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世界で一つの香り②

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その破天荒な様子はセシリアを思い出してしまう。王家の血筋なのかと何故か納得してしまった。

(なんでもセシリアに結び付けるなんて…俺も相当重症だな)

そんなことを思いつつも帰りコースになった時、思いがけずに刺客が現れた。
マスティリア王を狙ったものか、トーランドの自分たちを狙ったものか。狙いは分からないがとにかく撃退しようとするが、運悪く矢がライナス陛下にあたり馬が暴走してしまった。

慌てて追ったが馬は加速度的にスピードを上げていき、陛下だけでは御せなくなっていた。
スライブはなんとか馬をつけて並走し、少年王の馬に飛び乗り、彼を馬から降ろすことに成功したが、その時掴んだ細腰に思わず驚いてしまう。
それよりも国王の様子の方が気になった。

(痺れ薬か…何とか場所を移動して…)

ライナス陛下は痺れ薬に倒れてしまい、スライブは一瞬躊躇したがその体を抱きかかえて小屋に移動することにした。

(軽いし細いな…まだ少年だから仕方ないとは思うが…それにしても華奢すぎだろう?それに…いい香りがする)

あまりの軽さに驚くいたが、それよりもライナスからは男とは思えないほどのいい香りがする。
コロンでもない、何か。
男性も嗜み程度にコロンをつけることもあるが、それとは違うものだった。

そんな事を思いつつも急いで小屋にたどり着き、国王を座らせる。
ひとごこち着くと、場所を知らせる念話をサティとして状況を伝えているとき、視界の隅にライナス王が目に入り見つめていた。
体が辛いのかライナスはぐったりとしている。念話が終わると同時に思わず隣に座って、身を自分の方に寄せた。
少年王の亜麻色の髪がさらりと顔にかかり、同時にうなじが見えた。その様子が扇情的でスライブは思わずドキリとしてしまった。

(…男…だよな)

男の色香に惑わされてしまうような自分自身にスライブは戸惑う。自分に同性愛の気はないはずだと思うが、視線はライナスに釘付けになり、まじまじと彼を見つめた。
あの細腰、触れた柔らかい肉体、華奢な体…。女性と言っても差し支えない体つきだった。

(この香…どこかで嗅いだような…)

陛下から流れる香りが再びスライブの鼻孔をくすぐった。
嗅いだことのある香りにスライブは記憶をたどり寄せる。そして思い出したのだ。この香りの正体に。


それはランドールでのこと。教会再建の作業の合間にはセシリアと街を歩いたことも度々あった。ランドールの街は賑やかで活気があり、セシリアは歩いているだけで多くの人から声を掛けられていた。
セシリアの傍にいて気づいたのだが、セシリアはとてもいい香りを纏っていた。
夜会や貴族の女性たちが付ける咽るような香水の匂いとは違う、瑞々しい花のような香り。一緒にいて心地よい香りだった。

「…セシリアはいい香りがするな。なんかの香水か?」

珍しい香りに思わず聞いてしまった。
セシリアは一瞬何を言われているか分からない様子だったが、すぐに自分の付けている香水のことに思いが至ったようで得意満面に語った。

「ん?あぁ、香水じゃないのよ。アロマオイルを自分でブレンドして作っているの。因みにこのアロマオイル自体、自分で製法を編み出しているから実は完全オリジナルの香りなのよ」

まず、アロマオイルというのは植物のエキスを抽出して作った液体らしい。
その製造自体も自分で考案したらしいく、詳しい製法はスライブ自身よく理解できなかったが要は世界で一つの香りだということだ。
だから覚えているのだ。あの香りを。

(何故…少年王からこの香が?)

そこであのバカバカしい仮定が現実味を帯びてくる
隣で寝ている少年王からしているこの香。それはセシリアの香り。セシリアのオリジナルという唯一無二の香りだ。

(…セシリアが少年王だというのか?)

そうすればすべての辻褄が合う。

顔を見れば一発だったと思うが、少年王が男だという先入観に駆られていたことや少女の面立ちだったのが女性のそれへと変わっていたことも気づかなかった要因だろう。
そしてよもやその政治的手腕で各国に一目置かれている少年王が女だとは誰も思わないだろう。
それらがスライブが少年王=セシリアであると断定できなかった理由だ。

(間違いない。少年王ライナスがセシリアだ。)

そう思うと刺客に襲われていたときにも思わずセシリアが素で話してしまっていたことも納得がいった。
あれは咄嗟のことで女性としてのセシリアが見えてしまったのだろう。
歓喜の声を抑えつつサティが迎えに来るのを待った。その時ちょうどサティから念話が入りそれに集中したが、それは思いもかけない連絡だった。

『スライブ、申し訳ないが迎えが少し遅れる』
『どうした?何かあったか?』
『実はマスティリアの宰相が少し負傷してしまってな。バタバタしていて迎えに行くのが遅くなりそうだ』

宰相の不在か…と思ったとき、スライブにある考えが思い浮かんだ。
これはセシリアと一緒に入れるチャンスではないかと。

『サティ、一つ頼まれてくれないか?』
『なんだ?』
『俺をマスティリアの宰相代理にするように手配してくれ』
『な…』

さすがのサティも絶句しているようだった。二の句が付けないようで暫く間が空いた。
直ぐにセシリアの件を報告したい気持ちに駆られたが、まずは一旦落ち着いてサティとカレルにも状況を説明した方がいいだろう。
だからそれとなく濁すことにした。

『セシリアの行方を少年王が知っているようなんだ。近くにいて聞き出す』
『そういうことなら…分かった。少々荒っぽいやり方だが。でも…なかなか面白い事態のようだな』

腹黒いサティならきっとマスティリアに有無を言わさずそれを実行してくれるだろう。
スライブもニヤリと笑みを浮かべた。
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