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悪夢②
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ガタンゴトン
少しの静寂。
あぁ……なんかまずいこと言っちゃったかなぁとちょっと反省していると、徐に彼が口を開いた。
「……先輩は、結婚何年目なんですか?」
「え?」
「あ、先輩学生時代結構長く付き合っていた人いたじゃないですか。あの人と結婚したのかなぁ……なんて思って。」
確かに学生時代から就職2年目まで付き合った彼氏がいたのは事実。
狭い学科内のことだったから、誰が誰と付き合っているなんて言う情報は割とみんな知っていた感じだ。
8年も付き合っていたからきっと結婚していると思われているんだろうな。
ちりりとした胸の痛みを覚えつつ、いつもの笑顔で返した。
「私は……結婚してないんだよね。彼とは入社2年目くらいに別れて、そして……なんか男性とは縁がなくてね。今まで独身なんだよね」
「…………そうなんですか。すみません。なんか失礼なこと聞いてしまって」
「いいんだよ!!だからかな。仕事も大切だけど、若い子にはちゃんと恋愛もして、ちゃんと結婚した方がいいかなぁって思ってて。足立君も私みたいにならないように、気を付けてね」
いつものように完璧な笑みだと自分でも思う。
それに本心だ。
結婚はタイミング。そして縁。だからその縁を失ってはいけないし、この人と思ったら思い切って結婚するのが必要だと思っていた。
そんな会話をしていると、最寄り駅になる。
改札を出ると私は左、足立君は右の階段を下りることになり別れた。
背を向けた私に足立君は声をかけてきた。
「プロジェクト、頑張りましょうね!」
いつもの人懐っこい笑み。学生時代と変わらないなぁなんて思いつつ、私は手を振り、帰り道に着いた。
※ ※ ※
これはずっと昔の話。社会人になりたての頃の夢だ。
「頑張ってお前のそばで働きたかったけど……無理みたいだ」
学生時代付き合っていた彼とは就職を機に遠距離恋愛となった。
2年後には本社に戻ってお互い東京で働くことができるから2年辛抱して結婚しようなど計画していた。
だが、残念ながら彼の会社の方針で、東京本社行きはなくなってしまった。
遠距離の彼は部屋に着いて一息つくとそう切り出した。
「そんな……でも……大丈夫。きっと機会があるから」
自分もショックだったが、それよりも彼を励ます方が優先で、努めて明るい声で言った。だが、そのあとに続いた言葉が衝撃だった。
「でも……もう仕事もやる気ないし。大学に戻ろうと思う」
「え?だって借金もあるんでしょ?働かなくちゃ。」
実は彼の父親は1000万円の借金をつくって蒸発してしまっていた。
就職したての彼には、大学生の妹と、体の弱い母親の生活が懸かっていた。
借金については、結婚したら一緒に私も返そうと思っていた。
もちろん借金が判明した時点で私の両親にもそれを言うことになってしまい、実は結婚については反対されていたのだが…。
それでも……私は彼と結婚したくて、彼を支えたくて、何とかならないかと考えていた矢先だった。
「でももう疲れたんだよ。」
「じゃあさ……私との結婚、どうするの?」
「ごめん。考えられれない。お前との付き合いも……疲れた。」
それだけでもう十分だった。
何か引き留める言葉があればよかっただろう。
でも何も言うことができなかった。
記憶はおぼろげだけど、もう泣くこともなかったとも思う。ただ茫然として部屋を出ていく彼を見送った。
ぱたん
ドアが閉まる音がやけに大きく響いた
訪れた静寂。
「あ……あした……旅行行くんだった。」
たまたま大学の同級生たちと翌日に旅行に行く約束をしていたことを思い出し、私はおもむろに荷造りを始めた。
歯ブラシに、下着に、着替え。
あ、旅行用の化粧水あったかな。
そんなことを思いながら機械的に準備をする。
旅先はよりによって大学時代を過ごした北海道旅行。
なんの皮肉か彼との思い出がたくさん詰まっている土地だった。
大学構内で花見をしたこと
手を繋いで入った映画館
美味しいコーヒーを堪能した喫茶店
思い返せば彼との記憶がよみがえっていた
思いでの土地を巡っているとほろりと涙が頬を伝っていた。
