は文献調査とかプレゼン資料作成とかが多い仕事だから、TODOリストを使ってタスクを可視化するといいよ」
「なるほど……勉強になります、先輩」
そんなやり取りをしていると、課長から呼び出された。
「森本、足立、ミーティングルームに来い。」
「あ、はーい。」
打ち合わせの予定があっただろうか?
そんな思いを持ちつつも、ノートパソコンと手帳を持ってミーティングルームに入った。
「失礼します。」
「しまーす!」
「二人とも着任早々悪いな。先方が今日じゃないといけないってことで、今から打ち合わせになった。」
「先方?」
「三ツ輪自動車だよ。次世代エネルギーの可能性を検討するということで三ツ輪と共同でプロジェクトを推進することになったんだ。」
三ツ輪自動車……確か、水素や電気などの自動車の開発もしているし、自動運転なんかにも手を出している大手だ。
ウチの会社も大手と言っては大手だし、実際その分野では一部の優秀な人材は国のプロジェクトに参加もしている。
でも三ツ輪程の大手と組むということは足立君が言うように、実は次世代を期待されている部署なのかもしれない。
そんなことを考えていると打ち合わせルームがノックされる。
どんな人材が来るのだろうか。ドキドキしながら扉を見つめる。
役職者と思われる50代の男性が入ってくる。
そのあとに技術職と思われる若いメンバーが数人。そして最後に入ってきた人物の顔を見て、私は心臓が凍るかと思った。
ウソだ……そんなことあり得ない……だって彼は……携帯電話設計の会社にいたはずなのに……。
私の動揺に気づかず、自己紹介が淡々と続く。
自分の番になることにも気づかず、隣にいた足立君に小突かれて初めて現実に引き戻された。
「……次世代エネルギー部の森本香澄です。よろしくお願いいたします。」
のどがカラカラに乾く。動揺を隠しながら、先方のプレゼンテーションを聞く。
何が起こっているのか……正直分からないまま自己紹介は続く。
ドクンドクン
隣にいる足立君に私の心臓の音が聞こえるのではないかと思えるくらいだった。
冷や汗が背中を伝う。
不意に目が合う。
「三ツ輪自動車、開発部、水谷幸太郎です。よろしくお願いします。」
そう、忘れていた大学時代の元カレだった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~
友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。
全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。
遠くて近い君へ
中岡 始
BL
リゾートホテル「青海の宿」のフロントスタッフである隼人は、一流の接客スキルを磨き上げるため、青海の宿からフィレンツェの高級ホテルでの研修に旅立つことになる。
異国の地で新しい文化やホスピタリティのスタイルに触れ、刺激的な日々を送りながらも、隼人の心はどこか満たされずにいた。それは、青海の宿で共に働いてきた翔の存在を忘れられないからだった。
フィレンツェで出会った先輩スタッフのアレッサンドロや、彼のパートナーであるリカルドとの交流を通じて、隼人は「愛」や「自分らしさ」を見つめ直していく。そして、翔に対する気持ちがただの友情ではなく、もっと深いものだと気づき始める。
一方、隼人のいない青海の宿では、翔が新人スタッフ・健一の指導を通じて成長し、隼人の存在の大きさに改めて気づいていく。隼人がいないことで感じる空虚感の中で、翔もまた、隼人への特別な想いを自覚し始める。
再び巡り会う日が近づく中、二人の心の距離はどう変わるのか。離れていても繋がる思い、そして、再会によって深まる絆。友情を超えた特別な感情が芽生える中、隼人と翔は本当の気持ちを互いに伝えられるのか――。
心の揺れ動きと成長を描く、切なくも温かいラブストーリーが今、始まる。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
古屋さんバイト辞めるって
四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。
読んでくださりありがとうございました。
「古屋さんバイト辞めるって」
おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。
学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。
バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……
こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか?
表紙の画像はフリー素材サイトの
https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる