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挫折感③
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コンコン。
ノックすると中から課長のくぐもった声が聞こえる。
「失礼します。」
殺風景な打ち合わせ室。プレゼンやブレーンストーミングなどで使うホワイトボードと大型画面のあるだけの質素な部屋。
昔は泥臭いパイプ椅子に長机なんて時代錯誤が甚だしい会議室だったが、最近の風潮を取り入れてか、真新しくこざっぱりしたものに変わっている。
課長に勧められるように椅子に座ると、徐に課長が切り出す。
「森本は……よくやっていると思う。それでだ、今回大型のプロジェクトに参加してほしい。」
「ほ、本当ですか?」
「あぁ、次世代エネルギーの部署でな……」
そういえばそういう部署があると聞いていた。そしてそこには3人程度のメンバーでいわゆる……窓際というやつだ。
自分の努力が評価されてたのではないかと一瞬の期待。でも雲行きが怪しい。
そして下された査定は
「端的に言うとランクはそのまま。でもその部署で成果を上げればまたこっちの部署に戻れると思うし。……確かに僕は君を評価しているんだけど、ランクを上げるのはまだ早いという意見が多くてな」
課長は困ったように私を見た。
もう14年務めている。だけど……それでも評価はされなかった事実に涙がこぼれそうになる。
「失礼しました」
機械的に返事して私は会議室を出た。
「香澄先輩!どうでした?」
悪びれもなく言ってくる柴田さんにあいまいな返事をする。
「うん……異動になるかも」
「えー本当ですか?香澄先輩がいなくなるの……寂しいですね。」
「次、柴田」
「はーい!あ、じゃあ私呼ばれたんで行ってきますね」
「うん。」
私は柴田さんの後ろ姿を見送った。
その夜、予定していた通り女子会が行われた。
「カンパーイ!」
私より年下の女子社員たちでわいわいと食事を囲む。
確かに柴田さんがチョイスしたお店はワインもおいしく、様々なタパスをつつきながら上司の悪口に花を咲かせていた。
そのうち、今日の査定面談の話になる。
「柴田どうなるの?」
柴田さんの同期の女子社員が尋ねる。
本当は内示の段階なので言ってはいけないが、ここでオフレコということでそんな話をすることはしばしばだった。
「えっと……今度チームリーダーになるみたいなの」
「え!すごいじゃない!!ということは2ランクアップだね!」
「いいなぁ。お給料も上がるし。でもそれだと残業多くて子供の幼稚園送り向かえ大変じゃない?」
「あーでも、それは旦那も引き受けてくれるから。」
「柴田の旦那、家事参加してくれるからいいよね。ウチなんて……」
私は内心ほっとした。査定の話が私のところまで及ばなかったからだ。
今回参加している女子社員はみな結婚している。
この間入った新入社員をはじめ後輩たちは次々と結婚し、子供を産んで、家庭と仕事の両立をしている。
柴田さんもその後輩の一人だった。
(結婚して子供がいるなら働かなくてもいいのに……)
いつも思う言葉を頭の隅に追いやる。
前の女子会で―と言っても私以外既婚者なのだがー、結婚と子育てと仕事の両立についての話題なる。
こういう時には私は居心地が悪い。
後輩の女の子たちの旦那はみな大手の会社に勤めていて、生活には困らない。
なんで仕事を続けているのかと問うと
「うーん、気分転換ですかね。だってずっと家にいたらノイローゼになっちゃうし」
と以前言っていた。
私には仕事があるからと我武者羅に仕事して、でも結果も出せず、プライベートもうまくいかない。
そんな挫折感を今回はまざまざと思い知らされた。
私は赤ワインをグイと飲み干す。いつもは好きな赤ワインは渋い味がした。
ノックすると中から課長のくぐもった声が聞こえる。
「失礼します。」
殺風景な打ち合わせ室。プレゼンやブレーンストーミングなどで使うホワイトボードと大型画面のあるだけの質素な部屋。
昔は泥臭いパイプ椅子に長机なんて時代錯誤が甚だしい会議室だったが、最近の風潮を取り入れてか、真新しくこざっぱりしたものに変わっている。
課長に勧められるように椅子に座ると、徐に課長が切り出す。
「森本は……よくやっていると思う。それでだ、今回大型のプロジェクトに参加してほしい。」
「ほ、本当ですか?」
「あぁ、次世代エネルギーの部署でな……」
そういえばそういう部署があると聞いていた。そしてそこには3人程度のメンバーでいわゆる……窓際というやつだ。
自分の努力が評価されてたのではないかと一瞬の期待。でも雲行きが怪しい。
そして下された査定は
「端的に言うとランクはそのまま。でもその部署で成果を上げればまたこっちの部署に戻れると思うし。……確かに僕は君を評価しているんだけど、ランクを上げるのはまだ早いという意見が多くてな」
課長は困ったように私を見た。
もう14年務めている。だけど……それでも評価はされなかった事実に涙がこぼれそうになる。
「失礼しました」
機械的に返事して私は会議室を出た。
「香澄先輩!どうでした?」
悪びれもなく言ってくる柴田さんにあいまいな返事をする。
「うん……異動になるかも」
「えー本当ですか?香澄先輩がいなくなるの……寂しいですね。」
「次、柴田」
「はーい!あ、じゃあ私呼ばれたんで行ってきますね」
「うん。」
私は柴田さんの後ろ姿を見送った。
その夜、予定していた通り女子会が行われた。
「カンパーイ!」
私より年下の女子社員たちでわいわいと食事を囲む。
確かに柴田さんがチョイスしたお店はワインもおいしく、様々なタパスをつつきながら上司の悪口に花を咲かせていた。
そのうち、今日の査定面談の話になる。
「柴田どうなるの?」
柴田さんの同期の女子社員が尋ねる。
本当は内示の段階なので言ってはいけないが、ここでオフレコということでそんな話をすることはしばしばだった。
「えっと……今度チームリーダーになるみたいなの」
「え!すごいじゃない!!ということは2ランクアップだね!」
「いいなぁ。お給料も上がるし。でもそれだと残業多くて子供の幼稚園送り向かえ大変じゃない?」
「あーでも、それは旦那も引き受けてくれるから。」
「柴田の旦那、家事参加してくれるからいいよね。ウチなんて……」
私は内心ほっとした。査定の話が私のところまで及ばなかったからだ。
今回参加している女子社員はみな結婚している。
この間入った新入社員をはじめ後輩たちは次々と結婚し、子供を産んで、家庭と仕事の両立をしている。
柴田さんもその後輩の一人だった。
(結婚して子供がいるなら働かなくてもいいのに……)
いつも思う言葉を頭の隅に追いやる。
前の女子会で―と言っても私以外既婚者なのだがー、結婚と子育てと仕事の両立についての話題なる。
こういう時には私は居心地が悪い。
後輩の女の子たちの旦那はみな大手の会社に勤めていて、生活には困らない。
なんで仕事を続けているのかと問うと
「うーん、気分転換ですかね。だってずっと家にいたらノイローゼになっちゃうし」
と以前言っていた。
私には仕事があるからと我武者羅に仕事して、でも結果も出せず、プライベートもうまくいかない。
そんな挫折感を今回はまざまざと思い知らされた。
私は赤ワインをグイと飲み干す。いつもは好きな赤ワインは渋い味がした。
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