88 / 93
ラバール伯爵への断罪②
しおりを挟む普通の女には投げキッスでも送るような感じだったが、相手がセシリアであることとこの場の雰囲気から自重したのだろう。
「そしてこれはその小屋から押収されたものだ。この2種のワインは貴族用と市民用のワインだろう。貴族には普通のワインを販売した。だから皆はその味がいつものもので、市場に出回っていないという話から高値でも購入したのだ。つまり意図的に2種のワインを造らせ、価格を高騰させた。ここで第二の罪状に結び付くが、出荷量と販売量が違うのはそのせいだ。」
「では生産量と出荷量及び販売量を不当に誤魔化し酒税を脱税した罪についての審議に移ります」
マクシミリアンがそう宣言すると共に、セシリアに帳簿を渡した。
セシリアはそれを片手で持って伯爵達に見せつけるように大仰に構えた。
「これに見覚えはないかな?」
「帳簿…ですか?」
ラバール伯爵は本当に知らないようで怪訝な顔をしたが、その隣でセジリ商会会長が蒼い顔をして呟いた。
「それは!盗まれたはず…」
「お前、なんだ?俺は見覚えが無いぞ。」
どうやらセジリ商会側からラバール伯爵に裏帳簿の存在もそれが盗まれたことも耳に入っていなかったようだ。
更に問い詰めようとする伯爵の言葉を遮るようにセシリアは続けた。
「これはセジリ商会からある筋で押収したものだ」
「そ、それはアルバイトの少年が練習用に書いたもので、実際の帳簿ではないのです!」
盗まれたと呟いた言葉はセシリアに聞こえてないと思ったのか会長は大声でそれを打ち消すように叫んだ。
「ですからそんな内容は出鱈目なんです!」
「ほう…これは実際の帳簿ではない。経理部長室に保管されているものなのに?」
「何故…それを!!いやあれは盗まれたと聞いていた…どうなっているんだ?」
「それはこれを盗んだのは私だからだよ。いや、盗んだと言うのは少々問題があるか。経理部長室に届けようとして"うっかり"持ち帰ってしまったのだよ」
「陛下が!?何をおっしゃって…」
「アルバイトの名前はセシル。商会の息子で短期アルバイトで決算時期のみ雇われている紫の瞳で亜麻色の髪の少年…じゃないかな」
「そんな…まさか…」
目を見開いてい震えている会長を見ながら伯爵も動揺しているようで、セシリアと会長を交互に見ながら狼狽えていた。
「これにより、"生産量と出荷量及び販売量を不当に誤魔化した"ことが証明されたな。」
「ですが、酒税を脱税した証明にはなりません」
「そうだな。ではその誤魔化した分の酒税はどこに行ったのか?国庫管理課の資料によると、そちらで生産されてた酒税については若干の減少ががされているが全く以て増額の納税がされていない。これが酒税を脱税した罪にあたると言える。」
「恐れながら陛下。それは横暴と言えるのでは…。本当に気候が不順で…葡萄の収穫がなされておらず。」
「それはおかしい。気象観測記録を確認した。が、天候不順は起きてなかった。市場に販売した価格から考えると納められるべき酒税はあまりに少ないのでは?」
「…う。そうはおっしゃいますが、脱税したと言われても…少なくとも私はお金を受け取っていません。帳簿を見てもらえば分かります!」
「そうだな。帳簿上は確かにセジリ商会からは受け取っていない」
伯爵の意見を肯定した言葉を口にした瞬間、伯爵はホッと息をついた。
だが、これで追求の手を緩めるかと思ったら大違いである。むしろここからが本番とも言える。
セシリアは少し、間を置いて息をついた。
「ここは少し込み入った仕掛けがされているから、順を追っていこう。そなたたちはもちろん"セジリグランティス商会"を知っているか?」
「そ…その会社は…」
「知っているよな。なぜならこの会社、セジリ商会の子会社として登録されているからだ。が、おかしいな。登録されている住所にはその店はない。近隣市民の証言ではそこは長年使われていない店舗だそうだ。」
そうしてセシリアは玉座から立ち上がり少し歩きながら滔々と述べる。
でも監査の記録によればセジリ商会からセジリグランティス商会へ物品がほぼ原価で流れており、さらにそこからほぼ利益のない状態でラバール伯爵へ物品を販売・購入していると記されている。これがその"架空会社を介した不適切な価格で取引を行なった罪"に当たる。そうだな、マックス」
マックスはセシリアの横でその声に答えた。
「はい。セジリグランティス商会は営業自体はしておらず、ラバール伯爵への販売記録しかない架空会社と判断されます。このような架空会社の設立は認めておりません。」
「ですが、それならばこれは私は関与していません!!私は知らなかったのです!」
この事実を知っていただろうが伯爵はそれを否認した。すなわちここで伯爵はセジリ商会を切ろうと言うのだろう。だがそうはさせない。
「確かにこれに関してはセジリ商会の罪になるな」
「そんな!!ラバール伯爵様!!」
「だが、伯爵は子会社のセジリグランティス商会から得た金品を闇オークションで売りさばき、金に換えていたよう
だな。闇オークションについては私の手のものによって既に現場が取り押さえられている。参加者名簿に取引が記載されているが、その帳簿についても提出しようか?」
これはこの間グレイスに頼んで動いた件だ。伯爵が金品を得たあとの資金の流れを掴むために動いていたのだった。
これで伯爵のあらかたの罪が立証できた。
これには伯爵もぐうの音も出せないようだった。
「これが"闇オークションで宝飾品を売った罪"にあたる」
「ですが…それならば監査で引っかかるはずです!ですが、監査に引っかからなかった…監査で引っ掛からなかったのですから私はそれが違法だと知るよしはなかったのです!!」
これまでの証拠を突きつけられ反論の余地もなかった伯爵は起死回生の言葉としてそれを叫んだ。が、それこそが全ての不正を終わらせるための一撃となるとは知らずに。
「売り上げ及び監査報告の虚偽申請の罪を忘れたか?私が何故この罪状を上げたかを」
セシリアはしたり顔でそういった。
その目に浮かぶ絶対的な自信に伯爵が凍りついたのは言うまでもなかった。
0
お気に入りに追加
154
あなたにおすすめの小説
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。
待鳥園子
恋愛
グレンジャー伯爵令嬢ウェンディは父が友人に裏切られ、社交界デビューを目前にして無一文になってしまった。
父は異国へと一人出稼ぎに行ってしまい、行く宛てのない姉を心配する弟を安心させるために、以前邸で働いていた竜騎士を頼ることに。
彼が働くアレイスター竜騎士団は『恋愛禁止』という厳格な規則があり、そのため若い女性は働いていない。しかし、ウェンディは竜力を持つ貴族の血を引く女性にしかなれないという『子竜守』として特別に採用されることになり……。
子竜守として働くことになった没落貴族令嬢が、不器用だけどとても優しい団長と恋愛禁止な竜騎士団で働くために秘密の契約結婚をすることなってしまう、ほのぼの子竜育てありな可愛い恋物語。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる