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マックスの負傷③

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「いえ。…それよりも陛下、申し訳ありません。腕に傷が…」

スライブの態度が気になったが、それよりも指摘されて初めて二の腕の部分の服が裂け、若干血が滲んでいることに気づいた。
大丈夫だと言おうとした時、足に力が入らずその場に崩れ落ちそうになるのを、スライブが慌てて支えた。
急に体が脱力して動けなくなる。そして声がうまく出せない。

「あ…う…」
「まさか…しびれ薬…。陛下、顔は動かせますか?手は?」

スライブに言われて首を縦に振り、手も開閉を繰り返す。
どうやら強いしびれ薬ではなく、少量のものだったらしい。たぶん先ほどの矢に塗られていたもので、掠った程度の傷だったため大事には至らないようだ。
それでも、スライブはセシリアの傷口に唇を当てて、残りの薬を吸い取って吐き出した。

「痺れが切れるまで少し時間がかかりそうですね…。まだ刺客が来るかもしれない。とりあえずどこか安全なところに移動した方がいいですね」

スライブが周囲を見回すと小屋らしき建物が見えた。とりあえずそこに移動しようとしているのだろう。
スライブは一言誤ってからセシリアを抱きかかえ、走り出した。多少の痺れだとは思うが、声ができず、少し頭もぼうっとする。
セシリアはスライブの胸に体を預けると、その体温が心地よいことに気づいた。

(暖かい…)

不安だった気持ちが少し落ち着く。
そうこうしている間に猟師小屋に着いたらしい。周りはテーブルに暖炉、椅子が4つほどしかない簡素なものだった。

「本当は横にしたいのですが…椅子に座ってください。座れますか?」

声が出ない代わりにこくりと頷く。体に力が入らず、手足はだらりと下がり、首も横にしてしまう。
スライブの顔が近づく。一瞬ドキリとしたが、彼は口元に耳を当てて呼吸を確かめた後に離れていった。

「呼吸も安定してきましたね。もう少ししたら落ち着くと思いますので、耐えてください」

そう言うと少し会話が中断される。スライブはどこかを見ているようで小さく頷いている。その様子をセシリアは見るともなしに見ていた。

「あぁ、そうだ。馬を寄こしてくれ。場所は…そうか。では待っている。」

声はセシリアに言うような丁寧なものではなく、誰かに命じるような凛としてものだった。
このようなスライブをセシリアは初めて見た。ランドールにいるときには力を抜けたようなごく自然体な口調だったし、ルディとしているときはぶっきらぼうながら丁寧な口調だったからだ。
さすがはトーランドの王子らしい凛とした威厳のあるもので、思わずその様子をセシリアは見とれるように見ていた。

「念話をしましたので、しばらくすればサティが迎えに来ます。寒くはないですか?…毛布があるのでおかけください」

そうしてセシリアの隣に座ると体を引き寄せる。
脱力している体にはスライブの支えはありがたいものだった。

「寝れたら寝ても大丈夫です。起きたときには全て終わっているはずですから」

その優しい言葉に安堵してセシリアはゆっくりと意識を手放していた。

◆    ◆     ◆

「ん…」

体が揺れている。風が気持ちよい。そんなまどろみから覚醒すると、自分がスライブに抱えられて馬に乗っている状況下に置かれていることに気づいた。
慌てて見上げるとスライブが心配そうに顔を覗き込んでいる。

「あ…私は…寝てた?」
「…はい。少しだけ。もう声も出るようですね」
「本当だ…」

今まで訝しげな表情しかしてなかったスライブがセシリアにほほ笑えんだ。
それまでルディとしてはスライブはいつもセシリアを品定めするような眼を向けていた。
女だと訝しんでいたのか、それとも少年王としての器を見ていたのか。だが、目の前の男はそんな表情が嘘のように優しい表情をしている。

(って、こんな場合じゃない。これ以上接近されたら女だってバレちゃう!)

自分は少年王ということを意識して努めて冷静に言った。

「すまなかった。もう大丈夫だ。そちらの馬が空いているだろう?私はそちらに乗ろう」
「いえ。万が一を考えてこのまま城に行きましょう」
「でも、トーランドの従者にそこまでさせるのは…」
「あぁ、それなら大丈夫です。…とりあえずは詳しい話は城で」

(何が大丈夫?!っていい加減離れて!!)

だがセシリアの焦りも知らずに、スライブの馬に一緒に乗ったまま城へと向かったのだった。
城では大した混乱も起こっていなかった。たぶんマクシミリアンが緘口令を敷いて、大げさにはしなかったのだろう。
だが、出迎えてくれるマクシミリアンの姿はない。代わりにアンナが待っている。

「アンナ…どうした?」

めったに表に出ないアンナが出てくるとは何かあったのだろうか?
そんな疑問を思っているとスライブがセシリアが一歩近づいた。声のトーンも先ほどとは打って変わって低くなり、真面目な話が始まるのだと分かった。
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