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もたらされた情報④

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それを隠すようにマクシミリアンは自分に注意を向けるべくスライブに話掛けた。

「わざわざ申し訳ありません。こちらこそ、お仕事を押し付けてしまいまして。ただ、私ももうかなり回復したのでルディ殿はもう気にせず自国に帰られてもいいんですよ」
「いえいえ、私も勉強をさせていただいているので全然気にしてません。それよりも宰相殿には折角ですから休養ということでもっとゆっくり休んでいただいた方がよろしいかと」

セシリアには両者の間に何故か火花が散っているように見えるのだが気のせいだろうか。
ただ居たたまれない気持ちになり、セシリアは先ほどの話題の続きをして空気を換えようと試みた。

「えっと、とりあえずその話は置いておいて。今日はマックスに報告があって」
「では私は席を外しましょうか?」
「ううん。ルディもいてもらって構わないよ。ワイン価格の件についてだから」
「あぁ、それでしたら」

スライブは一度浮かした腰を再び椅子に戻した。セシリアはそれを認めると今までの調査の経緯をマクシミリアンに説明した。
先ほどのグレイスからの報告の件についてはスライブも初耳だったので神妙な顔で聞いている。
一通りの報告をすると、マクシミリアンは眉間に皺を寄せて唸った。

「テオノクス侯爵・セジリ商会・ラバール伯爵ですか。なかなか面白い組み合わせですが…後は裏付け捜査というところですね。」
「僕もそう思ってる。裏帳簿とか物品の確保とか。まぁこれを機にアレクセイ叔父さんの方も片づけられるといいんだけどね」
「あぁ、ラバール伯爵はアレクセイ様の派閥ですからね」
「トカゲのしっぽ切りにしかならないかもしれないけど、アレクセイ派に牽制は掛けられるし」

スライブもこの会話を聞いて王位を巡っての争いのことを思い出していた。
サティが前王弟派がいることと、それを我々が滞在中に片付けれれば同盟を結べると言っていた。ここはセシリアの為にも是非頑張ってほしいところだ。

「トーランドも前王弟派を退けられれば同盟を結ぶと言っていたので、この件には私も引き続き調査のお手伝いをします」
「いいえ、これは"わが国の問題"なので、"他国"のお手を煩わせるわけにはいきません。あとは宰相である"私"が対応しますので」

スライブの申し出にマクシミリアンはトーランドの干渉を辞退するようなことを口にしたが、正直なところはこれ以上セシリアとスライブの距離が縮まることを恐れて言ったことだった。
マクシミリアンの笑顔の裏に隠れているそんな思惑にスライブも気づいたようでやはり黒い笑みを浮かべて言い返す。

「いえいえ、これまでの詳しい経緯はいくら"宰相"のマクシミリアン殿でも把握しきれないでしょうから"私"がやりますよ。その方がトーランドへの報告に説得力もありますし、何より現在"陛下の片腕となっている私"が対応します」

何となく室内の空気が冷たくなったことを感じて、セシリアもどうしていいか分からずとりあえず行方を見守ろうとしたが、次の一言でその目論見も崩れた。

「「私に任せてくれますよね、陛下!!」」

異口同音にそう迫られてセシリアはその気迫に押されてしまった。
マクシミリアンに手伝ってもらいたいが、しばらく政務を離れていたこともあって引き継ぎは必要だ。
その引継ぎの時間と今回のワイン価格の件を考えると時間的ロスも出てしまう。ワイン価格の脱税の件は早急に対応したいところだった。
悩んだ末にセシリアが出した結論は次のものだった。

「分かった。ワインの件は私が対応するよ。2人は政務を頑張って…」
「「却下です!!」」

またもや2人の言葉がハモった。
この2人は実は仲が良いのではと思う程のタイミングだった。しかも怒りの矛先がセシリアに向かっているではないか。

「ライナス様にこの件を任せたら突っ走って何をしでかすか分かりません!貴方一人にお任せなどできるものですか!」
「そうですよ。陛下は無茶しすぎです。陛下に何かあったらどうするのですか!?そんなことするなら私は陛下の首根っこを押さえさせていただきます」
「確かにスライブ殿の言う通りです、あなたは国王なのですからね!!監視が必要ですね」
「宰相殿の代わりに監視します!絶対に一人で行動はさせませんからね」
「私も監視しますから!!絶対に逃しません」
「分かった…分かったから。2人にもワインの件を対応してもらうよ。マックスは政務に復帰。ルディはその引継ぎをメインに行う。これでいいでしょ」

セシリアは観念して提案すると、2人は仕方がないと言った態で納得してくれた。
どちらが政務に着くかよりもセシリアを一人で行動させないという事の方が重要だったらしい。

(これで監視の目が2つに増えた…)

内心がっくりとしつつもこの話は決着を迎え、次にマクシミリアンは別の話題に移った。

「はい、結構です。それで思ったのですが視察の帰りに遭った刺客もラバール伯爵のものでしたね。この件に関係があるかもしれません」
「どういうこと?」
「元々あの視察は予定外のものでしたから事前に情報を得ているとは考えにくいです。それなのに何故あの場所でライナス様を襲ったのでしょうか?」
「という事は、もともとはあそこで僕達を襲おうと思ったんじゃないってこと?」
「はい、不測の事態が生じて排除しようとしたのかもしれません。あの道はあまり人通りがありませんから。」

マクシミリアンの疑問を更に裏付けるようにスライブは次の事実を口にした。

「あそこの猟師小屋は陛下が使うためのものですか?」
「大昔に過去の国王が猟をするための資材置き場みたいになっていたと思うんだけど、ここ何代かは使われてなかったよ。僕もあそこに猟師小屋があるって知らなかったし。」
「でも、最近誰かが使った形跡がありました。椅子やテーブルも綺麗なものでしたし、多少埃っぽくはありましたがとても長年放置されていたとは思えませんでした。」
「という事は、ラバール伯爵はあそこに何か隠している。それをバレないようにするために僕たちを襲った…と。」

セシリアの言葉に2人も同意見のようで、小さく頷いていた。
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