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ラバール伯爵への断罪②

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普通の女には投げキッスでも送るような感じだったが、相手がセシリアであることとこの場の雰囲気から自重したのだろう。



「そしてこれはその小屋から押収されたものだ。この2種のワインは貴族用と市民用のワインだろう。貴族には普通のワインを販売した。だから皆はその味がいつものもので、市場に出回っていないという話から高値でも購入したのだ。つまり意図的に2種のワインを造らせ、価格を高騰させた。ここで第二の罪状に結び付くが、出荷量と販売量が違うのはそのせいだ。」

「では生産量と出荷量及び販売量を不当に誤魔化し酒税を脱税した罪についての審議に移ります」

マクシミリアンがそう宣言すると共に、セシリアに帳簿を渡した。
セシリアはそれを片手で持って伯爵達に見せつけるように大仰に構えた。

「これに見覚えはないかな?」
「帳簿…ですか?」

ラバール伯爵は本当に知らないようで怪訝な顔をしたが、その隣でセジリ商会会長が蒼い顔をして呟いた。

「それは!盗まれたはず…」
「お前、なんだ?俺は見覚えが無いぞ。」

どうやらセジリ商会側からラバール伯爵に裏帳簿の存在もそれが盗まれたことも耳に入っていなかったようだ。

更に問い詰めようとする伯爵の言葉を遮るようにセシリアは続けた。

「これはセジリ商会からある筋で押収したものだ」
「そ、それはアルバイトの少年が練習用に書いたもので、実際の帳簿ではないのです!」

盗まれたと呟いた言葉はセシリアに聞こえてないと思ったのか会長は大声でそれを打ち消すように叫んだ。

「ですからそんな内容は出鱈目なんです!」
「ほう…これは実際の帳簿ではない。経理部長室に保管されているものなのに?」

「何故…それを!!いやあれは盗まれたと聞いていた…どうなっているんだ?」
「それはこれを盗んだのは私だからだよ。いや、盗んだと言うのは少々問題があるか。経理部長室に届けようとして"うっかり"持ち帰ってしまったのだよ」

「陛下が!?何をおっしゃって…」
「アルバイトの名前はセシル。商会の息子で短期アルバイトで決算時期のみ雇われている紫の瞳で亜麻色の髪の少年…じゃないかな」
「そんな…まさか…」

目を見開いてい震えている会長を見ながら伯爵も動揺しているようで、セシリアと会長を交互に見ながら狼狽えていた。

「これにより、"生産量と出荷量及び販売量を不当に誤魔化した"ことが証明されたな。」
「ですが、酒税を脱税した証明にはなりません」

「そうだな。ではその誤魔化した分の酒税はどこに行ったのか?国庫管理課の資料によると、そちらで生産されてた酒税については若干の減少ががされているが全く以て増額の納税がされていない。これが酒税を脱税した罪にあたると言える。」
「恐れながら陛下。それは横暴と言えるのでは…。本当に気候が不順で…葡萄の収穫がなされておらず。」

「それはおかしい。気象観測記録を確認した。が、天候不順は起きてなかった。市場に販売した価格から考えると納められるべき酒税はあまりに少ないのでは?」
「…う。そうはおっしゃいますが、脱税したと言われても…少なくとも私はお金を受け取っていません。帳簿を見てもらえば分かります!」

「そうだな。帳簿上は確かにセジリ商会からは受け取っていない」

伯爵の意見を肯定した言葉を口にした瞬間、伯爵はホッと息をついた。


だが、これで追求の手を緩めるかと思ったら大違いである。むしろここからが本番とも言える。
セシリアは少し、間を置いて息をついた。

「ここは少し込み入った仕掛けがされているから、順を追っていこう。そなたたちはもちろん"セジリグランティス商会"を知っているか?」
「そ…その会社は…」

「知っているよな。なぜならこの会社、セジリ商会の子会社として登録されているからだ。が、おかしいな。登録されている住所にはその店はない。近隣市民の証言ではそこは長年使われていない店舗だそうだ。」

そうしてセシリアは玉座から立ち上がり少し歩きながら滔々と述べる。


でも監査の記録によればセジリ商会からセジリグランティス商会へ物品がほぼ原価で流れており、さらにそこからほぼ利益のない状態でラバール伯爵へ物品を販売・購入していると記されている。これがその"架空会社を介した不適切な価格で取引を行なった罪"に当たる。そうだな、マックス」

マックスはセシリアの横でその声に答えた。

「はい。セジリグランティス商会は営業自体はしておらず、ラバール伯爵への販売記録しかない架空会社と判断されます。このような架空会社の設立は認めておりません。」
「ですが、それならばこれは私は関与していません!!私は知らなかったのです!」

この事実を知っていただろうが伯爵はそれを否認した。すなわちここで伯爵はセジリ商会を切ろうと言うのだろう。だがそうはさせない。

「確かにこれに関してはセジリ商会の罪になるな」
「そんな!!ラバール伯爵様!!」
「だが、伯爵は子会社のセジリグランティス商会から得た金品を闇オークションで売りさばき、金に換えていたよう
だな。闇オークションについては私の手のものによって既に現場が取り押さえられている。参加者名簿に取引が記載されているが、その帳簿についても提出しようか?」

これはこの間グレイスに頼んで動いた件だ。伯爵が金品を得たあとの資金の流れを掴むために動いていたのだった。

これで伯爵のあらかたの罪が立証できた。

これには伯爵もぐうの音も出せないようだった。

「これが"闇オークションで宝飾品を売った罪"にあたる」
「ですが…それならば監査で引っかかるはずです!ですが、監査に引っかからなかった…監査で引っ掛からなかったのですから私はそれが違法だと知るよしはなかったのです!!」

これまでの証拠を突きつけられ反論の余地もなかった伯爵は起死回生の言葉としてそれを叫んだ。が、それこそが全ての不正を終わらせるための一撃となるとは知らずに。

「売り上げ及び監査報告の虚偽申請の罪を忘れたか?私が何故この罪状を上げたかを」

セシリアはしたり顔でそういった。
その目に浮かぶ絶対的な自信に伯爵が凍りついたのは言うまでもなかった。
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