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挫折感①

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いつからだろう

自分はシンデレラにはなれないと気づいたのは

いつからだろう

自分には決して白馬の王子様は来ないと分かったのは



学生時代に知り合って、就職して、結婚して、子供を産んで、孫に囲まれて一生を終える

そんな平凡だけど幸せな人生が送れると

あの時の私は信じて疑わなかった



それが叶わぬ夢になると……私は思っていなかったのだった


※ ※ ※


目覚ましのアラームがなる。のっそりと起き上がる体は重く、頭はぼーっとしている。

時計を見ると6時半。朝食は食べないで寝ていたい気持ちもあるけど何とかベッドから起き上がってカーテンを開ける。

日差しは燦々と降り注ぎ初春にしては暖かい日になりそうだった。

眠気を振り払うようにぬるま湯で顔を洗う。

ぬるま湯なのはお肌にいいからという理由。

39歳という年齢を考えるとやはり少しでも若々しい肌は欲しいというのもある。

あとは激務のせいでお肌の手入れもまともに出来ていないので、洗顔くらいはきちんとやりたいという女心もある。

女心という年でもないが……

と鏡の中の自分を見て苦笑する。

メイクをして、スーツに身を包む。完全な仕事モード。

軽い朝食をとると私はバックを引っ提げて部屋を出た。

森本香澄。もうすぐ33歳になる。結婚はしていない。そして彼氏もいない……学生時代にはいたはいたけど……もうそんな恋をすること自体も忘れてしまったのが本当のところである。


仕事は企画職。勤続10年。気づけば仕事も中堅どころになっていた。

ガタンゴトンと満員電車に揺られる。乗車率は120%。息ができないほど、圧迫死するのではないかといつも思ってしまう。

そんな時には何でみんなこんなに働いているのだろう。

職場の人も「社畜だな」なんて冗談交じりに言うが、確かに日本のほとんどの会社員は社畜だなぁと思う。

低賃金。

会社の評価。

過酷なノルマ。

積み重なる事務作業。

頭を下げる営業。

わずかなボーナスを励みに仕事をしている。

でも私と徹底的に違うのは「養う家族がいる」という点である。

私には守るべき人もいない。私は……誰のために働いているのだろうか……。

ふと、思う。

でも、その現実を見てしまったら、きっと生きていけない。だから自分のそんな考え振り払うように私は満員電車を降り、会社に向かった。


「おはようございます」
「おはようございます!」

元気いっぱいな後輩。出社時にちょっとナーバスになっていたせいでそんな後輩の満面の笑顔がまぶしく感じる。

「はぁ……」

思わずため息が漏れる。

というのも誕生日があと3か月に迫っていた。

その誕生日で私は33歳になる。

結婚は……したかったが、今は彼氏という人もいないのに。現実が重くのしかかる。

父親を亡くし、一人っ子だった私の行先を母は心配していたが、さすがに30歳になる私を慮って最近は何も言わなくなった。

母の友達はみんな子供が結婚し、孫もいて、孫自慢をされると困っていると暗に言われた。

そして自分の犬には「ばあば」と称して可愛がっているところを見ると……やっぱり……孫が欲しかったのだろう。

そんなことを思うと自分が情けなくて、消えたくなる。
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