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月下の出会い②

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その男性は下をうつむいたまま、疲れたように息を吐いた。俯いているため顔は見えないが酷く疲れているのは伝わってくる。

「具合が悪いならお水でも持ってきましょうか?」
「連れが持ってきてくれるから平気だよ。ありがとう。今日の夜会は緊張続きでね。」
「でもお兄さんは貴族の方ですよね?夜会慣れしそうですけど」

プラチナブロンドの髪が月明かりに照らされて綺麗だとセシリアは素直に思った。
声も柔らかく、気品がある喋る方だがこのような人物が今日の夜会にいただろうか?
顔を上げたかと思うと目元に腕をやってほぅと息をついた。

「今日の夜会は特別だよ。代理を押し付けられてしまってね。彼の名前を背負っている以上下手なことができなくて」
「なるほど。それなら余計緊張しちゃいますよね。失敗できないっていうプレッシャーがありますよね」
「そうなんだよ。だから気疲れしてしまったんだよ」

そう言うと、男性はセシリアを見た。
周りに街灯はなく月明かりが逆光だったためよく顔は分からない。だがとてもきれいな顔立ちをしているのは何となくわかったし、本人も言っているように少し疲労感があって顔色は悪そうだ。
余りに不憫でセシリアはついつい会話してしまう。

「断れなかったんですか?お仕事関係の人とか?」
「親戚で友人で上司ってところかな」
「うわーそれって絶対断れない感じじゃないですか。酷いですね」

まるで自分が兄に国王を押し付けられていることとダブってしまい、思わず共感してしまう。

「あー、代役とか緊張しますよね。失敗できないっていうか」
「そうそう」
「押し付ける人って自分がいかに横暴なことを言っているのか分かってるんですかね!!」
「本当、いつもは冷静なのに今回は非常識なことばっかりするんだよ。振り回されるこっちの身にもなってほしいよ」
「分かります分かります。私も似たようなものなんです。私に仕事を押し付けられて自分は好きなことしてるんですよ。酷いと思いません?」
「酷いね…。しかも状況的に断れないとかない?」
「そうなんです!!なんでああいう人って強引なんですかね。こっちの身にもなってくれって感じですよ」
「分かってくれるかい?」
「えぇ!!」

お互い何かシンパシー的なものを感じて思わず握手したい衝撃に駆られてしまう。お互い顔を見合わせてうんうんと相槌を打った後、同時にため息をついた。

「私…こんな生活辞めてひっそりと暮らしたいですよ」
「分かるなぁ。僕ものんびりお茶飲んでる方がいいよ」

再び同時にため息をついてしまった後、セシリアとその男性は一緒に噴出した。そしてなぜかセシリアの顔をじっと見つめた。

「ねぇ、君…確か街で会った子だよね?」
「えっ?ええっと??」
「ほら、酔っ払いに突っかかって行こうとしただろう?」
「あ!あぁ、あの時の!」

暗がりで気づかなかったがよく見ればあの時自分を止めてくれた男性だった。

「凄い偶然があるんだね。貴族のお嬢さんが夜遊びかい?」
「そ…それは…」

その口調は攻めるわけではなくあくまで軽口の範囲だった。だがなんと返していいのか分からず戸惑っていると男は更ににこやかに尋ねてきた。

「良かったら名前教えてくれる?夜遊びのことは秘密にしてあげるから」
「……。」

そう言ってウィンクをする。下心があるわけではないのは明白だったし、ニコニコと人畜無害な笑顔を向けられると断れる気もしない。
そこでセシリアは城内で使っている偽名を言うことにした。

「…シリィって言います。」
「シリィね。僕はカレルだよ。今日は会えてよかった。楽しかったよ」
「カレル、どこにいるんだ?」

遠くからはカレルを呼ぶ声がした。ちょうどいいだろう。自分もそろそろ自室に戻らないと本気でまずい。

「あぁ。ちょうど連れが来たみたいだ」
「じゃあ、私も行きますね。」
「分かった。シリィもお仕事頑張るんだよ」
「ありがとうございます!!お兄さんも無責任上司にめげずに頑張ってくださいね」

じゃあと言おうとしたところで、茂みからカレルの連れと思われる人物が出てきた。

「スライブ、ここだよ。」
「あぁ、ここに居たのか?」


現れたのはトーランド王太子の従者で謁見の時に切れ者だと気になっていた男だ。
ということは、カレルと名乗った男はトーランド王太子の一行ということになる。

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