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世界で一つの香り①
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スライブにとって少年王との謁見は結構衝撃だった。
あの年齢での指摘は意外だったし、何かを探るようで全てを見透かした目は正直恐ろしくも感じた。将来的には敵に回したくない国だという印象だった。
だが、スライブとしては本題はそこではない。もそもそもマスティリアに来てセシリアを探すことが目的で、夜会も会見もさっさと終わらせたかったのは正直なところだった。
どうせ鼻から同盟を結ぶ段階ではないと双方分かっている。ならば時間をセシリア探しに当てたい。
だが、王都でセシリアらしき人物が現れることから気持ちが変わり始める。
王都で見かけたのセシリア。ランドールにいると思っていた彼女が王都にいるだけでも手掛かりなのに、気乗りしないで参加した夜会でばったりと出会ってしまった少女がセシリアだとしたらそれは最早運命だろう。
「あれは…セシリアか?」
カレルと話していた少女を追いかけながらスライブは思考を巡らせた。
もしセシリアだとしたらかなり人物が絞られるだろう。
まず今回の夜会は侯爵以上の貴族だということになっている。もし貴族ならばその家系図や見合い用の絵姿が王宮にあるかもしれない。いざとなればマスティリア王に探してもらえれば見つけられる可能性はぐっと広がる。
そんな歓喜の心を持ちつつも急いで少女を追いかけるが薔薇園で見失ってしまった。
そこに現れた少年王。
ここでスライブは一つの疑念を持った。少女は確かに薔薇園―しかも王族のみが入れるロイヤルガーデンに入ったのだ。
そして王はその少女の存在を隠した。庭園ですれ違っていてもおかしくないのに。
「あの少女がセシリアならば…王族の関係者…か?」
隠さねばならない王家の存在-それがセシリアなのではないか?
そんな疑問が頭を掠める。
翌朝の同盟に関する会談ではセシリア探しを勝手に提案して酷くサティを怒らせたが、折角のチャンスを無駄にする必要はない。
だが…と不意に思った。
「あの少年王…セシリアに似ている…?」
慌てて否定する。まさかありえない。少年王は男でセシリアは女。
もし可能性があるならば少年王の妹だろうか。だが、少年王に妹はいないはずだ。だからこそ王位継承権は前王弟アレクセイがまだ有しており、それがマスティリアが抱える爆弾にもなっている。
それに謁見に思った少年王の風格とこちらの手の内を読む冷静な態度は自由奔放で闊達なセシリアとは似ても似つかない。
「ますます分からない。」
会談を終えたスライブは服装を緩めソファに身を沈めて呟くと、それを聞いていたカレルがほぼ苦笑に近い表情で問いかけてきた。
「ん?またセシリアちゃんのこと?」
「まぁ…ただ馬鹿馬鹿しい仮定すぎて仮定にもなってないけどな。」
「ふーん。そっか。手掛かりは掴めそうなの?」
「そうだなぁ…セシリアは王家の関係者じゃないかと思っている。そこを突破口になんとか情報を掴めないかと思って」
そんな話を聞いていたサティがまたニタリと笑った。
「その話が本当ならばマスティリアへの交渉カードになるな」
何か腹黒いことを考えている様子のサティだったが、これを機にサティもセシリア探しに引き込めないかと逆にスライブは考えた。
だから先ほどの仮定を口にする。
「なるほど…王が隠したい存在がセシリアか。では私はそれを探ってみるか。なかなか面白い展開だ」
「僕は今回の話ではパスね。」
そう言えばカレルは探したい人物がいると言っていたことにスライブは気づいた。
まぁ、王太子代理をしているだけでもありがたいのでそこの協力はあまり期待しておこう。ただ、カレルが"気になる子"を探したいと言っていたが、なかなか珍しい。
カレルは人好きな顔をしており、優しいがあまり自分のプライベート領域に踏み込むことを良しとしとしない。
そのカレルが自分から探したいというのは、青薔薇と呼ばれるスライブ同様に珍しいことだった。
「それは、女か?」
「あ、うん。僕の周りにいない珍しいタイプの子だったし。もしかしてスライブとはライバルになるかもしれないけど?」
「それはお前もセシリア狙いということか?」
カレルの冗談だとわかっていても気分は良くない。少しでもセシリアに興味を持つ男がいたら張り倒して奪いたいくらいだ。
「それは探してみないと。ま、分かったら僕の方も報告するね」
スライブは何とかしてセシリアの情報を得られないかと考えを巡らせながら夜を過ごした。
翌日の朝食では植物を育てるのが好きなカレルがライナス陛下と植物談義をし始めた。
スライブは驚いたのだが、どうやら自分の菜園を持っているらしい。少年王は嫌々という感じでスライブ達一行を菜園に案内するが、その間も何とか陛下と話すことができないかと見てしまう。
その視線に気づいたのか、陛下もチラチラと自分を見ては顔を背けている。
「陛下の菜園なんてどんなのか楽しみだなぁ」
「お前は人探しをしているのだろう?それはいいのか?」
「それもいいけど、今回は菜園の方に興味があるかな」
カレルは意気揚々と菜園へと向かっている。小一時間ほど馬に乗るとやがて広大な畑が広がっていた。
少年王が菜園について説明しているとトーマスという作業していた男がマスティリア王に話しかけてきた。それに単してフランクに話しているのも驚いたが、トーマスに草むしりの約束をしているではないか!
(国王自ら草むしり?!ありえない!!)
