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王都潜入観光③
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スライブの能力に脱帽していると彼は更に驚くべきことを口にした。
「ちなみにセジリ商会というところをご存じですか?」
「え?うん、もちろん。王都では有名な商会だよ。そこがどうしたんだ?」
「陛下は察しがついていると思いますがラバール伯爵領のワインの流通はセジリ商会が一手に担っています」
「それは…」
「はい。この件、セジリ商会も一枚噛んでるかもしれませんね」
その時にセシリアは昨日スライブと図書室で会ったことを思い出していた。彼は取引記録が見たいと言って図書室に来ていたはずだ。
あの時調べていたのはこれだったのだ。
思いがけない情報にセシリアは最早ため息をつくしかなかった。
この男の能力を前にしては、もうセシリアの正体がバレるのも時間の問題のような気がしてきた。
(いやいや!!弱気になったらだめよ!絶対に少年王が女だという極秘事項は守らなくては!!)
自らを叱咤しながら歩いているといつの間にか城下町についていた。
城下町はいつものように賑わいを見せておりたまにしか来れないせいもあって、何度来ても城下町の活気には胸が高鳴ってしまう。
それに、これが自分が治めている国の一部で、皆が幸せそうにしているところを見ると嬉しくなる。だからどうしても定期的には街に出かけたくなってしまうのだ。
まぁ…その度にマクシミリアンには胃薬を強いている自覚はあるが…
「やはり王都の賑わいは凄いですね」
「ルディは王都を見たんだっけ?」
「こちらの到着した夜に少しだけ歩きましたが、やはり昼間と夜では趣も違いますね」
「じゃあ案内するね。こっち来て!」
スライブがルディとしてではなくセシリアは意気揚々と市内を案内した。
成果物や鮮魚を扱う市場、それとよく行く書店に古書店。スライブのことも考えて紳士服の店にも行く。
カフスやボタン、正装用の生地などを試着してもらってあれでもないこれでもないというのも楽しかった。
帽子や香水、時計屋なども見て回ると結構な時間にもなっていた。
ワインのことを探りに来たのに、これではまるで観光だとは思いつつも、折角街に来たのだからスライブに王都の良さを知ってもらいたいと思ってしまう。存外この時間を楽しんでしまい止めれなくなっている自分もいた。
(そう言えば昔もこんなことあったなぁ)
セシリアはランドールでも時間を見つけてはスライブに街を案内していたのを思い出した。案内という名前で連れまわしていた感は否めないが…。
当時始まっていた淑女としての勉強は息が詰まるもので、セシリアはストレス発散のためにあれこれとスライブと街を回っていた。いい思い出だった。
あの頃はまさかセシリアは少年王ライナスとして、スライブはトーランド王太子付騎士ルディとして、王都観光をするとは思わなかったが。
(本当、何が起こるか分からないのが人生よねぇ)
などとしみじみ思っていたところで、セシリアは目の前の人に気づかずぶつかってしまった。衝撃で転びそうになった所をスライブが腰に手を回してがっちり支えてくれる。
「あ、ごめん」
「危ないですよ。考え事ですか?」
「まぁ…ちょっと」
まさかスライブとのことを考えていたとは言えず、セシリアは曖昧に返事をしたが、スライブは心ここにあらずといった様子と勘違いしたらしく、手を差し伸べてきた。
「人も多くなってきましたし、危ないです」
最初は戸惑ったセシリアだったが、確かに往来の人が多くなりはぐれてしまいそうな気もした。
一瞬考えたが、スライブに促されるままその手を取った。
スライブの手はごつごつして、男性の手であることを否応にも感じさせる。ランドールでも思ったが剣を握る男性の手だった。
その後はウィンドウショッピングを楽しむことにして、メインストリートのお店を見ながらぶらぶらすることにした。気分は高揚して楽しい。
いつもは一人で来ていた街が、人と一緒だとまた違って見えるから不思議だ。
「あ…綺麗…」
セシリアは宝飾店のショーウィンドウを見て足を止めた。こじんまりとしていて大きく立派な店ではないがそれでも店頭に並んでいる宝飾品は、上品できれいだ。
セシリアも女である。
決して華美な宝石が好きなわけではないが、髪飾りの一つでも欲しいとは思ってしまう。
まぁ、付ける機会もないのであくまで目の保養だ。
「あぁ、髪飾りですか」
「うん、綺麗だと思って」
と言ってから、ガラスに映る自分の姿を見て気が付いた。
いつもはシリィとしての格好で来ていたし、しかも一人だったから気にも留めていなかったが、今はセシルの姿だ。
しかも自分を男だと思っている(と信じたい)スライブと一緒なのだ。
男が髪飾りを見てうっとりとしているなんていうシチュエーションは明らかにおかしいだろう。
セシリアは慌てて取り繕った。
「いや…別に僕が欲しいとか興味があるとかそういうのじゃないからな!女が欲しそうなデザインだなと思って。最近の流行を知るのも城下の視察で重要だから!」
「…そうですね。うん。そういうことも必要ですよね」
「そうそう!」
「じゃあ、少しこの店に入ってみましょうか?」
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