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エピローグ②
しおりを挟む城に戻ってきてまず待ってのは
仁王立ちになったマクシミリアンだった。
「ライナス様!!!」
「マックス…その…元気だった?」
「元気だったじゃなありません!!我々がどれほど探したのか!!もう私の胃が限界でしたよ…さて、十分休養しましたよね。その分しっかり働いてもらいます。あ、ヴァンディア様にも連絡しますから」
「マックス勘弁してよ」
こうなったマクシミリアンは正直セシリアも怖い。冗談じゃなく怖い。そして養父はもっと怖い。
そしてそれを知ってるからこそライナスは泣きそうな目で助けを求めるようにこちらを見ていたが、セシリアとしては助ける義理はない。散々迷惑をかけれたのだ。
無視していると絶望した顔で連行されていった。
「はぁ、これで肩の荷もおりたわ。お父様にも報告しなくちゃ。」
その言葉を聞いたスライブは神妙な顔をして言った。
「…そうか、お前の父も病気だったのだな。
確かトーランド国王も3年前に病気で倒れ、政権が乱れたと聞く。だからセシリアにも同じ境遇だと感じ、同情の様子で神妙にスライブは言う。
「お互い父親が病気で倒れたことで、苦労したな」
「あー、それなんだけど…」
セシリアは言いにくそうにため息混じりで真実を伝えた。
「バカンスに行ったのよ」
「はっ?」
「だから、両親ともどもバカンスに行ったの。私が即位したのをいいことに、全て押し付けてバカンスに言っちゃったのよ!各地を転々としてるわ」
まぁ、父親が倒れ、それを機に即位したのだ。そう思うのが当然だろう。だが真実は違う。まさかそんなことを大っぴらにいうことも出来ず、父王は病気のため離宮で療養ということにしてるのだ。
(本当、ライナス兄さんといい、血筋かしら!?)
それを聞いていたサティは笑いを堪えている。愉快そうにクククと喉で笑っている。
「まぁ、とりあえずは一件落着。そういうわけで、約束は守ってもらうぞ」
どうやら結婚の話は続行中だった。
そもそもスライブが自分に固執する理由がよくわからない。
初恋だと前に言われたがピンとこないのだ。
「大体、私のどこがいいの?男の人からしたらこざかしいし、男装してるし、王だし。そんな厄介な女が良いなんておかしいわよ?」
「そうだなぁ。一言では言えないがお前の言葉に救われた。お前は荒んでた心を癒してくれたし、俺に希望を与えてくれたんだ。」
スライブはセシリアを見て眩しそうに目を細める。近づいてきて、セシリアの瞳を覗き込むようにして、その頬を包み込んだ。
「それに…その瞳。意志の強いその瞳に俺の心は捕らわれたんだ王太子として不満ばかりだった時、お前の理想を聞いて目が覚めた。俺もお前と同じ理想を持った。だから、側で見ていて欲しい」
どうやらスライブの意思は固い。
とは言っても、やっぱり現実としては無理だ。
自分は今や国王の影だ。貴族としての身分は無いに等しい。それにトーランドの王太子に嫁ぐとなればそれ相応の家柄が求められる筈だ。
「大体身元不明な私がトーランド王太子と結婚なんて無理でしょ?言っておくけど、私は一夫多妻には反対。妾を取るような男とは結婚する気ないの」
「それなら問題ない。他の女と結婚する気はない。というか、お前以外は要らないんだ。」
ライナスを見つけたら結婚するという約束を破る気はない。だが、このままだとトーランドで王妃になれないかも知れないし、なっても愛妾をとると言われるのは御免だ。
そんなセシリアの心のうちを読んカレルがにこやかに告げる
「これ、本当だよ。ウチの王子は執着したらとことん執着するし、今だって他の姫は要らないっていって一切の縁談を蹴ってるからね。」
「それと、セシリア殿の身分だが、私の家の遠縁ということになってる。一応養子に入ってもらうが先方からま了承を得ている。もちろん国王も了承済みだ。」
(完全に外堀埋められてる…)
ニコニコと笑みを浮かべるスライブを見て、ため息しか出ない
本当にこの男はどこまでもセシリアの先手を打ってくる。
「じゃあ、半年後まで待って。兄さんに政務を叩き込んでからそっちに行く」
「本当か?!」
「もちろんよ」
そもそもセシリアはスライブを嫌いなわけでは無い。結婚という一足飛びは戸惑うが、スライブの人となりは分かっている。
下結婚を渋ってたのも現実的に不可能に近かったからだが、その懸念も払拭された今、求婚を断る理由もない。
それにここまで根回しをされては、逃げるのは無理だろう
「ありがとう、セシリア。愛してる」
そう言ってスライブはセシリアをぎゅっと抱きしめた。セシリアはドキドキして羞恥で顔が熱くなる。それにサティ達もいるのだ。だがそんなことも意に介さずにスライブは抱きしめてくる。なんとなくセシリアもスライブを抱きしめ返していたのだった。
そんなことがあった翌日。
スライブはトーランドに帰った。今まで無理をしてマスティリアに逗留していたのだ。これ以上はトーランドを空けるわけにはいかない。
別れる際、スライブはセシリアの手を握って、その感触を確かめたのち、頬にキスをして一言言った。
「次は花嫁として会えるのを待ってる」
もちろんそこにはマクシミリアン達もいるわけで…セシリアは公衆の面前でキスされたことで二の句が告げない。そんなセシリアを見て笑いながらスライブは馬車に乗って行った。
それを見つめてセシリアはそっとスライブが口付けたところを触れた。
半年後、彼の花嫁になる。異国に行くことも、新しい環境に身を置くことも、好奇心旺盛なセシリアにとっては楽しいことだ。
だけど、今はやることがある。ライナスを立派な少年王に仕立てあげなくては。
セシリアの後ろでスライブ達を見送ったマクシミリアン達に、セシリアは向き直って言った
「さあ、諸君。仕事の時間だ」
セシリアはそう言って城に足を向けたのだった。
完
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