それを見て見ぬふりをしているのか、友人たちは何も言わなかった。それに救われていた。
少しの静寂。
あぁ……なんかまずいこと言っちゃったかなぁとちょっと反省していると、徐に彼が口を開いた。
「……先輩は、結婚何年目なんですか?」
「え?」
「あ、先輩学生時代結構長く付き合っていた人いたじゃないですか。あの人と結婚したのかなぁ……なんて思って。」
確かに学生時代から就職2年目まで付き合った彼氏がいたのは事実。
狭い学科内のことだったから、誰が誰と付き合っているなんて言う情報は割とみんな知っていた感じだ。
8年も付き合っていたからきっと結婚していると思われているんだろうな。
ちりりとした胸の痛みを覚えつつ、いつもの笑顔で返した。
「私は……結婚してないんだよね。彼とは入社2年目くらいに別れて、そして……なんか男性とは縁がなくてね。今まで独身なんだよね」
「…………そうなんですか。すみません。なんか失礼なこと聞いてしまって」
「いいんだよ!!だからかな。仕事も大切だけど、若い子にはちゃんと恋愛もして、ちゃんと結婚した方がいいかなぁって思ってて。足立君も私みたいにならないように、気を付けてね」
いつものように完璧な笑みだと自分でも思う。
それに本心だ。
結婚はタイミング。そして縁。だからその縁を失ってはいけないし、この人と思ったら思い切って結婚するのが必要だと思っていた。
そんな会話をしていると、最寄り駅になる。
改札を出ると私は左、足立君は右の階段を下りることになり別れた。
背を向けた私に足立君は声をかけてきた。
「プロジェクト、頑張りましょうね!」
いつもの人懐っこい笑み。学生時代と変わらないなぁなんて思いつつ、私は手を振り、帰り道に着いた。
※ ※ ※
これはずっと昔の話。社会人になりたての頃の夢だ。
「頑張ってお前のそばで働きたかったけど……無理みたいだ」
学生時代付き合っていた彼とは就職を機に遠距離恋愛となった。
2年後には本社に戻ってお互い東京で働くことができるから2年辛抱して結婚しようなど計画していた。
だが、残念ながら彼の会社の方針で、東京本社行きはなくなってしまった。
遠距離の彼は部屋に着いて一息つくとそう切り出した。
「そんな……でも……大丈夫。きっと機会があるから」
自分もショックだったが、それよりも彼を励ます方が優先で、努めて明るい声で言った。だが、そのあとに続いた言葉が衝撃だった。
「でも……もう仕事もやる気ないし。大学に戻ろうと思う」
「え?だって借金もあるんでしょ?働かなくちゃ。」
実は彼の父親は1000万円の借金をつくって蒸発してしまっていた。
就職したての彼には、大学生の妹と、体の弱い母親の生活が懸かっていた。
借金については、結婚したら一緒に私も返そうと思っていた。
もちろん借金が判明した時点で私の両親にもそれを言うことになってしまい、実は結婚については反対されていたのだが…。
それでも……私は彼と結婚したくて、彼を支えたくて、何とかならないかと考えていた矢先だった。
「でももう疲れたんだよ。」
「じゃあさ……私との結婚、どうするの?」
「ごめん。考えられれない。お前との付き合いも……疲れた。」
それだけでもう十分だった。
何か引き留める言葉があればよかっただろう。
でも何も言うことができなかった。
記憶はおぼろげだけど、もう泣くこともなかったとも思う。ただ茫然として部屋を出ていく彼を見送った。
ぱたん
ドアが閉まる音がやけに大きく響いた
訪れた静寂。
「あ……あした……旅行行くんだった。」
たまたま大学の同級生たちと翌日に旅行に行く約束をしていたことを思い出し、私はおもむろに荷造りを始めた。
歯ブラシに、下着に、着替え。
あ、旅行用の化粧水あったかな。
そんなことを思いながら機械的に準備をする。
旅先はよりによって大学時代を過ごした北海道旅行。
なんの皮肉か彼との思い出がたくさん詰まっている土地だった。
大学構内で花見をしたこと
手を繋いで入った映画館
美味しいコーヒーを堪能した喫茶店
思い返せば彼との記憶がよみがえっていた
思いでの土地を巡っているとほろりと涙が頬を伝っていた。
それを見て見ぬふりをしているのか、友人たちは何も言わなかった。それに救われていた。
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