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カレル達の暗躍③

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まったく…ふらふら出歩いて不用心にもほどがある。更に本人にその自覚がないのも困りものだ。

今回は何をしているのか気になり、セシリアの元に行こうとした時、一人の男がセシリアに接触してきていた。身なりは貴族だ。何かメイドに尋ねたいことがあったのだろうか?
顔を合わせた二人は微笑みあっているように見えた。セシリアとして会っている状態で微笑んでもらえるとは、よほど仲の良い人物なのだろうか?
スライブ自身でさえセシリア姿の彼女と声を交わしたこともないし、微笑まれたこともない。一瞬の羨望を持ってそれを見ていると、2人はいくつか会話した後に、セシリアが脱兎のごとく逃げ出していた。

(あの男!セシリアに何をしたんだ!!)

セシリアに害をなすであろう者は排除しなくては。若干の怒りを感じつつその男の元に急いで駆けつけてに声を掛けようとすると、振り返ったのはスライブのよく知っている人物だった。

「カレル?何をしていたんだ?」

自分が思っているよりも怒気を含んだ声が出てしまう。愛する人を傷つけたかもしれない男を容赦するつもりはないが。

「え?あ、スライブか。びっくりした。…そんなに息を切らしてどうしたんだい?血相を変えて」
「今、セシリアと話していただろう?何を話してたんだ?」
「いや、大したことないけどちょっと世間話かな」
「なのに、セシリアはなんで逃げ出した?お前が何かしたんだろ?」

見苦しい嫉妬だとは思いつつも、カレルとはセシリアとして話をしていたことは何となく気に食わない。

「別にこれと言っては…。まぁ強いて言うならそれよりも僕は2人の仲を取り持っていたの。感謝して欲しいんだけどなぁ」
「なんだそれは?」
「まぁまぁ。そうそう、サティが戻って来たよ」
「サティが?何か収穫があればいいのだけどな」

話を逸らされたような気がしたが、サティがランドールから戻ってきたという事は何か進展があるかと足早にサティがいる客間に向かうことにした。
部屋に入るとサティは足を組みながら悠然とした態でソファーに座って紅茶を飲んでいる。
挨拶もそこそこにスライブはサティの前のソファーに腰かけ身を乗り出して言った。

「ご苦労だったな、サティ」
「本当だ。セシリア探しはお前自身ですると言っていただろうに。まぁ、面白い話が聞けたから今回は見逃してやる」
「で、どうだったんだ」

スライブが促すとサティは不敵な笑みを浮かべつつ、まずはと切り出した。

「確かにランドール伯爵家にはセシリアのいた形跡があった。ただどうも伯爵の娘ではないようだ」

3年前に訪ねたときにはセシリアという人物はいないという事だったが、やはり伯爵家にいたのだ。
だが、伯爵の娘ではないとはどういうことなのだろうか?
訝し気に思っていると、サティは更に報告を続けた。

「伯爵夫婦には子供はいないと戸籍にあった。それで元使用人を探し出して聞き出したところ、セシリア達は遠縁の子供だと言われていて、伯爵は彼女達を一時的に預かっていたとのことだった」
「達?」
「そう、セシリアは双子だ。もう一人兄がいる。そして面白い話が聞けた。双子の兄の名は…ライナスだ」

スライブは思わず息を飲んだ。セシリアの双子の兄の名がライナス。もしやと思ってサティの顔をじっと見ているとサティは頷いた。
それは自分の想像が正しいことの肯定だった。

「ライナス…陛下か?」
「たぶんそうだ。セシリアにうり二つの顔、双子の男児、名前も歳も一致する。そしてランドール伯は確かに王家の遠縁にあたる。本来ならば辺境の地の伯爵という地位に甘んじるのは疑問だが信憑性は高い。」
「ではなぜ、セシリアはマスティリア王になったんだ?」
「これは推測の域は出ないが、事実を纏めるとこう考えられる。6年前に伯爵の元から兄の方がいなくなったらしい。その時、王子が擁立されたのは覚えているか?」

その6年前にはスライブは義兄が第一王位継承者だったためあまり政治には詳しくなかったが、そんな噂は耳にしていた。

「確か…病弱だった王太子が王都に戻ったとか聞いたな。トーランドでも王太子が戻ってきたということで、ささやかな贈り物をしたと記憶している」
「だが一方で、伯爵の元に黒ずくめの男が頻繁に来ていたという証言が得られた。これはたぶんマクシミリアン宰相の事だろう。残されたセシリアを心配してきていたのだろうな。この事実から考えると王太子として城に戻ってきたのはライナスだと考えられる。そしてちょうど3年前、領主であるランドール伯爵が人探しに城内の騎士たちを使った。探させたのは金髪に紫の目の少女。」
「それはセシリアだろう?彼女を探させた理由が少年王=セシリアと何の関係があるんだ?」
「だがその少女は結局見つからなかった。同時に、伯爵の家から妹の方も消えた。」

セシリアの逃亡とライナスが王太子になることになんの関係があるのだろうか。
一瞬考えた後、スライブの頭にあるバカげた考えが浮かんだ。

「ちなみにライナスとセシリアは性別が違うだけでうり二つ。よく二人で服を交換して使用人たちをからかっていたらしい。
「つまり、出奔したのはセシリアの真似をしたライナスで、セシリアがその身代わりにされた…と。なんだそれは。この国の人間は馬鹿か?」
「二人にとっては可愛い悪戯だったのかもしれないが、この先の展開を考えると皮肉な結果になったと言えるな。それにタイミング的、ちょうどその頃に前マスティリア王は病気を患っていたと各国でも噂されていた。そして王太子に王位を譲った。まさかその段階で王太子不在にはできなかったのだろう」

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