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ラバール伯爵への断罪①

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◆   ◆   ◆


国王が入場するラッパの音が高らかに鳴った。
広場には名だたる名門の貴族が集まっており、セシリアが入るとシーンと静まり平伏している。

そしてセシリアが何を言うのか皆が息を飲んで見守っている。

「今日皆に集まってもらったのは、この国の不正について弁明の場を与えたいと思ったからだ」

少年王としてのセシリアの凛とした声が場内に響く。そこには少女セシリアではなく少年王ライナスがいた。
これから起こる出来事を見届けるためにスライブ達も身を隠すように柱の陰に立ってその様子を見守っている。

「流石少年王。先ほどとは打って変わった様子だね」

カレルは感嘆声を上げながら呟いた。
だがカレルがそんなことを言っていることなど聞こえるはずもなく、次はマクシミリアン淡々と罪状を読み上げた。


「ラバール伯爵とセジリ商会については、結託して下記の罪を犯したことについて告発する」


・生産量と出荷量及び販売量を不当に誤魔化し酒税を脱税した罪
・意図的にワイン価格を高騰させ市民生活に著しい影響を与えた罪
・これらによって得た利益を金品に変えて受領した罪
・売り上げ及び監査報告の虚偽申請の罪
・セジリ商会の営業実態のない架空会社の設立を行なった罪
・その架空会社を介した不適切な価格で取引を行なった罪
・闇オークションで宝飾品を売った罪


以上、6つの罪状が挙げられた。

「そんな!!でたらめです!」
「誰が、こんなことを!」

ラバール伯爵達が突然の罪状の読み上げに動揺し、必死で無実を訴えた。
こういう反応をするのは想定済みだった。あまりにテンプレな反応にため息しか出ない。
とはいうものの、マクシミリアンも形式的にゆっくりと彼らに問いかけた。

「貴方方はこの罪状を否認するのですね?」
「もちろんです、宰相様。我らには身に覚えがないことです!」
「そうですよ。だいたい証拠がないです。こんなの…誰が言ったか知りませんが、我々は無罪です!」
「…陛下、いかがなさいますか?」

マクシミリアンがセシリアに意味ありげな視線を投げかける。

伯爵達の喉が生唾を呑み込むようにごくりとなった。セシリアが何を言うのか固唾を飲んで見守っているという感じだ。
しかしその眼には自分が無罪になるだろうという明らかな自信も見え隠れしている。

それはセシリアが年端も行かない国王だからか、あるいは侯爵、ひいてはアレクセイに庇護を受けているからだろう。

「確かに、一方的に罪を糾弾するだけでは、ここに集まった諸侯も納得はしないだろう。それに国王の名において一方的に糾弾するのは国家権力の乱用とも思われてしまうな」
「そうですよ!!流石は国王陛下です。ご理解いただけて嬉しいです」
「では証拠を示そう」
「えっ?」

にこやかに笑うセシリアの様子に伯爵達は戸惑いを見せたが、セシリアはそのまま言葉を続けた。

「では順次、私の証拠の提示とそなたたちの認否を行う場としよう」
「まず第一に意図的にワイン価格を高騰させ市民生活に著しい影響を与えた罪についてですね。確かに市内ではワイン価格が高騰しており、酒類の物価が高騰しています」
「マックスが言う話は私も耳にしている。問題は価格の高騰が意図的に仕組まれていたという事だ。」

「で、ですが、本当に不作なのです。ですからワインが品薄になり、市場に回る段階では価格が高くなってしまうのは仕方ない事です」
「だから意図的にだ。最初は品切れのようにして供給を一時的に少なくする。その後ワインにアルコールを混ぜて原価を抑えながらも販売量を確保していたということだな」
「滅相もないです!販売しているワインの品質は変わらないです。それはここにいる諸侯の皆様もワインを購入されており、味も保証してくださると思います!」

青ざめながらもそういう伯爵に同調するように周りの貴族達もそうだと同意の言葉を口にしながら頷いている。
聴衆を味方につけたと思った伯爵がほくそ笑んだように思えた。

「確かに、ここにいる皆が口にしていたものはそうだろう。だが、市場で売られているものはこれの内容とは全く別物だ。…マックス、あれを出してくれ」
「はっ」

セシリアがマクシミリアンを促すと、短く答えた後に2つのワインボトルを持ってきて、伯爵の前に置いた。

「この2つ。同じミゼラルブ産と書かれているボトルだ。これについては知っているか?」
「いいえ…初めて見ます。」
「そうか。…時に、この間私たちはこの間菜園に行ったのだ。」

突然話題が変わったことに一瞬の戸惑った伯爵が首を捻り間の抜けた返事を返してきた。

「はぁ…」
「その帰りに菜園からの帰り道にある刺客たちに襲われた。マックスが負傷し、一時的に執務不能になった。そしてその刺客はラバール伯の屋敷に入ったという。」
「それは私が陛下を襲ったと、そう言いたいのですか!?陛下に刺客を向けるなど滅相もない!!」
「そうか。それを信じたいのだが、問題は刺客に襲われたことではない。問題にしたいのは彼ら刺客が守っていた小屋にあるものについてだ。…証人をここに」

セシリアが言うと、今度はフェイルスが縄で縛った男を連れて広間に現れた。そしてその男をラバール伯爵に突き付けるように突き飛ばした。
倒れこんだ男と伯爵の視線がぶつかる。男は倒れたまま憎々しげに伯爵を見上げ睨んでいる。

「お前が刺客だな」
「あぁそうだ。俺はこいつに言われて猟師小屋を守っていたんだ。まさかやって来たのが国王様だなんて知らなくてな。怪我させた宰相さんはあんたか。すまなかったな」

不敵に笑いながらも全く以てそう思っていない口調で男はマクシミリアンに言った。
多分伯爵への意趣返しなのだろう。

「くそ…あれだけ口を割るなといったのに!」
「契約違反はあんただろ?俺たちを口封じしようとしたくせに。生き延びたのは俺だけ。それでもこの騎士さんに捕まっちまったがな」

フェイルスはさすがは騎士団長だ。ラバール伯爵が刺客を粛清するのを見越して極秘裏に刺客を保護しそのまま捕まえたのだ。
この働きにもセシリアは感謝してフェイルスを小さく頷いて見つめると、フェイルスはニヤリと笑っていた。
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