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テオノクス侯爵への断罪②

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その時初めてリュカは父であるテオノクス侯爵を見つめた。そこには今まで父の圧力に屈した苦悶の表情はなく、逆に父を憐れむような表情を浮かべていた。


「つまり監査の改竄報告における最終承認と改ざんするための具体的な指示はテオノクスがやったという事で間違いないな」
「はい間違いないありません。それからもう一つ…」

リュカは尚も言葉を続けようとした。
何を言おうとしているのか、セシリアには分かった。なぜならセシリア達がベランダで全てを聞いていたことをリュカは知っているからだ。

「もう一つ、監査結果改竄の見返りに伯爵から物品の贈与を受け、それをアレクセイ様に渡すことで自らの地位の確立と政権関与を受けていたのです。」
「つまり貴殿は今読み上げた2つの罪状に加えて"国に報告せず家臣から金品を不当に授受していた罪"を認めたという事になるな。」

ニヤリと笑うセシリアとは対照的に侯爵の顔色は青ざめ、握りしめた手が小刻みに震えている。たぶんセシリアがなんらかの罪で罰そうとしてもアレクセイの庇護を受ければなんとかなると思っていたのだろう

「侯爵は国王以外の王室の人間が家臣からの物品を受領する時には許可を得る必要があることを知っているな」
「承知…しております。」
「自らの息子の告発ということでこれ以上確かな証言者もいないと思うが?」
「はい、罪を認めます。」

全てを諦めた様に、侯爵は項垂れて言った。それを視界の隅に見て、セシリアはアレクセイを向いた。

「ということで、叔父上もこの法律を分かっていたながらテオノクス侯爵から物品を受け取っていたという事ですね。」
「そんなのどこにも証拠はない!」
「これまでの流れを見て、私が証拠を用意してないとお思いですか?」
「なんだと?」
「叔父上、これに見覚えがないですか?」

そう言ってセシリアはアレクセイの目の前にゴロンと置物を転がした。それは金の獅子の置物。カレルが下品と称した身体中にダイアを、目にルビーをあしらった代物だった。

「これをどうして…」
「叔父上の部屋には侯爵達から献上された調度品がわんさかありますよね。1つくらい無くなっても気づかないものです。リュカ、侯爵が渡した置物はこれだな」
「はい、間違いありません」

突然自分に罪状が降ってきたことにアレクセイは動揺していたようだった。
そして自分に逃げ道がないと悟ったが早いが、怒鳴りながらセシリアを指さして言い放った。

「…黙れ黙れ!!そもそも何の権限があってそんなことを言うのか?お前こそ、王でもないのに国王を名乗った逆賊ではないか!?国家反逆罪として罪を問われるのはそなただろう!!」

一瞬何を言われているか分からないまま、だが何か話が違う方向に行くような気配を感じ、セシリアは怪訝な顔でアレクセイに質問した。

「どういうことですか?」
「全て…マクシミリアンが白状したのだぞ!お前が王太子ではないという事をな!」
「な…何だって」

まさかこんなところで暴露されるなど、誰が予想できただろうか。
今度はセシリアが息を飲む番だった。
そして、セシリアは声を震わせながらもマクシミリアンを睨みつけた。

「…マックス…お前は!!」
「私は私の職務を全うしているだけです。お仕えするのはただ一人と決めていますので」

その人物は誰だというのか。

セシリアは思わず拳を握りしめる。こんなタイミングでアレクセイに言わなくても良かったのではないか?
そもそもマクシミリアンを信じた自分が愚かだったのか?

そんなことを脳内で考えている中、アレクセイは低く笑いながらも言葉を続けた。

「ふふふ、知っているぞお前の正体。王太子が離宮で過ごしていたなんて真っ赤な嘘。離宮中を探したがそんな人物はいなかった。いや、そもそも私は王太子を見ていない。ある日お前が現れたんだ!」

あたりがシーンと静まる。疑惑の念をもって貴族たちが見ている視線がセシリアに突き刺さった。
誰もがセシリアが言うであろう次の言葉を待っている。
その真偽の答えを。

「離宮に居なかったことは認めます。だが、それが私が王太子ではない理由にはならないと思いますが」
「やはり!!それには証人がいる。」
「それはどなたでしょうか?」
「マックスだ」

周囲の人間立ちの視線がセシリアからマクシミリアンに移った。

「マックスはランドールに頻繁に行っていた。そうだな、マックス」
「えぇ。私はランドールに行っていました。」
「王太子としてお前がやって来たのと同じタイミングでランドール伯爵の元から少年が消えた。お前はランドール伯の息子ではないか!?身分を偽って国王に収まったのだ!兄上はいつも子供が居ればと言っていし兄上は俺を嫌っていたからな。よっぽど王位を継がせるのが嫌だったと見える。そもそもお前はランドール伯爵の元からやって来たとマックスから聞いたぞ。」

セシリアはマクシミリアンを睨みつけながら低く唸るように口を開いた。

「お前は…そんなことまで話したのか?秘密にすると言っていたのに」
「事実ではないですか?もう言い逃れはできませんよ」

セシリアの射貫くような視線にも動じずに、マクシミリアンは冷静に答えた。
それを見たアレクセイはやったりという表情でアレクセイがにやりと笑った。そこには勝利を確信したものの笑みが浮かんでいる様だった。

事態は思ったよりも拡大している。ここは冷静に対処せねば。
セシリアは、一つ小さくため息を付いた。

「まず誤解を一つ一つ潰そう。マックスがランドールに来た件からだ。昔ランドールはガーネルト国に侵略されたことは周知の事実。ではあれ以来何故その国は攻めてこない?」
「何を急に…?」
「ガーネルトとは停戦協定はなされていない。しかし攻めてこないのは王家の指示によってランドール伯爵が動いた者がいたからだ。その時に橋渡しをしたのがマックスだよ。そして、その場の調印に臨んだのは当時ランドール伯爵のもとで静養を行っていた私だ。王太子として父上から全権を任され、ランドール伯爵と共に調印を結んだ。」
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