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もたらされた情報③

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即位しての3年間を思うと、自分と立場的に対等な人間はいただろうか?マクシミリアンもフェイルスもアンナも。気心の知れた人達で一緒にいて心地よい。同志のような存在である。が、やはり国王と家臣という立場は覆せない。
だが、スライブはまた違った立場の人間だ。家臣でなく、セシリアをセシリアの頃から知ってくれている対等な存在。だからあの手の暖かさはセシリアの心を支えてくれるように感じた。

「でもですね。ダメなんです!!絶対に、無理なんです!!」
「そんな顔して言っても説得力無いなぁ、でもあいつにもチャンスはあるってことだよねぇ」
「は?何ですかそれ?」

セシリアは強気に言ったのだが、カレルは逆に呆れたような表情をしている。
何故そんな憐れむような呆れたような複雑な表情で見られなくてはならないのか?
そうしてカレルは「強情だなぁ」と一言告げると、セシリアに一歩歩み寄ってきて、セシリアの目線の高さに自分のそれを合わせてきた。

「ねぇ、君はセシル?それともシリィ?それとも…セシリア?」

そのカレルの言葉を聞いてセシリアは目がこぼれるのではないかと思う程に目を見開き、そして絶句した。

(バレてる?)

硬直して動けない。

「別に意地悪しているんじゃないんだけど…ルディは僕の親友でもあるし。…ね、セシリア、ルディを…というかスライブをあまり待たせないでくれると嬉しいな」
「変なこと言わないで!!失礼します!!」

まともな思考回路ができず、そんなどうしようもない捨て台詞だけを言ってセシリアはその場を猛ダッシュで離れるしかなかった。

◆ ◆ ◆

「ちょっと!!マックス―――!!」
「今度は何ですか?」

先日に引き続き、断りもなしに突然部屋に押し入ってきたセシリアを見て、マクシミリアンはまたかという表情をしてそれを迎えた。

「カレルに…正体がバレた…」

神妙な顔をして切り出したセシリアの言葉にマクシミリアンは絶句した。

「…本当ですか?」
「うん…カレルに言われたから確実。しかも相手からスライブの正体を言ってきた」
「そうですか。それは…困りましたね。」
「ど、ど、どうする!?私、トーランドに連行されちゃうの!?ってそれよりもマスティリア存亡の危機だよ!」

国王が女だと分かったら一大事だ。国の行く末さえも大きく変わるだろう。内外に混乱をきたす極秘事項が漏れた今、セシリアができるのはただ一つだった。

「殺るしかない…」
「ちょっ、セシリア様。落ち着いてください!!」
「私は落ち着いているわ。目撃者は殺す。これは犯人の鉄則よ!」
「なんの本の影響ですか!!とにかく、トーランド王太子を殺すのはダメですからね」
「冗談よ」

冗談と言いつつもセシリアの目は本気だった。
危うく国際問題になるところを何とかなだめたマクシミリアンは、

「それより本当どうしようかしらね」
「私としてまずは相手の出方を見るのがいいかと思います。カレル殿がセシリア様の正体を知って、逆にカレル殿の方もスライブ殿の正体をこちらも知ったという事ですから」
「そうね…。でもあっちから何か言ってきたらなぁ。従者ルディが実は王太子スライブだったとばれてもあっちは痛くもかゆくもないわけよ。こっちの方が被害は大きいし。」
「逆に3年前の恩を盾にして秘密にするとか、トーランドに有利な条件を飲む…という風にするのが妥当ですね」
「まぁ、そこは同盟を結ぶ時の最初の条件だったから仕方ないけど…」

一瞬3年前にスライブを助けなきゃ良かったかもと思ったが、すぐさまセシリアは否定した。
あの状況でスライブを見捨てることはできなかったし、今でもそれは間違ってはいなかったと思っている。
そもそもこの状況を作り出したのは、元はと言えばライナスが出奔したからだ。

(そうよ!!ライナスさえ出奔しなければ!!)

思わず心の中で歯ぎしりしていると、マクシミリアンが無言のまま怪訝そうな顔をしていた。
表情にこいつ頭おかしくなったんじゃないかと書いてある。
セシリアはそんなマクシミリアンに冷たい視線を投げつけた。

「大丈夫よ。私は冷静よ。それより、もう腹を括ったわ。トーランドに行けというなら行くわよ」

スライブの事は嫌いではないし、好意的に思っている。恋心なんていう抽象的なものがあるかは分からないが、結婚しなくてはいけないなら別にしても構わないと思っている。
それよりもマスティリアの事である。

「最悪はトーランドの属国になるしかないかもね。その場合には経済特区として属国だけど自治権を持てるように交渉はしてみる」
「そこは、私の方でもなにか交渉材料にならないかも探ってみますね。」
「ルディは私の事、諦めては…くれないわよねぇ」
「それは無理だと思いますよ。かなりの執着ですし」
「とりあえず、今そんなこと話していても仕方ないから次の話題に移るわ」
「え?いいんですか?」
「だって悩んでも仕方ないじゃない。なるようになれよ」

セシリアはこういう割り切りをするが、自分の進退もかかっているのに流石だとマクシミリアンは思った。
普通はもっと動揺するだろうに、仕方がないと片づけられる性格はある意味凄い。そういう性格だからこそ兄ライナスの代打を引き受けることができたのだと思う。
その辺の貴族の女性とはやはり異種類の存在だと思いながらマクシミリアンはセシリアの顔をまじまじと見つめた。

そんなマクシミリアンの心中も知らず、セシリアは話題を変えようと口を開いた。そのタイミングでドアがノックされた。マクシミリアンがそれに答えると、入ってきたのはスライブだった。

「ル、ルディ!?えっと…どうしたんだ?」
「あぁ、陛下も来ていたんですね。時間ができたのでマクシミリアン殿のお見舞いにと思いまして」

今さっきまでスライブ対応の検討をしていただけに(しかも殺ると言っていたのだ)、その顔を見てセシリアは動揺を隠せなかった。
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