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もたらされた情報①
しおりを挟むそれはスライブがサティからの報告を受ける少し前の時間だった。(もちろんそんなことが行われているとはセシリアは知らないわけだが)
セシリアは所用があるからと午後の執務は休みとした。
スライブは何かあるのかと思ったらしく少し怪訝な顔をしたが、マクシミリアンが口添えをしてくれてとりあえず執務は午前中で終わりとなった。
今回午後の執務を休んだのはセシリアの友人でもあるグレイスと会うためである。
少年王の格好で会うことも、またセシルのような少年の格好で妙齢のグレイスと会うのもよかなる噂を招かれないのでシリィの格好…つまりメイドとして会うことにしていた。
いつものようにロイヤルガーデンで変装したのち、グレイスと貴賓室の廊下で落ち合うことになった。
「こんにちは、シリィ。マックス様が怪我で執務を離れていると聞いたからどれだけ憔悴しているかと思っていたのだけど元気そうで安心したわ」
「いやいやいや、十分憔悴しているって。まぁ…執務の方もあるんだけど、ルディの件がねぇ」
「あぁ、宰相代理となったトーランドの従者さんだったかしら?その方がなにか?」
グレイスと貴賓室に入りながらセシリアはスライブの問題とその経緯を簡単に説明した。するとグレイスは半分呆れたような、苦笑のような複雑な表情をしながら慰めの言葉を口にする。
「そうなの…それは…ご愁傷様というか…。でも嫌いじゃないなら彼のことを前向きに考えてあげてもいいのではない?」
「やめてよ。それは確かに嫌いじゃないけど…私は国王なのよ。現実的に無理よ」
「そういうのは気持ちの問題よ。それにあなたの表情はとても柔らかい表情だし、本心では求婚を受け入れてもいいって思っているようにも見えるけど」
「な、なに言ってるの!!いきなり結婚とかは絶対に無理。それに別にスライブに恋愛感情があるわけじゃないし!!」
その言葉を聞いたグレイスは心の底からのため息をついて言い放った。
「セシリアがこんなに恋愛に関して鈍感だと思わなかったわ。スライブ様もお可哀想ね。」
「は?どういう意味!?」
「まぁ、その話はここまでにしましょ。」
なんとなく納得いかなかったが、確かにお互いにあまり時間は取れない。
有耶無耶にされた気もしたが、まずはグレイスの報告を聞くことにした。今回グレイスと会うのは別にお茶をしたいからでも女子トークをしたいからでもない。
先日の夜会で話したラバール伯爵とセジリ商会の話の続報を聞くためだった。
丁度、ワイン価格と税収について怪しい動きを見せていることもあり、早々に報告を聞くことにしたのだ。
「それであの後、2人が何の目的で接触しているかのことを調べたんだけど、貴女の読み通りワインの取引についての密談がされているようだったわ。ただ、ワイン取引についての話をしているというだけで内容についての裏は取れてないの」
「そう…。やっぱりワイン価格の不正についてかしらね。」
決定的な証拠を押さえられればラバール伯爵の不正も暴けるが、現時点では怪しい以上のことを断定できない。
限りなく黒に近いグレーという状況は、彼らの黒の色を更に濃くした。
「そうね。もしそうだったらラバール伯爵を断罪するいい機会だし、アレクセイ様の派閥を瓦解できるチャンスにもなるわ」
「うん、私もそう思っている。あまり領地でのいい噂も聞かないし。この機会に領主を変えるのもアリだと思っているのよね」
「こういう不正がある場合には裏帳簿があると思うの。監査があるから改ざんした帳簿を作れるのかは疑問もあるけど」
セシリアが国王になってからは監査を強めているが、セシリア自身が全ての監査結果を確認しているわけではない。主に領地を管理している伯爵からの結果報告を受けているのみになっているし、更にそれを国庫管理課の人間が承認している状態だ。過去の経緯から現在の承認者のトップはテオノクス侯爵だ。
そんなことを考えていると更にグレイスは話を続けた。報告が終わったと思っていたセシリアは驚きつつも浮かせた腰を再びソファーに戻した。
「それともう一つ報告があって、実は最近テオノクス侯爵・セジリ商会・ラバール伯爵が接近しているのよ」
今考えていた内容だったためセシリアは思わず息を飲んだ。
伯爵と侯爵が仲の良いことなどはよくあることだ。家と家の付き合いは貴族においても重要な社交だし、セシリアは嫌だと思っているがその家同士の繋がりで国の要職に就くこともできてしまう。
この慣習を何とか変えたいと思っていはいるが、3年の在位の期間では何ともできていない。セシリアにとっても頭の痛い悩みになっている。
ただ侯爵が商会と近い関係というのは少し不自然でもある。
「テオノクス侯爵家なんて別に商会との接点なんて少ないでしょ?あそこの収入源は農産物の売買ではなかったはずよ。基本的に一般的な侯爵家と同様に地代だけで賄っているはず。」
「そうよね。私もそれが疑問だったの。ただ何故3者に繋がりがあるか分からないんだけど、今度3者が揃う小規模な夜会のようなんだけど、そこから探ってみようと思っているわ」
「ありがとう。また何か分かったら知らせて頂戴。時間は作るわ」
「かしこまりました、陛下」
最後の言葉は"影の狼"としての言葉だろう。
公私を分ける彼女はある意味真面目だと思っている。
「じゃあ、そろそろ私も帰るわね。」
2人で立ち上がり貴賓室を出る。
貴賓室を出てしまうと一見すればメイドと貴族の客人というように見えるだろうから、扉はセシリアが開け、恭しく頭を下げて見送った。
はぁと息をついて執務室に戻ろうとすると声を掛けられた。
「シリィじゃないか?」
自分をシリィと呼ぶのだから城内の使用人の誰かだろうか。
そう思って返事をしながら振り向くと、そこには満面の笑みを浮かべて手を振りながらこちらに来るカレルがいた。
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