動揺と共にその様子を思い浮かべると思わずスライブは大笑いしそうになり、何とか耐えた。
普段は何にも動じないサティでさえも硬直している。それがスライブにとって更に笑いを助長させた。
あの年齢での指摘は意外だったし、何かを探るようで全てを見透かした目は正直恐ろしくも感じた。将来的には敵に回したくない国だという印象だった。
だが、スライブとしては本題はそこではない。もそもそもマスティリアに来てセシリアを探すことが目的で、夜会も会見もさっさと終わらせたかったのは正直なところだった。
どうせ鼻から同盟を結ぶ段階ではないと双方分かっている。ならば時間をセシリア探しに当てたい。
だが、王都でセシリアらしき人物が現れることから気持ちが変わり始める。
王都で見かけたのセシリア。ランドールにいると思っていた彼女が王都にいるだけでも手掛かりなのに、気乗りしないで参加した夜会でばったりと出会ってしまった少女がセシリアだとしたらそれは最早運命だろう。
「あれは…セシリアか?」
カレルと話していた少女を追いかけながらスライブは思考を巡らせた。
もしセシリアだとしたらかなり人物が絞られるだろう。
まず今回の夜会は侯爵以上の貴族だということになっている。もし貴族ならばその家系図や見合い用の絵姿が王宮にあるかもしれない。いざとなればマスティリア王に探してもらえれば見つけられる可能性はぐっと広がる。
そんな歓喜の心を持ちつつも急いで少女を追いかけるが薔薇園で見失ってしまった。
そこに現れた少年王。
ここでスライブは一つの疑念を持った。少女は確かに薔薇園―しかも王族のみが入れるロイヤルガーデンに入ったのだ。
そして王はその少女の存在を隠した。庭園ですれ違っていてもおかしくないのに。
「あの少女がセシリアならば…王族の関係者…か?」
隠さねばならない王家の存在-それがセシリアなのではないか?
そんな疑問が頭を掠める。
翌朝の同盟に関する会談ではセシリア探しを勝手に提案して酷くサティを怒らせたが、折角のチャンスを無駄にする必要はない。
だが…と不意に思った。
「あの少年王…セシリアに似ている…?」
慌てて否定する。まさかありえない。少年王は男でセシリアは女。
もし可能性があるならば少年王の妹だろうか。だが、少年王に妹はいないはずだ。だからこそ王位継承権は前王弟アレクセイがまだ有しており、それがマスティリアが抱える爆弾にもなっている。
それに謁見に思った少年王の風格とこちらの手の内を読む冷静な態度は自由奔放で闊達なセシリアとは似ても似つかない。
「ますます分からない。」
会談を終えたスライブは服装を緩めソファに身を沈めて呟くと、それを聞いていたカレルがほぼ苦笑に近い表情で問いかけてきた。
「ん?またセシリアちゃんのこと?」
「まぁ…ただ馬鹿馬鹿しい仮定すぎて仮定にもなってないけどな。」
「ふーん。そっか。手掛かりは掴めそうなの?」
「そうだなぁ…セシリアは王家の関係者じゃないかと思っている。そこを突破口になんとか情報を掴めないかと思って」
そんな話を聞いていたサティがまたニタリと笑った。
「その話が本当ならばマスティリアへの交渉カードになるな」
何か腹黒いことを考えている様子のサティだったが、これを機にサティもセシリア探しに引き込めないかと逆にスライブは考えた。
だから先ほどの仮定を口にする。
「なるほど…王が隠したい存在がセシリアか。では私はそれを探ってみるか。なかなか面白い展開だ」
「僕は今回の話ではパスね。」
そう言えばカレルは探したい人物がいると言っていたことにスライブは気づいた。
まぁ、王太子代理をしているだけでもありがたいのでそこの協力はあまり期待しておこう。ただ、カレルが"気になる子"を探したいと言っていたが、なかなか珍しい。
カレルは人好きな顔をしており、優しいがあまり自分のプライベート領域に踏み込むことを良しとしとしない。
そのカレルが自分から探したいというのは、青薔薇と呼ばれるスライブ同様に珍しいことだった。
「それは、女か?」
「あ、うん。僕の周りにいない珍しいタイプの子だったし。もしかしてスライブとはライバルになるかもしれないけど?」
「それはお前もセシリア狙いということか?」
カレルの冗談だとわかっていても気分は良くない。少しでもセシリアに興味を持つ男がいたら張り倒して奪いたいくらいだ。
「それは探してみないと。ま、分かったら僕の方も報告するね」
スライブは何とかしてセシリアの情報を得られないかと考えを巡らせながら夜を過ごした。
翌日の朝食では植物を育てるのが好きなカレルがライナス陛下と植物談義をし始めた。
スライブは驚いたのだが、どうやら自分の菜園を持っているらしい。少年王は嫌々という感じでスライブ達一行を菜園に案内するが、その間も何とか陛下と話すことができないかと見てしまう。
その視線に気づいたのか、陛下もチラチラと自分を見ては顔を背けている。
「陛下の菜園なんてどんなのか楽しみだなぁ」
「お前は人探しをしているのだろう?それはいいのか?」
「それもいいけど、今回は菜園の方に興味があるかな」
カレルは意気揚々と菜園へと向かっている。小一時間ほど馬に乗るとやがて広大な畑が広がっていた。
少年王が菜園について説明しているとトーマスという作業していた男がマスティリア王に話しかけてきた。それに単してフランクに話しているのも驚いたが、トーマスに草むしりの約束をしているではないか!
(国王自ら草むしり?!ありえない!!)
動揺と共にその様子を思い浮かべると思わずスライブは大笑いしそうになり、何とか耐えた。
普段は何にも動じないサティでさえも硬直している。それがスライブにとって更に笑いを助長させた。
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